東京都八王子市。日本遺産に指定された高尾山など豊かな自然が残り、童謡「夕焼け小焼け」のモデルとなった地域だ。23区民からは「東京の田舎」と言われることも。そんな八王子であるユーチューバーが話題となっている。YouTubeチャンネル「八王子国の歩き方」を運営する、アラフィフ・独身の中野智行さんだ。リアル“孤独のグルメ”を自称し、八王子の飲食店の食レポなど、ローカルな情報を発信している。中野さん曰く「東京に住んでみたいけど23区は怖い人のための動画」。現在チャンネル登録者数は1.63万人だ。

1月にアップした西八王子の中華料理店の食レポ動画は大きな反響があり、翌日その飲食店は行列に。店内でもYouTubeチャンネルを話題にしながら食事をする客がいた。

「途中で食材が無くなっちゃったって店長から連絡がありました。驚きましたね。普段は一気に人が来るというより、長期的に人が少し増えるという感じだったので」

動画では、自分自身のことをおもしろおかしく、やや自虐的に描いている。例えば、50代という年齢、独身、低身長、3等身など。それはなぜか。

「5年くらい前からYouTubeを始めたんですが、当時50代でやっている人なんていなかったです。若いイケメンとかかわいい女の子ならいいけど、誰が50代のおっさんの動画を見て喜ぶのかってね。そこで、自分と同じアラフィフの方たちに向けて呼びかけるようになりました」

また、八王子についても描写が鋭い。多摩県として独立しようと言ってみたり、雪映像のロケ地でしかないと言ってみたり。さらに、「浅川に投げ捨ててやる」など八王子在住者しか分からないローカルなボケとツッコミも随所に盛り込まれている。

「よく八王子愛が強いんですねって言われるんですが、ちょっと違います。郷里への愛って離れたからこそ生まれるのかなと思います。私にとって八王子は日常。良いところも悪いところも見えている。だから、美化するのではなく、正直に思ったことを話しているんです」

いまや八王子のローカル情報満載な中野さんのチャンネルだが、当初は違ったという。

「普段私は、甲州街道沿いの肌着屋を経営しています。ある時参加した商工会議所のセミナーがきっかけでYouTubeチャンネルを始めることにしました。お店を宣伝しようと思っていたんです。とにかく講師の言うとおりに毎日動画をあげていました。でも、よく分からないおっさんが出てくる動画を見たところで、むしろマイナス効果。楽して儲けようなんてだめですよね」

実は以前から動画制作が趣味だった中野さん。八王子の歴史に関する動画をアップするようになると、再生回数が1万回を超えるように。そして、食レポ動画が始めると、どんどん再生回数やチャンネル登録者数が伸びるようになったという。

「動画を作る上で大切にしていることは、再生回数を追求しないことです。話題になろうとすると、最後に行き着く先は炎上動画や他人を傷つける動画だと思います。
いまアップする頻度は3か月に1回とかです。これは本来のYouTube運営としては間違っていると思います。でも、そういう商業主義から一線を画しています。ネット社会はどんどん商業主義の影響で、話題性や収益性が重視されていますが、私は下手でもいいから自分が動画を作る楽しさを大事にしようと思っています」

自分の店の客を増やしたいという商業主義がYouTubeチャンネルを始めるきっかけだったが、結果として商業主義から離れる大切さに気づいたという点がなんとも面白い。しかも、意図せず店の客も増え、商店会長として、これまで取り組めていなかった街おこしにもつながっているという。

今後についても計画はなく、自らの気持ちの赴くままに発信を続けるとのこと。次はどんな八王子の姿を知ることができるのか、中野さんの発信が楽しみだ。

谷村一成