辛い腰痛。痛みへの恐怖心から、ひたすら安静にしてしまいがちです。しかし、過度な安静は悪化させる可能性すらあり、「意外にシンプルな方法」が治療に効果的と、三田整形外科院長の高鳥尚子氏はいいます。どのような方法か、みていきます。

腰痛は「過度な安静」が慢性化の原因!?

みなさんは「腰痛」と聞くとどのようなイメージをもちますか? 

「一度なってしまったら、繰り返し痛くなる」

「痛いあいだは会社に行かず、安静にしていないといけない」

「原因がよくわからない」

といったイメージをお持ちの方も多いのではないでしょうか? 実は腰痛は、「また痛くなったらどうしよう」という恐怖心のために過度に安静にすることで、かえってなおりが悪くなることがわかっています。

その原因は、以下のとおりです。

1.恐怖心を持つことで心理的なストレスが高まり、ドパミンやオピオイドという痛みを抑える脳内物質が分泌されにくくなる=痛みを感じやすくなる

2.恐怖心により筋肉の緊張が高まり、柔軟性が低下するためにほかの部分の痛みが出たり、腰痛が長期化したり、腰痛が再発するリスクが高まる

つまり「腰痛で寝たきりの状態が何日も続く」といったような状況は、腰痛を慢性化させる原因となります。

痛み止めの適切な使い方

このように、腰痛を長引かせないためにはなるべく「恐怖心なく」「筋肉の緊張を緩めた状態で」過ごすことが重要です。とはいえ、腰痛の痛みは辛いもの。辛いときは恐怖心を起こさないためにも、きちんと痛み止めを使用しましょう。

診察をしていると、「痛み止めは根本的な治療ではないのでいりません」という方がいらっしゃいます。しかし、痛み止めを使用したほうが早く日常生活に戻ることができ(動作を保ち続けられる)、痛みからくる不安やストレスを感じずらくなる(脳にも影響が少ない)ため、腰痛が長期化するリスクを下げることができます。

腰痛が起きてから2-3日は痛み止めを処方どおりに内服して、コルセットを着用しましょう。「痛み止めは胃が痛くなるから使いたくない」という方もいらっしゃるでしょう。そのような場合は医師に説明して胃に負担の少ない処方をしてもらいましょう。長期的に痛み止めを飲むのは、副作用の観点からも望ましくありませんが、上記のように「短期的に」「腰痛を長引かせないために」痛み止めを使用しましょう。

腰痛は「動いて治す」がグローバルスタンダード

治すための「正しい動かし方」とは?

「腰痛は動かして治す」といっても、ジムに行けばよいのか? ヨガをすればよいのか? 自己流でネットや書籍をみて行えばよいのか? わからない方が多いと思います。腰痛に対して行うストレッチや筋トレは、その方の腰痛の程度によって、またもともとの筋力や生活レベルによって、異なります。  

まずは整形外科のクリニックで、理学療法士に指導してもらうのが最も安全でしょう。指導してもらった内容を自宅で行い習慣化することができれば、今後の腰痛の予防につなげることもできます。

すべての腰痛に「動かして治す」方法が当てはまる?

いいえ。腰痛のなかには原因ははっきりわからないけれど心配は少ない「非特異的腰痛」とは別に、「危険な腰痛」および「治療すべき原因疾患のある腰痛」もあります。ここが要注意です。

「危険な腰痛」のサインは「転倒などの外傷後の腰痛」「寝ていても痛い腰痛」「痛み止めを1ヵ月内服しても痛みが取れない腰痛」「肛門の周りが熱くなったりしびれたりする、尿漏れや便もれ、尿が出にくいなどの症状を伴う腰痛」「下肢の筋力が下がっている(つまずきやすい、足をひっかけやすい、踵歩きができないなど)腰痛」です。ひとつでも上記に当てはまる症状があれば、「原因のある腰痛」である可能性が高く原因となる疾患に対する検査や、治療が必要です。

また、腰痛と同時に下肢にしびれや痛みがあったり、クリニックで指導してもらった体操をしたら、下肢に痛みやしびれが出るような場合も、腰椎椎間板ヘルニアや腰部脊柱管狭窄症などの原因疾患がある可能性が高いです。

腰痛は奥が深い!

このように、腰痛は一言で「腰痛」といっても、原因は危険なものから、心配のないもの、原因のわからないものまで多岐にわたります。いくら原因は心配ないものでも痛みは強いことが多く、患者さんにとっては辛いものです。

少しでも腰痛を長引かせず、また、再発しないようにするためにはコツが必要です。ただマッサージに行ったり、寝て痛みが取れるのを待つのではなく、積極的に腰痛と向き合うことでより痛みのない生活を送ることができます。