「なんでよりによってこのタイミング?」と首をひねった方も多いのではないか。コロナ禍で飲食店が大打撃を受け、経営が苦しくなった店がバタバタと倒れていくなか、ニトリがファミレス事業に進出したのだ。

 チキンステーキ240gを500円、ハンバーグステーキ150gを700円、リブステーキ150gを990円という感じで、「お、ねだん以上。」のメニューを取りそろえた「ニトリダイニング みんなのグリル」だ。

 3月18日に東京都内のニトリの環七梅島店の敷地内にオープンしたことに続いて、4月27日には神奈川県相模原にあるニトリモールの近くで出店が控えているという。

 この出店のロケーションからしても、ニトリがファミレス単体で稼ごうと思っていないことは明らかだ。昼ごはんでも食べながらゆっくり家具を見てもらう。あるいは、食事のついでに足りない生活雑貨を購入する。そんな来店頻度の向上策の一つであることは容易に想像できる。

 が、それにしたってタイミングの悪さは否めない。どちらの店舗も「まん延防止措置」の対象地域なので、時短はもちろん厳しい感染対策が求められる。稼ぐことが目的ではないのなら、ワクチンがある程度普及するまで延期という選択もあったはずだ。もし慣れぬ新規事業で、クラスターでも発生させてしまったら世間から批判を浴びるかもしれない。企業イメージや店舗にも悪影響を及ぼすかもしれないリスクのある新規事業を、なぜこのタイミングでわざわざ断行したのか。

 「いろいろと時間や金をかけたプロジェクトのスケジュールを、簡単に変えられるわけないだろ」という声が聞こえてきそうだが、コロナ禍によってさまざま企業がプロジェクトの見直しを余儀なくされ柔軟に対応している。34期連続で増収増益を達成する家具業界のトップ企業が、そんな頭コチコチな役人のような感じで、なし崩し的に新規事業を始めるわけがないのだ。

 ということは考えられるのは、コロナ禍の大逆風のなかであっても、ニトリにはこのタイミングでファミレスに参入をしなければいけない事情があったということである。では、それはいったいなんなのか。

●目の前に迫ってきている「脅威」

 ニトリの経営を主導する似鳥昭雄会長は、今回ファミレス事業に参入した理由を、「衣食住で事業を展開したい」と述べている。

 確かに、ニトリは2019年から女性向けアパレルブランド「Nプラス(N+)」をスタートし、今年3月31日現在17店舗を展開し、今後はさらに5店舗を新規出店する計画を明らかにしている。「衣」を充実させているのだから、「食」のほうも早いところ広げていく理屈自体は非常によく分かる。

 ただ、個人的には、そういう中長期的なビジョンのためというよりも、目の前に迫ってきている「脅威」に対する反撃という意味合いが強いのではないかと考えている。

 その脅威とはズバリ、ホームセンター業界の王者、カインズだ。

 実は昨年からカインズによる「首都侵攻」が始まっている。昨年7月、DIYや生活雑貨に特化した都市型店舗「Style Factory」が、ららぽーと海老名店に首都圏として初出店。翌月には横浜の、みなとみらい東急スクエア店でもオープンした。

 広大な売り場と駐車場を必要とする巨大ホームセンターを都市部で新規に出店することはかなりハードルが高いので、これまで首都圏、特に都内でカインズの勢力は強くなかった。16年に東京・南砂に旗艦店としてカインズ南砂町SUNAMO店をオープンし、18年に関東最大級の店舗「カインズ新座店」をオープンさせたものの、横浜・みなとみらいエリアのような繁華街への進出はできていなかったのだ。

 しかし、昨年の「Style Factory」という新しい店舗スタイルによってそれが可能になった。それはつまり、カインズも、ニトリやIKEAのように渋谷や銀座という都内の繁華街エリアにも進出することができるということだ。

 これがニトリにとって、極めて深刻な「脅威」であることはいうまでもない。ニトリの生活雑貨は無印良品やIKEAとよく比較されるが、ネット上などでコスパや使い勝手のいい機能性などで直接的なライバルとしてよく目されているのが、実はカインズだからだ。

●カインズ侵攻に備えた反撃

 これまで東京都内の客がなかなか手に取ることができなかったカインズのアイテムが繁華街の商業施設で並ぶようになれば、ニトリの地位が脅かされることは間違いない。そうなるとニトリとしてやるべきは、カインズ侵攻に備えた反撃だ。

 昨年、ニトリがDCMとの争奪戦に競り勝った「島忠ホームズの買収」もその一つではないかと目されている。首都圏を中心に販売網のある島忠ホームズは中野、仙川、平井、葛西など都内にも店舗を持つ。これらを手中に収めれば、カインズが都心へ本格的に進出してきた際の迎撃の拠点となる。実際、今年の6月には既存店を改修して「ニトリホームズ」(3月31日の決算説明会で明かした候補名)をオープンする予定だという。

 つまり、コロナ禍という大逆風のなかでも、リスクのあるファミレス参入を進めたのは、ニトリとして急ピッチで「対カインズ反撃体制」を整えなくてはいけない事情もあったのではないか、と個人的には思うのだ。

 なんてことを言ってしまうと、「ニトリにとってカインズが脅威だとしても、だからといってファミレス参入の理由をそこに結びつけるのはさすがに妄想が過ぎるだろ」とお叱りをいただくかもしれないが、もしニトリがカインズを意識して、“がっぷり四つ”で戦っていこうと思ったら、ここはいち早く整備をしなくてはいけない分野なのだ。

 似鳥会長が目指す「衣食住での事業展開」を既に達成してしまっているのが、カインズだからだ。

 ご存じのように、カインズは、群馬県地盤のスーパー、ベイシアを中核とするベイシアグループの一員だ。同じグループ内には、今や飛ぶ鳥を落とす勢いのワークマンがあるし、カインズ内のフードコート「カインズキッチン」などを運営する外食企業カインズフードサービスもある。

 さらににいえば、家電量販店のベイシア電器、コンビニのセーブオン、カー用品のオートアールズ、ベイシアスポーツクラブなどもあり、全国46都道府県でグループ全28社が1904店舗を展開している。非上場がゆえあまり全国的に話題にはならないが、昨年ベイシアグループは総売上1兆円を達成した。

●ファミレス参入の理由

 そんな知られざる「衣食住の巨人」ともいえる、ベイシアグループの中核企業・カインズがいよいよ首都に攻め込んできたのだ。これを単に「ホームセンターが進出してきた」と捉えるのはあまりにもお気楽すぎる。

 グループメリットを生かして、首都圏でも絶大な人気を誇るワークマンプラスなどとコラボすることもできるだろう。カインズキッチンを進化させた都市型フードコートを併設することもできるだろう。

 また、米国の体験型店舗「b8ta」とコラボしたように、カインズ独自開発のユニークなアイテムを実際に手に取ってもらい、それをマーケティングや開発に生かすRaaS(リテール・アズ・ア・サービス)の拠点を整備することもできる。中長期的には生活雑貨、衣料品、飲食店、さらには食料品までを同一のコンセプトのもとで提供する、「ライフスタイル総合店舗」を出すことも可能だ。

 つまり、カインズは現時点のニトリではなかなかできない方向性の戦い方ができるだけではなく、似鳥会長が目指す「衣食住での事業展開」を可能とする力もあるのだ。ここを迎え撃つニトリとして、まずは「衣」と「食」は急ピッチで追いつかなくてはいけない。

 「衣」に関して、「N+」は女性向けアパレルなので早急に男性向けがほしい。幸いにも、買収をした島忠ホームズにはオリジナルのアパレルブランド「カラナビ」がある。こちらは「プロ仕様のワークウェア」を掲げながら、無印良品のようなベーシックなデザインで、ワークマンのアイテムと比べても機能性はそれほど遜色はない。マーケティングや宣伝にそれほど力を入れているとは思えないので認知度はあまりないが、「ニトリホームズ」のシナジー効果で大化けしないとも限らない。

 となってくると、やはり次に必要となってくるのが「食」ではないのか。それこそが、これまで敷地内に大手ファミレスや人気チェーンを誘致する方向性だったニトリがこのタイミングで、ファミレスに参入をしなくてはいけなくなった最大の理由なのではないか、と個人的には思っている。

●ニトリVS. カインズの首都圏決戦

 コロナ禍のステイホーム特需が進むなかで、家具小売とホームセンターの境界はほとんどなくなりつつある。家具小売店はホームセンターに近くなっていくし、ホームセンターでも家具や生活雑貨などの製造小売が進んでいる。

 そのような意味で、家具小売トップ・ニトリとホームセンター王者・カインズの「頂上対決」は避けられない流れなのだ。

 ともに北海道、群馬という地方企業からスタートして、M&Aに頼ることなく自力で全国制覇を成し得るまで成長した点では両社にはどこか似たにおいを感じるが、決定的に異なる点もある。

 それは経営の創業家の関与だ。

 ニトリはご存じのように、一代でニトリをここまで成長させたカリスマ創業者・似鳥会長が「死ぬまで現役」を宣言し、いまだに強烈なリーダーシップを発揮している。一方、ベイシアの創業家は一歩引いている印象だ。

 創業者・土屋嘉雄氏の息子で、カインズの会長を勤める土屋裕雅氏は、昨年末の日経のインタビューで、ベイシアグループの成長は「様々な業態を遠心力によって切り出すスピンアウトの歴史だ」と振り返り、こんなことをおっしゃっている。

 「株主としての土屋家はいますが、事業を運営して市場で結果を出す経営陣は色々いていい。カインズの高家正行社長は土屋家ではありませんが、経営のプロとして彼のような人材がいるのはいいバランス感だと思います」(日本経済新聞 20年12月21日)

 確かに、好調のワークマンで土屋家である土屋哲雄氏が専務を務めているが、社長として経営を主導しているのは小濱英之氏である。「スピンアウト」している感はある。

 このような経営体制の違いが、これからの両社の成長にどのような影響を与えるのか。このような経営の考え方が、これから本格化する両社の対決にどのような影響を与えるのかは非常に興味深い。

 軍配が上がるのは、カリスマが率いる「負け知らずの製造物流小売企業」か、それとも事業のスピンアウトを繰り返してきた「孤高の小売集団」か。今後、全国のホームセンター勢力図にも大きな影響を及ぼすであろう、ニトリVS. カインズの首都圏決戦に注目したい。

(窪田順生)