ピントゥリッキオ『受胎告知(一部)』, Public domain, via Wikimedia Commons

キリスト教美術のなかで大天使ガブリエルを見分けるためには、よく登場する主題と目印(アトリビュート)を理解する必要があります。この記事では、ローマの大学院で美術史を専攻する筆者が、キリスト教美術における大天使ガブリエルの役割と描かれ方を解説します!

大天使ガブリエルとは?

ジョット『神から送られた大天使ガブリエル』, Public domain, via Wikimedia Commons

大天使ガブリエルは、ユダヤ教に起源を持つ天使です。イスラム教にも登場します。「ガブリエル」の名は「神の人」の意味があり、神からの言葉を地上に伝達する役割があります。大天使ミカエル、大天使ラファエルと一緒にキリスト教の三大天使の1人です。

ユダヤ教、キリスト教、イスラム教には伝統的に、天使の階級が設定されています。キリスト教(ローマ・カトリック)においては、ガブリエルを含む大天使は3つの階級のもっとも低い「下位三隊」に分類されます。聖書の重要な場面に登場するにもかかわらず、天使界のヒエラルキーでは低い地位なのは面白いですね。

大天使ガブリエルがよく描かれる主題『受胎告知』

フラ・アンジェリコ『受胎告知』, Public domain, via Wikimedia Commons

大天使ガブリエルがもっとも多く描かれる主題は『受胎告知』です。受胎告知とは、聖母マリアが無原罪の宿りを大天使ガブリエルから知らされるシーンです。多くの場合、室内で本を読んだり座ったりしている聖母マリアのもとに大天使ガブリエルが舞い降り、「神の子を宿している」と伝える様子が描かれます。

伝統的な図像では、大天使ガブリエルと聖母マリアの頭上には聖霊(白い鳩)が描かれます。聖霊は、大天使ガブリエルは天使ヒエラルキーにおける下位三隊(聖霊のヒエラルキー)に属し神のお告げを伝えていることを象徴しています。

受胎告知においては多くの場合、大天使ガブリエルは若々しい青年の姿で現れます。天使であることを示すための羽を携え、人差し指と中指を揃えたり手を当てたりして聖母マリアを祝福する構図が一般的です。

大天使ガブリエルの目印は「ユリの花」や「ヤシの木の枝」

アントニオ・ヴィヴァリー二 『大天使ガブリエル』, Public domain, via Wikimedia Commons

大天使ガブリエルは受胎告知で聖母マリアの前に降り立つ際、伝統的に手に白いユリの花を持っています(例外あり)。白いユリは「純潔」の象徴であり、聖母マリアが処女懐妊したことを示しています。このことから、大天使ガブリエルの目印(アトリビュート)の1つが白いユリとなりました。

ほかにも、天国からの枝(ヤシの木の枝)を手にしていることがあります。ヤシの木の枝は殉教者のシンボルでもあり、大天使ガブリエルの天国とのコネクションを示しているのでしょう。

天使のなかでも役割や特徴があるのは興味深いですね。受胎告知の主題を見つけた際は、天国からのメッセージを伝える大天使ガブリエルにも注目してみください。以上、大天使ガブリエルの解説でした!