近年、訪日外国人旅行者の激増により宿泊施設不足が露呈、数多くのホテルなどが誕生した。ホテル“など”と記したのは理由がある。施設数で群を抜いていたカテゴリーが「簡易宿所」といわれる施設であった。簡易宿所とは法律上の区分をあらわす言葉で、ホテル・旅館と区別される。そんな簡易宿所の代表格が「カプセルホテル」や「ホステル」と呼ばれる宿泊施設だ。

 両者に共通する特色は、同一空間を不特定の人々で共有するといったイメージだろう。カプセルホテルでいえば、二段式のカプセルユニットがずらっと並ぶ光景を思い浮かべるが、あのユニットは“ベッド”であり“部屋”ではない。

 その証として消防法令などの要請によりそれぞれのスペースに扉はなく、鍵もかけられない。カプセルユニットが設置された部屋が客室であり、カプセルユニットはあくまでも家具でありベッドである。

 多数の個室を設ける一般のホテルと比べて、短期間の準備で開業できる点も特色だ。イニシャルコストも低廉にして、参入・撤退のスピード感も秀でており、急激に高まった宿泊需要に対してフレキシブルに適応できた業態として注目されてきた。

 筆者は2017年の論評で「国際紛争や経済・環境問題などさまざまな要因で一気にクールダウンするリスクを内含するインバウンド需要へも柔軟に運営対応できる業態」とカプセルホテル事業を評価した。ユーザーからすると、ある程度のプライバシーが確保されるカプセルホテルは、簡易宿所の中でも利用しやすい業態といえよう。

 また、別のゲスト目線からすると、簡易宿所にも他の宿泊施設と同様に入浴(シャワーという場合もある)施設を設けることが法令で定められている。カプセルホテルでは、充実した設備を備えた大浴場を設けているのがよく見られる。露天風呂やサウナ、ジャグジーなど、宿泊利用の他に大浴場のみの利用者へサービスを提供する施設も多い。そもそも温浴施設をメインとしてカプセルホテルも営業しているといった施設もある。

 カプセルホテル業態は、簡易宿所全体の増加率のデータから見てもまさにインバウンドブームとともに激増したカテゴリーであることが分かる。宿泊施設全体の業態別増減率を12年と17年で比較してみると「旅館」15.8%減、 「ホテル」5.8%増、「簡易宿所」29.4%増と、カプセルホテルも含まれる簡易宿所の増加率の高さが目立つ(厚生労働省 衛生行政報告例)。

 シティーホテル、ビジネスホテル、旅館、レジャー(ラブ)ホテルなど業態別に宿泊施設事業者を取りまとめる業界団体はあるものの、実は簡易宿所・カプセルホテル事業者を取りまとめる全国規模の団体はない。そのため、カプセルホテルの実態をデータ上で把握するのは難しいとされる。そもそもカプセルホテルの定義というのがなかなか難しい。

 少々話は逸れるが、筆者は14年に“365日365ホテル”というミッションを実行、1年間で372の宿泊施設へチェックインした。その際に、東京都内の全カプセルホテルへもチェックインした。その過程があって「カプセルホテルとはなんぞや」という疑問を持つようになったのだ。

 いわゆるカプセルユニットを用いた施設がカプセルホテルというのは明快であるが、形状は二段式のカプセルホテル風であるものの、木枠で組んだスペースや、本棚に囲まれた枠で区切られた就寝スペースを持つ宿泊施設も時に“カプセルホテル”を標ぼうするケースもあった。

 イメージが消費者にフックするという部分では、カプセルホテルは実に秀逸なワードではあるものの、その定義を鑑み以後筆者は“カプセルユニットを用いた宿泊施設”をカプセルホテルと位置付けて情報発信してきた。すなわち専門メーカーにより研究され、製作・販売されているカプセルユニットを用いた施設のこと。メーカーに話を聞くと、快適性や機能性はもちろん、安全性の担保などさまざまな工夫を施しているようだ。

 いずれにしても“カプセルホテルを把握するのは難しい”と前述したのはこのような意味合いにおいてである。

●旧来型とは何が違う「進化型カプセルホテル」

 コロナ禍前、19年8月時点で筆者が調査したところ、カプセルホテルは全国で約300軒(ユニットブース数ベースで3万2000超)確認できた。うち東京都が100軒ほどと3分の1を占めていた。

 17年以降もその傾向は続き、例えば東京都心のカプセルホテルは、17年から19年8月まででおおむね2割ほど増えた。訪日外国人旅行者の激増を起因とするホテル活況で、さまざまな業界からのカプセルホテル事業参入も増加の一途をたどった。

 増加したカプセルホテルで特徴的だったのが、筆者の造語で恐縮であるが「進化型カプセルホテル」といわれるスタイルだ。旧来のカプセルホテルにないデザインやサービスなどに気遣った施設が続々と誕生したのだ。カプセルホテルといえば、サラリーマンを代表とする男性専用施設という時代が長かったが、進化型で特徴的なのは“女性用”の施設も増加したことだった。

 女性専用エリアを設ける施設はもとより全館女性専用といった施設まで誕生した。旅行の多様化、移動手段の簡便化は女性の一人旅需要も喚起、女性が利用できるカプセルホテルのニーズは高まったことに起因する。

 女性専用の施設はパステルカラーを基調とした内外装を施し、洗面ブースには基礎化粧品などのコスメ類やヘアアイロンなどを設置。女性目線の気遣いにあふれている点も特色として挙げられる。

 進化型ユニットの形態もバラエティに富む。本来、カプセルユニットといえば上下2段・正方形の入り口・奥に長い就寝スペースが並ぶ光景をイメージするが、横から出入りできるタイプも増えた。

 こうした形状は以前から存在していたものの、進化型でよりフォーカスされたスタイルだ。横長の側面から出入りできるので楽な上、進化系では大きなテレビを枕と対の壁面に設置することも可能。上下交互に配置すればプライベート空間を確保できるのもこのタイプの特徴である。また、カプセルホテルとは異なる形態でよりも広く、直立できる空間を確保するキャビンタイプも誕生した。

 一方で、トラディショナルスタイルともいえる施設も根強い人気がある。進化型に対して旧態型とも表せる施設であるが、進化型に比べると何より安価であることが魅力だ。進化型が4000〜5000円というイメージに対して旧態型は2000〜3000円、中には1000円台といった施設もある。デザイン性やサービスなどは進化型に劣るものの、低料金の強みを生かした利用形態にマッチしているのも特長だ。 

 そんなカプセルホテル業界であったが、実際には18年の終わりごろから供給過多が指摘されるようになった。筆者がそれを実感したのが、カプセルホテルの事業者から「一度、施設を見ていただきたい」との取材オファーが増えたことだった。

 よくよく話を聞くと「開業したものの客足が伸びず悩んでいる」「予約数の減少に歯止めがかからない」というのだ。取材と共に改善点などアドバイスを請えればとの申し出であるが、一時の勢いがなくなっているというカプセルホテル事業者の声は増加していた。

 その原因としてビジネスホテルとの価格帯競合があった。高級ホテルが高いニーズを保つ中で、一般的なビジネスホテルの料金はインバウンド大活況のころに比べると、相当な下落傾向にあった。

 もちろん繁閑差や変動はあるが、最低価格が1万円程度だったビジネスホテルの実勢料金は5000〜6000円、中には4000円台という例も見られるようになった。新しくキレイなビジネスホテルの料金も値頃感が出てきた。まさに進化型カプセルホテルと競合する価格帯だ。

 進化型の台頭でカプセルホテルの認知度は格段にアップしたが、そうした存在感の高まりの裏にはインバウンド需要の高まりなどを起因とした、ビジネスホテル料金の高騰があったのだ。ゆえに進化型カプセルホテルは、ビジネスホテルの料金変動の余波をもろに被った。

 進化型カプセルホテルは「清潔感が乏しい旧来型カプセルホテルは選択肢に入らないが、高騰したビジネスホテルには宿泊できない」というニーズをうまく取り込んできた。低価格帯でいえば、法律的には宿泊施設ではないが“個室鍵付き”といったネットカフェやレンタルルームが勢力を増してきたことも、カプセルホテルにとって逆風となった。

 コロナ禍前までのカプセルホテル業界をザッと振り返ってみたが、宿泊業界全体を襲った新型コロナウイルスの脅威は、カプセルホテルにも容赦なく襲い掛かった。個室ではなくユニットで仕切られたプライベートスペースにして、基本的に複数のゲストが同じ空間に滞在することが、コロナ禍において好ましくないスタイルというイメージで一般ホテル以上に厳しい経営を強いられていった。

瀧澤信秋(たきざわ のぶあき/ホテル評論家 旅行作家)