昼は「金融エリート」、夜は「女装」という経歴を持つ肉乃小路ニクヨさん。証券会社、銀行、保険会社を渡り歩き、金融のプロとして投資の大切さを多数のメディアで発信しています。肉乃小路さんに、紆余曲折の人生を経て学び得た金銭感覚や株式投資の楽しみ方、投資初心者がやってしまいがちな失敗パターンを教えていただきました。

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正社員からワーキングプアに転落

――元「金融エリート」だったということですが、慶應大学を卒業後、その道に進まれた経緯を教えていただけますか。

「エリート」と紹介していただくことも多いんですが…、私自身は叩き上げだと思ってるんですよ。正社員からアルバイト、派遣社員、契約社員、管理職まで一通り経験し、ワーキングプアや引きこもり生活も経験しました。私のキャリアは大学卒業後、入社直前に急性肝炎に罹って入院し、証券会社を3カ月で退職するという挫折からの始まりだったんですね。

入院中に勉強して証券外務員二種の試験に合格しました。でも、退院後、右も左もわからないまま支店に配属されて毎日が不安でしかない。早朝6時に出社して、就業後も飲み会に参加させられて「こんな生活続けていたら死ぬな……」と思いました。病み上がりだったこともあり、命の危険を感じたんです。そのため、「一旦休もう」と思って会社を辞めました。

別の証券会社でコールセンターのアルバイトをした後、銀行で外貨預金や投資信託などの投資商品の電話営業を始めました。その間に、投資信託や保険について勉強して証券外務員一種と保険販売のための資格を取得し、30歳手前で、正社員として外資系保険会社に転職しました。

「お金がないみじめさ」を味わって気づいたこと

――経済的な余裕がない頃は、どのようにお金をやりくりして生活していましたか。

固定費を抑えていたことが大きいと思います。西早稲田にある家賃3万2千円ほど、四畳一間でシャワー・トイレが共同の物件に住んでいました。部屋が狭いので、ロフトベッドの下に小机と冷蔵庫、棚しか置けない。そんな部屋だから、友だちも部屋に呼べなかったんですよ。一度だけ酔っ払った友だちが「寝かせてくれ」と言って来たんですが、狭すぎて引いてました(笑)。

惨めと言えば、惨めでしたよ。でも、自立するためには仕方がなかったんですね。ゲイであることをカミングアウトしたことから親との関係が悪くなり、実家を頼ることもできなかったので。自分には力がないのだから、身の丈に合った生活を送るしかないんだなと。

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だからといって卑屈になることはないと思っていました。当時、『ローマ人の物語』(新潮社)を読み、古代ローマの皇帝たちやローマ人たちは誰でも快適に過ごせるよう公共施設を充実させながら、プライベートな部分はこぢんまりとした生活をしていたことを知っていたんです。だから、「古代ローマ人だと思って生きればいいんだ」と自分に言い聞かせていました。

同時に、古代アテネの政治家ペリクレスの「貧しいことは恥ではない。だが、貧しさから脱出しようと努めないことは恥とされる」という言葉に影響を受けました。貧しさには、運・不運があるじゃないですか。それは仕方のないこと。自分はその貧しさを脱して、次のステップに進もうとしているのだから恥ずかしいことではないと思っていました。たまにマウント取ってくる人とか嫌な人に出会って、卑屈になる時もありましたけどね。恋人ができても家に呼べず、恋愛もあまりできなかったですし。

20代派遣社員で始めた投資、仕手株で500万円損失!

――投資を始めたのは、「貧しさからの脱出」を意識していたからですか?

固定費を抑えていたから、少しずつお金が貯まってきたんですよ。といっても、50万円ぐらいですが。20代後半に派遣社員として銀行で働いていた頃から、お勉強も兼ねて10〜20万円ほどを投資に回すようになりました。

――株式投資で失敗した経験はありますか。

保険会社に勤めていた時、「株で経済的な自由を手にしたら会社に縛られなくてもいいんだよ」と、今で言うFIRE(経済的自立と早期リタイア)を吹き込んでくる上司がいました。

その上司から毎日、株の話を聞かされていると、興味がなくても気になってくるんですよね。そのうち上司が薦める仕手株(※1)の値動きを追うようになりました。ある時、「この株、上司が買った時より安くなっている。今買えば、上司より儲けられるかも」と思ったんです。上司を出し抜こうみたいな感情が湧き起こって……。事業内容もよくわからない会社の株を買ってしまいました。

最初は儲かったので、買い足しました。そしたら、だんだん株価が下がってきたんです。不安になりつつも、「また爆上がりするはず」と思って500万円ほど投資しました。

株価が2倍、3倍になれば、マンションを購入するための頭金ができるかも……なんて、夢見ちゃって。当時、30代前半で同級生たちは年収1000万円ぐらいもらって、貯金も2000万円超えているんじゃないかと思い、「この仕手株で儲けて、一発逆転しなければ」と焦ったんですよね。自分だけワーキングプアや引きこもり生活を送っているうちに、周囲と差がついている気がして。そしたらあっという間に持っていた株が値下がりして、投資した500万円ほどを失ってしまいました。

(※1)仕手筋(短期的に大きな利益を得る投機等を目的として、市場で大量に売買する投資家)により株価が操作されている銘柄のこと。

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――失敗からどのようなことを学びましたか。

偏った情報を鵜呑みにして株を買ってはいけないということ。そして、投資するなら自分が興味を持てる会社でないといけない。だって、興味がない会社の動向を追い続けるって、しんどいですよね。

最近は、高配当株が人気で配当利回りの良さで投資先を選ぶ人もいるようですが、私は配当金よりもキャピタルゲイン(資産の価格変動に伴って生じる売買差益)狙いで投資したいんですよね。配当利回りが高いと言っても、4〜5%じゃないですか。株価だともっと上がる可能性がありますから。

キャピタルゲインを得るためには、株価の値動きを常にウォッチできることが大事です。だから、私は得意な分野の好きな会社に投資するようにしています。

日本株、ニクヨ式「推し活」として株式投資を楽しむ方法

――著書『元外資系金融エリートが語る価値あるお金の増やし方』の中で、推し活的に応援したい会社に投資することをおすすめされていますね。応援したい会社の見つけ方を教えてください。

会社の公式サイト上で公開されているIR情報を見ると、その会社の傾向や風土がわかりますよね。会社が将来に対してどのようなビジョンを描いているか書かれています。その内容を読んで、共感したり、応援したくなる会社の株を買うことが鉄則です。

「みんなが投資しているから買う」のではなく、自分でその会社の動きを実感できることが大事です。なぜなら、会社は生き物です。実体があって変化するもの。だからその動きをしっかり見て判断しなければいけません。株はギャンブルという意味では決してないですが、例えば、競馬新聞の情報だけで馬券を買うのではなく、実際に馬を見に行ってから馬券を買うみたいな感じです。

会社の動きは実生活で見える部分もたくさんあります。投資先の会社のことをきちんと調べて、動向を追っていれば、たとえ失敗したとしても、勉強になるんですよ。だけど、「儲かりそう」「あの人も買っているから買おう」といった理由で、よくわからない株を買って失敗した場合、納得もいかないし、全然勉強にならないんですよね。

加えて、株式投資はボラティリティ(値動きの変動率)が大きいので、真剣に向き合わないと大怪我するという自覚を持っておいたほうがよいですね。

ただ、仕事や家事をしながら、株と向き合ってばかりもいられないじゃないですか。だから、私は資産形成において個別株投資をメインにはおすすめしていないんです。保有する資産をコア(中核)とサテライト(衛星)に分けて運用する「コア・サテライト戦略」がありますが、私自身は、個別株投資をサテライトの位置づけで6銘柄のみ保有しています。

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 30代独身会社員が貯金ゼロから1000万円を貯めるには?

――独身の方が結婚を意識するようになって、貯蓄や投資を始める声が多く聞かれます。仮に30代独身会社員が貯金ゼロから1000万円を貯めるには、どのような手順でお金を増やしたらよいでしょうか。

まず収入の3割を貯蓄に回して、手をつけないこと。コロナ禍でも実感しましたが、この先、何が起こるかわかりませんよね。ですから、最低でも、半年間働かなくても生きていける程度の現金を生活防衛資金として確保しましょう。その上で、浮いたお金を投資に回すことです。

個別株に投資するのもよいですが、コア(中核)としては投資信託をおすすめします。分散が効いていますし、手数料が安い商品も揃っており、長期的な資産運用に適しているからです。

――投資信託の商品を選ぶ際には、日経平均株価やTOPIXなどの指数に連動するように設計されたインデックスファンドがよいでしょうか。それとも、市場平均を上回るパフォーマンスを目指すアクティブファンドがよいでしょうか。

アクティブファンドの場合、運用担当者(ファンドマネージャー)が、市場を調査したり、会社を訪問したりして運用を指図するので、運用管理費が高くなります。それに対して、インデックスファンドは調査や分析などは省略され、機械的に運用されます。その分、運用管理費が安く抑えられています。

私は長期的な目線に立って資産を運用することが大事だと考えています。長期投資の場合、運用管理費の差がパフォーマンスに大きく影響してくるんですね。だから、私は運用管理費が安いインデックスファンドを選ぶのが良いと思います。

――売買の基準やタイミングについてはどのような考えをお持ちでしょうか。

株式や投資信託を買う手法として、購入時期を分散することで価格変動リスクを低減させるドル・コスト平均法(金融商品を一定金額で、時間を分散して定期的に買い続ける手法)がありますよね。例えば、毎月1万円ずつ買い増していくように。買い時がわからないのだから、売り時もわからないはず。だから、売却においても、必要な時に少しずつ切り崩していくのがよいのではないかと考えています。

肉乃小路ニクヨさんプロフィール
経済愛好家、ニューレディー、コラムニスト。慶應義塾大学在学中の1996年より女装を開始する。並行して会社員としても勤務。主に銀行と保険会社でキャリアを積む。セクシャルマイノリティーとしての葛藤で苦しんだ青少年期とショウガール、ゲイバーのママ、会社員時代に鍛えた人間観察力を活かして、経済、お金、恋愛、ライフスタイル等を語る。2023年に初の著書『確実にお金を増やして、自由な私を生きる! 元外資系金融エリートが語る価値あるお金の増やし方 』(KADOKAWA)を発売。