繰り返される「のぞき見採用」 リクナビ問題に透ける新卒採用の“勘違い”

繰り返される「のぞき見採用」 リクナビ問題に透ける新卒採用の“勘違い”

 リクルートキャリアが就活情報サイト「リクナビ」の閲覧履歴をもとに就活生の内定辞退率を予測して企業に販売していた問題で、トヨタ自動車とホンダに加え、リクルートホールディングス、さらにはメイテック、三菱電機、京セラ、テクノプロ・ホールディングスなども購入していたことが分かりました。

 いずれの企業も「採用の合否には使っていない」と説明していますが、「どこに住んでるの?」と聞くだけでも、個人情報うんぬんでタブー視される世の中だというのに、こと就活に関しては“のぞき見オーケー”とは。実に微妙です。

 これまでも企業はあの手この手で“のぞき見”を繰り返してきました。

 2010年前後は「学生の素顔を知る手段」としてSNSを活用し、「企業から好印象を持たれるためのFacebook就活対策セミナー」なるものも増加。セミナーでは、企業に好印象を持たれるためのポイントとして、

1. プロフィールアイコンは笑顔でアップの写真を使う

2. 友達は50人以上フォローする

3. 週に2回以上前向きな書き込みをする

 を挙げ、学生たちはFacebook上の“人格”を必死で磨いていました。

 といっても実際は、もっとシビアにのぞき見をしていたようで、「『こいつは使える』と認めてもらうには、最低でも友達1000人が必要。だから僕も手当たり次第名刺を交換して、友達申請をバンバン1カ月くらいかけてやってます!」だの、「『いいね!』をたくさんもらえているかどうかっていうのも、結構見られているんです。『いいね!』が多い人はコミュニケーション能力が高いと判断される。僕も『いいね!』をたくさんもらうためにつぶやいて、もらえないと落ち込んでしまいます」だのと、当時、学生たちが教えてくれました。

 「いいね!」の数がコミュニケーション能力のものさしとは……。いったい何なのでしょう?

●「顔の見えない採用」に精を出している

 学生にはコミュニケーション能力を求めるのに、採用側のコミュニケーション能力は著しく貧弱。そう感じずにはいられない事態が毎年毎年、手を替え品を替え、繰り返されています。

 同じ会社のメンバーになったら、毎日顔を合わせ、コミュニケーションを取るのは「自分自身」です。それにもかかわらず、人工知能(AI)に頼ったり、SNSの発信を重要視したり。直接対話より間接対話を頼る。「顔の見えない採用」ばかりに精を出すから採用に失敗する。本末転倒というべきか、あべこべというべきか。申し訳ないけど私の小さい脳みそには「?」マークだらけです。

 冒頭のリクナビのデータに関しては、「個人情報利用の許可を取っていなかったことが問題であって、データを使うことは悪いことじゃない」という意見もありますが、そんなものを使ってどうする? 採用という「未来の一緒に働く仲間」を選別する作業にとって、過去の「自分たちの仲間でもない学生」のデータにどんな価値があるのでしょうか?

 そもそも採用試験ではやたらに「優秀な人材」という言葉が使われますが、仕事とは、好むと好まざるとにかかわらず、やらなければならないことの繰り返しです。自分のやりたい仕事なんてものは、何年もキャリアを重ねた結果、やっとたどり着けるものだし、どんな逸材でも、生かすも殺すも「入社後」次第。どんな上司や先輩と出会うかが全てと言っても過言ではありません。

 いい人材を採用したいなら、あれこれ姑息なことをやる前に、まずは自分たちがそのいい人材になればいいのではないか。などと少々意地悪なことを言いたくなるほど、私の脳内は「????」だらけになっているのです。

●「就職先を志願する」ことの重み

 企業に就職した学生たちを見ていると、大学の講義を聞き、そのままうのみにするのではなく、自分で調べ、考え、目の前のやるべきこと(レポート提出など)をきちんとやった学生は、どんな世界でも活躍しているように思います。それは学生の本業である「学問」に真面目に向き合うこと。好きとか嫌いとか、何かに役立つとか役立たないとか関係なく、目の前のやるべき課題に向き合い、進めていく力です。

 それは裏を返せば、採用試験のために企業が求める人材になる努力ではなく、目の前の勉強に励むこと。大学の勉強なんてもんは、直接的には仕事の役に立たないことの方が多いかもしれない。でも、本人が必死に取り組んだこと、必死に勉強したことは、遠く離れた点と点を結び付ける力につながります。そのとき初めて「強み」が生まれ、この強みこそが企業の力になっていくのではないでしょうか。

 それに……、「就職先を志願する」ということは、最も重みのある大切な行動です。

 企業にとって最大の課題は「人材を確保し、その人材を教育し、その人材を確保し続けること」。会社は新入社員に投資し、その投資が企業を支え、企業を成長させる人材に育てることにつながらなければ意味がありません。

 そのためには「この会社で働きたい」という強い熱意を持つ学生を探すこと。ただ「大企業だから〜」とか、ただ「学生に人気があるから〜」とか、ただ「休みが多そうだから〜」という理由ではなく、「この会社の一員として、大変なことがあっても頑張っていきたい」「この会社の一員として、自分も成長したい」という覚悟がある学生と出会うには、採用する側が汗をかくしかないのです。その努力を冒頭の企業はしているのでしょうか?

 採用の過程は、自分たちの組織に適応できる人物かどうか、相性の良い相手かどうかを見極める重要な機会であるとともに、自分たちの仕事への思い、採用する思いを学生に伝える大切な時間です。

●“志”を学生に伝えているか

 これまで取材させていただいたり、訪問させていただいたりした企業の中で、規模が小さくとも、世間的に知名度が低くとも、いい製品やサービスを生み出して成長し続けている会社は、必ずと言っていいほど採用に手間をかけていました。自分たちの思い、自分たちのやってきたこと、自分たちの会社のことを学生たちに伝えるために、自ら大学に出向き、きちんと学生と向き合う時間を大切にしていました。

 良いことばかりではなく、悪いことも正直に伝え、「自分たちと同じ志を持って、いばらの道を歩いていこうという意志がアナタにはありますか?」と、直接学生と向き合い問うていました。

 採用担当者が、北は北海道から南は沖縄まで「来てほしい」という大学に出向いて、説明会の参加希望者から電話で申し込みを受け付け、直接採用担当者の話を聞いた学生だけにエントリーシートを書いてもらう。そんな試みをした企業もあります。当然ながら、エントリーする学生は激減しますが、その分、熱い思いを持つ学生一人一人と向き合うことが可能です。

 それは学生にとっては、自分が入社したあとに「どんな上司や先輩と出会うか」を知ることにもなるに違いありません。

 たとえその先に転職することがあろうとも、最初に就いた仕事は、その後のキャリアに大きな影響を及ぼす重要な道しるべです。それだけに、採用する側が汗をかき、自分たちの言葉を直に語りかけることが大切だと思うのです。

 昨今の就活狂想曲にはさまざまな角度から異議を唱えてきましたが、ついにAI頼みに。しかも日本を代表する企業が……。本当に残念です。

(河合薫)


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