プチプチプチ――。

 ポッチが規則正しく並んだ気泡シートを手にすると、「プチプチせずにはいられない」といった人も多いのでは。筆者も子どものころには「プチプチ」を楽しんでいたが、中学生ごろだろうか。まるで雑巾を絞るように、気泡シートを丸めてギュっとチカラを入れれば「プチプチプチプチ!」と一気にたくさんのポッチをつぶす“ワザ”を習得してから、一つずつ押しつぶすことから“卒業”した。

 そして、数十年が経ち、いまは「プチプチスパスパ」したい気分で一杯なのである。「なんだよ、そのプチプチスパスパって」と思われた人も多いかもしれないが、「プチプチ(R)」を製造する川上産業(東京都千代田区)が、手で真っすぐに切れる気泡シートを開発したのだ。その名は「スパスパ」(価格3432円〜)である。

 プチプチを使うときには、包むモノのサイズに合わせて、ハサミで切らなければいけない。慣れた人であれば、手際よく「シュー」と切って、「ササっ」と包み込んでいく。しかし、筆者のような素人は、うまくいかない。ハサミを手にするものの、ゆがんだり、ガタガタしたり。「あー、またうまく切れなかったなあ」と思っても、あきらめてモノを包むわけだが、スパスパを使えばそうした不満も“スパ”っとゼロにしてくれるのだ。

 それにしても、なぜこのような商品を開発したのか。同社の杉山彩香さんに聞いたところ「ここ数年、C2C(個人間取引)がますます増えていて、利用者から『簡単に包み込めることはできないのか』『プチプチが真っすぐ切れない』といった声がありました。そうしたニーズを受けて、販売することにしました」とのこと。

●スパスパの特徴

 スパスパの特徴は、6つある。(1)ポッチとポッチの間のミゾ部分に手で切り込みを入れて割くと、スパっと切れる(2)基盤目配列でポッチを数えやすいので、包むモノのサイズに合わせて梱包できる(3)従来のプチプチと同じように、包むときに破れることはほとんどない(4)開けるときも、手でスパッと切ることができる(5)リサイクル率は80%以上――。そして最後の(6)が最も重要で、スパスパでもプチプチを楽しむことができるのだ。

 と、ここまで書いて、気になることが一つ。スパスパをどうやって開発したのかである。四角のポッチとポッチの間にミゾがあって、そこを起点に切ることができるので、素人の筆者は「それほど難しいことではないよね」と思っていたが、話を詳しく聞いてみると、それはとんでもない勘違いであることが分かってきたのだ。

 開発がスタートしたのは、2004年のことである。一万円札が福沢諭吉になって、ヨン様フィーバーがあって、iPod miniが登場して。そんな年に「こうしたらどうか」「いやいや、それだとダメでしょ」といった会話を重ねながら、モノづくりを行っていたのである。

 では、具体的にどんなことをしていたのかというと、やはり「切れるようにすること」が難しかったようだ。素材の樹脂は、基本的に強い。厚みを薄くしても、手で真っすぐ切ることは難しい。そんな特徴があるので、うまくいかないのは当然である。「ああでもない、こうでもない」と頭を使って、手を動かしてアプローチするものの、思ったように切ることができない。開発リーダーの佐藤浩司さんは、当時のことをこのように振り返る。「いろいろやってみましたが、うまくいかなくて。チームのメンバーからは『本当にできるのかな』といった声も出てきました」

 何度やってもダメ。手で真っすぐ切ることができない――。凡人であれば、そこで断念するはずだが、このチームはちょっと違う。開発がスタートして8年が経っても、「手で真っすぐ切るにはどうすればいいのか」「何かいい素材はないのか」とスパッとあきらめずに、知恵を絞って新しい商品を生み出そうとしていたのだ。

●開発の背景に3つのポイント

 話はちょっと変わるが、手で紙を切るとき、そのままビリビリとやっても、真っすぐ切ることは難しい。というわけで、折り目を入れる人が多いはずである。それでもうまく切れないことがあるが、なにもしないよりはマシである。

 開発チームは気泡シートに折り目を入れれば、うまくいくのではないかと考えた。しかし、問題は素材である。紙は簡単に切れるが、相手は樹脂だ。加熱してもダメ、各列にミシン目を入れようとしてもダメ。テストを50回ほど繰り返したものの、理想の「ミゾ」を手にすることはできなかった。

 ポッチとポッチの間に、碁盤の目のようなミゾをつくりたい。そのためには、樹脂を薄くしなければいけない、と考えていたが、それは固定概念=悪だったようだ。結論を先に言うと、薄くしなくても理想のミゾをつくることに成功したのだ。

 では、どうやってそのミゾをつくることができたのか。ヒントは「ゴミ箱」の中にあった。「ゴミ箱の中に不良品のプチプチが捨ててあって、それは樹脂がペロッとはがれていたんですよね。その構造をヒントに、開発を進めていきました」(佐藤さん)

 ここから先は「企業秘密」ということなので、残念ながら詳細を伝えることができないが、素材に特殊な加工を施すことで、手で真っすぐ切ることができる「ミゾ」が完成したのだ。

 これまでの工程を振り返ると、スパスパ誕生の背景には3つのポイントがある。それは「形」「素材」「構造」。1つめの「形」について、プチプチに慣れた人からすれば「丸でいいでしょ、なぜ四角にしたの?」と思われたかもしれないが、丸ポッチを碁盤の目のように並べるとどうなるのか。丸と丸の間に、無駄な空間ができる。一方、四角であれば、効率よく並べることができるので、なにもない部分をできるだけ少なくすることができるのだ。

 2つめの「素材」は、ポリエチレンに「ピー(企業秘密)」を加えた。配合をちょっと変えるだけで、うまく切れなくなるそうなので、この世界は奥が深い。そして、3つめの「構造」はミゾである。ミゾについては先ほど紹介したので、割愛する。

●プチプチの存在意義

 これまでになかった商品が生まれたわけだが、気になるのは手で切れるスパスパほうが便利となれば、プチプチの存在意義である。プチプチを販売したのは53年前(1968年)のこと。その間、全国にたくさんの愛好家が生まれたので、「終売」の文字が出てくれば、「買い占め騒動が起きるのでは?」と心配してしまうが、それは杞憂(きゆう)のようである。

 実はプチプチには、たくさんの種類がある。衝撃を吸収するだけでなく、静電気を防止したり、保冷機能を加えたり、環境に配慮していたり。その数は、100種類ほど。特注品を加えると、1000種類ほどになる。一方のスパスパは、いまのところ4種類だけ。

 明日からスパスパが一気に普及することはないが、10年後、20年後はどうなるのか。プチプチだけを楽しむ人は姿を消し、「プチプチスパスパ」という言葉が定着しているのかもしれない。

(土肥義則)