フィリピン共和国、ここで教育実習に参加した愛媛大学の学生・院生たち。
2024年2月26日〜3月2日までの6日間で、12名の学生たちが渡航した。日本で教員をめざす若者たちが、日本を飛び出しフィリピンでの教育実習に求めているものは何なのか。その先にある、彼らの教師像や、教育観、そして彼らの思い描く未来を探っていく。

<フィリピン共和国概要>
フィリピン共和国(以下、フィリピン)は、東南アジアにあり、日本の8割ほどの面積を持ち7641つの島から成り立つ国である。人口は1億903万5,343人(2020年フィリピン国勢調査)。公用語はフィリピノ語と英語で、それ以外にも180以上の言語があると言われている。首都マニラは高層ビルも立ち並び著しい発展がみられるが、地方との格差が大きく発展途上国として日本のODA(政府開発援助)も実施されている。

【参考】フィリピン基礎データ|外務省 (mofa.go.jp)

愛媛大学フィリピン教育実習とは

愛媛大学では平成20年度より、フィリピン大学(学術交流協定締結校)と連携協働し、現地にて教育体験実習の開発、実践が行われている。この目的は2大学の連携による国際教育人材育成。

具体的には
1)フィリピンでの幼稚園から高校までの英語教育を視察することによる日本での授業開発
2)フィリピンで現地の生徒を対象とした英語を使った授業の実践経験
3)途上国・異文化環境での経験を通して、文化適応度の高い教員の育成・送出
が目指されている。

本プログラムは愛媛大学学生海外短期派遣・受入プログラム支援事業の一環として行われ、学生に対する渡航費支援がある。また教育学部の授業科目「海外教育実践体験実習」として開講されるため単位認定があり、学生にとっても魅力的なプログラムとなっている。これから社会へ出る若者、特に教員を目指す若者が、国際視野を持ってこれからの地球規模での社会活動に参加する未来の担い手を育成する立場として、この経験を活かし活躍することが期待されている。

同大学の学生・大学院生の有志が参加する実習であり、フィリピン国立大学附属小学校で1コマの授業を実施、または同大学の学生へ英語で日本の教育に関する紹介を行う。その他は、授業観察、大学の授業へ参加、また首都マニラにある歴史的な場所を訪れるスタディツアー、JICA四国との連携でJICAフィリピン事務所を訪問がある。

学生たちの参加の根源にあるものとは?

参加した学生のうち2名に参加理由と学びを聞いてみた

【教育学部2回生の田中翔真さんの参加理由】
教育を軸にフィリピンの学校訪問などができることが魅力だった。英語で現地大学生へプレゼンできることも良いチャレンジ。ニュースやテレビ番組で途上国の子どもたちが教育を受けられない様子を見た時、自分は当たり前に学校へ行っていた。同じ地球、世界にいるのに、日本は恵まれていて、他の国(途上国)に格差があるのはなぜか気になっていたため、現地で実際の状況を見てみたかった。

【実際の田中さんの学びとは?】
日本以外の教育環境を知ることができた。教科書やノートを使わないこと、机が折り畳み式で最小限のスペースに抑えられていた。また生徒数が多いことから学校が2部制で、同じ教室を2学年が交代で使っていたことなどに驚いた。環境以外では、フィリピンの教員も生徒もとてもフレンドリーで、校舎で僕たちを見かけるとキャーキャー騒いで歓迎してくれた。拙い英語にもかかわらず、一生懸命耳を傾けてくれるフィリピンの人たちに温かさを感じた。実際に現地に来ない分からないことがたくさんあり、特に人と人との生のコミュニケーションの大切さを実感することができた。

【今期で2回目の参加となる教育学部3回生の松本未来さんの参加理由】
去年度参加した際にコロナ感染症の懸念があり、教育実習は実施されなかった。フィリピンの生徒を相手に、英語で授業を教えてみたい、教育環境の違う生徒へ教えてみたいという自分へのチャレンジがあり、今年度の参加を決めた。日本だけにいると、日本の視野でのみ物事を見がちで、格式にとらわれがちだと感じている。新しいアイデアや、自分の中での思考のレパートリーを増やし視野を広げたいという想いがあった。

【実際の松本さんの学びとは?】
教室の環境、授業時間、子どもたちの実態が日本と大きく異なっていたこともあり、実際に日本でやった教育実習より多くのエネルギーを使った。外国語で授業するという難しさがあったが、それと同時に指示の明瞭さや教材の示し方など、子どもたちの興味を引きながら授業を円滑に進めていく方法について学ぶことができた。交通事情や公衆衛生、食文化など日本とかなり異なる点があり、改めて日本を客観視することができるようになった。

2人に共通することは、チャレンジ精神と日本以外を現場で実感することだ。
近年インターネットが身近になり、現場へ行かず外国のこと容易に知ることができるようになった。また英語学習も同様に、留学をしなくともオンラインレッスンや動画学習などパソコンやスマホさえあればできる時代である。その中で、生のコミュニケーションを必要とする現場に身を置いてみたいというチャレンジ精神と好奇心が彼らを掻き立てたよう。実際に自分たちの英語やコミュニケーション能力がどこまで通用するか知ることができ、今後のモチベーションにつながったとともに、自分たちが教員になったときに、少しでも外国、フィリピンでの経験を活かしたいと教えてくれた。

フィリピンでの経験を教員志望の夢に乗せて

【田中さんの描く教員としての役割】
小学校の先生を目指している。子どもたちがまた明日も学校に来たい、勉強したい、友達や先生に会いに学校へ来たいと思う、そんな環境を作りたい。そのためには様々な特性のある多様な子どもたちを受け入れるために、自分がもっと多くの多様性を知る必要がある。これはインクルーシブ教育へもつながる。また子どもたちには世界から見た日本や、世界の人々や子どもたちの現状を知って、自分たちが勉強できる恵まれた環境への気づきと共に、自分たちにできることを考える力をつけてほしい。

【松本さんの描く教員としての役割】
現在、学校教育では国際理解教育の推進が重要視されており、子どもたちが異文化に触れて理解を深めていくことが求められている。そこで、今回の経験を教師として子どもたちに伝えることで、ちょっとした異文化体験になったり、教科書だけでなく経験を交えながら生徒に英語を教えることで、より実践的で興味深い授業を施すことが可能になる。
愛媛県をより住みやすい地域にし、他地域にプロモーションしていくという点においても、国際視野を持つことの重要性が見出されるのではないかと考えている。私にとって国際視野とは、日本を客観的に見ること、外国の環境で様々な考え方や発想を学び、固定概念に囚われない柔軟な視野を身に付けることだと感じている。そんな国際視野を持って愛媛県を客観視し、課題や解決策について多角的に考えられる人材で自分もありたいと思うし、子どもたちにも伝えていきたい。近年増加傾向にある在留外国人への対応においても、同様に考えている。

フィリピンを一例に、途上国での教育環境や生活を知ることで、大学生への気づきや異文化に適応する力を養い、違うことを多様性の一つとして受け入れる経験が、今後の彼らの柔軟な思考へと繋がっていくだろう。

現代の国際社会と少子高齢化の日本社会において、地球規模での社会活動への参加が必須とされ、また外国の人々が多く来日すると予想される未来。その中で一人でも多くの若者が国際的視野を広げ、また次世代を担う人材を育成する教員として活躍することに期待できる魅力的な実習である。

JICA四国