新型コロナウイルスの感染が広がって、カフェや缶コーヒーの売り上げは苦戦しているが、自宅で楽しむ人は増えているという。ペーパードリップで淹れたり、サイフォンを使って楽しんだり、手軽にインスタントで味わったり。コーヒーを淹れる方法はほかにもあるが、記者がちょっと気になっているサービスがある。デロンギ・ジャパン(東京都千代田)のサブスク「ミーオ!デロンギ」だ。

 「なにそれ? 聞いたことがないなあ」という人も多いかもしれないが、それもそのはず。同社はこのサービスを始めるにあたって大々的な広告を打たず、“ひっそり”とスタートしたのだ。しかし、コーヒー通を中心に注文が殺到。2020年11月25日にサービスを開始したものの、想定の5倍以上の注文があって、一週間足らずで受付を停止することに。

 「これはいかん」ということで在庫を増やし、今年の2月15日に再スタート。「準備は万端、これで大丈夫」と思っていたものの、2日後には想定数を超えてしまったため、18日に再び停止に追い込まれたのだ。二度の完売。しかも、一週間以内に。となると、次はどうするのか。気になって、同社のWebサイトをチラチラ見ていると、3月16日に受付を再開。「ま、今度は大丈夫でしょ」と思っていたら、数日後に次の文言が表示されていたのだ。「新規契約を一時停止しております」――。

 サービス開始→中止→再開→中止→再開→中止(イマココ)を繰り返す「ミーオ!デロンギ」とは、どんなサービスなのか。何度も同じようなことを繰り返していると、消費者から「品薄商法じゃねえのか」といった声が出てきそうだが、なぜ同社は何度も停止に追い込まれているのか。サービスを担当している木村健二さんに話を聞いた。聞き手は、ITmedia ビジネスオンラインの土肥義則。

●試験的にサブスク

土肥: 「ミーオ!デロンギ」がとんでもないことになっていますね。サービスを始めたものの、すぐに受付停止に追い込まれました。しかも、三度もあって、いまだに再開日を発表していません(4月13日時点)。

 「ミーオ!デロンギ」は、コーヒー豆を定期購入するお客に、デロンギの「マグニフィカS 全自動コーヒーマシン」(5万4780円)を無料で提供するサービスですよね。契約プランは2つあって、毎月3袋のコーヒー豆が届く「毎月お届け便」(4500円)と、隔月で6袋が届く「まとめてお届け便」(7800円)がある。また、コーヒー豆はイタリアのブランド「ムセッティ」のもので、6種類から選択できるようにしました。

 このサービスの最大の肝は、最低購入回数の条件(毎月お届け便は24回、まとめてお届け便は12回)を満たせば、2年後には全自動マシーンが手に入ること。ということもあって、SNS上では“計算”している人が多いですよね。「毎月と隔月、どっちがトクなんだ?」「いずれにしても安い」といったコメントがありますが、そもそもなぜこのようなサービスを始めたのでしょうか?

木村: デロンギの本社はイタリアにあって、グローバルに展開しているんですよね。ここ数年、日本のコーヒー事業は二桁成長を続けているのですが、海外は違う。さらに伸びているので、日本でもなんとかしなければいけません。ただ、成長のボトルネックとして「価格の高さ」があるのではないかと感じていました。

土肥: デロンギのコーヒーマシーンは、5万円〜20万円ほどしますよね。

木村: はい。コーヒーは嗜好(しこう)品なので、なくても生活を送ることはできる。また、カフェで楽しむことはできますし、コンビニで買うことはできますし、自動販売機で缶コーヒーを飲むこともできる。日本独特の外部環境もあって、思ったとおりの成長ができていませんでした。

 こうした課題を解決するには、どうすればいいのか。小売店だけで販売していても、海外に追いつくことはできない。直販のような形で展開することはできないかと考え、2019年4月にサブスクサービスを始めるために、各部署から担当者を集めました。で、その年の秋、試験的にサブスクを始めました。

土肥: どんな内容でしょうか?

●試験的なサブスクは「失敗」

木村: ターゲットを2つの層に絞り込みました。1つは、既存のお客さま。DMを送って、サービスに加入していただきました。デロンギの商品を使っている人たちなので、コーヒー愛好家が多い。一方で、ライト層を獲得するのはどうかと考え、某ショッピングセンターで利用者を集めました。

土肥: ショッピングセンターよりも、家電量販店で展開するほうが相性はよくないですか? すでに全自動マシーンを販売しているので、その横で営業すればいい。全自動マシーンを購入したいけれど、「高いからなあ。ちょっと手が出ないや」とあきらめている人たちには、めちゃめちゃササりそうです。

木村: 当初、その点を心配しました。「一括で購入するか、サブスクで契約するか」となれば、いわゆるゼロサムゲームになってしまうのではないか。カニバリを避けるために、ライト層にアプローチしてみてはどうかと考えました。というわけで、ショッピングセンターで展開することに。

 結論を先に申し上げると、試験的に始めたサブスクはうまくいきませんでした。なぜか。サービス内容はいまのものと違っていて、ポイント制を導入していたんですよね。契約をした人にポイントを付与して、お客さまはそのポイントに応じて、好きなモノを好きなタイミングで交換できるという仕組み。決められたモノが送られるのではなくて、自分が好きなモノを選ぶという形だと、自由度が増しますよね。競合他社が同じようなサービスを始めても、先行優位性があるのではないかと考えていました。

土肥: ふむふむ。

木村: では、なぜうまくいかなかったのか。ある人の利用率は100%に対し、ある人の利用率は0%といった現象が起きたんですよね。強制的に送られるのではなくて、自由度を高めたほうが顧客満足度は上がると思っていたのですが、利用しない人からは「使い方がよく分からない」「注文するのが面倒」といった声がありました。となると、満足する人と満足しない人が出てくることになるので、ポイント制はリスクが高いと判断しました。

 このままサブスクサービスを続けるべきなのか、撤退すべきなのか。半年ほど、暗礁に乗り上げていました。消費者は自由度を求めているのではなく、契約を続ければ高額な全自動マシーンが手に入ることに魅力を感じているのではないか。そのためには、コーヒー豆を定期的に送る形にしたほうがいいのではないか。という結論に至って、いまのスキームにしました。

●初日は閑古鳥が鳴く

土肥: 試験的に始めたサブスクはうまくいかなかった。紆余曲折があって、いまの形のサービスを20年11月25日にスタートしたわけですが、お客の反響はどうでしたか?

木村: 初日は、閑古鳥が鳴いていました(キッパリ)。サービスを始める前に、家族や知り合いに聞いてみたんですよね。「今度、こんなサービスを始めようと思っているけれど、どうかな?」と。すると、全員が「お、いいね!」「オレも始めたいよ」といった声が返ってきました。周囲の人たちからは好意的な声をもらっていたので、自分も「大丈夫。これは絶対に売れる!」と信じていたのですが、サッパリでして。不安を感じたので、親に電話をして「ちょっと加入してくれないかな」とお願いしたほどでした(笑)。

 しかし、2日目、3日目にはたくさんの注文が入りました。想定の5倍以上の注文があったので、12月1日には新規受注を停止することに。

土肥: 当時のリリースを見ると、「サービス開始に際して十分な在庫を準備しておりますが……」と書いている。そもそもの想定が低かったのでは?

木村: 新型コロナの感染拡大を受けて、家で生活を送る人が急増しました。カフェに足を運ぶことはなかなかできない、缶コーヒーでは満足できない。そうした状況のなかで、「自宅でおいしいコーヒーを飲みたい」といった人が増えてきたのではないでしょうか。

 あと、誤解していただきたくないのですが、このサービスは全自動マシーンを送れば終わりではなく、定期的にコーヒー豆を届けなければいけません。契約者の数が増えれば、豆の数も増える。豆の数が増えれば、物流体制も強化しなければいけない。また、全自動マシーンは世界的に需要が高まっているので、「日本に送ってください」とお願いしても、すぐに届かないといった事情もあるんですよね。

土肥: 全自動マシーンとコーヒー豆の確保、物流体制の強化といった課題があったわけですが、その問題を解決して、今年の2月15日に再スタートしたわけですね。それまで、会社ではどのようなことが起きていたのでしょうか?

木村: お客さまから注文が殺到したので、ものすごい需要があることは分かりました。ただ、いまは奇跡が起きているのかもしれないので、できるだけ早くサービスを再開しなければいけないと考えました。数カ月経つと、このサービスの存在を忘れられるかもしれませんし、信頼もなくすかもしれません。そんな不安があったので、できるだけ早く再開したかったのですが……。

土肥: 再開するまで、2カ月半ほどかかりました。それは、なぜですか?

●“ひっそり”と再開

木村: 先ほども申し上げたように、世界的に全自動マシーンの需要が高まっているんですよね。本社の担当者に「日本に送ってください」と伝えても、「本当に? たまたまサブスクが当たっただけでは?」といった感じで、なかなか信じてもらえませんでした。在庫の取り合いが続いていたのですが、昨年11月のときと比べ、3倍の数を確保することができたので、今年の2月に再開しました。

土肥: 2月15日に再開して、17日の夕方には想定数を超える。そして、18日には再び停止を発表しました。

木村: 在庫数は増やしたものの、3日しか持ちませんでした。前回以上に一気に注文を受けたので、物流に負担がかかってしまったんですよね。というわけで、分散しなければいけないと思いました。

 3月に再開したときには、1日の上限数を設定しました。公式サイトで“ひっそり”と再開したものの、初日は2時間ほどで売り切れ。2日以降も5分ほどで売り切れ。そして、6日目にすべての在庫がなくなってしまいました。1日の注文数は平準化できたのですが、需要はどこまであるのか分からないといった感じでして……。

 完売するのに初日は5分、2日目は10分、3日目は1時間、4日目は24時間といった具合になれば、お客さまの熱が冷めているのかなと判断することができる。しかし、再開したとたんに売り切れてしまうので、お客さまの“熱”がどこまで深くて、どのくらいの数があるのかよく分からないんですよね。

土肥: 開始→停止→再開→停止→再開→停止といったことが続くと、お客から「品薄商法じゃねえのか」といった声が出てきそうですね。

木村: そこはとても心配していまして、この状態が1年ほど続くとさすがによくないので、今年の夏ごろが“土俵際”なのかもしれません。

土肥: 新型コロナの影響で、巣ごもり需要が伸びている。その影響はコーヒーマシンにも出ているようですが、それにしてもなぜデロンギのサブスクがここまでウケているのでしょうか?

●イノベーションのないサブスク

木村: コーヒーメーカー業界の市場シェア(2019年)を見ると、1位は当社なんですよね。ということは「コーヒーマシーンを買うのであれば、デロンギ製がいいよね」という人がたくさんいるのではないか。その一方で、「買いたいけれど、価格が高いから難しいよね」という人もいるのではないか。そうした人たちに向けて、一括購入だけでなく、オプションを提示できたことがよかったのかなあと。

 話はちょっと変わりますが、「家は買うべきか、借りるべきか」といったテーマって盛り上がりますよね。「いまは金利が安いので、家は買うべき」という人もいれば、「自由に住み替えたいので、借りるほうがいい」という人もいる。「ミーオ!デロンギ」のサービスも、家は買うべきか借りるべきかといった“鉄板ネタ”のような論争にしたかったんですよね。

土肥: ふむふむ。確かに、SNSを見ると、そのような論争になっていますよね。電卓を使って計算している人の姿が浮かびますので。ちなみに、デロンギは海外で、サブスクを展開しているのでしょうか?

木村: いえ、日本だけですね。

土肥: となると、今回の試みが成功すると、海外に“輸出”することができるのでは? “生みの親”として、スターになれますね。

木村: 当社は「サブスク」という表現を使っていますが、このサービスって定期便に近いですよね。やっていることは、“イノベーションのないサブスク”。しかし、利用者にはそこがウケたのかもしれません。

(終わり)