今回は、テーマを健康経営に定めたい。そのためには足元である、コロナ禍の状況を確認するところから始めようと思う。

 引き続き、多くの都道府県で緊急事態宣言、まん延防止等重点措置が発出されている。感染状況、東京都は減少傾向にありつつも、医療を逼迫(ひっぱく)させる重傷者の数は過去最高を更新していおり「災害級」の事態は当面収まりそうもない。

 また、ここにきて、ワクチンの確保数が足りず、職域接種が多くの会場で中止や延期となっている。感染力の強い、そして重症化しやすいとされるデルタ株のまん延により、集団免疫の獲得で感染拡大が収束していくというシナリオも描きづらくなった。一部によれば、集団免疫の獲得には、全国民の9割以上がワクチン接種、または一度感染しなければならないという数字も出ているようだ。

 国際的に見ても、多くの国では自国民の70%ほどがワクチン接種を完了すると、そこから先になかなか数字が伸びていかない「壁」が存在しているように見受けられる。日本においても、これから先、どうやってワクチン接種率を伸ばしていくのか、相当の難題だといえる。

 このような状況の中で、そもそも「アフターコロナ」といえる時代は到来するのか。多くの科学者の間では、新型コロナウイルス感染症は「風土病化」する、そういわれている。いわゆる「パンデミック」から「エンデミック」の状態となるということだ。インフルエンザのように、寒くなってくるとコロナが流行し出す。製薬会社では、インフルエンザとコロナの両方へ、1回打てば対応できるワクチンの開発も進められているという。世界は「アフターコロナ」ではなく「ウィズコロナ」に向けて動き出しているのだ。

 GAFAも、デルタ株のまん延により、出社して働くタイミングを2022年にまで延ばし始めた。ただ「出社」といっても、今後はリモートワークも含めた、ハイブリッドなワークスタイルとが主流となっていくことは間違いない。

 一方で、働く場が分散されることにより、コロナ禍の当初に課題視されていた「コミュケーション」もさることながら、従業員の健康管理も、ここにきて大きく問題視されている。コロナ禍が到来する以前から「健康経営」は経営の大きなテーマとなっていたが、顔が見えなくなった社員の健康管理は、これまで以上に難しく、そして重要になってきている。

 ここでいま一度、健康経営について確認してみよう。「健康経営とは、従業員の健康保持・増進の取り組みが、将来的に収益性等を高める投資であるとの考えの下、健康管理を経営的視点から考え、戦略的に実践すること」と定義されている。

 いわずもがなだが、健康経営のメリットは、従業員の健康維持へ投資することで健康促進がされることにある。そして当然ながら、社員が健康な方が生産性が向上し、健康経営銘柄、あるいはホワイト500としての認証取得がされていれば、企業のイメージアップも図れる。その結果、求職者の増加や既存従業員の定着も見込め、離職率の低減、さらには、社会保険料の負担軽減にもつながる。生産性の向上、そして関係する費用の低減を実現できれば、収益が上がり、それを原資にして、さらなる健康維持への投資もできるだろう。

 多くの企業がこうした好循環をモデルケースに健康経営の整備を進めてきたが、コロナ禍によって、悪影響が表れている。

 例えば、健康経営の一丁目一番地が、定期健康診断だ。健康状態が把握できないと、対処のしようがないし、早期発見・早期治療ができない。そうなると、健康状態が悪化し、休業や退職といった事態が生じるかもしれない。この定期健康診断が、コロナ禍によって難しくなった。テレワークで社員が点在する状況では、オフィスで従来実施していた出張健康診断も難しい。施策の基本となる「データ」、つまり従業員の健康状態の把握ができなければ、健康経営は当然難しい。その他、定期的に行っている産業医との面談なども実施困難となっている。

●コロナ禍が助長する「不健康」

 さらに、コロナ禍が不健康を助長する事態も起きている。

 直接的には、従業員のコロナ感染だ。軽症あるいは濃厚接触者となれば、2週間は自宅やホテルで待機することになり、仕事に大きく影響する。中等症となれば、肺炎が起きている。肺がダメージを受けていた場合、熱が下がって酸素濃度が通常に戻ったとしても、すぐに元の日常に戻れない。また、後遺症もあなどれない。咳、倦怠感、味覚嗅覚障害が残り、完治まで3カ月程度を要するといわれている。重症になると、人工呼吸器などを使用して、最悪の場合、死亡してしまう。

●「動かない社員」をどう動かすか

 間接的には、在宅勤務が長引くことでの悪影響もある。まずは、生活習慣病の悪化である。在宅勤務となると、通勤しなくなり、ずっと家で仕事をしていれば、動くことが本当に少なくなる。そんな中で食べる量が変わらなければ、カロリーの過剰摂取になるのは明白だ。

 実は、通勤には「運動」という効果もさることながら、日の光を浴びるという大切な効果もある。それにより、心身が仕事モードへ切り替えられるのだ。つまり朝起きて、そのまま仕事をすると、切り替えが効かず生産性も上がらないのだ。総務としては、在宅勤務体制の中で、これまで以上に社員が運動できるような仕組みづくりが求められる。

 例えば、このような事例がある。ある企業では、以前から月間の歩数を競うイベントを開催していた。アプリをインストールして、個人ベースで記録する形だったため、コロナ禍でも問題なく開催できたという。ウォーキングシューズの購入費用補助もあり、機能性の高いシューズを履くことで、社員の歩くことに対するモチベーション向上にも資している。また、ビジネスチャットで各自の歩数目標を宣言するなど、新たなコミュニケーションツールとしても役立ったというからいいことづくめだ。

●喫煙への対策は

 喫煙者にも注意が必要となる。いま多くの企業では、社内は全面禁煙であり、仕事中に喫煙するのは、なかなか難しい。もちろん、業務の合間を縫って、屋外などに設置されている喫煙所などに行くこともできるが、周りから白い目で見られることも多い。

 一方在宅勤務、さらに一人暮らしの喫煙者となると、喫煙を止めるものが何もない。規則もなければ、喫煙を注意する人もいない。ある意味、野放し状態、吸いたい放題である。ここは注意が必要だ。

 ちなみに、コロナ禍前の企業における取り組みは、喫煙者自体への施策ではなく、受動喫煙の対策が主であった。従って喫煙場所を減らす、あるいは社内や屋内では全く喫煙できないような対策が多くの企業で見られた。

 一方、喫煙者への対応は、喫煙による害についての情報提供や啓発活動、例えば、情報提供であれば、健康増進法など、社会の禁煙化の流れやタバコの害に関して喫煙室の粉じん濃度や換気状況のデータを開示する。あるいは、禁煙方法や喫煙サポート情報の提供などがなされた。啓発活動であれば、タバコの害がきちんと認識できるポスターをシリーズ展開したり、毎月1回程度の禁煙セミナーを開催し、実際に禁煙した社員の事例の紹介をするのもいいだろう。

 ただ、結局タバコは嗜好品であり、そこにまで強制的に踏み込むことは、総務としてなかなか難しかったのが実情である。コロナ禍においても、情報提供、啓発活動をすることで、個々人の意識変容を促すという基本方針には変わりがないと思われる。

 コロナ禍では、身体のみならず、精神面に不調を来す従業員も多い。在宅勤務では、何かあった際もすぐに相談できないことにより、不安や問題を一人で抱え込んでしまいがちだ。特に新入社員や年次が若い社員は、仕事の指示が適切にもらえず、何をしていいか分からず、自分の存在意義に不安を持ってしまうこともあるだろう。コロナに罹患(りかん)してしまわないか気になる、あるいは感染した後で周りからの差別や偏見におびえてしまう――強制的な在宅勤務等、働き方が大きく変化することに対しての不安、それに適応できないことへの焦りは、考えればきりがないほどだ。

 一言で表現するなら、こうしたメンタル面での不調の原因は「コミュニケーションの希薄化」、これが最大の課題である。対応方法としては、とにかくコミュケーションの量を増やす取り組みが肝要だろう。それもフランクな、ざっくばらんな会話ができるような仕掛けである。

 一緒に同じモノを食べながら、ランチしながらたわいのない話をする。決まった時間にコーヒーを飲む時間を作る。コロナ前であればこうしたこともできたが、今はオンラインに場を移すしかない。例えば、テーマはなくとも話ができる場をオンライン上で提供する、あるいは、社内SNSで、独り言をつぶやいてみるのはどうだろうか。「あー、今日も疲れた」「これ、どういうことだか分からないなあ」――あくまで、誰かがレスポンスしやすいような内容というのを心掛けてみるといいだろう。

 最近では、オンライン上で仮想オフィス空間を作り、そばに行くと声がかけられるようなシステムも出てきた。変革期に直面し、いろいろなツールが存在しているので、ぜひ情報収集してみるといい。

 ちなみに、月刊総務では、オンラインコミュニケーションの優秀な施策を募って、表彰する取り組みを8月に行った。その中で、入賞した企業の事例がプレゼン動画として視聴できるアーカイブを公開しているので、ぜひ参考にしていただければ幸いである。

 本記事では、健康経営に対する課題を見てきた。あらためて、在宅勤務が主流になることで、オンラインコミュケーションのインフラ整備と、その上での仕掛け、運用を時代に合わせてデザインし直す必要があるだろう。常に現状に満足することなく、変化に対応し続けられる総務こそ、戦略総務なのだ。

(豊田健一)