不動産コンサルティングを手掛けるさくら事務所(東京・渋谷区)の社長、大西倫加さん。元々は広報担当として働いていましたが、創業者から指名を受け、2012年に社長に就任しました。広報から社長へ、スピード出世を果たした経緯と、社長就任後に大切にしてきた組織作りについてに聞きました。

広報担当から社長へ

創業者である長嶋修さんは不動産業界出身で、1999年にさくら事務所を設立しました。欧米でメジャーだったものの日本でほとんど知られていなかった住宅診断(ホームインスペクション)を、設立当初から提供してきたパイオニアです。

現在、社長を務めている大西さんはもともと、個人や企業のPRを支援するベンチャー企業に勤めていました。大西さんが退職したとき、クライアントのひとりであった長嶋さんから、さくら事務所で広報の専門職として働かないかと声がかかり、最初は個人事業主との兼業の形で引き受けることになりました。

大西さんが広報を担うようになってから、年間を通して取材がなかった状態から、1か月に20本の取材がコンスタントに入るようになり、売上にも大きく貢献。さくら事務所やホームインスペクションを世に広め、専門家としての長嶋さんのメディア露出も飛躍的に伸ばします。広報の結果、会社で「働きたい」という人も増えました。

不動産や建物の専門家が集まり、事業が好調となる一方で、社内のマネジメントが手薄になり始めます。大西さんは、社内で組織づくりや採用について相談されるようになり、自然と広報以外の仕事にも取り組むようになっていました。そんな経緯で、長嶋さんから社長にならないかと声がかかりました。

しかし今から10年前の当時は、「不動産業界は男尊女卑・年功序列が当たり前の世界。不動産や建物の専門家でもない、業界の経験者でもない、40代でも小僧といわれる業界で、まして女性。30代の私がトップに立つことはすんなりとは受け入れられないだろうと考えました」といいます。そこで一度取締役のステップを踏んでから、2012年に社長に就任しました。

自分らしく幸せに仕事ができると、人はパフォーマンスを最大化できる

社長就任後、大西さんが特に力を入れたのが「組織作り」でした。役割としての役職者はいますが、スタッフ全員がそれぞれのプロフェッショナルを生かして意見を戦わせ、現場が責任をもって仕事を進める体制に変えたのです。

リモートワークやフレックス、複業、兼業についても、10年以上前から導入。一人一人が働きやすい環境を整えることに重点を置いてきました。

「これまでは会社のルールに合わせて人が働いていました。今の当社は逆です。面接のときに『どんな働き方がしたいですか。何がしたいですか』と聞き、それぞれが働きやすい時間で契約します。私達の会社には売る物はありません。働く人こそが宝です。自分らしく幸せに仕事ができると、人はパフォーマンスを最大化できます。尊重されているという自負も大切です。日々、スタッフの成長を見て、だれかの期待にこたえる気持ちがプロを育てるのだと感じています」(大西さん)

広報を担当していた頃の視点が、現在も生きているといいます。社会の中に会社のことがどれくらい伝わり、どれくらいお客様を喜ばせることができているのかという「俯瞰した愛情」と、社内にいるからこそスタッフやサービスのすばらしさがわかるという、2つの視点です。

そして、大西さんのなかに一貫してある仕事のテーマが「愛」です。

「広報担当だったころから、仕事の関係性の根本に愛があるのが理想だと思ってきました。これまで経験して思うのは、私達もより大きな愛に支えられてきたということです。仕事とは経済的な豊かさを得るものと考える人も多いですが、繋がりや誰かからの期待など、精神的な豊かさも得られますし、そちらの方が大切なのだと思います」(大西さん)

経済的な豊かさのみを追い求めるチームではなく、愛される・尊敬されるチーム作りを。そこには、広報担当としてではなく、会社の将来を見据えた経営者としての、大西さんのビジョンがありました。

こばん