日本人は「日本の○○が世界一」という話が大好物だが、その中でわりとメジャーなものに「日本は世界一の自販機大国」というものがある。

 普及台数では米国に及ばないものの、人口比にすると世界一の多さであることに加えて、他国では別々の自販機で売られることが一般的な、温かい飲料と、冷たい飲料が一つの自販機で売られるなど、高い技術力がある。

 また、日本中の「屋外」に設置されていることも「自販機大国」たる所以(ゆえん)である。わが国では、人の往来の少ない海岸から田んぼの真ん中など全国津々浦々に自販機が行き届いている。実はこれはかなり珍しい光景だ。海外では、屋外に設置すると、不届き者が破壊して金や商品を奪ってしまうことが圧倒的に多いからだ。

 つまり、自販機は、日本の技術力や豊かさを体現しているサービスだけではなく、治安の良さや、日本人の民度の高さを象徴した「文化」といった側面もあるのだ。

 だが、奢(おご)れるものは久しからず、ではないが、そんな「世界一の自販機大国」にかげりが見えてきている。「衰退」に歯止めがかからないのだ。

 一般社団法人日本自動販売システム機械工業会によれば、日本の自販機普及台数は2000年に560万台を突破してから「緩やかな減少」をして、10年後の2010年には40万台減って520万台になった。

 では、それからさらに10年経過した20年にはどうなったかというと、404万5800台。この10年でなんと116万台が消えた。00年から10年までの3倍のスピードで減っている。

 この激減を引き起こした「犯人」と目されているのが「コンビニコーヒー」だ。2010年代からコンビニ各社が力を入れている「レジ横の淹れたてコーヒー」が普及したことで、自販機で缶コーヒーを購入していた客をガッツリと奪われてしまったというのだ。

 ただ、もっと本質的なところでいえば、やはり「人口減少」によるところが大きい。現在、日本では「人口増時代に調子に乗って広げすぎたインフラが人口減少に転じて維持できない」問題がいたるところで起きている。

●海外で普及する「スマート自販機」

 ドミナント戦略に固執するあまり各地でカニバリが発生し、労働環境が急速にブラック化しているコンビニ、全国2万局を維持するため高齢者詐欺にまで手を染めた郵便局、ノルマ達成のため不正建築に走ったレオパレス21など、例を挙げればキリがない。

 人口増にともなってイケイケドンドンで全国に普及した自販機も、まさしくこれらと同じパターンに陥っている可能性が高い。そこに加えて事態が深刻なのは、「衰退」しているのが「数」だけではないことだ。

 実は新型コロナウイルスの世界的な流行によって、世界では「自販機ビジネス」が大いににぎわっている。「非接触」という利点から、食品はもちろん生活用品、家電製品、さらにはコロナの検査キットなどの配布に利用するなど、「自販機」のポテンシャルに注目が集まっているのだ。

 といっても、これらは日本のいたるところにあふれている、小銭を入れてポチッと押すようなタイプとはちょっと違う。アプリと連動している、いわゆる「スマート自販機」(スマートベンダー)なのだ。

 分かりやすいのが、米シカゴを中心に展開されているファーマーズフリッジのスマート自販機だ。この自販機では毎朝調理されたサラダやサンドイッチを提供しているが、注文や決済もすべてアプリ上で行えるようにした。自販機はすべてIoTでつながっているので、何がどれだけ売れるのかがリアルタイムで分かるために、フードロス削減にも役立っているという。

 日本でも昨年11月、株式会社KOMPEITOがサラダを購入できる自販機「SALAD STAND(サラダスタンド)」の1号機を、秋葉原のコワーキングスペースに置いたと話題になったが、ファーマーズフリッジは13年からこのような自販機を展開しており、19年時点で既に空港、病院、ドラッグストア、コンビニ、Amazon Go Storeなどの小売店などに250台設置されている。

●気がついたら遅れていた

 今年3月、日本では有名店のラーメンを買うことができる冷凍自販機「ヌードルツアーズ」ができたと話題になったが、米国では既に「できたてのラーメン」が出てくる自販機が市民権を獲得しつつある。

 15年に設立されたシリコンバレーのフードテック企業「ヨーカイ・エクスプレス」の自販機だ。空港、大学、ショッピングセンターなどに設置されているこの自販機は、わずか45秒で調理された、ラーメン、うどん、フォーなどが出てくるという優れもので全米で急速に展開しており、18年にはテスラの工場にも導入されて、イーロンマスクにドヤされる従業員の癒しになったと話題になった。

 今年8月には日本上陸するということで、「ミシュランガイド東京」にも掲載された名店「麺処 びぎ屋」など日本のラーメン店とのコラボレーションすることも決まっているという。

 さて、ここまで言えば、日本の自販機の「衰退」が「数」だけはない、と申し上げた理由が分かっていただけたのではないか。「全国どこでも温かい缶コーヒーや冷たいジュースが買えるなんて、日本の自販機は進んでる!」と得意になっているうちに、気がついたら世界のスマート自販機という新たな潮流に乗り遅れてしまっていたのだ。

 日本が「スマート自販機後進国」だということは、残念ながら隣の韓国を見ても分かる。

 韓国ではIoTの進化によって、サムギョプサル用の牛肉、コスメ、文学作品を販売するスマート自販機が登場している。また、同じような技術を用いて「スマート図書館」も増えてきている。スマート図書館とは、地下鉄の駅やバスターミナルなどに設置している400冊から600冊ほどの図書を備える自動貸出機のこと。タッチパネルで借りたい本のタイトルや著者、出版社を検索できるようにし、借りたい本をスマートフォンで予約することも可能とした。

 韓国・文化体育観光部によれば、スマート図書館は、国内57カ所設置されている。コロナの感染拡大で図書館が休業となった際には大いに役立ったという。

 韓国の自販機ビジネスは、ロッテが日本からコーヒー自販機400台を導入したことがきっかけとされている。このほかにも日本モデルを導入したビジネスが多くあるので、どうしても日本人は「韓国は日本より遅れている」という先入観が強い。だが、いつの間にやら「本家を追い抜かしたサービス」もある。スマート自販機もその一つだ。

●時代の流れに乗り遅れた背景

 このようなシビアな現実がつきつけられると、次に気になるのはなぜ「世界一の自販機大国」であったはずの日本が、新しい時代の流れに乗り遅れてしまったのかである。

 政治が悪い、法律が悪い、島国根性が悪い、などいろいろなご意見があるだろうが、筆者は日本の自販機ビジネスの「多様性のなさ」が原因ではないかと思っている。

 日本自動販売システム機械工業会によると、日本の自販機の56.4%は「飲料自販機」だ。その次に多いのが、コインロッカーや自動精算機などの「自動サービス機」(32.1%)である。日用品雑貨自販機は5.2%で、食品自販機になるとわずか1.7%しかない。

 つまり、日本のことを「世界一の自販機大国」というが、正確には「世界一の飲料自販機大国」というべきなのだ。

 「まあ、自販機なんてそんなもんじゃないの?」と思うかもしれないが、ここまで露骨な「飲料自販機一強」という国は珍しい。同じく日本自動販売システム機械工業会の「自販機普及台数と年間自販金額の日米比較」というデータがある。

 これによれば、米国の飲料自販機の普及台数は約300万台で、日本は約250万台とそれほど大きな差はないのに対して、食品自販機は米国が約143万台で、日本は7万台弱ほどで20分の1となっている。

 この「圧倒的な格差」こそが、日本が世界のスマート自販機の潮流に乗り遅れた最大の原因ではないか。米国の自販機は飲料だけではなく、スナック菓子、クッキー、アイスなどさまざまなものを売っている。自販機に多様性があるので、テクノロジーの進化にともなって多種多様なビジネスが生まれる。作りたてのサラダや、でき立てのラーメンを自販機で売ってみようというスタートアップも登場するのだ。

 しかし、日本では食品を自販機で買うカルチャーは定着しなかった。昔、高速サービスエリアなどに、ハンバーガーや冷凍食品の自販機が設置されたが、時代の流れで消え去ってしまい、たまに目にすると「へえ、こんな自販機あるんだ」と驚かれるマイナーな存在となってしまったのだ。

●このままではジリ貧

 こうして、日本ではIoTによるスマート化も飲料自販機に限定された。多様性を欠いたマーケットで、多種多様なビジネスが生まれるわけがない。つまり、日本がスマート自販機という世界の流れに取り残されたのは必然だったのだ。

 では、なぜ日本では食品自販機のジャンルがまったく育たなかったのか。いろいろなご意見があるだろうが、これもやはり「コンビニ」ではないか。

 24時間営業のコンビニでおにぎりや弁当が買えることが当たり前のこの国で、「無人の販売機で、サラダやラーメンが変えたら便利だな」という発想はなかなか生まれづらい。

 よく言われるが、日本のコンビニの接客は「世界一」だ。最新鋭のスマート自販機でも「温めますか?」「箸つけますか?」なんて聞いて、客の顔色はうかがってくれない。つまり、日本では皮肉なことに、コンビニの「人力サービス」の便利さや心地良さが、自販機のイノベーションをはばんでしまっていたのだ。

 とはいえ、悪い話ばかりではない。食品自販機がわずか1.7%のシェアしかなく、スマート自販機も諸外国からかなり遅れていることは裏を返せば、この分野はすさまじい伸び代のある「超成長産業」でもあるのだ。

 日本の観光業は諸外国に比べて整備が進んでおらず、長く斜陽産業と言われてきたが、13年からの国の観光立国戦略の推進によって今では基幹産業にまで成長した。それと同じで、これまでほとんど開拓されていない食品自販機市場は大きなポテンシャルを秘めているのだ。

 飲料自販機市場はもはや頭打ちで、飲料メーカーの多くは国内市場に見切りをつけて海外を目指しているが、食品自販機市場に関しては、開拓しがいのある超ブルーオーシャンだ。ヨーカイ・エクスプレスのような海外フードテック企業が日本上陸をして来たのが、その証左である。

 「食品自販機界のワークマン」なんて呼ばれる急成長企業が、メディアをにぎわせる日もそう遠くないのかもしれない。

(窪田順生)