クィアとして自由になれても、愛する人と家族になれない。韓国人作家が語る、LGBTQ+の厳しい現実

ハフポスト日本版6/15(日)9:00

クィアとして自由になれても、愛する人と家族になれない。韓国人作家が語る、LGBTQ+の厳しい現実

クィアとして自由になれても、愛する人と家族になれない。韓国人作家が語る、LGBTQ+の厳しい現実

韓国発の多様性をテーマにした絵本『ドロシーマンション』作者のカヒジさん

韓国発の多様性をテーマにした絵本『ドロシーマンション』(303BOOKS)の作者・カヒジ(GAHEEZY)さんは、10代でクィアを自認。性的マイノリティに対する偏見や差別が根強い韓国では、自らのアイデンティティを隠してきたが、2021年にカミングアウトした。  

「大事なのは、“どこで生きるか”じゃなく“どう生きるか”」。

カヒジさんがそう考えるに至った経緯や、韓国社会におけるLGBTQ+の現実について聞いた。 

文・絵/カヒジ 訳/加藤慧『ドロシーマンション』(303BOOKS)より翻訳はミン・ジヒョン『僕の狂ったフェミ彼女』などを手がける加藤慧さんが担当している文・絵/カヒジ 訳/加藤慧『ドロシーマンション』(303BOOKS)より
翻訳はミン・ジヒョン『僕の狂ったフェミ彼女』などを手がける加藤慧さんが担当している

クィアな自分の居場所はどこにあるのか?

『ドロシーマンション』の物語は、変わり者と言われる主人公・タータンが、自分の居場所を求めて旅に出るところから始まる。「自分の居場所はどこにあるのか?」。それは、作者のカヒジさんが長年、抱いていた思いでもあった。

「私がクィアであると自認したのは、13、14歳の頃でした。しかし子ども時代だけでなく、芸術活動を始めてからも、ごくごく身近な人にしか、私のアイデンティティをオープンにすることはありませんでした。自分らしく生きることが難しかったため、ずっと自分は異邦人であるという感覚がありました」(カヒジさん) 

そんなカヒジさんは、2018年にワーキングホリデーで長期滞在したニュージーランドで、初めてクィアとして自由に生きることを知る。

「移民大国として知られるニュージーランドへ行き、初めてさまざまな人種、肌の色、言語、宗教、セクシュアリティの人たちと一緒に暮らす経験をしました。そこでは私はクィアというアイデンティティを隠す必要がなく、自分自身が自然な形で受け入れられているような気がして、一時は定住しようかとも考えました。

ただ一方で、ニュージーランドでは、アジア人ということで悔しい思いをすることもありました。そのため、いくら時間が経っても自分はこの国に完全には溶け込めないという感覚もあったのです」(カヒジさん)

いったい自分はどこに行ったらいいのだろう? それまでも常に抱いていた問いが再び去来する中、カヒジさんは韓国に帰国した。

 

韓国社会における厳しい現実

猫本専門店「Cat's Meow Books(キャッツミャウブックス)」で自著にサインする、カヒジさん猫本専門店「Cat's Meow Books(キャッツミャウブックス)」で自著にサインする、カヒジさん

『ドロシーマンション』の原点にあるのは、ニュージーランドでカヒジさんが目にしたある光景だ。

光に満ちた美しいビーチで、国籍や見た目の異なる女性同士のカップルとその子どもが、別の家族の子どもたちと遊んでいる――。カヒジさんは、その家族がありのままの姿でのびのび生きていることの美しさに感動したという。

しかし同時に、その感動は韓国社会がいかに性的マイノリティを拒絶しているのか、という事実も照らし出す。

「現在の韓国では、ドラマや映画など性的マイノリティに関するコンテンツが増え、またそれらが広く見られるようにもなってきて、理解は深まっていると感じます。

ただ、自分の実人生において、性的マイノリティの家族として、同僚として、友達として一緒に生きていくという考えができる人はあまり多くないように思います」(カヒジさん)

アーティスト活動の傍ら、小学校で美術を教えていたカヒジさんは、子どもたちが性的マイノリティに対する誤解や偏見を持っていることも痛感していた。

「低学年であれ高学年であれ、子どもたちが誰かのセクシュアリティについて『こんなことをするやつはゲイなんだぞ』などとからかったり、いじめたりする場面に幾度となく遭遇しました。

そのたびに私は『その子が間違えているのではなく、自分と“好き”の形が違うだけだから、ありのままの姿を受けとるべきなんだよ』ということをどうやって説明したら子どもたちが自然に受け入れ、保護者の反発を招かないだろうか、と悩みました」(カヒジさん)

近年、移民が増加しつつある韓国では、学校の現場でも多様な文化やセクシュアリティに関する教育が行われているとカヒジさんは聞いている。ただ、社会を見る限り、まだまだだとも感じている。

「性的指向や性自認に関する教育は、様々な観点から行われるべきでしょう。絵本は、そういった意味でも大きな役割を果たすことができるのではないかと思います」(カヒジさん) 

 

「愛する人と家族になりたい」

文・絵/カヒジ 訳/加藤慧『ドロシーマンション』(303BOOKS)より文・絵/カヒジ 訳/加藤慧『ドロシーマンション』(303BOOKS)より

ニュージーランドでのワーキングホリデーから帰国したカヒジさんは、自分のある変化に気づいたそうだ。 

「ニュージーランドで生活して、ありのままの自分で生きていていいんだと考えるようになったら、これ以上、自分のアイデンティティを隠して生きていくことはできなくなりました」(カヒジさん)

そこで2021年、10年間書き続けてきた絵日記を『私が描きたいものは』という本にまとめ、自費出版。同書を通じて、自身がクィアであることをオープンにした。

「自分のセクシュアリティのあり方を明らかにする必要はありませんでしたが、それを隠したまま作品を描くということは、のどにつかえていたようなもどかしさがありました。ですから、ずいぶん気持ちが楽になりました。

また長い間、自分のセクシュアリティをオープンにしたら、家族やまだ小さい甥っ子や姪っ子に何らかの悪い影響があるんじゃないかと思い悩んできたのですが、心配していたようなことは起こりませんでした。私がソウル在住、かつ美術分野に身を置いているからかもしれませんが」(カヒジさん)

どこで暮らすとしても、正直な姿で生きて大丈夫なのだ。そんなカヒジさんの実感は、『ドロシーマンション』の「だいじなのは、“どこでいきるか”じゃなく“どういきるか”なんだよ」という一文と響き合っている。

「ただし……」とカヒジさんは続ける。

「私は結婚をして家族を作りたいのですが、韓国ではそれができないという現実もあります。ニュージーランドでは『ドロシーマンション』の起点になった家族だけでなく、子どもを育てる同性カップルの家族にも数多く出会いました。でも、韓国では同性婚は法律で認められていません」(カヒジさん)

ニュージーランドでは、1993年に包括的差別禁止法が可決され、2004年には「シビル・ユニオン」という法的に認められたパートナーシップ制度が開始。2013年には同性婚が法制化された。一方、韓国では、2024年に同性カップルの健康保険被扶養者資格を認める判決が出されたものの、日本と同様にいまだ同性婚は法的に認められていない。 

『ドロシーマンション』で、タータンが個性豊かな登場人物たちと家族となって暮らすドロシーマンションの屋根は、レインボーカラーに光っている。この幸福な光景は、カヒジさんの願いでもあるのだ。

「愛する人と家族になりたい。これが今の私にとっての一番大きなテーマです」(カヒジさん)  

(取材・文/有馬ゆえ 編集/毛谷村真木)

絵本専門店「ニジノ絵本屋2号店」を訪ねたカヒジさん絵本専門店「ニジノ絵本屋2号店」を訪ねたカヒジさん

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