7月23日に開幕した東京五輪では、開会式が催された新国立競技場からオープニングに694発、フィナーレに1488発の花火が夜空に打ち上げられた。今年はコロナ禍で、昨年に引き続き大半の花火大会が中止に追い込まれているが、テレビやインターネットで開会式を視聴して、「やはり日本の夏は花火だ」と実感した人も多いのではないだろうか。

 花火商戦はコロナ禍という特殊な状況下にある。2年連続で花火大会用の打ち上げ花火が苦戦を余儀なくされる一方で、家庭用の手持ち花火をはじめとする玩具花火が売れている。ホームセンター大手のコーナンでは、「花火の売れ行きはずっと好調で、昨年の5〜7月と比べて25%ほど伸びている」としている。人々が花火を渇望し、家族や親しい人と少人数で楽しむシーンが増えていることが示されている。

 「昨年も玩具花火は好調だったが、春に多くの学校が休校になって、その代わりに夏休みがほとんどなかった。ゆっくり花火を楽しめる夏休みの期間が短かった。その点、今年は、しっかりと例年通り夏休みを取るので、より一層期待できる」(愛知県西尾市にある花火と雑貨の総合商社・若松屋)と、花火業界からの期待も大きい。

 販売期間や価格帯を見直して成果を上げているのは、日本で一番玩具花火を売っているとされる「ドン・キホーテ」だ。夏のシーズン商品である花火は5月から販売を開始する店舗が多いが、「昨年から続いているアウトドアブームに絡めて、3月から販売を強化したのが奏功している」(PPIH・広報)。また、「中〜低価格の手持ち花火の人気が高まる傾向がある」(同)として、手持ち花火のボリュームセットを強化している。

 さらに、SNSに花火をしている風景を投稿する機運が高まっていて、コンサートに持参する使い捨てのペンライトを花火セットに入れて販売する動きもある。暗闇での演出効果を狙ってのことだ。

 今夏の花火事情をまとめてみた。

●花火の文化的側面

 これまで、花火業界の打ち上げ花火については、「花火大会の開催件数・規模は概ね一定であり、需要は安定基調」(日本政策投資銀行東北支店「花火産業の成長戦略」、2016年7月発表)とされてきた。一方で玩具花火は、「少子化、テレビゲーム、(遊ぶ)場所の減少から需要の伸びは大きくないと予想される」(同)と考えられてきた。

 ところが、花火業者319社が加盟する日本煙火協会(東京都中央区)によれば、コロナ禍で20年は花火大会のおよそ9割が中止となり、打ち上げ花火の売り上げに壊滅的な打撃を与えている。21年も、集客力の高い有名な花火大会ほど、密をつくり感染拡大を招く恐れがあるという理由から、自粛を求められる傾向が強い。全国を見渡すと、大曲、長岡、隅田川、江戸川区、東京湾、天神祭、関門海峡など、大半の花火大会が中止になった。土浦は今のところ、秋が深まった11月6日(土曜日)に開催の予定だ。

 花火のメーカーは年商5億円以下の中小零細で占められていて、江戸・明治の頃から脈々と花火師の家系が受け継いできたところが多い。それだけに、打ち上げ花火の需要が2年連続で9割近く消失し、今後の見通しもはっきりしない現状は、非常に厳しいものがある。こうしたことを踏まえると、五輪開催自体に批判は多々あろうが、開会式で首都・東京のど真ん中から花火を世界に発信できたのは、未来につながるきっかけとなったはずだ。

 もともと、花火には鎮魂、慰霊、疫病退散の意味合いがあり、お盆の時期に灯篭流しと共に打ち上げられたと言われる。例えば、3大花火大会の1つである「長岡まつり大花火大会」(新潟県長岡市)。この花火大会は、1945年8月1日に旧市街地の8割が失われた長岡空襲における犠牲者の慰霊のため、翌年から行われた「長岡復興祭」から始まっている。花火には、死者を弔い無病息災を願う、重厚な文化的メッセージが込められている。

 「お祭で気分が高揚し、人々が集まってお酒を飲んで、新型コロナに感染するから花火大会は望ましくない」という一点のみで、日本文化から排除・絶滅させて良いわけがない。

●縮小していた玩具花火が一転して好調に

 日本煙火協会の「令和2年度事業報告」によれば、花火の市場規模は、打ち上げ花火が約53億円(生産額ベース)。一方、玩具花火は約13億円と、5倍近い開きがある。花火業界は、市場が大きな打ち上げ花火をメインにしてきた。少子高齢化で子どもの数が少なくなっただけでなく、ゲームなど他の遊びの選択肢が増えたことや、花火ができる場所が減っていることが背景にある。

 特に、近年は花火を禁じる公園も多く、花火ができる場所をまとめたサイトが作成されているほどだ。庭付き一戸建ての持ち家ならともかく、賃貸やマンションでは花火が禁じられているケースも多い。近所で花火ができないなら、花火大会を見に行こうとなる。

 ところが、コロナ禍で昨年と今年は、花火大会がなくなってしまった。そこで、せめて密を避けて、家族やカップルのような少人数の集まりで、プライベートに花火を楽しもうという流れになっている。車でキャンプに出掛けて、河川敷や海岸でバーベキューをするだけでなく、花火も楽しむ人たちが増えている。

 20年の玩具花火は、従来の市場がシュリンクしていく傾向から反転して、2桁を超える売れ行きを示した。

 前出・若松屋では、「昨年は梅雨が長く7月まで花火の動きは鈍かったが、梅雨が明けて暑くなった8月に一気に売れて在庫が僅少になった」と振り返る。「今年は梅雨明けがいつもより早く7月中旬になったので、さらに動きが早い」と、玩具花火の売れ行きがさらに加速していると証言する。

 昨年、ドン・キホーテでは、通常なら花火を扱わないような秋冬シーズンも継続して販売。他店より2カ月早い3月から販売を強化して、キャンプなどアウトドアの需要に応えた。その効果もあって「花火を買うならドンキ」といったように、顧客からの信頼を集めるに至っている。

●どのような玩具花火が売れているのか

 それでは、どのような玩具花火が売れているのだろうか。

 ドン・キホーテでは「はなびっぐ」という手持ち花火のボリュームセットが、手頃な価格が好まれ売れている。また、自社開発の手持ち花火ボリュームセットも好調で、約300本も入っているのが特徴だ。

 紙のバケツが付いている商品や、近所迷惑を避けるために大きな音が出ない商品など、付加価値のあるものが望ましい。そして、量が多くて値段が安価、しかも消費者に喜ばれる工夫が凝らされた商品が人気になっている。

 若松屋によれば、家庭向けのロケット花火や打ち上げ花火は、遊ぶ場所がなくなってきているので長期的に縮小傾向。噴出花火の「ドラゴン」、線香花火やススキ花火のような手持ち花火が主流になっているという。

 花火卸売の佐野花火店(愛知県岡崎市)では、「たこおどり」という手持ち花火が売れている。最初はパチパチと普通の線香花火のように光っているが、途中から光が4つ、5つに分岐して、たこが躍っているようにコミカルかつ華やかに変化する。パッケージに描かれている、たこの絵がかわいいとセレクトする人も多い。

 ススキ花火も人気だが、平凡な光り方に飽き足らず、10変色、20変色と、色が多彩に変わる商品もウケている。5色が4回変化して20変色になるなど、1回で何度も楽しめて得をした気分にさせるのが選ばれる理由だ。

 また、手持ち花火を使って文字などを描いてスマートフォンで撮影する、花火文字が流行している。

 花火文字を上手に撮るには、夜景やアーティスティックな写真が撮れるアプリをインストールするのが望ましいとされている。また、よく光り、煙が少ないタイプの花火が好まれている。

 花火とペンライトを組み合わせて楽しむ人もいる。花火大会では、全部打ち終わった後に花火師に感謝の気持ちを示すために、参加者がペンライトを灯(とも)すのだが、家庭用の玩具花火と組み合わせる場合、それとは異なった使い方が広まっている。

 折って使うタイプのスティック型ペンライト「ルミカライト」を販売するルミカ(福岡県古賀市)は、花火セットの中に「ルミカライト」を入れて販売するケースが増えていると明かす。花火文字と同様、ペンライトで文字を描きながら、花火と一緒に写真を撮ってSNSに投稿するのだ。花火を振り回しながら写真を撮ると、火の粉が散るリスクがある。そこで、もっと安全に花火とペンライトアートを融合させてインスタ映えを狙う手法である。

●手持ち花火に商機

 このような手持ち花火の人気に目を付け、「ザ・プリンス パークタワー東京」(東京都港区)では、浴衣を着て手持ち花火で夕涼みが楽しめる「SUZUMUSHI CAFE」なるイベントを、8月1〜30日に開催する。

 “五感を感じる涼”をテーマに、鈴虫の音色を聴きながら縁側で涼を取る「夕涼み」を、光と映像で表現する。水の揺らぎをプロジェクションマッピングで演出し、縁側席では足水を用意する。浴衣レンタルの「YUKATA CLOSET」(女性のみ)や芝公園の一角で手持ち花火が楽しめる「MOONLIGHT PARK」がセットとなっている。

 東京タワーが目の前にそびえ、都心にいながら緑豊かな開放感の中、ゆったりとした夏のひとときを過ごしてもらう趣旨だ。密を避けるため事前のWeb予約が必要。料金は1人3000円で、1プレート料理、1ドリンク、お土産の匂い袋付き。

 「ホテル椿山荘東京」(東京都文京区)では、「セレニティ・ガーデン」にてビアガーデンならぬ「シャンパンガーデン2021」を7〜9月に開催(緊急事態宣言の発令に伴い、7月16日〜8月22日は中止)。平日限定の特典として、1人2本の手持ち花火(線香花火など)をプレゼントする。まず、シャンパンをチーズやタンドリーチキンで楽しんでもらう。その後、会場の「セレニティ・ガーデン」で花火を満喫し、日本の夏を感じてもらおうといった趣旨だ。

 値段は1万4000円(金土日祝は1万5000円)。Webで事前予約が必要。

 高級感あるシティーホテルと、線香花火のような庶民的な手持ち花火の組み合わせには、一見ミスマッチな印象を受ける。しかし、盛大な花火大会や夏祭の自粛が相次ぐ、コロナ禍の夏のおもてなしにはぴったりなアイテムということだろう。

(長浜淳之介)