外食産業や小売業界は空前の人手不足状態だ。パートやアルバイトの募集に人材が集まりにくいので、超短時間しか勤務しない人たちを雇ってシフトを回していかなければならない。

 さらに、より好条件の募集があればアルバイトは簡単に移ってしまう。人の入れ替わりが激しいため、アルバイトスタッフの勤務シフト作成で店長にかかる負荷は高くなる一方だ。店長にとって本来やるべき新メニューの開発や話題を呼ぶための企画、店舗デザインといった作業に手が回らない状態に陥ってしまう。

 新宿の隠れ家カフェ「MIRlitonCafe(ミルリトンカフェ)」も、女性誌を中心にさまざまな雑誌で取り上げられる人気店である一方、その裏ではアルバイト採用の苦労やシフト管理での大きな失敗があったという。こうした課題をどう克服したのか、店長の田中冴季さんに話を聞いた。

●面接の無断キャンセルは当たり前!?

―― ミルリトンカフェは新宿御苑前駅から徒歩5分の好立地ですが、このあたりは新宿とは思えないほど落ち着いていていい雰囲気ですね。店舗のデザインもおしゃれですが、客層はどのような人たちが多いのでしょうか。

田中 近隣のオフィスからいらっしゃるサラリーマンや、あと近所の方が多いですね。

―― 田中さんは20代前半で若くして店長になられたそうですが、どういった経緯でミルリトンカフェの店長をやることになったのですか?

田中 以前の職場の上司が今のオーナーなのですが、私は部下のパティシエールとして働いていて、上司に声をかけてもらって独立しました。職場のみんなが頼るほど、上司はすごく仕事ができる人でした。私は仕事ができる人についていきたかったので、独立の際も迷わなかったですね。

―― パティシエールと店舗経営は仕事内容が大きく違うと思うのですが、抵抗はなかったですか?

田中 最初はアルバイトのようなポジションで入るという話だったので、「店長なんて重荷すぎる」と、2016年にオープンしてから1カ月くらいは断り続けていました。でも、新人が採用されて、オーナーが「店長がいないからあの新人を店長にしよう」と言い始めたので、「それはマズい!」と思って私が手を挙げました。

―― おそらくオーナーも田中さんを店長にしたくてそうおっしゃったんでしょうね(笑)。いきなりカフェの店長を任されて、最初は大変でしたか?

田中 最初はお客さんが5人来るだけで喜んでいました。そんななか、オープンして半年以内で、「Hanako」という雑誌で「おいりドリンク」を取り上げてもらう機会がありました。そこからは店舗の外に行列ができるほど、お客さんに来てもらえるようになりました。

―― 「おいりドリンク」はどなたが考案したメニューですか?

田中 私です。「Hanako」からカフェ特集で取材依頼が来たとき、当初はアイスコーヒーを撮るという話でした。でも私は、アイスコーヒーが雑誌に載ったところでお客さんが来るとは思えなくて。写真だとみんな同じ真っ黒の見た目になりますからね。これでは意味がないと思って、撮影日までに急いで考えたメニューが「おいりドリンク」です。

―― 雑誌取材がきっかけでできたメニューなのですね。「おいりドリンク」の「おいり」はあられの一種だそうですが、どうやってこれを知ったのですか?

田中 おいりは香川の嫁入りお菓子です。20歳くらいのころ、香川で結婚式があり、引き出物でいただいて知りました。私が問い合わせた3年前は、まだおいりを使うお店がほぼなくて、今でも直接工場から卸してもらえていますが、今はおいりブームがすごすぎて、いろいろな飲食店さんが電話しても取引できないそうです。

―― 田中さんがきっかけで「おいりブーム」を巻き起こしたようなものですね。「おいりドリンク」の考案には、パティシエの経験が生きたのではないでしょうか。雑誌に取り上げられたあとは忙しくなりましたか?

田中 その後、他の雑誌からも取材が殺到したのですが、一番影響があったのはインスタグラマーに取り上げられたときです。高校生をはじめ、若い女性が店内や店の外を行ったり来たりして、みんな写真を撮っていました。当時は「インスタ映え」という言葉が流行っていた17年ごろだったのですごかったです。雑誌のときはそこまで効果は感じなかったですが……。

―― 雑誌だと誌面を見て「カワイイ」で終わりますが、Instagramやネットで見たあとは「自分で撮ってみよう」となりますもんね。

田中 「めざましテレビ」にも出させていただきましたが、全く反響はなかったです(笑)。1人も「テレビで見ました」なんて言ってくれる人はいなくて。

―― おいりドリンクに殺到したのが若い女性だとはいえ、テレビがそこまで影響力が下がっているとは意外です。メディアやInstagramで注目されると、アルバイトの募集にも応募者が殺到したのではないですか。

田中 一番多いときで100人の応募が来ました。ところが、面接可能日を伝えるメールを送ってもまず返信が来ません。そこで半数が減ります。さらに、返信が来た残りの半数の人と面接日程を決めますが、当日実際に来るのは3分の1くらい。面接できたのは100人中20人くらいでした。結局、その中から2人を採用しました。

―― 100人! それだけ応募が集まったのはすごいですが、面接に来ないことにも驚きます。採用されたアルバイトは何年くらい在籍するものなのでしょうか。

田中 長い人は2〜3年ですが、あらかじめ期間を決めて入る人が多いです。こちらもラテアートのスキルを得たい人を採用するようにしているので、「お店や商品がかわいいから」という理由の人はお断りしています。

―― 働く人のスキルアップを考えた採用というのはユニークですね。

●シフト表作成はカレンダーを書くことから

―― 現在、スタッフは何人いらっしゃいますか。

田中 アルバイト4人と私、オーナーの6人です。オーナーは月に1度来るくらいですが。

―― どのようにスタッフのシフトを作っていますか。

田中 現在は「Airシフト」という、リクルートが提供しているシフト管理サービスを使用していますが、それ以前は手書きでカレンダーを紙に書いて、スタッフからもらったLINEを見ながら全員分のシフトを書いていました。出勤希望日の中で全員がうまくバランスよく配置されるよう、パズルのように出勤日を組んでいました。

―― 手書きって、カレンダーも手書きですか?

田中 大きいカレンダーが売っていなかったので、自分で書いていました。だから、まずカレンダーを手書きするのが大変です。週を区切る7本の線がずれて名前が入らなくなったりしたこともあります。カレンダーを作るだけでも時間がかかっていました。

―― それは大変ですね。ExcelなどPCで作ろうとは思いませんでしたか?

田中 最初はオーナーがそうしていましたが、印刷するにはコンビニプリントで1枚10円がかかっちゃうんですよね。もともと私が節約家なので、「印刷に10円……!?」と思ってしまって(笑)。そこにコストかけたくなくて、PCは使わなくなりました。

―― そうなると、まず月間カレンダーを手書きするのに十数分かかりますよね。1カ月分のシフトが完成するまでに、合計どれくらい時間がかかっていましたか。

田中 どんなに早くても2日はかかっていました。お店が閉店したあと、朝4時くらいまでやっていました。閉店後は疲れているので、ダラダラやってしまうんです。だからなるべく営業中にやりたかったのですが難しいです。

―― それは大変ですね。また、シフト表を作っても、翌月の出勤日を各アルバイトに伝える作業もありますよね。どうやって共有していましたか。

田中 手書きのシフトカレンダーは私の字が読みづらいと思い、アルバイトの読み間違いがないように、個別に一人一人出勤日のLINEを送っていました。

―― とても親切ですが、田中さんの作業としては二度手間になってしまいますね。スタッフにはどうやってシフト提出をお願いしていましたか。

田中 毎月「◯日までにLINEで希望出勤日を出してください」とお願いしていました。もし提出忘れの人がいたら、その人抜きで取りあえず作ります。

―― シフトを作成するときは具体的にどのあたりが大変ですか。

田中 「希望かなえ率」のバランスです。月30日、まるまる出勤希望を出してくれた人は最優先でシフトを入れます。ところが例えば、月10日分の希望を出してくれた人が2人がいた場合、同程度の出勤日になるようにしないと、どちらかを優遇しているように見えてしまいます。それがトラブルの原因になることもあるので、出勤日を全て手で1つ1つ数えて、「希望日分の出勤日」の割合を調整するのが大変でした。

―― 毎回その割合を計算するのは骨が折れますね。そうなると、月にたくさん希望日を出してくれる人がいたほうが助かりそうです。

田中 そこがまた難しくて、たくさん出勤してくれる人ばかりに頼ると、その人が旅行に行ったり、体調を崩したりしたときの代わりがいなくなります。だから、少しずつ出られる人をたくさん採用したほうが、ヘルプが必要なときも誰かしら出てくれます。出勤希望日が多い人、少ない人、どちらにもメリットとデメリットがあります。

―― シフト作成の際、アルバイト同士の相性の良しあしも考えますか。

田中 2年ほど前の話ですが、スタッフ内の人間関係が理由で「シフトは彼と被らないようにしてほしい」と相談されたことはありました。

―― 「そんなこといわれても、仕事なんだからちゃんと働きなよ」って思いませんか?(笑)

田中 いえいえ、私はそれで仕事の雰囲気が悪くなるくらいだったら、その意見は考慮します。ただ、シフト組みの難易度は上がりますね。そのときは、「あなたのわがままをこちらが受け入れなかったら人数通り回せるところを、1人欠けた状態で営業することになる。それでもいいですか」と聞きました。すると、「いい」と答えるガッツがあったので、結局その意見をくんでシフトを作っていました。

―― シフトの作成にはアルバイトの希望日だけでなく、人間関係なども考慮して作らないといけない苦労があるのですね。

●Airシフトでシフト作成のミスと手間をなくす

―― 現在はAirシフトを導入されているそうですが、その経緯を教えてください。

田中 カフェがオープンする16年は、ちょうどPOSレジアプリの「Airレジ」がリリースされるタイミングでした。そこで、Airレジを導入して使っていたら、シフト作成ツールのAirシフトものちにリリースされ、オーナーに勧められたんです。

 私はコンビニプリントの10円を節約する女なので、最初は「自力でシフト作成する」と断っていました。しかし、オーナーが「無料だから」と勝手に導入してくれて、「無料なら使う!」と使い始めました(笑)。無料期間が終わり、今は有料で使っていますが、Airシフトのほうが楽ですし、シフト組みの人件費だと考えたら安いと思っています。

―― 節約家の田中さんらしい導入エピソードですね(笑)。Airシフトはどういう使い方をしていますか。

田中 アルバイトのシフト希望日は、シフトスケジュール管理アプリの「シフトボード」で集めて、Airシフトで管理します。まず、アルバイトが希望日をシフトボードで提出すると、自動的にAirシフトの画面に反映されます。その後、私がシフトを調整する形です。

―― シフトの調整ではどんなところに気を付けていますか。

田中 私は「労働時間」の項目を見て、その日出勤するスタッフの1日の合計勤務時間が「23時間半」になるよう配置しています。23時間半が満たされていない日は、人が足りていないことが分かります。これで見落としがだいぶ減りましたね。

―― 例えば、1日の「労働時間」が17時間になっている場合、あと6時間半分、誰かに出勤してもらう必要があるな、とひと目で分かるわけですね。

田中 そうです。以前、手書きでシフトを作成したとき、ふたを開けてみたら1人足りない日があって、スタッフに迷惑を掛けたことがありました。それがきっかけでアルバイトが1人辞めてしまい、こういうミスは二度とやりたくないと感じました。今はAirシフトの「労働時間」を見れば、足りない日が分かるので安心です。

―― 他にもたくさん業務があるなかで、シフト表を完璧に作り続けるのは大変だと思います。他に解決した問題はありますか?

田中 「希望かなえ率」の項目もよくチェックします。こちらも手書きのときは計算が大変でしたが、今はひと目で誰かが優遇されすぎていないかを確認できます。

―― 数値が可視化されると、アルバイトにもこういうシフト組みにした理由を説明しやすくなりますね。他によく使う機能はありますか?

田中 「共有ファイルの作成」機能です。以前は一人一人にLINEで翌月の出勤日を伝えていましたが、今はこれでダウンロードしたファイルをスクショして、LINEのグループに送るだけです。また、シフトボードはスマートフォンのカレンダーアプリと連携します。Airシフトの「スタッフに共有」ボタンを押すと、シフトボード経由でスタッフのiPhoneのカレンダーアプリに、シフトが自動的に送られるのも便利です。

―― シフト作成の手間がなくなれば新メニューの考案などに使える時間が増えますね。

田中 1年くらい前から昔ながらのプリンが流行っているので、現在も試作中です。あとはスパイスもこれから来ると思うので、スパイスが入ったキャロットジンジャーケーキの新メニューにも挑戦しています。管理業務よりも新メニューを作ったりするほうが好きなので、Airシフトでシフト管理が楽になったのがありがたいですね。

MIRlitonCafe(ミルリトンカフェ)

・住所:新宿区富久町16-12

・営業時間:11:30〜21:00(L.O.20:30)

・公式Webサイト:https://mirlitoncafe.storeinfo.jp/

・Instagram:https://www.instagram.com/mirlitoncafe/