●いまさら聞けない電子帳簿保存法

 令和3年度の税制改正で、電子帳簿保存法(※)が改正されました。電子帳簿保存法は、これまでも数回の改正が行われてきましたが、令和3年度の改正はこれまでと比べると抜本的改革というべき内容です。

 ただし、これまで取引先からメールに添付された請求書のPDFファイルを紙で出力して保存していた会社では、エビデンスの原本としては認められなくなるという改正点もあります。「うちの会社は電子帳簿保存法とは関係ない」と考えていても、知らないうちに税務上認められない手続きになる可能性が高いので、きちんと理解しておかなければなりません。

(※)正式な法律の名称は「電子計算機を使用して作成する国税関係帳簿書類の保存方法等の特例に関する法律」です。

 まず、電子帳簿保存法の成り立ちから説明します。いまさら聞けないお話です。

●電子帳簿保存法とe-文書法は、別々の法律

 セミナーや研修会で「電子帳簿保存法、いわゆるe-文書法ですが……」とか「e-文書法である電子帳簿保存法は……」などという表現で解説されることがありますが、間違っています。電子帳簿保存法とe-文書法は別々の法律です。ただ密接な関連はあります。

 先にできたのは電子帳簿保存法で、1998年に公布されました。このときの電子帳簿保存法で可能になったのが、国税関係帳簿の電子保存です。国税関係帳簿は、例えば、総勘定元帳、仕訳帳、得意先元帳、固定資産台帳などの帳簿です。エビデンスは含まれません。

 98年に電子帳簿保存法が公布されるまで、会社の規模を問わず、国税関係帳簿は全て紙での保存が義務付けられていました。従って、大企業ではほとんど誰も見ないにもかかわらず、おびただしいページ数の帳簿類を全てプリントアウトして、7年以上も保管し続けていました。プリントアウトの工数、紙代、保管代、運送代など、大変な無駄が発生していました。

 それが電子的に保存できるようになり、プリントアウトをしなくてすむようになったのです。これが今から23年前のことです。

 その後、2005年になってe-文書法が公布されました。e-文書法公布の背景は、世界中でIT化が進むとともに、経営スピードもどんどん速くなっていく中で、日本企業の経営スピードが上がらないことが問題視されていました。

 日本企業の経営スピードが上がらない原因の一つが、間接部門の業務が非効率で、情報が経営に達するスピードが遅いことだと考えられました。

 日本企業は、紙文化だといわれています。日本生産性本部の「労働生産性の国際比較2018」では、先進国7カ国での労働生産性が、日本はずっと最下位になっていることが分かります。経理・人事・法務・総務などといった、いわゆる間接業務の労働生産性が、米国と比べると30%以上も低いのです。同じ利益を稼ぐのに、日本企業は米国企業と比べて30%以上も人件費をかけているということです。

 日本企業の間接業務の労働生産性が低い、根本的な原因が紙文化だといわれています。紙を中心にした業務では、紙に絡んでいろいろな作業が併発します。

 入力・登録、貼付け、出力、複写(コピー)、押印、バインド、回覧(何人も……)、山積み(デスクに他の物が置けなくなる)、整理、探す(しかも、なかなか見つからない)、破損・紛失、作り直し、ファイリング(二穴パンチ、インデックス、背表紙作成)、書庫・キャビネット保管、他部署などからの依頼による「エビデンス取り出し・閲覧・PDF化」、倉庫へ搬出(段ボール作成、あて名書き、運送業者手配)、税務調査・監査のために倉庫から搬出、監査人・調査官のために段ボールからエビデンスを探しまくり、提示する──などなど、パッと思い付くだけでもこんなにあるのです。

 米国企業、いえ、日本以外の企業は、こんなことはしていません。日本以外の企業は、紙を中心とした業務になっていないからです。日本以外の企業は、たとえ紙でエビデンスを入手しても、すぐに電子化(PDF化)して紙は捨てているのです。

 この状況を打破するために、05年にe-文書法が公布されました。05年当時、「紙で保存する」ことを義務付けた法令は、298本ありました。このうち251本の法令に対して「電子的な保存」を認めるようにしたのが、e-文書法なのです。

 そして、同年この影響を受けて、電子帳簿保存法も改正されました。05年に改正された電子帳簿保存法では、国税関係帳簿だけではなく、国税関係書類に対しても電子保存を認められることになりました。

 国税関係書類は、例えば、領収書、請求書、契約書、見積書、納品書などのエビデンスのことです。つまり、日本では今から16年も前の05年からエビデンスも、紙ではなく電子的に保存できるようになっていたのです。

 しかし、日本企業では、エビデンスの電子保存はあまり普及しませんでした。05年から15年の10年間で、税務署にエビデンスの電子保存申請を行ったのは、わずかに152社。年間平均で約15社です。

 これではそもそもの目的である、「紙をなくそう」そして「経営への情報伝達のスピードアップを図ろう」という目的がほとんど達成できません。そこで15年以降、電子帳簿保存法は改正を重ねられてきました。

●電子帳簿保存法の改正概要

2015年改正

(1)15年の改正で、それまでお金やモノの流れに直接関連する、請求書や領収書などのエビデンス(重要書類)の電子ファイルに必要とされていた、電子署名が不要になりました。

 その代わり、それまでお金やモノの流れに直接的には関連しない、見積書などのエビデンス(一般書類)の電子ファイルにはタイムスタンプを付すことが義務付けられました。

(2)また、15年からエビデンスの電子保存を妨げる最大の原因といわれていた「3万円ルール」が撤廃されました。3万円ルールとは、「電子保存を認めるのは『3万円未満』のエビデンスだけで、3万円以上のエビデンスについては、紙で保存し続けなければならない」というルールです。これが15年に撤廃されました。

(3)エビデンスの電子保存をするための、税務署への申請手続きを透明化する目的で、以下の3項目の「適正事務処理要件」が明示されました。

(i)記録や承認に関する相互牽制(けんせい)機能

(ii)規定通りに手続きが行われていることをモニタリングする定期的検査

(iii)問題が発生した場合の再発防止の仕組み

 この改正により、税務署にエビデンスの電子保存申請を行った件数は、累計ベースで、16年6月までに380件に、17年6月までに1050件になりました。しかし、日本には約400万社の企業があるといわれていますから、目的を達成するにはまだまだ足りません。

2016年改正

(1)原稿台のある複合機(コピー機にPDF機能などがある機器)やドキュメントスキャナーなどでのスキャンしか認められなかったものが、スマートフォンやデジタルカメラによるスキャン(撮影)も認められるようになりました。

(2)一方、エビデンスを入手した本人がスキャンする場合には、エビデンス一枚一枚に氏名を自署してからスキャンすることが要件として加わり、一部、緩和とは逆行する規定になりました。

 この改正により、税務署にエビデンスの電子保存申請を行った件数は、累計ベースで、18年6月までに1846件に、19年6月までに2898件になりました。しかし目的達成には、まだまだ足りません。

2019年改正

(1)「過去分の重要書類」も電子保存して良いことになりました。それまでは、一般書類については、税務署に承認されれば、過去にさかのぼってスキャンして要件を満たせば紙のエビデンスを捨てられましたが、重要書類も過去分を捨てられるようになりました。

(2)エビデンスを入手した本人がスキャンする場合に付すタイムスタンプは「3日以内」という規定でしたが、「おおむね3営業日以内」となり、土日祝日を挟む場合の要件が緩和されました。

(3)定期的な検査の頻度が、「全ての事業所等を対象として1年に1回以上」という規定でしたが、「おおむね5年のうちに全ての事業所等の検査を行えばよい」、つまりローテーションベースでの実施で良いということになりました。

(4)「請求書や領収書など書類の種類別に検索できる」ことが求められていましたが、「勘定科目別に検索ができれば良い」という要件に緩和されました。

 この改正により、税務署にエビデンスの電子保存申請を行った件数は、累計ベースで20年6月までに4041件になりました。まだまだ足りません。

2020年改正

 コーポレートカードなどによるキャッシュレス決済の場合には、領収書の発行自体が不要になりました。カード会社から報告されるデジタルデータの利用明細を、紙の領収書の代わりにできるようになりました。会食後に、コーポレートカードで決済すれば、飲食店で領収書をもらわなくて済むようになりました

2021年改正(22年1月1日から施行)

(1)税務署への承認がいらなくなります。

 これまではエビデンスの原本を紙ではなく電子データにするためには、税務署に申請して承認を受ける必要がありました。これが、電子保存にしたければいつからでもできるようになったのです。

 これはエビデンスに限らず、帳簿も同様です。

(2)これまでは、最短の場合、エビデンスを入手した日から「おおむね3営業日以内」にスキャンしてタイムスタンプを付す必要がありました。これが、エビデンス受領の翌日から2カ月以内のスキャンで良いことになったのです。日程的にずいぶん余裕が認められるようになりました。

(3)エビデンスを入手した本人がスキャンする場合には、エビデンス一枚一枚に自署してからスキャンすることが要件でした。これが、受領者本人の自署がいらなくなったのです。実務的には、大幅な工数削減といえるでしょう。

(4)訂正・削除が確認できるシステムや訂正・削除ができないシステムに保存する場合は、タイムスタンプがいらないことになりました。経費精算システムや財務会計システムなど、エビデンスをPDFファイルにして保存できる機能があって、そのPDFファイルの訂正・削除ができないシステムであれば、タイムスタンプはいらないのです。あるいは、訂正・削除ができてもそのログが確認できるシステムでも同様です。

(5)相互牽制も必要なくなりました。

(6)定期検査も必要なくなりました。

 「もう面倒なことは何もいらない」といっても過言ではありません。21年の改正は、まさに画期的といえます。ただ、留意すべき点があります。

(後編)「『うちは関係ない』とは言えない、2つの注意点」に続きます。

●著者紹介:中田清穂(なかたせいほ)

株式会社Dirbato(ディルバート)公認会計士

青山監査法人、プライスウォーターハウスコンサルタント株式会社を経て、株式会社ディーバを設立。連結経営システムDivaSystemを開発し事業を展開。導入実績400社を超えた、上場1年前に後進に譲り独立。

財務経理の現場と経営との関連にこだわり、課題を探求し、解決策を提示し続ける。財務経理向けにサービスを提供する業者へのコンサルティングも実施。

現在、株式会社Dirbato(ディルバート)で財務経理DX事業責任者として活動中。

https://www.dirbato.co.jp/information/20210701/