日本では学生が就職する際に「学歴フィルター」というのがよく話題になる。

 就活の際に出身大学が採用に影響を及ぼすとして、主に偏差値の低い学校は就職に不利だと言われている。実際、多くの企業は就職希望者がどこの大学を卒業したのか、学歴はどうなっているのかを参考している。

 同じような話は、米国でも存在する。新規採用の約7割は、「大学卒業が条件になっている」と言われているが、超名門大学となると、企業などがキャンパス内外でイベントなどを行って学生を“青田買い”する。そして採用を始めた段階で、すでにやりとりをしている学生にその枠を与えるのだ。

 というわけで、トップクラスの大学以外の学生がそうした企業に応募しても、ほとんど相手にされない。例えば、大手金融機関、コンサルティングファーム、法律事務所などは、“青田買い”で優秀な学生を確保しているのだ。

 そんな米国で最近、興味深いニュースが報じられている。米テレビ局のNBCがニュース番組のなかで、「大学に行く価値があるのか」を取り上げたことで話題になっている。筆者も先日、米国人の知り合いと話をしている際に、このニュースの件が話題になった。なんでも、最近、米国の大企業が大学を卒業していない人たちを積極的に雇っているという。

 新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、米国では大量の失業者を出しているが、ここ数年、大学を卒業していなくても大手企業に就職できる人が増えてきたという。世界的な企業を多数生み出している米国の就職戦線で、どんな変化が起きているのか。

●大卒以外も積極的に採用

 NBCのニュースによると、大手金融機関のJPモルガンやバンク・オブ・アメリカ、大手ネット通販のアマゾン、SNS大手のフェイスブックやツイッターも、大卒だけでなく、高卒の人材も積極的に採用しているという。

 そこでいろいろリサーチしてみると、確かにそんな動きが出ているようだ。例えば、アップル。従業員の半数が大学を卒業していないという。新型コロナがまん延する前の2019年に、同社のティム・クックCEOは米ホワイトハウスを訪れて次のように語っている。

 「私どもの会社は、ご存じの通り、大学からドロップアウトした人が創業した。そんなことから、アップル社で活躍するのには大学卒業である必要はない。常に視野を広げようとしています」

 クックはさらにこうも語っている。

 「2018年にアップルが雇った人の半分は大卒ではない」

 ビジネス特化型のSNSであるリンクトインによれば、グーグルの親会社であるアルファベットも、学歴よりも能力を重視していて、関係企業の募集要項でも多くが、大卒か「それに見合う経験」があればいいとしている。

 IBMも17年の段階ですでに、社員の15%は大卒ではないことを明らかにしている。その代わりに、コーディング系の訓練プログラムや職業訓練学校などで学んだ人たちを雇い入れたいとしていた。特にIT企業は、技術力や発想力がものをいうので、どこの学校に行ったのかはあまり重要ではないのだろう。コロナ禍の前から、多くの米企業で同じような認識が広がっていたようだ。

●学歴ではなく能力重視

 さらにこんな背景もある。米国労働者の3分の2が大学を卒業していない。そのため、募集条件を「大卒」としていても、そのポジションが埋まらないケースが130万件もあるという。

 最近注目されているのが、訓練プログラムや職業訓練である。そうしたプログラムから大手企業に就職する仕組みも生まれている。例えば、マサチューセッツ州ボストンに本社を置くNPOで、訓練プログラムを提供している「イヤーアップ」。同NPOが手掛けるプログラムが評価されて、多くの大企業と提携を結んでいる。結果、大学を卒業していない人でも大企業に就職することができるように。またインターンシップ制度も導入していて、企業で働く人とのコネクションを作る機会も提供している。

 イヤーアップのプログラムをみると、大学で学ぶようなビジネス分野の基本から経営のほかに、ITに関する知識も教えている。すぐにでも働けるような人材を育成することで、企業も採用に躊躇(ちゅうちょ)しなくなっている。

 さらに、オンライン上で職業訓練を受けるサービスも注目されている。受講するのに学歴は関係ないので、そこできちんと学べば大卒と遜色(そんしょく)のない会社で働くことができるという。

 企業も外部向けに訓練プログラムを提供している。例えばグーグル。同社も、独自に6カ月のオンラインの訓練プログラムを用意していて、学歴は関係なく参加できるので、そこでグーグルの関係者とコネクションを持つことも可能だ。同社はこうしたエコシステムをつくって、人材を発掘しようとしている。

●大卒有利の時代ではない

 米国の先進的な大手企業は、もはや人材を「学歴」というフィルターを通して見ていない。専門家によると、「大卒」が有利に働く時代ではなくなりつつあって、今後はその傾向がさらに強まるという。

 米国で大卒の学歴がなければ、地元のコミュニティカレッジ(日本では「短大」と訳されるが、クラス単位で授業を受けられる文化教室に近い)に通って、就職活動を行う人たちも少なくない。コミュニティカレッジを卒業しても「就職の足しにはなる」といった程度なので、大企業に就職するのはかなりハードルが高かった。

 それが今では、然るべき能力さえあれば、大手のほうが積極的に大卒以外の人たちを受け入れようとしているのだ。

 そもそも、4年間も学校に行く必要はあるのか? 価値はあるのか? といった議論が米国で出ている。大学を卒業する段階で、卒業生の半分ほどは2万9000ドル(約313万円、1ドル108円)の借金を抱えているといったデータがある。そうしたリスクを抱えてまで、卒業証書を手にすることに価値はあるのか、と。

●大学を卒業していなくても

 米国では大学を卒業していなくても、世界を変えるような大成功を収めている人たちがいる。アップルの共同創業者であるスティーブ・ジョブズは、生前にスピーチでこう語っている。

 「私の両親が一生懸命貯金した金で授業料を払ってもらって大学に行った。だけど学校に6カ月通ってみて、意味がないことに気がついた。人生で何をしようか思いつきもしなかったし、学校がそれを見つける助けをしてくれるとは思わなかった。だから大学は中退した。でもそれで全て何ら問題なかった」

 マイクロソフトを創業したビル・ゲイツも、フェイスブックを立ち上げたマーク・ザッカーバーグも大学を中退している。アップルの共同創業者であるスティーブ・ウォズニアックも、大手IT企業オラクルのラリー・エリソン共同創業者兼会長も大学中退である。デルのマイケル・デル会長兼CEOも、ウーバー創業者のトラビス・カラニックも、ツイッターの共同創業者兼CEOのジャック・ドーシーも大学を中退した。

 米アパレル企業を率いるラルフ・ローレンも大学を途中で辞め、ヴァージン・グループの創設者のリチャード・ブランソンは高校を卒業していない。CNNの創業者であるテッド・ターナーは、大学を退学処分になっている。

 彼らの中には、いきなりビジネスを立ち上げた人もいれば、一旦企業に入ってからのし上がった人もいる。とにかく、彼らは大卒という学歴がないまま、ビジネスの世界で大成功を収めた。

 こうした人たちの行動を見ていると、「大学に行く価値はない」と思ってしまうのは、筆者だけだろうか。

(山田敏弘)