カネボウ化粧品(東京都中央区)が展開するコスメブランドの「KATE」(ケイト)は2月、人気アニメーション「エヴァンゲリオン」とのコラボ商品を発売した。オンラインのみ、数量限定の販売で、発売からわずか3日で4色のうち3色が完売。2月末時点で残る1色も完売間近だ。最近はこうしたアニメやゲームと化粧品のコラボは珍しくなくなってきている。

 これまでの化粧品とアニメのコラボといえば「美少女戦士セーラームーン」やディズニープリンセスなど、女性が好みそうな、コスメブランドらしいキャラクターが主流だった。しかし今のトレンドはより二次元コンテンツ色の強いもので、KATEがエヴァンゲリオンとコラボした「ケイト レッドヌードルージュ」も、外箱全面にキャラクター・綾波レイを描いている。

 2020年11月には世界的なメイクアップブランド「SHU UEMURA」(シュウ ウエムラ)が「ワンピース」とコラボしたホリデーコレクションを発売。キャラクターを前面に押し出したデザインで、日本のみならず海外でも話題となった。

 また、ECサービス支援のBEENOS(ビーノス)の連結子会社モノセンス(東京都品川区)が展開するコスメブランド「Lovisia」(ラヴィジア)も、4月中旬に「名探偵コナン」のコラボコスメを発売する。発売告知の段階で作品ファンを中心に、SNS上で広く拡散された。1月末から行ったエコバッグ付きコスメセットの先行予約販売では、開始3日で80%の在庫を消化し、期間内に予定数を完売したという。

 Lovisiaはこれまでも「ポケモン」や「星のカービィ」などのキャラクターコスメを手掛けてきたブランドだ。今回は作品全体にフォーカスし、さまざまなキャラクターがモチーフとなった。名探偵コナンは、子供から大人までに愛される作品だが、BEENOS広報によるとコラボ商品のターゲットは20〜30代の大人女子。「名探偵コナン自体の人気も年々上昇していること、女性に人気が高いことから、大人の女性に喜んでもらえる商品を作りたいとコラボに至った」という。

●海外での作品認知度も大きな決め手に

 KATEのコラボ相手であるエヴァンゲリオンも幅広いファン層を持つ。映画最新作「シン・エヴァンゲリオン劇場版」が3月8日に上映開始となるが、シリーズの初回は1995年に始まったテレビアニメ「新世紀エヴァンゲリオン」と、その歴史は30年以上になる。テレビアニメ時代のファンは既に中年で、その作風から男性ファンも多いアニメだが、なぜ若者女性をメインターゲットとするKATEのコラボ相手となったのか。

 カネボウ化粧品を傘下に持つ花王の化粧品事業部門マステージビジネスグループKATE担当・若井麻衣氏によると「この商品は赤にベージュを重ねることで自在に色を作ることができるという口紅で、そこには『自分の色は、自分で決める』というメッセージが込められている。ブランドスローガン『NO MORE RULES.』を象徴する商品で、グローバルでの育成も目指している。その中でコラボ相手として、日本を代表するIP(Intellectual Property、知的財産)を100点ほどリストアップしていたところ、キャラクター綾波レイの姿がブランド哲学とシンクロした」のだという。

 綾波レイは作品のヒロインであり、ストーリーの中で自我が芽生えていくキャラクター。自分の人生を自分で決める綾波の姿とブランド哲学が重なったのだ。

 また作品ファン層については「事前にKATEの国内および上海のコアユーザー層である10代後半〜20代前半を調査したところ、6割は作品を認知しており、2割は作品ファンだった。これを機に作品の幅広いファンの方々にもブランドを知っていただきたいという思いもあった」そうだ。海外での認知が高いこともコラボ理由の1つとなった。

 名探偵コナンも海外で人気が高く、そのことがコラボに至る大きな要因となった。「BEENOSグループは、海外販路への輸出入ビジネスが主力事業。これまでの海外販売の経験により、アニメコンテンツを起用したマーケティングはグローバル市場で有効と考えている。『名探偵コナン』は海外ファンが多いことも魅力だった」(BEENOS広報)

●世界的にIPコラボがトレンド、その訳は?

 コラボは話題作りだけでなく、イメージやキャラクターを通じてブランド哲学を知ってもらう手法にもなっている。このような現象は世界的なもので、特に中国の化粧品業界ではIPコラボが盛んだ。

 例えば中国コスメ「美康粉黛」は中国の伝統的な文化と現代的なトレンド要素をミックスした若者のブーム・国潮(グオチャオ)の流れを受け、中国のクラシカルなデザインが採用されたブランドだ。その美康粉黛がコラボ相手とした「魔道祖師」は古代中国を背景にしたファンタジーアニメだった。

 中国ではジェネレーションZ世代(95年以降生まれ)を中心にアニメ、漫画、ゲームといった二次元コンテンツが大衆の娯楽となっており、珍しいものではない。eスポーツの選手は若者の憧れであり、ゲームユーザーの約半数は女性だ。

 そういった背景から、グローバルコスメブランド「M・A・C」は昨年、中国の人気ゲーム「王者栄耀」(STRIKE OF KINGS)とのコラボシリーズを販売。同商品はゲームが世界的に人気であることから、日本でも発売した。

 またM・A・Cは米国でも人気ゲーム「The Sims」とのコラボアイパレットを発売したが、評判は決して良いものではなかった。王者栄耀のコラボではキャラクターの世界観を重視したパッケージや色選びが行われたのに対し、The Simsは外箱のロゴ以外はゲームの世界観に通ずるものがなかったことが大きな要因だった。

 名ばかりのコラボは作品ファンを失望させるだけでなく、本来達成すべき、真のブランドファンの獲得を逃すことにつながる。化粧品は容貌を美しく見せるという機能的な面だけでなく、エモーショナルな部分も併せ持つ。そのためブランドストーリーの共感者を増やすことは必須で、作品やキャラクターが持つ力は今後も注目されるだろう。

臼井杏奈(うすい あんな/ライター、編集者)