ビジネスホテルの朝食で顧客満足度が高いホテルブランドに、ベッセルホテルズ(広島県福山市)がある。

 北海道はホテル朝食激戦エリアとして知られるが、札幌市内でもシティ・ビジネス入り乱れた朝食合戦の様相を呈している。そのような中でも、「ベッセルイン札幌中島公園」は、複数の大手宿泊予約サイトの顧客満足度で、平均4.79ポイントと1位であった(2021年2月/札幌市)。北海道以外の他店舗でも朝食の顧客満足度は相当高い。

 一方で、ブランドと朝食クオリティーは決してイコールではない。特にビジネスホテルでは、数十店舗から数百店舗規模へと多店舗展開が進むにつれて、店舗間の差も目立つようになる(無料朝食は除く)。

 ゆえに「○○ホテル(ブランド)の朝食って良いよね」という感想を時に聞くが、イメージとして合っていても実態には即していないこともある。ベッセルホテルズは現在、全国で約30店舗を展開。この辺りの店舗展開が高クオリティー堅持の限界規模かと感じている。

 話を変えて、ビジネスホテルの朝食といえば、ゲスト目線で以前から「もったいないなぁ」と思っていたのが、日中〜夜のキッチンスペースだ。朝食提供後はキッチンが遊休スペースになっているのではないかと思ったことがある。

 ベッセルホテルズはその点にも着目していたようだ。実店舗を持たないデリバリー・テークアウトのビジネスモデルとして知名度を上げつつあるゴーストレストラン研究所(東京都港区)の「Ghost Kitchens」とコラボ。2月中旬にフランチャイズ1号店を東京都台東区の「ベッセルイン上野入谷駅前」にオープンした。

 ホテルスタッフ自らがキッチンで料理を作り、ウーバーイーツを使って料理を発送するというモデルだ。「デリバリーはもちろん、ホテルに宿泊するお客さまからも外食を控えたい、温かくおいしい料理が食べたいという声が多く、好評」(同ホテル支配人の奥野悦子氏)だという。

 ベッセルホテル開発の瀬尾吉郎社長は「実証実験的にスタートしたが、予想以上の売り上げ」としたうえで、「こうしたビジネスモデルを生み出せたのも、ある種コロナ禍があったからかもしれない」とする。Ghost Kitchensとコラボしたフランチャイズ店は、今後、京都・福岡など都市部を中心に全国での展開を目指す。

●”日本一の朝食”と名高い函館のホテルとその秘密

 北海道はエリア全体がホテル朝食激戦区であることを前述したが、“日本一”と評価の高い朝食を提供するのが「センチュリーマリーナ函館」(函館市)だ。

 函館駅や函館朝市、金森赤レンガ倉庫といった函館の観光名所にほど近い場所へ19年春にオープンした。同所は“函館ベイエリア”といわれ、すでに朝食において全国区の人気を誇る施設が集中していた。

 一方でセンチュリーマリーナ函館は、開業後ほどなくして旅行サイトの朝食ランキングで全国1位となりその名を全国に轟かせた(旅行サイト「リラックス」朝食満足度全国1位)。既存の周辺ホテルについて研究できる立場ということもあったのだろうが、センチュリーマリーナ函館の朝食には、それだけにとどまらない数多くの秘密が隠されていた。

 同ホテルの朝食をプロデュースしたのが、ホテルを運営する札幌国際観光相談役の中野元氏。中野氏は長年、食品製造業界に身を置き、飲食業に関与はしていたものの、ホテル業界での経験はなかった。

 そのような中野氏であったが、グループホテルの「センチュリーロイヤルホテル」(札幌市)、「釧路センチュリーキャッスルホテル」(釧路市)の朝食改善でホテル再建の手腕を発揮。釧路では宿泊売り上げが再建前の約3倍となった。

 そうした経験が、センチュリーマリーナ函館の朝食誕生に大いなる影響を与えている。ある種、ホテルのプロではない中野氏の手による「日本一の朝食」なのである。

 中野氏が朝食で着目したのが「だし」だ。スープをどのようにとるか半年間試行錯誤した。中華スープは丸鶏を使用し、ブイヤベースは本場の味を求め、仏・マルセイユまで試食に行った。和だしは最終的に高級と名高い「利尻昆布」に着地。利尻島にはグループホテル「アイランドインリシリ」があり、リーズナブルに入手できる手段もあったという。

 「だし昆布」といえば、京都で1日1万円分くらいの量を使う料亭もあるが、同ホテルでもピーク時には、1回の朝食で5000円分以上は用いるという。仕入れが安価なので5000円といっても数量は相当だ。

●あえて「客室稼働率」を80%まで抑えて実現したかったこと

 同ホテルは“体に優しい食をコンセプトに北海道の食材を生かした150品目以上の朝食ブッフェ”をウリとする。実は、評判となった後「夕食もおいしい食事を楽しみたい」というゲストの声があった。せっかくの考え抜かれたブッフェ会場もあることから、チャレンジしたが結局諦めたという逸話がある。

 夕食といえば「朝食を上回るクオリティーは当然」というのが一般の考えだろうが「朝食が凄すぎてそれを上回る夕食を出すことができなかった」のだとか。

 開業に際して長期にわたり研究した朝食内容は、まずグループホテルで検証を進めた。メニューが完成したことではじめて“図面に落とし込まれる”。そこから席数が決まり、レストランのサイズも決まる。

 センチュリーマリーナ函館宿泊支配人の反保宏士郎氏によると「当初想定していた朝食をとるゲスト数は1日450人、平均で1時間150人。喫食率(この場合、宿泊者のうち朝食をとるゲストの割合)は80%で計算していたが、いざ開業すると90%に跳ね上がっていた」と話す。

 実際には満室稼働の日も多く、そうすると550人になる。現場はウェイティング対策に躍起になったが、中野氏は原点に立ち戻った。

 なんと、朝食の混雑緩和のために宿泊予約流入をコントロールし“稼働を落とす”ことを指示したのだ。客室稼働率は当初88%を想定していたが、事業計画を見直し80%までに抑えることにした。「目一杯売るのはやめよう」と予約担当者に話したという。

 その反面、宿泊単価を下げないことは死守した。そうして稼働を落としたことにより、ADR(平均客室単価)を結果として約2000円上げることになる。

 コロナ禍で稼働率が20%まで落ち込もうが、単価は落さなかった。朝食でいえば、単価を落とすとゲスト層が変わり、レストランで出す料理も客層に合わせなければならなくなる。すなわち単価を落としてもターゲット客層の顧客満足度は上がらないというわけだ。

●コロナ禍で失ったものと、見えてきたチャンス

 センチュリーマリーナ函館では“プレミアムブレックファースト”なるものをスタートした。反保氏は「ハイフロアに位置する“プレミアムフロア”に宿泊するゲストのみ特別な朝食をチョイスできる」とする。

 コロナ禍からの回復期を見込んでさらにブラッシュアップしているので、時期が来れば「一気に回復させる自信がある」という。これも付加価値を鑑みたホテルの戦略といえよう。

 コロナ禍において、朝食のさらなる進化、高単価化の実現、コスト削減3年計画の圧縮など、ホテル全体で多くの改善ができたというセンチュリーマリーナ函館。

 予約が殺到し、朝食会場が大混雑していた頃を「正直、あのままいっちゃうとちょっと心配だった」と中野氏は振り返る。“コロナ禍で失ったものはあるが、収益性の高いマリーナの未来を実現できるチャンスは得た ――” 中野氏はいつもポジティブだ。

瀧澤信秋 (たきざわ のぶあき/ホテル評論家 旅行作家)