「子どもの性教育っていつから始めたらいいんだろう?」と悩む親たちは多いのではないでしょうか。どう伝えたらいいのかわからない、どこまで話したらいいのかわからないと悩む方もいるでしょう。

ミキズハウス助産院院長で助産師でもある石嶺みきさんは、これまでの10年間で1800人の新生児訪問、5400人の乳幼児健診を行い、赤ちゃんとお母さんの健康チェックや家での過ごし方についてサポートしてきました。そのなかで男の子を育てる親たちから寄せられた質問をまとめ、絵本『ぞうちんとぱんつのくに』(KADOKAWA)を出版。

『ぞうちんとぱんつのくに』は医師監修による「おちんちんケア(オムケア)」の正しい知識を伝えることと、小さい頃から性に対してオープンに話せる環境づくりを目指し作られました。

”オムケア”や絵本出版の裏側について石嶺さんに話を聞きました。

きっかけは3歳の甥っ子の“ある疑問”だった

男の子に関するケア、いわゆるおちんちんケアは”オムケア”と呼ばれています。フランス語で”Homme”は男性を意味し、男性の身体や健康に関するサポートをするものとして位置づけられています。

女性では”Feminine”を語源とした”フェムケア”があるように、男性も洗い方や構造を把握するための知識を得る必要があると話す石嶺さん。さらに、石嶺さんによると、まだまだ日本の性教育は後ろ向きであると評価されているとのこと。

『ぞうちんとぱんつのくに』を作りたいと思ったのは、3歳の甥っ子とその母親とのやりとりがきっかけになりました。ある日、母親に「どうしてママにおちんちんはついてなくて僕にはあるの?」と尋ねた甥っ子。回答に困った母親は「ママにもわからないんだ」と答え、そのうち子どもが聞いてこなくなることを願ったそう。

これを聞いた石嶺さんは40年前に自身も母親に同じ質問をしていたことを思い出し、衝撃を受けました。そのとき母親から「変なこと言わないで」と返された石嶺さん。「40年もの間、同じような質問がぐるぐる回っているんだと衝撃でした。性教育について知識を持ち、子どもの疑問を解答できるくらいになってしまえば、性教育事情を変えられると思ったんです」

そこで石嶺さんは、大事なところを親子で楽しく学べるファーストブックがあったら、子どもたちの性にまつわるさまざまな問題が解決できるのではないかと考えました。

さらに、石嶺さんがママさんたちと交流するなかで「正しい性教育を受けてこられなかったために不安を抱えていたり、パパに聞いても自分なりの回答しかなくて『これでいいのかな?』と悩んでいたりする方が多かったです」と話します。子どもからの問いに答えられず、わからないままにしていいのか悩む親たちは少なくないようです。

子どもについて相談するのはママさんだけではありません。
「自分は父親から学んだけど『これで合ってるんですか?』といった質問や、自分自身が仮性包茎であるため息子には同じようになってほしくないという、ご自身のコンプレックスから相談をするパパさんも多くいました」

石嶺さんは子どもに関わるすべての人間関係を幸せに導くことを目標として掲げています。

「まだ小さいわが子にパパさんやママさんが正しい知識でケアをすることで、あなたの身体という存在は何にも代えることのできない大事なものなんだという認識を持ってほしいです。生まれてきてくれてありがとうという意味も込めて、なかなか伝えることが難しいからこそ、絵本を通じて向き合う時間を作ってほしいなと思います」

そうしてできあがった絵本に収録されているおちんちんの洗い方の歌『ぞうちんのおふろうた』は甥っ子くんが歌っています。手洗いのようにおちんちんの洗い方も習慣化してほしいという願いが込められています。

オムケアにはどんなケアがあるの?

石嶺さんがママたちからよく聞かれることとして「おちんちんをすぐいじるけれど、どうしたらいいの」という質問が挙げられます。これに対し、石嶺さんは「おちんちんを触ることは決して悪いことではありません」と話します。

「ただ、頻繁に触れる場合は病気や傷があるサインかもしれないので、ママさんが様子を見てあげてください。みんな顔が違うように性器も個別に状態が異なり”第二の顔”と言えます。不確かな情報源を頼りにせず、不安がある場合には専門医に相談していただくのがよいです。また、おちんちんはプライベートゾーンで大事なところなんだよと伝えるとともに、人前では見せてはいけないということも合わせて伝えることが大切です。否定的な言葉で伝えるのではなく『おうちに帰ってからにしようね』など日常生活で子どもが困ってしまったときに手を差し伸べるような優しい心を持ってほしいと思います」

オムケアに関しては助産師であっても学ぶ機会はほとんどないのだとか。そのため石嶺さんは誰かが極めて正しい性について教えなければならないと感じました。

絵本のこだわり

『ぞうちんとぱんつのくに』は幼い子どもだけでなく、少しお兄さんの年齢の子や、女の子でも読めるようカラーやイラストなどにもこだわりました。

「パンツの数を数えるなど、ものの数を数えることによる言葉や発達教育にも使えるようになっています。また、大事なところの洗い方を歌にして収録しています。子どものお気に入りの一冊になることでお母さん、お父さんにとっても“お守りになってほしい”という願いも込められている絵本です」

成長するにつれて、女の子にとっても男女の性器の違いは気になるものでしょう。大事な部分だからこそ、性別関係なく学ぶことができるように工夫が施されています。

石嶺さんは「子どもの疑問から逃げてしまうのは自分がわからないからなんです。『そういうこと聞かないの』と恥ずかしいものとして扱わず、正しく回答してあげましょう」と性教育の重要性について話します。

絵本は男の子が生まれた家庭への出産祝いや、ママさんの退院祝いとして贈られるものとなっているのだとか。初めてのことで不安なときに安心できるものに出会うと、背中を押されますよね。

この絵本から日本の性教育を変えたい

石嶺さんが作った絵本には多くの親子や医療従事者から反響がありました。
「性に関して自然な形で学べるようになっている」や「女性にとって未知の世界のことを知れてよかった」という声が集まっています。

このような反響を受け、石嶺さんは「世のなかにないものを生み出すのは本当に難しいです。そのなかで私はこれだけの知識を知っていたらママさんも安心できて、性教育事情も変えていけるのではないかと思いました。複数の医者が監修していることで、エビデンスに基づいていて一切妥協しませんでした。医療関係者のなかでも高い評価を得ていて、理想の本ができあがりました」と絵本に対する思いを語ってくれました。

また、今後の取り組みについて石嶺さんは次のように話します。

「絵本で伝え切れなかった部分を、同志の助産師たちと共に全国で読み聞かせをする予定です。また、それにともなって保育園や、地域などでしっかり性教育について伝えられる人を増やしていきたいです」

早期性教育を楽しく正しく学び、性に関する理解を深めることでトラブルを避けることにも繋がります。医学的な観点から気楽に読むことができ、普通の絵本とは違うところが魅力のうちの1つだそうです。これからの石嶺さんの活動によって日本の性教育に関する認識も変わっていくことに期待したいですね。

ほ・とせなNEWS編集部