化粧品がさまざまな場所で“活躍”している。新型コロナウイルス感染拡大前の2019年まで国内の化粧品市場は右肩上がりの成長を続け、売り場を広げてきた。その中で、単に新しい売り場を作るだけでなく、異業種参入やコラボレーションなどの形で化粧品の可能性を広げる取り組みも増えた。

 ファンケルのスキンケアシリーズ「mogu(モグ)」は直営店での販売に先駆け、20年9月からローソンで先行販売を実施した。この先行販売について、ファンケルの流通営業本部流通第二営業部の青島稜氏は「ここ10年間で282万人の有職女性が増加したことを背景に、セルフ化粧品市場では時短コスメや無添加コスメ、プチプラコスメが伸長傾向にある。そこで有職女性へのアプローチを強化しているローソンと『mogu』のターゲット像がマッチしたことで先行販売に至った」と語る。

 「mogu」のターゲット像は20〜30代を中心とした「自分へのご褒美感やワクワクする要素を重視する“トレンド女子”」。多忙な生活でゆらぎがちな肌のため自然素材やオーガニック系の商品を選ぶ人、日常にちょっとしたご褒美アイテムを求める人を想定している。まさにコンビニスイーツを求めて来店する有職女性層のイメージに近い。

 製品はこれまでコンビニコスメの主流だったミニサイズや使い切り商品でなく普段使いサイズなのだが、価格は全品990円と“ちょっとしたご褒美”となる手頃さに設定した。多忙な間でも使い勝手のいい、二度洗顔が不要の「はちみつジェルクレンジング」やオールインワンの「トマトジェルクリーム」が人気商品だという。

 ローソンではもうひとつ、ファンケルグループが手掛ける普段使いコスメシリーズを販売している。20年3月に発売したローソン初の化粧品のプライベートブランド(PB)「ナチュラルローソンスキンケア」は、ファンケルグループのODM、ニコスタービューテック(横浜市)が開発・製造を行っている。ナチュラルローソンスキンケアは国内約1万4600店舗のうち、8割ほどで販売している。

 すでに化粧品を多数販売するローソンがPBとしてスキンケアの展開に至ったのは「ローソンだからこそ提供できる、お客に寄り添った商品開発をしたい」との思いからだという。そこで目をつけたのが、新型コロナ以前から成長していた“無添加化粧品”だ。

 需要が高まる一方で、高価なイメージや、新しいブランドへの切り替えハードルの高さなど課題があった。そこで無添加に加え「手に取りやすい価格とデザイン、量・日ごろのケアに1品プラスしやすい」ことをコンセプトに開発。

 そのため全5商品はいずれも普段使用するアイテムに追加できる商品で、「NL クレンジングジェル」(900円)や「NL塗って寝るパック」(900円)など手頃な価格を実現している。

●PB製造が化粧品メーカーにもたらすメリット

 PBはローソンだけでなくファンケルグループにとってもプラスに働くものだという。ニコスタービューテックの楯忠宏ファンケルラボ統括部営業グループ課長は「自分たちのブランドではないが、ファンケル製造品が市場シェアを取れていることはメリットだ。『ナチュラルローソンスキンケア』はニコスタービューテックの名前が入っているが、その下部にニコスタービューテックがファンケルグループである旨の記載もあり、消費者との間接的タッチポイントでもある」と語る。

 現在では、より「ファンケル」の名前を押し出した事業も行う。20年1月にはファンケルグループの生産技術を生かしたコンサルティング型OEM企業として「ファンケルラボ」(横浜市)を新設した。

 メンバーや製造工場はニコスタービューテックと共通するが、「ファンケルグループが作っていることが信頼につながるため、ファンケルの名前を押し出したい企業が多かった。グループがもつ処方開発・生産のノウハウを活用し、より多くの製造受託に向けてアピールすることが狙い。現在、国内企業からの依頼の多くはファンケルラボが受けており、国外やファンケルの名前を押し出さない方針の企業はニコスタービューテックで受けている」と楯課長。

 直近では、4月に発売した東急ハンズのオリジナル商品「カルメ(CALMER)」は、ファンケルラボで依頼を受けて製造している。

 こうした動きも依頼が増えているからこそ。「以前から異業種からの依頼はあるが、3〜4年前から増えている。DtoCなどIT業界の参入や女性向け事業を行う企業の参入が多いが、最近では化粧品にまったく接点のない異業種からの問い合わせもある」(楯課長)

●化粧品であらゆる場面に付加価値を生み出す

 小売りのPBが来店動機を生み出すように、化粧品が“付加価値”として働く事例は増えている。ホテルアメニティーは滞在体験を高め、他施設と差別化できるツールとして再注目されるようになった。

 その背景には、インバウンドや東京オリンピック需要を受けた新規開業増による競争の激化、ブティックホテルの登場や新型コロナ禍で人気が高まった“ステイケーション”(バケーションと滞在を合わせた造語)により滞在を楽しむ需要が高まったことが挙げられる。

 20年4月に東京・竹芝に開業した「メズム東京、オートグラフ コレクション」(以下、メズム東京)は「ミシュランガイド東京2021」で4つ星に輝くラグジュアリーホテルだ。専用のバスアメニティー「THE BLEND(ザ ブレンド)」はメンズスキンケアブランド「BULK HOMME(バルクオム)」を展開するバルクオムが開発している。

 バルクオムでアメニティー事業を取り仕切るスペシャルリテールディビジョンの木下達哉マネージャーは「メズム東京側から『BULK HOMMEをホテルに置きたい』とお声がけいただき、取り組みが実現した。メンズ向けブランドだが女性ユーザーも一定数おり、シェアドコスメとも呼ばれている。さまざまなお客が訪れるホテルには向いている商品ではないか」と語る。

 「THE BLEND」はオリジナル製品だが、ベースは「BULK HOMME」の処方だ。パウチタイプの市販品から、ポンプ式のアメニティーに適したテクスチャーに変更。また、女性客を意識した保湿効果の追加のほか、香りも既存製品をベースに変更を加えた。

 バルクオムのアメニティー事業はメズム東京を皮切りに本格スタート。その1年ほど前、18年8月には資生堂がアメニティー事業撤退を発表し、同年12月には営業を終了した。スピード撤退の影響を受けたホテルは多く、アメニティーは一時品薄状態に。

 木下マネージャーは「アメニティーが見直されるきっかけともなる出来事で、そこに商機を見いだしたところはある」と話す。現在は「星野リゾート界 箱根」など、シティー〜ラグジュアリークラスを中心に約150店のホテルに供給している。メズム東京以外への供給はポンプ式または使い切りタイプの「BULK HOMME」ブランドの製品だ。

 これについて木下マネージャーは、主な理由を「もともと『BULK HOMME』はこれがベストだ、という商品を作っており、プロユースやセカンドラインなど複数ラインアップを開発していない。またアメニティー事業開始の経緯として、ブランドを体験してもらうという意図がある。そのためホテルだけでなく、体験してもらいやすい“非日常の場所”でタッチポイントを作っている」と話す。

 これまでも同社はフィットネスや温浴施設などと協業しており、昨年は温浴施設とのコラボ企画「バルク男湯(オユ)」を実施。3月から開催中の「チームラボ & TikTok, チームラボリコネクト:アートとサウナ 六本木」では「THE TONER」(化粧水)と「THE LOTION」(乳液)を設置している。ブランドにとっては新たな消費者との出会いがあり、施設にとっては消費者満足の付加価値として受け入れられている。

 新型コロナの影響で人の流れが鈍くなり、国内化粧品市場も以前ほどの勢いがなくなっている。価値提供としての化粧品の存在が大きくなっていけば、化粧品業界、異業種ともに、この状況を打破する一助となるはずだ。

臼井杏奈(うすい あんな/ライター、編集者)