「オヤカク」という言葉がある。新卒採用の内定者に対し、「親には当社に入社することを承諾してもらっているのか?」と確認を取ることだ。

 「就職に親が関与してくるなんて」とネガティブな声も聞こえてくるこの流れだが、2015年前後にはたびたびメディアでも取り上げられた。

 内定の理由を手紙にしたためて親に送る、自宅を訪問する、入社式に親を招待する──各社がさまざまに工夫して親へのアプローチに取り組むのは、多くの場合、親の反対による内定辞退を恐れるからだ。

 Web面接の浸透やオンラインインターンシップの定着など、コロナ禍で様相が一変した新卒採用市場において、各社の親に対する取り組みは、どう変化しているのか取材した。

●入社式に家族も招待 コロナ禍ではライブ配信

 オタフクソース(広島県)では、「オヤカク」の流行よりもずっと前、約40年ほど前から入社式に家族を招待してきた。当初は会社の規模が小さく、入社式に限らずさまざまな行事に家族を招いていた。コロナ禍においては、代わりに家族限定でライブ配信を行っている。

 実施のメリットは何か。人事部の高田一慶氏(※1)は、「経営者や同期を知ることで安心されるとともに、家族からの支援につながること」を挙げる。

(※1)「高」は、正しくは「はしごだか」。

 「買い物でオタフク商品を見たときに、親近感がわくようになった」と、家族にも自社製品のファンになってもらえる効果もある。

 式では、新入社員が社会への旅立ちメッセージ「声の手紙」を読み上げる。入社式という社会人の節目を迎える場で、家族や役員が見守るなか、今の思いを発表するものだ。これまでお世話になった人へ感謝の気持ちを歌や特技で伝えるなど、表現方法はさまざま。家族からは、「社会でやっていく決意を聞けて良かった」と好評だという。

●親への手紙を中止 その理由

 一方で、一時は取り組んでいた親へのアプローチを、中止した企業もある。不動産事業のリスト(神奈川県横浜市)では、14年ごろから両親に対し、手紙やインターン時の動画を送っていたが、現在は行っていないという。両親の名前を明記のうえ、学生の長所など、内定を出した理由を手紙にしたためていた。

 もともと、全ての学生に対してではなく、入社を希望しているが両親へうまく伝えられないと悩んでいる学生を対象に行っていた。そうした学生をサポートすることで、自分の意思で将来を決める自主性を身につけてもらうねらいがあったという。

 内定者本人からは実際に、自分の意見を伝える、説明することに対する自信がついたという反応があった。こうした経験や自信は、入社後の顧客対応にも生かされると期待している。家族からも、「会社について知ることができ安心した」「インターン動画を通じて頑張っている姿を見れて良かった」という声が寄せられ、お礼のメールが届いたこともあったというが、なぜ取りやめたのか。

 「世の中全体でみると一概にはそう言えないかもしれませんが、当社では内定者が後輩に当社のことを紹介・推薦することも多いため、自主性の高い学生が集まるようになったと感じています」(同社広報部・市原奈津美氏)

 内定者が親を説得できないという課題を、別の要因で解消できたため、親へのアプローチは取りやめた形だ。必要性がなくなったので中止したが、これからも学生からの相談があれば親へのアプローチを検討していきたいという。

●数年前に盛り上がった「オヤカク」 現在の流れは

 企業の親に対する取り組みは、現在、新卒採用市場においてどうなっているのだろうか。新卒市場の動向に詳しい学情の執行役員、歌津智義氏に話を聞いた。

 「2014年頃には、メディアで『オヤカク』が報じられることが増えました。その後、導入し継続している企業には定着し、試してみても期待通りの成果がなかった企業は既にやめています。これから検討したいという企業はあまりなく、する企業はする、しない企業はしないと定着したような状況です」(歌津氏)

 そもそも、親への取り組みはどのような背景から生まれたのか。

 現在、就職活動中の22卒学生の多くが生まれたのは1999年。99年の人口動態をもとに両親の平均年齢を算出してみると、父親、母親ともに53歳。スマホを駆使し、インターネットでの情報収集が身近な世代だ。

 親世代がインターネットで企業の口コミ情報をチェックできるようになったという世代的な変化や、ブラック企業問題への関心の高まりが、親対策の潮流を生んだのではと歌津氏は指摘する。

 離職率が高いなど、一般的に労働環境としてあまりよくないイメージを持たれている業界の人事担当者が、悪印象を払拭(しょく)するために取り組むケースが多いという。

 また、一般的に親子の“就活の常識”には世代間ギャップがあることも理由の一つだ。その最たるものはITソフトウェア業界だという。

 「学生からは人気の高い業界の一つで、親御さんも成長する分野だとは知っています。しかし資本金が少ない会社も多く、事業内容もさまざまなため、本当に大丈夫なのかと心配する親も多いのです」(歌津氏)

 親対策のみに限らず、健全経営を目指す社会的な流れとして、企業は第三者からの評価を重視するようになってきている。求人メディアには過去3年間の離職率、有給取得率、女性役員比率を公開することが一般的だ。

 時には業績や成長の度合いよりも、環境問題や女性活躍推進などの社会問題へのアプローチをどうPRしていくか、また「ブラック企業ではないと、いかに分かってもらうか」(歌津氏)に、担当者の関心が移っているのだ。

 こうした背景から、これまで親も参加できる説明会を行う企業もあったが、コロナ禍をきっかけにオンラインに切り替えざるを得なくなった。代わりに、動画などインターネットで公開する素材に注力しているという。

 また、コロナ禍で、学生も対面で情報を得る機会が減った。大学の対面授業やサークル活動、OB訪問といった情報交換の機会が限られ、友人や先輩に相談しづらい。こうした状況から、相談できる社会人として親の存在感が高まっていることも考えられるという。

●学生に好評な親対策、不評な親対策

 企業がさまざまな趣向を凝らして行う親へのアプローチは、学生にはどう受け止められているのだろうか。

 「親御さんにも理解してもらいたいという姿勢が伝われば、一定の理解は得られるようです。しかし、親に内定承諾書への署名を求めるなど、学生を束縛し、強制させるためのようなものは、学生が企業への疑いを強め、身構えてしまいます。学生の志望度がどのくらいのレベルなのかを踏まえて、やり方を考えていくべきでしょう」(歌津氏)

 親へのアプローチの一環で、内定者の自宅訪問を行ってた企業の多くは新型コロナウイルス流行に伴い中止にしているが、なかには続けている企業もあるという。

 21卒で入社した筆者は正直なところ、自宅訪問そのものに抵抗がある。そのうえコロナ禍においても自宅訪問を続けているとなれば、内定者が先行きに不安を覚えるのも当然だろう。親へのアプローチを検討する際には、内定者本人の意向を確認することも忘れずにいてもらいたい。