今年もウナギ業界最大のイベント「土用の丑の日」を迎えた――。新型コロナ禍の影響で専門店主体の需要は減退している一方、巣ごもり需要の拡大で、量販店でのウナギの売れ行きは好調のようだ。

 7月20日付の読売新聞によれば、流通大手イオンは定番商品の「国産うなぎ蒲焼」(約160グラム)を2020年より1割安い1880円(税別)に引き下げた。ウナギ関連商品の売り上げは前年比で2割増加とのことだ 。東京都中央卸売市場の6月の生鮮ウナギの卸売価格は前年同月の5396円と比べて2割以上安い4071円となっている(東京都中央卸売市場・市場統計)。

 消費の99%を占める養殖ウナギを育てるには、天然の稚ウナギ(ウナギの稚魚、シラスウナギ)が不可欠だ。19年にはその採捕量が史上最低の3.7トンにまで落ち込んだものの、昨年は17.1トン、今年は11.3トンと、やや持ち直していることもウナギの価格低下の一因といえるだろう。

●「絶滅危惧種ウナギ」の苦境

 とはいえ、ウナギの資源が極めて危うい状態にあるのには変わりがない。図1にあるように、かつて3000トン以上もあった天然ウナギの漁獲量は65トンにまで激減、13年に環境省はニホンウナギを絶滅危惧種に指定した。翌年には国際NGOのIUCN(世界自然保護連合)も絶滅危惧種に指定している。 

 一昨年に比べれば「持ち直した」11.3トンという稚ウナギの採捕量も、過去には200トン以上だったことから考えればその落ち込みぶりは明らかだ。稚ウナギ採捕量の減少は価格の高騰に直結。03年にキロ当たり16万円だったものが18年には300万円近くにまで暴騰した。現在も132万円と高止まりしている。

●養殖めぐる黒い「ウナギロンダリング」

 国内の採捕量では日本のウナギ養殖池を満たすことはできないため、多くの稚ウナギが輸入されている。問題なのは、その輸入先だ。20年7月から21年5月までに日本に輸入された稚ウナギ9570キロのうち、約3分の2を占める6120キロは香港からのものである。 

 しかし、札幌市と同じくらいの面積しかない香港に稚ウナギの遡上するような川はない。香港から稚ウナギの輸入が急増したのは07年になってからだが、この年はそれまで最大の輸入元だった台湾が輸出を原則として禁止した年だ。以来、稚ウナギはいったん香港に密輸され、香港から日本に合法的なかたちで再輸出されるという、黒い「ウナギロンダリング」が行われている。

 この1年で言うと、輸入された稚ウナギ由来の国産養殖ウナギのうち3分の2は、こうした「ウナギロンダリング」の可能性の高い香港からのものなのだ。

●密漁と無報告のまん延 反社会勢力も介在

 では国産の稚ウナギならば全て「白い」のか。答えは残念ながらノーである。水産庁によると、20年の稚ウナギの採捕量は17.1トンであったところ、採捕された報告量は10.8トンにすぎないとされており、残りの6.3トンは密漁あるいは無報告のものであると考えられるからだ。

 4割近くの国内採捕の稚ウナギも、「黒いウナギ」であることになる。あわせて考えると、ここ10年間の国内の養殖池に池入れされる稚ウナギのうち「黒いウナギ」である可能性の高いものは、44〜84%を占めていることになる(図3)。高値である稚ウナギの密漁や闇取引には一部で反社会勢力の介在も招いている。現在ウナギの採捕は各都府県が制定する漁業調整規則などにより規制されており、漁業法に定める当該規則の罰則上限は6月以下の懲役若しくは10万円以下の罰金にすぎず、実刑判決は極めてまれだ。

●無報告取引と搾取を生む「謎ルール」

 こうした密漁に対して、国も対策に乗り出している。昨年12月に施行された改正漁業法では罰則の引き上げが行われており、農林水産省令で「特定水産動植物」に指定された水産物を密漁した場合、3年以下の懲役または3000万円以下の罰金に処すこととなった。稚ウナギもこの「特定水産動植物」に指定され、23年12月よりこの罰則強化が実施されることになっている。

 一見密漁対策への手当てができたかに見える一方、ここに大きな穴が存在する。一部の自治体に存在する無報告取引と搾取を生む「謎ルール」だ。

 稚ウナギは都府県の定める漁業調整規則などにより規制され、原則として採捕が禁止されている。例外的に都府県から許可を受けた場合にのみ採捕が可能だ。

 ここで問題となるのが、一部の自治体に存在する稚ウナギの販売と流通への複雑かつ不合理な規制である。高知県を例に考えてみよう。

 高知県では県の漁業調整規則に基づき、「許可名義人」が採捕の許可を受ける。だが、この「許可名義人」とは別に、稚ウナギを実際に捕っている「採捕従事者」が存在している。さらに、高知県には「うなぎ稚魚(しらすうなぎ)特別採捕取扱方針」という県が定めたルールがあり、採捕従事者は稚ウナギを捕った場合、指定集荷人を通じて必ずその全てを許可名義人に出荷しなければならない(令和2年度うなぎ稚魚(しらすうなぎ)特別採捕取扱方針(内水面・海面)第12条1(3)および(4)) 。

 こうして買い取った稚ウナギを、許可名義人は漁業者と養鰻業者により構成される「高知県しらすうなぎ流通センター」に出荷することが義務付けられている(同方針第12条1(4)) 。そして「高知県しらすうなぎ流通センター」は、稚ウナギを原則として県内の養鰻業者の種苗として供給しなければならない(同方針第12条2) 。

●市場原理が働かないウナギビジネス

 売り手と買い手が存在する場合、値段は市場原理によって決められるのが資本主義の大原則だ。ところが稚うなぎはなぜかこれに基づいていない。

 高知県の場合、上記の「うなぎ稚魚(しらすうなぎ)特別採捕取扱方針」に加えて「高知県うなぎ稚魚(しらすうなぎ)需給要綱」なるルールが存在し、ここで「うなぎ稚魚の買い入れ価格は、県内養鰻業者の決定によるものとする」と定められている(同要領第10条)。

 養鰻業者の側からすると、稚ウナギの価格は安い方がいいに決まっており、必然的に自由に流通した場合の価格より安く設定されてしまう。海部健三中央大学法学部教授が18年12月に実施した調査によると、高知県しらすうなぎ流通センターの許可名義人からの買い取り価格は90万円で、採捕従事者は公的な流通ルートに乗せようとすると60万円での売却を余儀なくされている 。

 高知県以外でも、静岡県、愛知県、三重県、和歌山県、香川県、愛媛県、佐賀県、宮崎県、鹿児島県などが稚ウナギの県内利用を掲げている。例えば静岡県では21年漁期の県内取引価格が1キロあたり平均53万円であったところ、全国平均は132万円だったとされている(静岡新聞2021年7月13日) 。養鰻業が稚ウナギ採捕者から安値で買いたたく「搾取」のもとに成立しているのだ。

 安値での買いたたきを逃れるためには、稚ウナギ採捕者は必要最低限を表ルートに流す一方で、残りは裏仲買人に高値で買い取ってもらう手段に出るしかなくなってしまう。当然裏ルートに流れる稚ウナギは無報告となり公的な採捕統計に上がることはない。しかし無報告ウナギを生んでいる根本原因は、稚ウナギ採捕者の側にあるのではなく、採捕者からの安い買付けを強制し、資本主義の原則を曲げている「謎ルール」にあるのだ。「これが搾取でなくて何であろうか」と高知県のある採捕従事者は憤る。

 この取引実態について、稚ウナギ採捕量が少ない県の業界からはルールの撤廃の求める声がある一方、これがなくなると高値の稚ウナギを買わざるを得なくなる高知や静岡などでは、何らかのかたちで現行のシステムを温存しようとの意見があり、関係者間でも立場が割れている。

●稚ウナギへのトレサビ法導入を阻む業界の声

 国連持続可能な開発目標(SDGs)では、違法・無報告・無規制(Illegal, Unreported, and Unregulated)漁業(頭文字をとって「IUU漁業」と呼ばれる)の撲滅が謳われており、EUや米国も規制を導入。水産物のトレーサビリティー確保などを通じたIUU漁業対策のための法規制が導入されている。

 日本でも水産流通適正化法が20年12月に公布され、22年12月までに施行することが決まっている。この法律では国内で違法かつ過剰な採捕が行われるおそれが大きい魚種を「特定第一種水産動植物」と指定。漁獲番号を含む取引記録を作成・保存するとともに、その一部を事業者間で伝達すること、輸出時に国が発行する適法漁獲等証明書を添付することを義務付けている。また、国際的にIUU漁業のおそれが大きい魚種を「特定第二種水産動植物」に指定、輸入時に外国の政府機関等発行の証明書などの添付を義務付ける内容となっている。

 現在対象魚種の検討が漁業者、加工業者、リテーラーやNGOの代表などステークホルダーを交えた水産庁の会議で行われており、シラスウナギは「特定第一種」「特定第二種」双方に指定すべきとの声が参加者より上がっている。もし指定されれば密輸、密漁、無報告由来の稚ウナギの取引根絶に大いに役立つ。

 ところが養鰻業界団体はこれに猛反対している。日本シラスウナギ取扱者協議会の森山喬司理事長は水産経済新聞(2021年5月24日)の取材で、「しわ寄せを受けるのは国内の養鰻業者ら。日本のウナギ業界全体として、そのような事態を招くのは避けるべきだ」と強く反発 。全日本持続的養鰻機構の大森仁史会長も「国内養鰻業の崩壊を招く」として法の適用対象としないよう求めている(水産経済新聞2021年6月28日)。

 大森会長は「台湾はそもそも輸出できないものを、香港を経由させて日本などへ輸出していることは事実」「現状では水産流通適正化法が求めるような外国政府の証明書を台湾が発行することはあり得ず、香港もしかりである」と、密輸由来の稚ウナギ取引の存在を認めつつ、「日本の養鰻業界にとって、輸入シラスは必要不可欠なものであり、これがないと経営が成り立たない」と主張する 。

 稚ウナギ取引の自由化によって取引の適正化を図ろうとしている水産庁の担当部局も、養鰻業界団体の強い反対を受けてか、稚ウナギを水産流通適正化法適正化法の適用対象とすることに消極的だ 。

 しかし「業界が成り立たないから、『黒いウナギ』の存在を取りあえず黙認してくれ」という理屈が成立するとは思えない。違法なものは存在そのものが容認されるべきでないのだ。

●「白い」ウナギへの解決策は何か

 持続可能で合法なウナギをいつでも土用の丑の日に食べることができるようになるためには、(1)一部の自治体にある稚ウナギの取引を県内だけで閉じさせようとする「謎ルール」を撤廃し、取引の自由化を図ること、(2)稚ウナギを水産流通適正化法の適用対象とし、取引の透明化を図ること、この2つを同時に実施するべきだ。

 「謎ルール」が撤廃されれば、市場価格に基づかない安値での稚ウナギ買いたたきという採捕者への搾取のメカニズムが解消され、同時に無報告の稚ウナギ流通も大幅に減少することが期待できる。また水産流通適正化法の適用対象となれば、稚ウナギの漁獲量がより正確に記録されるようになるだろう。

 より正確なデータが蓄積されることは、科学的な資源管理に大いに資する。「謎ルール」に縛られてきた稚ウナギの採捕者も、適正な市場価格での販売をすることができるようになるだろう。さらに、トレーサビリティーが確保されることにより、合法由来のもののみが最終消費者に届けられることにつながるはずだ。

 土用の丑の日にウナギを食べる習慣が江戸時代中・後期より根付くなど、ウナギはわれわれの食文化として深く定着した。その国産ウナギの4割から8割が履歴の怪しい稚ウナギであるのは明らかに異常だ。おかしなルールを撤廃し、ウナギにトレーサビリティーを確保する法律を導入することは、わが国のウナギ業界を変える大きなチャンスである。

 水産流通適正化法についてはパブコメをへたのち12月に適用対象を定めた政省令が公布予定とされている。われわれが知らないうちに違法・密輸由来のウナギを購入することを通じて違法行為を結果的に助長し、まっとうな業界関係者を苦しめる負の連鎖が存在している。今がその連鎖を断ち切る、正念場にあると言えよう。

(真田康弘、早稲田大学 地域・地域間研究機構客員主任研究員・研究院客員准教授)