エピキュールの藤春幸治シェフとLiLiCoさん

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「食の選択肢が増えれば、アレルギーや闘病などでの食事制限も『自分に合ったものを選ぶ』というポジティブなものに変わるはず」

そう話すのは、東京・元麻布にあるレストラン「エピキュール」のオーナーシェフ、藤春幸治さんだ。エピキュールでは「みんなで1つのテーブルを笑顔で囲めるように」をコンセプトに、アレルギー、病気療養による食事制限、ヴィーガン、ハラールなどに対応したメニューを提供している。

7歳のときから食べ物などにアレルギーのあるタレントのLiLiCoさんは、藤春さんの「食の多様性」への考え方に賛同し、藤春さんが展開する事業の株主になった。群馬県邑楽町に今年オープンした店舗では、2人がコラボして、LiLiCoさんの出身地である「スウェーデンのクリスマス」をテーマに、食事制限がある人も楽しめるメニューを開発した。

アレルギーとともに生きてきたLiLiCoさんと、長年、食の多様性をめぐる挑戦を続けてきた藤春さん。二人の出会いや、日本における食の課題などについて語り合った。

群馬県邑楽町にある、植物性バター「フジハルバター」の量り売り店。11月28日からクリスマスまで、LiLiCoさんとコラボする群馬県邑楽町にある、植物性バター「フジハルバター」の量り売り店。11月28日からクリスマスまで、LiLiCoさんとコラボする

食物アレルギーの子がケーキを食べる笑顔を見て、大号泣

――お二人の出会いは何がきっかけだったのでしょう? LiLiCoさんは藤春さんの事業の株主になったそうですね。

LiLiCo:藤春さんを知ったのは、数年前、偶然観ていたテレビ番組でした。食物アレルギーの男の子が藤春さんの作ったショートケーキを食べている笑顔を見て、大号泣してしまいました。私の弟は小麦、卵、乳製品などに重篤なアレルギーがあって、小さい頃の姿と重なったんです。

3年ほど前、レギュラー出演しているラジオ(J-WAVEの「ALL GOOD FRIDAY」)にたまたま藤春さんがゲストにいらして。エピキュールの考え方にあらためて共感し、レストランを訪れたり、お正月におせちを頼んだりするようになりました。

その後、豆乳から作られた植物性の「フジハルバター」を開発したと聞き、今は株主として出資しています。いいものは応援したいですし、藤春さんがものすごい情熱と時間をかけて向き合っているのも知っていたから。小さい頃から、弟の世話をしながら「将来は芸能人になってお金を稼いでアレルギー研究に投資したい」と考えていたので、夢が叶った気分です。

藤春:実は僕はラジオに呼んでもらった時、LiLiCoさんにアレルギーがあるとは知らなかったんです。でも、ラジオで涙を流しながら話している姿を見て、自分がやってきたことは間違っていなかったと確信を得ることができました。

料理の力で、アレルギーなどをネガティブなものからポジティブに変えていきたい。一般的に日本のレストランは、シェフの思想で「私の作品はこれです」と料理を提案しますが、僕はお客様ありきで、一人一人に合ったパフォーマンスをするのが主なスタンス。食事の制限や理念があっても、別メニューではなくみんなで同じ1つのテーブルを囲めるようにしたいと考えています。

 

小麦、乳、卵を使わない「新しいスウェーデンのクリスマス料理」

コラボメニュー。左からセムラ、ルッセカット、スカーゲン・トーストで、3種類の揃ったプレートと、単品でも注文できるコラボメニュー。左からセムラ、ルッセカット、スカーゲン・トーストで、3種類の揃ったプレートと、単品でも注文できる

――今回のコラボレーションはどんな内容なのでしょうか。

藤春:アトリエ エピキュール フジハルバター オウラは、日本初の特許製法で作られた植物性バター「フジハルバター」の量り売り店です。アレルギーや病気療養、ヴィーガン、宗教などさまざまな理由で一般的なバターを食べない人にもおいしい料理を、という思いで、8月に群馬県邑楽町にオープンしました。

今回はLiLiCoさん監修のもと、僕が「新しいスウェーデンのクリスマス料理」を開発。小麦、乳製品、卵のアレルギーに対応し、グルテンフリーにも配慮しています。また3分の2のメニューが動物性原料を使っていません。(詳しいメニューの内容は公式サイトから)

LiLiCo:メニューは、12月13日のルシア祭で食べる「ルッセカット」という菓子パン、定番オープンサンド「スカーゲン・トースト」、伝統的スイーツ「セムラ」と「チョコレートボール」。どれもスウェーデンの冬を感じられる、私にとっては新しくも懐かしい味です。

LiLiCoさんが店舗の飾りつけも担当した。普段のエントランス部分(写真左)も、クリスマス仕様で華やかに(写真右)LiLiCoさんが店舗の飾りつけも担当した。普段のエントランス部分(写真左)も、クリスマス仕様で華やかに(写真右)普段の飲食スペース(写真左)にも、赤の星のオーナメントやテーブルクロスが(写真右)普段の飲食スペース(写真左)にも、赤の星のオーナメントやテーブルクロスが(写真右)

藤春:LiLiCoさんからスウェーデンのレシピを教えてもらい、何度か試作品を食べてもらいました。スウェーデン料理のレストランに一緒に行って、味の付け方や、食材の構成などを知ることができたのも勉強になりました。

今回のメニューは3種類のパンを使いますが、これらは小麦や乳、卵ではなく、おからや米粉、大豆粉、こんにゃく、グルテンフリーの認証を取っているオートミールなどで作ったもの。マヨネーズや生クリームなどの乳製品は豆乳ベースに変更しています。

LiLiCo:藤春さんの料理がすごいのは、アレルゲンフリー、ヴィーガン、グルテンフリーでも本当においしいところ! 物足りなさが一切ないし、ヘルシーだからお腹いっぱい食べても翌朝、身体が軽いんですよね。

――LiLiCoさんは店舗のプロデュースもするそうですね。

LiLiCo:テーブルセッティングを考え、店舗の飾りつけもしました。SDGsのためにも新品を一から買いそろえるのではなく、カトラリーやお皿などはあるものを使い、置き方や包み方で工夫。お金ではなく愛情をかけるのが大事ですから。

サステナブルに配慮し、自宅からもクリスマスの雑貨を持ち運んだサステナブルに配慮し、自宅からもクリスマスの雑貨を持ち運んだ

日本で食の多様性が広まらない理由

――日本では、食物アレルギーや闘病といった健康上の理由や、ヴィーガン・ベジタリアンといった食の理念、宗教上の教義や信念などに対応する飲食店がまだまだ少ないですね。

藤春:日本はどこにいってもおいしくてリーズナブルな飲食店があってすごいと言われます。ただ、文化的にイノベーションに対応するのが苦手なため、本場で勉強したシェフでも、「日本風のおいしい料理」を作るところでとどまってしまっている。業界全体で食の多様性に関する知見が足りず、世界から置いていかれていると感じます。

僕が植物性バターのお店を群馬県の邑楽町で始めた理由の一つには、食文化が東京より進んでいない地方で、食の多様性の認識や選択肢を広げるきっかけを作りたいという思いがありました。一般的には、東京から始めるのがセオリーかもしれませんが、今回は地方から始めることに意義があるのかなと。

群馬県邑楽町にオープンした量り売り店では、地元の人とのコミュニティも大切にしているという群馬県邑楽町にオープンした量り売り店では、地元の人とのコミュニティも大切にしているという

――邑楽町の店舗に、食に制限や理念を持つ人たちは来ましたか?

藤春:実は、ご近所に住まれている方が、乳製品の中の乳糖をうまく消化できない「乳糖不耐症」だったんです。ただ、お店ができるまでそれを人には言えなかったそう。日本には、食の制限やこだわりを口にしにくい文化があるんですよね。でも、対応したレストランやショップに行くと「実はアレルギーで」「病気があって」と話すきっかけにもなる。一方、対応していない飲食店の場合は、リスクの観点から入店を断った方がいいと考えがちです。

LiLiCo:食に制限があることが「タブー」のようにとらえられる風潮は、私も感じてきました。また、知識不足もあると思うのですが、本人さえも食物アレルギーを自覚せず、ただの好き嫌いだと思って食べ続けていたりする。今は症状が軽くても命に関わる症状に変わる可能性を考えると、危険だと感じます。

過去に、サービスでケーキを持ってきた店員さんにナッツが入っていないか確認したら、目視で確認して「大丈夫だと思います」と言われたことがあります。知識がないから、食べ物を扱う人でも、目には見えない形でパウダー状になったナッツが使われている可能性を思いつかない。

藤春:一方で、アレルギーのある人は増え続けています。大人になってから傷口から小麦などのアレルゲンが入るなどして発症する人もいます。

学校では、重度なアレルギーによるアナフィラキシー症状を一時的に緩和するエピペンという注射液を持っている子が、クラスに複数人いることも珍しくありません。

そのいっぽうで、教育の現場や、学校を指導する側の行政において、アレルギーに対する理解が浅く、学校でアレルギーを含め食の多様性について学ぶことがほぼないというのも問題だと感じます。

「もしかしたら相手にアレルギーがあるかもしれない」という知識を持ちながら、同時に「美味しいものを分かち合いたい」という気持ちも尊重したい。友達同士で、「アレルギーあるんだ」と言われた時に「じゃあ食べられないね」ではなく、「そうなんだ。じゃあこっちにしようよ」っていう選択肢を示すことができるようになれば安心ですよね。そのために、僕も対応できる食事を作る技術を磨いていかなければいけません。

藤春さん藤春さん

社会科の教科書に。フードバリアフリーな食文化へ

――そもそも藤春さんは、なぜ食の多様性が重要だと考えるようになったのですか? 

藤春:アメリカにいる、ザ・ビバリーヒルトンの総料理長を務めた叔父(杉浦勝男さん)がきっかけです。彼は、歴代大統領の就任式の料理を担当するほか、世界各国から人が集まるビバリーヒルズでさまざまな食の制限や理念に対応するオーダーメイドの美食を提供してきました。

彼に刺激を受け、十数年前、僕も日本でも同じことをしたいと医療の知識をつけ、健康的でおいしい「ケアリングフード」という概念を創案しました。すでに医療費や食物アレルギーの増加などは問題視されていて、日本でも必要な人はいると考えたんです。叔父には「日本でやっても失敗する」と言われましたが、僕は「日本はそのままでいいのか?」という叱咤激励だと受け止めました。

LiLiCo:海外はスーパーでさえアレルゲンフリー、グルテンフリーなどのコーナーが大きく設けられていますが、日本では選択肢が少ないですよね。

スウェーデンでも1980年代からスーパーで普通に乳の入ってないバターが売っていましたし、今ではレストランも食の制限や理念に対応するのは当たり前。でも、うちの弟が日本に来ると、お寿司か焼き鳥店でしか外食ができないのが残念だなと思います。

LiLiCoさんLiLiCoさん

藤春:ハラールにしても、日本では豚とアルコールを抜けばいいと思われがちですが、それだけではありません。中東のハラールと南米のハラールとではスパイスが違うと叔父から学びました。また、日本にはコーシャと呼ばれる、ユダヤ教徒が食べる料理に完全に対応できるレストランがありません。

今はアレルギーや闘病中の方に料理を作ることが多いのですが、今後はそうした宗教上の理由を含む多様性にも挑戦していきたいです。自分がトライ&エラーを繰り返して得たものを、次世代のシェフにも残していければと、色々と仕組みを考えているところです。

LiLiCo:ケアリングフードという藤春さんの造語は、今年高校1年生の社会科の教科書に掲載されたんですよね。私もすごく感動しました。

藤春:ありがとうございます。それをきっかけに、ますます食の多様性について広めたいという気持ちが強まっているんですよ。フジハルバターも、今後は他の飲食店や企業、保育園や学校などの教育現場で採用してもらいたい。バターを使う料理に複数の選択肢があれば、食の制限がない人にとっても豊かになるはずですよね。そのためなら、レシピや使い方も惜しみなく伝えていくつもりです。

選択肢が増えれば、食事制限も「自分に合ったものを選ぶ」というポジティブなものに変わるはず。僕たちの試みによって食の多様性の重要さが伝わり、一人ひとりの事情に合わせたフードバリアフリーな食文化が発展していってほしいと願っています。

 

(取材・文=有馬ゆえ、編集=若田悠希)