突然心臓が強い痛みに襲われる狭心症……放置してしまうと心筋梗塞を引き起こし、命を落としてしまう危険性があります。本記事では、森山記念病院内科部長の野池博文先生が具体的な症状とあわせて、狭心症になりやすい人の特徴を紹介します。

狭心症の原因は動脈硬化にあり

心臓は全身の臓器に血液(酸素や栄養)を供給していますが心臓はどこから血液を供給されているのでしょうか? こたえは心臓自身です。

今回はこの心臓に血液を届けるパイプライン(冠状動脈)に、垢(プラーク)がたまり細くなる病気の話です。

冠動脈は大動脈起始部から右冠動脈と左冠動脈が派生し、左冠動脈はさらに前下行枝と回旋枝に分かれます。そして、冠動脈3本のうち、もっとも太くて長い「働き者」の前下行枝が、もっとも動脈硬化を起こしやすいのです。

狭心症の具体的な症状とは

狭心症は病名にも反映されているように、症状が重要です。

典型的な症状は、前胸部の圧迫痛や絞扼絞痛です。なかには左肩や左上肢の痛みに加えて、首の絞扼痛や歯痛を自覚する場合もあり、放散痛といわれます。特に「みぞおち」への放散痛は、消化器疾患と誤診され胃カメラを行う場合もあります。

動悸・息切れは両者でひとつの言葉だと思っている人がいますが、これは大きな間違いです。

両者は心臓に関連深い症状ですが、「動悸」は普段感じない心臓の動きを“ドキドキ”とか“ドキン”と感じることで、不整脈を意味します。一方、息切れは心臓の馬力が弱く、肺に負担がかかり呼吸が苦しくなることで、心不全を意味します。

これらふたつの症状が狭心症の主な訴えとなることは極めて希です。受診の際には症状を詳しく伝えないと、余計な検査までされることがあります。

具体的な症状の説明

■いつ:○月○日、午前10時ごろ
■何をしていたとき:犬の散歩中
■どこが:前胸部が
■どんな風に:強く圧迫した様に
■持続時間は:5分休んだら治り、また歩けました。この症状は4ヵ月前から5回ほど経験しています。

このように、時間、痛みの場所を正確に覚えている場合は、突然に生じ、かなり強い症状であったと推測され、狭心症状の可能性があると考えます。後述しますが、労作の程度や持続時間も重要です。

症状によってことなる「狭心症の分類」

■労作性狭心症

歩行や階段昇降など一定の労作により症状を自覚し、安静にて消失します。上述した例はこの型です。

狭窄病変が診断されている場合は器質性狭心症といいます。

■安定型狭心症

労作で症状を自覚し、安静で消失する過程での強さや時間がほぼ一定で安定している型です。労作型狭心症とほぼ同意語となります。

■安静型狭心症

安定型狭心症と一字違いですが、労作でなく安静時、すなわち就寝中や安静時に出現します。狭窄の無い正常な冠動脈の痙攣により生じ、喫煙、飲酒、精神的負荷や気候変化等が誘因となります。冠攣縮性狭心症と同意語で、経過はよいとされますが、希に3本の冠動脈が同時に痙攣し、心停止をきたす場合もあります。

■不安定型狭心症

日常生活や安静時にも頻回に症状を自覚する不安定な狭心症です。急性心筋梗塞に移行する危険が高いことから、心当たりがある場合はすぐに医療機関を受診しましょう。

狭心症状は血流不足を知らせる警報です。糖尿病では合併する神経障害のため警報装置が機能しない場合があります。通常なら安静にし、医療機関を受診すべき逼迫した状態でも自覚が無いため、危険な事態を招くことになります。

では、実際にはどの程度の冠動脈狭窄で心筋虚血が生じるのでしょうか?

「心筋虚血」が生じる狭窄度

A)安静時

冠血流の供給不足による心筋虚血は、狭窄度75%をさかいに生じます。

B)最大運動時

運動時は安静時の約3倍の冠血流を供給できますが、狭窄度が50%になると供給不足となり心筋虚血を生じます。心筋虚血は安静により速やかに改善されます。

このことから狭窄度75%以上は勿論のこと、狭窄度50%以上も治療の対象となります。

痛みを伴う多くの疾患は痛みの消失を治癒と考えます。狭心症は症状が消失したからといって治ったわけではありません。薬剤等により一時的に症状が消失してもプラークが無くなったわけではないのです。

症状では狭心症か急性心筋梗塞かの判断はつかない

狭心症状は5分で徐々に増強し、5分以上持続し、5分で消失する一連の過程が20分以内であることが多いようです。

症状が20分以上持続し、増悪する場合は、狭心症の段階は過ぎ、心筋梗塞の始まりです。

この20分は冠動脈が閉塞してから心筋壊死が始まるまでの時間です。逆に冠動脈が閉塞しても20分以内に冠血流が再開すれば心筋梗塞は免れます。

狭心症に対する内服治療

■高脂血症治療薬

不安定型狭心症の安定化や長期的にはプラーク退縮が期待されています。

■冠動脈拡張薬

狭窄領域の血流供給を増やします。全身の血管を拡張させ心臓の負担を減らします。

■抗血小板薬

狭窄部に生じる血小板血栓を防ぎ、血流を維持します。

どのような人が「動脈硬化」を発症しやすいか

血圧

家庭血圧を用いた場合。冠動脈疾患では135/85mmHg以下を、糖尿病合併では125/75mmHg以下を目指します。ちなみに体重10kgの減量で収縮期血圧10mmHgの低下が望めます。

■脂質異常

冠動脈疾患での悪玉とされるLDLは70mg/dL以下とされ、下限はなく、低いほど効果的とされます。

■糖尿病

合併症の網膜症・腎障害・神経障害はHbA1Cに影響されますが、冠動脈疾患は境界型糖尿病に影響されます。境界型糖尿病(空腹時血糖110〜125mg/dL)はけっして軽症型ではありません。この時期からすでに冠動脈疾患の危険因子として暗躍しているのです。

狭心症患者は危険因子のいくつかを合併していることが多いことから、さらに厳格な調整が必要となります。

狭心症は症状を自覚した時が発症時期ではありません。長い潜伏期間があり、初期の段階で発見することは難しい病気です。自覚症状の無い時期こそ定期的に健康診断をうけ、異常を修正するように努力しましょう。