渋谷キャストの広場には、いわゆる「意地悪ベンチ」がない。そのことに筆者は、広報の一部として関わった「7周年祭」(4/28、29開催)で改めて気付かされた。

「意地悪ベンチ」とは、仕切りがついていて寝そべることができなかったり、形がアーティスティックすぎて座り心地が悪かったり、長居させないような意図を感じる都市のベンチのことを指す言葉だ。「排除ベンチ」と呼ばれることもある。

渋谷キャスト7周年祭で開催された集合写真ワークショップの様子。広場にて。渋谷キャスト7周年祭で開催された集合写真ワークショップの様子。広場にて。

東京都心は、疲れた時に安心して腰掛け、休憩できるような場所がなくなりつつある。ある地点からある地点へ、最短ルートを効率的に移動したい人に最適化されて設計されているのだと、つくづく感じる。

だから今回、渋谷キャスト7周年祭で、東急株式会社の丹野暁江さんから次のような言葉を聞いた時は驚いてしまった。

「渋谷キャストの広場は、公園ではないですが、お金を全く使わなくてもゆったり過ごせるようにしてるんです。なんの理由もなく『ここにいていいよ』という空間が、今ちょっと東京には少ないですよね。特にグランドレベル(建物の1階)で」

渋谷キャストは、都が保有する施設や土地を有効活用し、民間のノウハウで周辺開発を促す「都市再生ステップアップ・プロジェクト」の一環で誕生した。場所は、都営住宅「宮下町アパート」の跡地。都が運営期間70年の定期借地権を設定している。渋谷キャストは、都が保有する施設や土地を有効活用し、民間のノウハウで周辺開発を促す「都市再生ステップアップ・プロジェクト」の一環で誕生した。場所は、都営住宅「宮下町アパート」の跡地。都が運営期間70年の定期借地権を設定している。

周年祭では、キッチンカーや古着のポップアップショップが並び、傍でアーティストが演奏する、穏やかな時間が流れていた。この唯一無二の空間の背景にあるものを解き明かすべく、丹野さん、そして、今回の周年イベントで総合ディレクターを務めた熊井晃史さんにお話を伺った。

「余韻と余白」がなぜ大事なのか?

渋谷キャストの建築デザインコンセプトは「不揃いの調和」だ。

この言葉の生みの親は、CMFデザイナー(※)の玉井美由紀さん。さまざまな建築家やデザイナーなどが参画するプロジェクトの中で、方向性にまとまりがつかなかった時に出てきた言葉だという。そのコンセプトを、7周年祭ではテーマとして大きく打ち出し、加えて、建築コミュニケーター・田中元子さんの口ぐせから引用し「頼まれなくたってやっちゃうことを祝う」を並べた。

(※)Color(色)、 Material(素材)、 Finish(加工)の頭文字。CMFは産業デザインにおいて製品の表面を構成する要素。

集合写真ワークショップで参加者と話す丹野暁江さん(中央・青と白のブラウス)。

「託し、託され、互いの想いや願いに呼応する形でそれぞれが想像し、創造した。その集大成が今回の周年祭であったと考えます。時に漏れ出てしまうくらいの熱い想いと創造力を最大限に引き出し、生かすことが出来れば本望です。運営する私たちは引き続き勉強して、『水やり』を継続しないと。そんな決意をまた新たにしました」

(取材・文:清藤千秋 編集:泉谷由梨子)