昨年の10月から11月にかけて群馬県や埼玉県で、ベトナム国籍の技能実習生たちが無許可で豚を解体したとして相次いで逮捕された事件を記憶されている方もいるだろう。北関東ではその前から家畜や果物の大量窃盗事件も発生しており、その関連が強く疑われていながらも前橋地検が不起訴とした処分に反発する声も聞かれた。

しかし非難する先が違うのではないか。逮捕された技能実習生たちはお金を節約するため、豚や鶏を丸ごと(他のベトナム人から)購入して自らさばいて食べたのだから。確かに無許可で豚を解体したことは違法だが、それは日本の法律を知らないがゆえだ(日本人だってそれが違法だとは大半の人が知らないだろう)。

彼らは男女13人のグループで、2軒の民家で同居していた。なぜベトナム人技能実習生たちがこんなに集まって自炊生活を余儀なくされていたのか。しかもその一部は「元技能実習生」であって、管難民法違反(不法残留)とのことだ。

要は、彼らは極度にひどい待遇の実習先(雇い主)から逃げてきたり、または実習先が経営不振で解雇されたりしており、同胞のコミュニティを頼って集団で生き延びようとしていたのだ。事情を知らない日本人とすれば「もっと待遇のよい実習先に移ればいいじゃないか」と思うかも知れない。「最悪、母国に帰ればよかったのに」とも言いそうだ。

しかし技能実習制度は、一旦決められた実習先を技能実習生が自分の意志で変えて他に移ることを許さない。日本の監理団体(受け入れ機関)が認めない限りダメで、嫌だったら帰国するしかない。しかし技能実習生たちはおカネを稼ぐために日本に来たのだ。しかもこの制度に参加するため、彼らは送出機関に大金を前渡ししている(家を担保に入れたりして大きな借金を背負っているケースがほとんどだ)。もし途中で帰国してしまったら、稼げないどころか大損してしまい、下手をすると一家心中ものなのだ。

実習生たちがそう簡単に逃げることができない事情をよく分かっている日本の監理団体は、日本での雇い主に対し「お買い得」をアピールし、袖の下を要求することもあると噂される。その事情を教えられた雇い主の多くは、日本人だったら絶対耐えられない雇用条件と環境(住居・食事を含め)で実習生たちをこき使う。

実習生たちが母国で送出機関から聞いていた賃金と比べ実習先での賃金が随分安いのは、送出機関が誇大宣伝するせいなので、実習先の雇用主が必ずしも悪い訳ではない。しかし約束した賃金から法外な住居・食事代金を差し引き、しかも長時間労働させておいてほとんど残業代を払わないという悪質なケースも少なくない。中には、それでも実習生に逃げられないよう、パスポートを強制的に預かるという手口も横行したという(最近は、ある意味「共犯者」である監理団体ですら「それは止めてくれ」と文書で警告するようになっている)。

一旦手の内に入った外国人実習生は「煮て食おうが焼いて食おうが、こっちの勝手」という感覚だろう(もちろん良心的な実習先もない訳ではないが、支援NPOが薦めるような処はごく少数派で、そうしたところに最初から派遣された実習生は非常に幸運だ)。こういう実態が、帰国したり保護されたりした実習生と支援団体から世界に訴えられ、今や日本の実習生制度は国連からもたびたび人権侵害であると勧告を受けてきている。要は「ニッポンの面汚し」制度なのだ。

しかも実習生をどこの送出機関からどれだけ受け入れるかは日本側の監理団体の胸先三寸で決まるため、少しでも多くの実習生を送り出して手数料を稼ぎたい送出機関は懸命に監理団体の関係者に営業してすり寄る。監理団体の責任者への袖の下や、現地視察に来る担当者への露骨な接待(そのメインは性接待というのが相場だ)は送出機関にとって「必要経費」とされる。

要は、貧しくてお金を稼ぎたい一心の技能実習生の希望者を、現地の送り出し機関と日本での雇い主が徹底的に搾取する一方で、その送出機関に対し日本側の監理団体が「たかる」構造が出来上がってしまっているのだ。ある監理団体の役員が匿名を条件に語っていたTVインタビューで「これは(国をまたがる)貧困ビジネスです。こんな美味しいもの、止められません」といけしゃあしゃあと解説していたが、真実を突いている。

そして希望にあふれて来日した技能実習生は、最初の給料をもらってすぐに騙されていたことに気づき、その後も不満を漏らしても事態は変わらない。むしろ執拗な嫌がらせを受けるのが関の山だ。やがて地獄のような労働環境をあくまで耐えるか、体を壊すか、さもなければすべてを捨てて逃げるしかないと悟り、日本に来たことを死ぬほど後悔する。

そして全期間を働き通して無事帰国できるときには、または途中で体を壊して入院した挙句に泣く泣く帰国するときには「大の日本嫌い」になっているのは理の当然だ。

そこまで持たず、あまりの過酷さ・理不尽さに耐え切れずに脱走し潜伏することになった彼らを待つのは、不法残留者となった弱みに付け込んで元実習生をさらに安くこき使うことしか考えていない悪徳事業者か、違法な存在を自覚した彼らを手先としてさらに危ない橋を渡らせようとする(主に同胞を中心とした)犯罪グループか、という転落パターンだ。特に後者は非常に危険な存在となる。

どのみち、日本という国および日本人に対し、失望を通り越して強烈な憤懣を抱き、悪い場合は「深い憎悪」を抱かせる、というのは当然の道筋だろう。国際貢献を建前とする制度が、日本を大嫌いになる外国人を毎年大量に生み出しているのだ。ニッポンへの好感や感謝を生むため毎年5,500億円前後を費やしている同じ国が、一方でこんな恥知らずな行いを国策の名の下に繰り返している。なぜこんなことになっているのだろうか。

本当は人手不足に悲鳴を上げている国内の産業に安い労働力を供給するための外国人単純労働者の許可制度(移民制度の一種)に過ぎないのに、外国人単純労働者家族に定住されることを嫌がった日本の世論をごまかすため、「発展途上国の技能向上のための研修生制度、つまり国際貢献と国際協力の一環だ」という欺瞞(ぎまん)の建前で建付けた結果、外国人労働者に対する保護の視点が極端に弱いためだ。

要は衰退する国内の特定産業を保護する視点だけで設計された、「日本人のための、日本人による」外国人労働制度だからである。まともな感覚の外国人からすれば「お前ら、日本人以外には人権は必要ないと思っているのか?」と詰問されることは間違いない。

最近になって小手先の制度手直しがほぼ毎年続いているが、そもそもこんな欠陥制度が撤廃されないのは何かおかしい。多分、外国人実習生を食い物にしている実習先の業界と監理団体のいずれか(または双方)から相当なカネが、この問題を管轄する厚労省に対しかなりの影響力を持つ政治家に流れているのでは、と疑うのはごく当然だろう。

筆者は以前、こう書いた。「外国人技能実習制度を廃止せよ」と。もう一度言いたい。こんな「日本大嫌いの外国人と、犯罪者に身を落とすしかない外国人ばかりを生む欠陥制度」を、それでも存続させたい政治家と官僚は『売国の徒』だ、と。