令和時代の老後リスクとは? 入院できない人たち

令和時代の老後リスクとは? 入院できない人たち

 老後に年金はもらえるか? 退職金はどうなる? 貯金はためられるか? そして、病気になったときにどのくらいの費用がかかるのか? 

 老後のお金については心配が尽きない。さらに健康を損なって入院するとなったときに、どのくらいお金があればいいか気にしている人は多いだろう。しかし、たとえお金があっても入院を断られることがある。そんなリスクをご存知だろうか。

 内閣府が発表している平成30年度高齢者白書によると、2015年の高齢者の人口は3347万人である。そのうち、独りで生活をしている高齢者はおよそ592万人にもなり、全高齢者の17%を超える。

 独り暮らしの高齢者はこれからさらに増えていく。子供はいても遠方にいて頼れない……独立してから疎遠になってしまっている……。理由はさまざまだが、自分の身に何かあったとき身内を頼れない人が増えていくことが予想される。

 そんな中、高齢者が独り暮らしをしていると、入院する際にとても困った状況に出くわす。

 入院時にまず必要なのは「入院契約」だが、サインを求められるのは本人だけではない。病院から「ここは身内の方にでもサインをもらってください」と求められる書類がある。それが「身元保証人」の契約だ。

 今回はこの「身元保証人」の問題を通して、令和時代の老後のあり方を法律の専門家である司法書士として考えてみたい。

●身元保証人とは何か?

 保証人と聞くと、借金や家を借りるときの保証人をイメージする人が多いだろう。契約した本人が借金や家賃などを支払うことができなかった場合、支払いの肩代わりをするもので、法律で規定されているものだ。

 一方、身元保証人とは何か?

 身元保証人が具体的に何をするかは、実は法律で決まっているわけではない。内容は契約書次第だ。なかには身元保証人が何をするのか、はっきり書いていない契約書もあり、あいまいなものも多い。

 入院費の支払いを保証するという意味はもちろんあるが、それ以外にも入院という特殊な状況から、賃貸アパートや借金の保証人以上のことを求められる。

 緊急時の連絡先としての対応、治療方針の同意、治療後に自宅に戻れない場合は転院先や施設入所契約を責任もって行うこと、また仮に亡くなってしまった際は遺体の引き取りや葬儀の手配など、あらゆる要求をされることが多い。

 病院が身元保証人に求めていることは、入院している間の全てに及んでいることが分かる。つまり身元保証人とは、入院者自身が身動きを取れない特殊な状況のなかで、病院側が困らないように本人の代わりに全てのことを処理してくれる人というわけだ。

 身元保証人がいないことを理由に入院を拒んではいけないのだが、そのようなケースも実際にある。確かに病院側の要求をみると、なるほど、身元保証人が必要な事情にも一理ある。しかし中身をよく検討すると、必ずしも身元保証人がやらなくてもよいことが多い。

●身元保証人は「保証」することがそれほど多くない?

 「身元保証人を引き受けてください」と言われると、賃貸アパートや借金の連帯保証人のように、費用の支払いを含めて、全てを抱え込むと感じる人もいるのではないだろうか? しかし身元保証人といいつつ、求められる役割は「保証」ではない。

 入院費の支払いは本人の財産が適切に管理できていれば、そこから十分支払えるはずだ。治療費すら困窮するケースでは、身元保証人が身銭を切るかどうかを考える前に、生活保護の受給など別の福祉サービスを考える必要がある。

 退院後の諸手続きについても、本人が自宅に戻る場合はどのような受け入れ態勢を作るか、自宅に戻れる状況にないならどのような入所先の施設がよいのか、病院やケアマネージャーら医療や福祉に携わる専門家が一緒に対処してくれる。求められることは、方針を一緒に検討し、福祉サービスの利用や入所先施設との契約事務を行うことだ。

 医療行為の同意についても、病院側は治療方針についてリスクをしっかり分かったうえで治療内容を選択してほしいと考えている。実際に求められていることは治療方針を「決定」してほしいということで、「保証」ではない。

 「保証」が必要といいつつ、実際に求められていることは、本人の財産を適切に管理し入院費を支払い、退院後の処遇を「決定をする人」ということになる。

●「おひとりさま」になることを想定した老後

 自身の老後にどう備えるか、いざというときに頼れる親族がいればよいが、そうでない場合は「おひとりさま」になることを想定した工夫が必要だ。

 自身の財産を管理し、意に沿った判断を第三者に委ねるという点でいえば、認知症になってさまざまな判断ができなくなる前に、自分のことを第三者に任せておく任意後見契約というものがある。このような方法で備えるのも一つだ。

 筆者は、福岡市内で司法書士事務所を構え、後見人として認知症になってしまった身寄りのいない高齢者の生活支援を行っている。そんな中、後見人として夜中に病院から連絡を受け、取り急ぎ葬儀業者の手配を行った経験は何度もある。

 後見人は身元保証人ではないが、身元保証人としても求められている役割の一部を担うことができる。後見人が本人の財産を把握し適切に処理すれば、入院費の支払いや退院後のことなどは後見人が責任をもって行うので、病院として無理に身元保証人を取らなくても困った事態になるということはないはずだ。本来の業務ではないが、本人が亡くなってしまった場合には、後見人が葬儀の手配を行うこともある。

 後見人という選択以外にも、最近では「身元保証人」を引き受ける事業者も増えている。

 契約で誰かに任せるというやり方は費用もかかる。困った事態となる前に、検討していくことが大切だ。

●令和時代に身元保証人は必要か?

 病院としては、これまで当然のように身元保証人を取ってきたから……という理由で、身元保証人の意味を正確に理解しないまま要求している例も多いように思う。

 だが家族だという理由だけで、日ごろ付き合いのない親族に「身元保証人」として全てをひとくくりにして判断を背負わせるのは酷というものだろう。

 身元保証人の役割の一つとして、先ほど医療行為の同意の話を挙げたが、本来であれば治療方針は自分自身で決めるべきで、親族が同意をしないと治療が進まないというのはおかしな話だ。

 病院のなかには、医療行為について判断力がない患者への対応として、カンファレンスにはかり決定をするなどの工夫をしているところもある。

 例えば、運転免許証や健康保険証は、臓器提供意思を記載する欄があるが、自分がどのレベルの治療を受けたいか、意思を残すような工夫があってもよいだろう。ケアマネージャーなど本人と接する機会の多い関係者が、定期的に意思の確認を行い記録しておけば、身寄りがいないまま急に入院をすることになっても、親族に全てを背負わせる場面は減っていくはずだ。

 家族の単位が大きく変わったこの令和時代、これまでのような家族の存在を前提とした「身元保証人」というやり方は限界だ。入院時の親族を巻き込むやり方は時代遅れになりつつある。病院側も仕組みを考え直すべき時期に来ていることは間違いないだろう。

●筆者:及川修平 司法書士

福岡市内に事務所を構える司法書士。住宅に関するトラブル相談を中心に、これまで専門家の支援を受けにくかった少額の事件に取り組む。そのほか地域で暮らす高齢者の支援も積極的に行っている。

企画協力:シェアーズカフェ・オンライン


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