EVの未来について、真面目に考える記事をそろそろ書くべきだと思う。今の浮ついた「内燃機関は終わりでEVしか生き残れない論」の多くは、欧州のプロパガンダに手も無く丸め込まれたか、フラットな振りをして実は単なるEVのファンの承認欲求だったりするものがほとんどだ。

 反対に「EVのことなんてまだまだ考える必要ない論」もダメだ。情報を拒否して耳をふさぎ、EVの今を知ろうとしないで、内燃機関に固執し、ただ一方的に新しいものを否定するような議論には意味はない。現状を踏まえて、今何が足りないのか? そしてどうすれば日本でEVが普及できるのかという話をしなければならない。

 結論としては「日本にEVを普及させる方法はある」と思う。例によって前後編と少し長いが、おつきあい頂けると幸いである。

●バッテリーという製品の特徴

 今、EVの普及を阻んでいるのは、詰まるところバッテリーである。バッテリーの何がという話になれば、コストと生産量の両面だ。

 バッテリーが爆発や炎上を起こす最大の原因は不純物の混入だ。だからバッテリーの生産ラインにはクリーンルームが必要になる。バッテリーとは陽電極板と陰電極板の間に電解質を置いて、電解質を媒介として電極間の電子を移動させることによって蓄電/放電する仕組みだ。

 この陰陽電極セットと電解質を組み合わせて、出力が得られる最低単位セットをセルという。EVに使うバッテリーは、このセルをいくつも重ねてミルフィーユ状に構築してできている。

 これを小型軽量化することとは、すなわち積層される電極と電極の距離をどれだけ近づけるかに依存する。その際、電極間に導通性のある異物が入れば当然ショートを起こす。あるいは、電解液中に析出結晶が発生するなどの原因でショートする場合もある。これが発熱源となって爆発や炎上を起こすのだ。

 そういう問題を少なくするために間にセパレーターという膜を入れるのだが、セパレーターの抑止力は万能というわけではない。導通性のある金属片などの異物が膜を突き抜けてのショートはもちろんのこと、析出結晶でも引き起こされる。析出結晶は核になる異物があれば起きやすくなるので、結局バッテリーの小型軽量化を左右する要素の大半を占めるのは、不純物の混入をいかに防ぐかということになる。

 逆にいえば、簡単に安全なバッテリーを作るためには、セルの電極間のクリアランスを大きく取り、多少の異物が入ってもショートしないようにセルを小型化しないことだが、それではちっともエネルギー密度(体積もしくは重量あたりのエネルギー)が高まらない。だから、電極間を縮めていきたいけれども、詰めれば詰めるほど、より高度なクリーンルームが必要になる。仮に数十ミクロンでコントロールしたいとなれば、数十ミクロンの異物混入を防がなくてはならない。

●なぜ大量生産だけではコストが下がらないのか

 こういう生産設備は、立ち上げコストは無論のこと維持コストも高くつく。よく「大量生産すればコストは下がる」という意見を聞く。もちろん量産によるコストダウン効果はゼロではないが、バッテリーはどちらかといえば量産ではあまりコストが下がらない製品だ。

 量産効果でコストが下がる要因は一般的に2つある。1つは材料の大量調達によるコストダウンだ。しかしバッテリーには、レアメタルやレアアースなど市場で需給が釣り合わない素材が多く使われており、大量生産で需要が高まればむしろ価格が上がってしまう。もちろんバッテリーのケースだの配線だのは大量調達での価格低減効果があるだろうが、このへんはもうとっくに下がるところまで下がっていて、そこから5%や10%下がっても価格に影響しない。むしろ、一番価格を支配する材料に対して、大量発注は調達コストに逆に働くのだ。

 もう1つは生産の効率化によるコストダウンだが、バッテリーはロボットなどを使って手順を自動化してバンバン作れるような製品ではなく、イニシャルコストの割り勘が効きにくい。細かい作業の積み重ねが求められる、意外に精密な製品なのだ。だからコストは基本的にセル数に従量的になる。

 ではバッテリーの需給が逼迫(ひっぱく)したまま、なぜいつまでも改善されないのか? それはバッテリー技術の進歩がまだまだ進んでおり、バッテリーメーカーとしては巨額の設備投資をどのタイミングでするかの判断が難しいという点にもある。例えば今話題の全固体電池はまだ完成していないが、どうやらもうカウントダウンに入っているらしいという話は誰もが耳にしているだろう。このタイミングで、リチウムイオン電池のための巨大な設備投資は誰だって決められない。ここで全固体電池の開発の遅れを見込むのもあまりに博打要素が強すぎる。かといって次世代の全固体電池は未完成だ。

 ということで、バッテリーの調達はまだしばらく厳しい状態が続くし、コスト低減もそうそうはかどらない。

●航続距離は長いほどいいのか?

 今度はユーザー側のニーズを見てみよう。昨今、EVの課題とされるのは航続距離である。どのメーカーも「満充電でこんなに走れます」と訴求している。けれども、冷静になって考えてほしい。年間1万キロ走るユーザーにとって、日割りの平均走行距離は27.4キロに過ぎない。ちなみに初代プリウスPHVのEV走行距離は26.4キロ。バッテリーの容量はわずか4.4kWhに過ぎなかった。

 2020年現在、比較的普及価格(といっても結局300万円台中盤からだが)のEVのバッテリー容量は40kWh程度。これがプレミアムEVになれば60kWhあたりが最低線、大きなものでは100kWhというものもある。これらのクルマの中には最大航続距離で600キロ以上のものもある。

 しかし、エアコンやヒーターをガンガン使って電費が落ちたところで、走行距離が1日平均の27.4キロなら、バッテリーは10kWhもあればこと足りる。多少日によるでこぼこがあったとしても、20kWhもあれば100キロ近く走ることができる。条件が悪くとも7掛けはクリアするだろう。つまりこれが日々の使用を前提とした場合の最低必要電力だといえる。

 別角度から検証しても、この20kWhというのは、そこそこのマジックナンバーだ。毎日EVをアシに使っている人たちが、実際の使用電力を測定したところ、やはり20kWhあれば十分だという結論に達している。これは筆者が言っているのではない。実際に日々EVを使っているEV関連の専門家が、生活の実体験として言っているのだ。都内在住、都内勤務の彼らと地方の状況はまた違うだろうが、これもひとつの実例である。

 バッテリーは充放電回数に応じて劣化する特徴があるが、急速充電するとより劣化が早まる。だからEVの正しい使い方は、充電器を備えた自宅で、毎日夜間に通常速度充電を行い、この航続距離以内で使うことだ。これならバッテリーの負担も少なく、電気代も安い。どちらでも不利な外出先での急速充電器は、背に腹は代えられない場面で、仕方なく使うものなのだ。

 しかし、お盆や正月の帰省などで、長距離を走らなければならない場面もある。こういうときに電欠するのが怖いという心理に後押しされて、今EVには航続距離が求められている。しかしそもそも出先で充電しなければならないケースはそれほど多くはない。使い方にもよるが、多くても月に1、2度。少なければ年に1、2度というところだろう。いってみれば、年に数度やってくる祖父母を乗せるために3列シートのミニバンを買って、毎日1人で乗っているようなものである。

 バッテリーは高価で重たい。こういう漠然とした不安にさいなまれて、高いイニシャルコストを負担したり、重たいバッテリーを無駄に運ぶエネルギーを消費するのは馬鹿馬鹿しい。もしものときの保険コストに日常が圧迫されている状態だ。例外的なケースさえ見切ってしまえば、バッテリーは大容量化する必要がない。まずはこの本質を理解しなければならない。本質論では、レアなケースに備えてバッテリーの大容量化を図るのは、リスクマネジメントとして正しくないのだ。理詰めではそうなる。

●車両価格300万円、航続距離250キロ、充電時間10分

 とはいえ、長距離を完全に切り捨てろといわれて、納得できる人だけを相手にしていてはEVは普及しない。そこはそれ、何かの方法でカバーする必要がある。商品性の問題だ。

 あまりに合理的な容量だと、仮に東京から大阪の実家に帰る500キロをこなそうと思うとだいぶしんどい。理詰めで正しいと書いた20kWhのバッテリーだと、大体100キロごとに充電がいる。その充電時間が30分ではさすがに面倒過ぎるし、しかもそれが盆や正月の帰省ピークにでも当たれば、充電器の渋滞は絶望的になるだろう。

 さて、どうしたらいいか? 従来の解決方法は、そのために普段は無駄でも大容量バッテリーを搭載することだった。本当に他のプランはないのだろうか?

 問題を整理しよう。バッテリーの大容量化は車両価格の高騰、バッテリー生産の逼迫によるEVの生産台数の低下、重量増加によるエネルギーとスペースのロスを産む。それを許容しないなら、混雑期の長距離走行を諦めなくてはならない。これを諦められる人は、低容量バッテリーのEVを買えばいい。セカンドカーだったらなおさらそれで十分だ。

 だが、それではEVの本格普及が目指せない。ではどうしたら普及するのか? 筆者はひとつのガイドラインを考えた。車両価格300万円、航続距離250キロ、充電時間10分。これを満たせれば、必ずEVは普及する。価格と航続距離のバランスを見ると、バッテリー容量35kWh程度あれば何とかなりそうだ。東京モーターショーに出品されたホンダとマツダのEVがまさにそのくらいである。

 従来、車名別トップ売り上げを達成したクルマはほぼ250万円以下だった。CASEの時代が到来して車両コストが20〜30万円上がっている今、さすがに250万円は難しいだろう。なので300万円と考える。プリウスの売れ筋であるSツーリングセレクションは278万円。まあいいところだと思う。

 航続距離の問題は、2時間運転したら休憩という推奨サイクルを考慮すれば、200キロごとの充電はリーズナブルな線だろう。航続距離が250キロなら多少の余裕を持って充電できる。問題は充電時間だ。数台の待ちが発生した時、1台何分なら待てるかを考えると、充電時間は何としても10分程度に収めたい。30分充電が2、3台もいたらさすがに待てる人は少ない。しかもそれが道中で4回も発生するなら、クルマで帰るのを諦めると思う。何時に到着するか分かったものではない。

 ではそのためにはどうするか? 充電性能を向上させるしかない。充電性能は充電器の性能とバッテリー制御の両方が求められる。例えばテスラは今、バージョン3(V3)充電器の普及を目指しているが、この充電能力が250kWだ。テスラ・モデル3ロングレンジ(75kWh)との組み合わせとはいえ、5分で最大75マイル(約120キロ)走行分の充電ができるとしている。いろいろな要素が絡むので断定はできないが、35kWhのバッテリーで10分充電は不可能ではないように感じる。

 現状35kWhのバッテリーでは航続距離は200キロにしかならないが、これがあと50キロ走れるようになれば、見えてくる世界が明らかにある。(21日掲載の後編に続く)

(池田直渡)