定食チェーンを運営する大戸屋HD(以下、大戸屋)が赤字に転落した。11月に行われた2019年9月期の中間決算では、上場来初の営業赤字として大きく話題になった。

 人件費の上昇、バイトテロの発生、創業家と経営陣のお家騒動、度重なる値上げ、秋には不漁でサンマ定食が出せなかったなど、さまざまに原因が挙げられている。

 その中でも、特に4月に行われた値上げによる客数の減少が赤字の原因と指摘されている。実際、昔と比べて大戸屋は大幅に値上がりしている。しかし赤字転落の本当の原因は、値上げが足りないことにある。つまり高いからではなく「安いから」赤字になっているということだ。

 元々大戸屋は利益率が低い。本業の利益を表す営業利益利益率を過去5年分確認すると、2.3%、2.3%、2.7%、2.4%、1.6%、そして今期の予想はゼロとなっている。もうかりにくいと言われる飲食業の中でも低い水準で、いつ通期で赤字に転落してもおかしくない。

 そこで大戸屋と飲食業のビジネスモデルを「客単価と回転率」の視点から考えてみたい。

●大戸屋は高い? 安い?

 筆者が通っていた20年ほど前、600〜700円程度だった大戸屋の価格帯は、現在では値上げと消費税の引き上げで800〜900円程度、高いものは1000円以上に上がっている。

 ライバル業態である牛丼チェーンと比べても非常に高い。牛丼は一杯300〜400円程度、最近ではかなりバリエーションの増えた定食でも500〜700円程度と、安さでは勝負にならない。同じく定食チェーン大手のやよい軒と比べても、2割程度は高い。

 ただ、たまに食べに行くと、やはり大戸屋はうまい。

 筆者が通っていたころはデフレ真っ盛りで、牛丼が300円以下、マックのハンバーガーは100円と極端に安くなっていた時期だ。それと比べれば大戸屋は600〜700円でも高かった。それでも好んで通った理由はやはり味の良さだ。現在は牛丼チェーンをはじめ低価格チェーン店の味も大幅に向上し、うまさという大戸屋の優位性は相対的に下がったといえるが、味で完全に負けているとは思えない。ではどこで負けているかというと、回転率だ。

●飲食業は回転率で決まる

 回転率で最も分かりやすいのが牛丼チェーンだ。注文をすると1分で商品が提供される。定食のような多少時間かかるものでも5分もあれば出てくる。

 現在は1つのお店で多様なメニューを出すより、メニューを絞り込み専門店化して味と提供スピードを上げるお店が増えている。つまりは生産性のアップだ。筆者の好きなトンカツチェーンの「かつや」は、「からやま」という唐揚げ定食のチェーンも展開している。同じ揚げ物でもあえて別々に展開しているわけだ。価格帯も大戸屋より低い。それに比べると大戸屋の立ち位置はなんとも中途半端と言わざるを得ない。

 大戸屋は和洋中の揚げ物から焼き物にいため物、生魚を使ったメニュー、さらには麺類やデザートと幅広いメニューを提供している。しかもそれらを店舗で手作りしていることから、圧倒的に提供のスピードが遅い。

 多様なメニューを提供することから厨房(ちゅうぼう)の設備が多数必要となり、その分コスト高となる。厨房スペースも余分に必要で座席数を削ってしまう。加えて、メニュー数の多さはスタッフの研修コストを引き上げ、厨房のオペレーションを複雑にする。結果として限られたメニューを作るお店と多様なメニューを作るお店では、提供にかかる時間が大きな差となって現れる。

 このように、大戸屋はメニューを絞り込んだお店と比べると、回転率で極めて不利であることが分かる。

●提供が遅い大戸屋

 筆者が大戸屋に行かなくなってしまった理由も提供の遅さだ。よく通っていたころと比べて極端に遅くなったことに気づき、足が遠のいた。大戸屋に行かなくなった理由として同じ理由を挙げる人は多い。

 先日大戸屋で食事をした際には、客の入りは半数以下と空いていたが、提供にかかった時間は15分ほどだ。牛丼チェーンと比べれば極端に遅い。客が不満を感じるかどうかは別にしても、売り上げには大きなマイナスとなる。

 大戸屋が赤字に転落した理由として、「値上げで客足が遠のいたから」と分析されていることは多い。しかし牛丼チェーンと比べて提供に何倍も時間がかかる、つまり極端に低い回転率で現在の客単価は安過ぎる。もっと値段を高くしなければ、客数が増えても利益率は低いままだ。それが1〜2%程度の低い利益率から赤字転落と、数字にハッキリ表れている。

 筆者の事務所近くの牛丼チェーン・松屋は、昨年改装工事で一時閉店した。新装開店後は食券を買って店員に渡す従来の仕組みから、食券を買っただけでキッチンにオーダーが伝わり、料理が完成したら自ら取りに行くセルフオーダー方式へと切り替わった。水やお茶も自動給湯器が設置された。この変更で店員の動きは原則としてカウンター内に限定され、オペレーションは劇的に短縮されたことが客の目線から見ていても分かった。

 大戸屋の既存店売上高は、上半期で前年比5%の減少。客単価は4月に行われた値上げで1.6%上昇する一方、来客数は6.8%の減少と大きく減らしている。値上げした状態で元の客数に回復すれば以前より高い利益を見込めるが、回転率の低さはキャパシティの低さでもある。つまり受け入れ可能な客数に制限がある。キャパシティが低ければ特にランチやディナーのピークタイムには満席で客を逃す機会ロスが多数発生する。利益率を改善させる際に回転率の低さがボトルネックとなることは間違いない。

●滞在時間も長い大戸屋

 大戸屋は提供時間に加えて客の滞在時間も長い。ラーメン店も牛丼チェーンもご飯をゆっくり食べる場所とは思われていないが、大戸屋はゆっくりと食べて落ち着く場所であると認識されている。

 店内のインテリアなども含めて、大戸屋はゆっくり食事ができる雰囲気を意図的に作っているのは間違いない。ドリンクバーを設置しているお店もあり、さらに滞在時間を長引かせている。大戸屋には回転率を引き上げるという発想がまったく無い。

 落ち着いた雰囲気は本来集客でプラスになるはずだが、相対的に低価格であることを考えれば余計に回転率を落として売り上げの低下を招いている。食べ終えたら帰る雰囲気を作ることも、回転率を上げる際に必須だといえる。

 低価格の飲食チェーンが一人で来店しやすいカウンターを多数設置している理由は、当然のことながら一人客を歓迎していることを示している。複数で来店すればしゃべりながら食事をするので完食まで時間がかかる。テーブル席が多ければ4人掛けの席に3人や2人で座るケースが発生し、実質的な席数を減らしてしまう。筆者が訪れた大戸屋は41席で、そのうちカウンターはわずか5席だ。一人客が多数訪れればその分だけ座席の効率は悪化する。

 都内でディナータイムに、客単価1000円以下でゆっくりご飯を食べられる場所はあるか? と考えると、ファミレスや大戸屋以外にそのような業態は他にほとんどない。そしてファミレスはほとんどのお店がセントラルキッチン方式で、店舗調理を行う大戸屋と根本的に営業スタイルが異なる。お店の立場から見ると、丁寧に作った料理を1000円以下で提供するお店に長時間居座られたら、とても経営は立ち行かないということだ。

 大戸屋が復活するには回転率を上げるか客単価を上げるか、どちらかが必要になる。しかし客単価は度重なる値上げで高いと思われている状況で、これ以上の引き上げは難しいだろう。回転率も店内調理にこだわるなら難しく、ゆっくり食べる場所という客の意識もそう簡単には変わりそうにない。このように考えると大戸屋の復活は相当に難しいことが分かる。

●俺のフレンチは4回転で黒字?

 立ち食いで格安フレンチを提供して一世を風靡(ふうび)した「俺のフレンチ」は、回転率で勝負する業態だ。2年連続で赤字に転落すると報じられているペッパーフードサービスが運営する「いきなりステーキ」も、考え方としてはまったく同じだ。

 「俺のフレンチ」は原価率をあえて高めることで、価格に対して素材や料理の質を高めて集客力を強化した。結果として客一人あたりの粗利は少なくても、多数の客が次々に訪れれば、つまり回転率が高ければ結果として利益が出るビジネスモデルだ。

 「俺のフレンチ」がマスコミで盛んに取り上げられて大行列が発生し、お店にまったく入れないほど大人気だったころ、たまたま見かけたドキュメンタリー番組でもこのカラクリが説明されていた。客が一回転だと赤字、二回転でも赤字、三回転目か四回転くらいでやっと黒字になる、といった仕組みが数字と共に説明されていた。売り上げが増えればそりゃ黒字になるだろう、と思うかもしれないが、回転率で示されたことで思わず「なるほど!」と納得してしまった。

●高級レストランは回転率が低い

 高級レストランならばランチに一回転程度、夜も二回転いくかどうか、といったところだろう。平日ならば12時からの一時間がピークタイムで、牛丼店のように1分で提供して5分で食べて帰る状況とは全く違う。

 平日のディナーも仕事が終わってから7時ごろに食事がスタートと考えれば、二時間でコース料理を食べ終えても次に席が空くのは9時から9時半程度になる。この時間からさらにディナー客がどれだけ入るか、と考えると、よっぽどの人気店でもなければ満席は厳しい。食べ終わりが11時を過ぎてしまうからだ。

 「俺のフレンチ」と高級フレンチの違いは薄利多売か、一人から多くの代金をもらうかの違いだ。薄利多売というありきたりな発想も、高価格が当たり前のフレンチに導入すれば立派なビジネスモデルになる。

※俺のフレンチは現在着席する形へとスタイルを変えつつも、居酒屋のように二時間制の導入で高い回転率を維持しているという(俺のフレンチ"高品質・激安"なのに儲かる秘密 | PRESIDENT WOMAN 2019/08/22)。

●飲食店のビジネスモデルは「客単価と回転率」

 飲食店は経営が難しく潰れやすいといわれる。理由の1つは売り上げに上限があるからだ。

 座席数に限りがあるため、受け入れ可能な客数には限界がある。その客数に単価を掛け合わせると一日の売り上げの上限が決まってしまう。これをシンプルに表すと以下のような計算式になる。

「客単価 × 客数 = 売上高」

 もう少し詳しく表すと以下のようになる。

「客単価 × 座席数 × 回転率 = 売上高」

 客数は「座席数×回転率」に分解可能だ。限られた座席数で売り上げを増やすには、客単価か回転率を上げるしか方法がないことが分かる。そしてすでに説明した通り、大戸屋は客単価と回転率の両面で不利な条件で戦っている。

 上記の計算式を会計視点で考えて、損益分岐点を表す公式に直すと以下のようになる。

「座席数 × 回転率 ×( 客単価 - 変動費 )= 固定費」

 客単価を客単価 - 変動費に、売上高を固定費に変えた。変動費は主に材料費、固定費は主に家賃と人件費と考えられる。

 客単価から変動費を差し引くと、粗利(あらり)となる。そして粗利に客数(座席数 × 回転率)を掛け合わせて、固定費とイコールになる売り上げが損益分岐点、つまり赤字でも黒字でもないトントンの売り上げだ。この計算式から、黒字を出しやすくする=損益分岐点を下げるには、固定費を減らすか粗利率を上げるかどちらかが必要だと分かる。

 低価格がウリの飲食店では一人当たりの粗利は少なくても、回転率を上げることで粗利を確保できる。これは牛丼チェーンでも「俺のフレンチ」でも同様だ。そして「固定費を粗利で削り取った後に黒字が発生」する。これがビジネスの鉄則となる。

 損益分岐点を図に示すと以下の通りだ。

 変動費の三角形が下にあり、その上に固定費が帯状に乗っている。これは「売上高に比例して増える変動費」と、「売上高に関わらず一定の固定費」を図に表したものだ。

 そして、「売り上げの線」と「変動費の斜め線」の間にあたるものが「粗利」だ。これは「売上高 - 変動費 = 粗利」を表している。売り上げがゼロのスタート地点では固定費の分だけまるごと赤字(損失)だが、売り上げが徐々に増えて固定費を削り取るほど損失が減る。そして固定費を削り切った時点で損益分岐点となる。あとは売り上げが増えるほど利益が増える。

 初見では分かりにくく感じるかもしれないが、先ほど説明した「粗利で固定費を削り取る」状況が一目で分かる図となっている。

 余談となるが、いきなりステーキが既存店売上高が前年比マイナス40%(2019年11月)と苦戦している理由も、客単価と回転率の視点で考えると分かりやすい。競合店が増えた、多数の出店で自社競合が起きた、飽きられたなどの原因が指摘されているが、そもそも客単価が非常に高いのだ。

 公式Webで確認すると、全店共通メニューの中からステーキで一番安いものを選んでも、ミドルリブステーキが「200g定量カット × 6.6円= 1320円(税抜き)」となっている。税込みでは1500円近くとなり、同じく回転率で勝負する牛丼チェーンと比べれば単価は3〜4倍程度だ。

 単価が上がるほどターゲットとなる客の分母は減る。つまり「低価格で高回転」は成り立っても、「高価格で高回転」は極めて難しいチャレンジングな業態だったことになる。結果論でしかないが、所得の高い都市部でコンパクトに展開していれば回転率を維持して赤字転落は免れたのではないかと思われる。

●3カ月待ちのイタリアンも回転率を追及

 3カ月待ちともいわれる人気イタリアンの「ラ・ベットラ・ダ・オチアイ」は、ランチ、ディナーともに2部制だ。銀座店ならば予約可能な時間は、お昼は11:30と13:30、平日の夜は18:30と21:00で固定されている。この仕組みで合計4回転を狙っている。

 ランチもディナーも非常に中途半端な時間に設定されていて、客にとっては好きな時間に食事が出来ず不便だろう。しかし人気があること、そしてコストパフォーマンスの高い料理が提供されることを考えれば、このやり方は強気の殿様商売に見えて実は客にもお店にも合理的な仕組みだ。

 ラ・ベットラは、執筆時点でコースの価格が税込み4400円と、銀座のイタリアンとしては激安だ。しかし回転率を高く維持できなければその分値上げせざるを得ない。値上げをしなければ利益が確保できず、最悪の場合はお店が潰れてしまう。つまり昼夜ともに2部制で4回転のシステムは、「うまい料理を安く出すから来店時間はちょっとだけ協力してくださいね」というスタンスであることが分かる。

 大戸屋HDは19年10月、外食大手のコロワイドが筆頭株主になったと報じられている。今後はコロワイドが更に株を買い増して吸収合併もあり得る状況だが、セントラルキッチン方式に力を入れるコロワイドと、店舗調理にこだわる大戸屋では営業スタイルに大きな隔たりがあり、いまだ先行きは不透明だ。

 大戸屋は現状のままならば復活が厳しいことは間違いない。今後の変化が大胆な業態変更なのか、コストダウンや座席割りの変更など小さな変化に留まるのか分からないが、元大戸屋ファンとしては復活を期待したい。

(中嶋よしふみ)