8月下旬、全国の百貨店店舗ごとの売り上げランキングと動向が分かる、日経MJ百貨店調査(2020年度)が公表された。通期でコロナ禍での営業となった年度の実績であり、売り上げトップ100の中に増収の店舗はなく、前年度比マイナスを示す「▲」がオンパレードの表になっていた。

 インバウンド需要が消失した上に、休業要請・時短要請・入場規制など、営業の制約が影響して大きなダメ―ジとなった。中でも、それまでインバウンドの恩恵を受けていた大都市部の店舗は、昼間人口の減少もあり、大きな減少幅となっており、東京・大阪の基幹店に支えられていた大手百貨店チェーンは、厳しい経営状況に追い込まれている。

 コロナ第5波がようやくピークを越えた中、ワクチンの2回目接種が人口の過半数に到達し、希望する全員へのワクチン接種のメドが11月ごろという状況も見えたところで、コロナによる経済活動への制約についても、ようやく緩和が議論されるようになってきたようだ。ワクチン接種が進む海外において、感染者が再び増加して3回目接種などを進める話も聞こえてきているが、計画通りに接種が進めばコロナ感染による重症者が減ることで、経済活動への制約緩和ができるようになる。百貨店や、それ以上の制約を受けていた外食産業などの営業制約が、一刻でも早く緩和されることを願うばかりだ。

●百貨店業界、一難去ってまた一難?

 とはいえ百貨店業界は、コロナ禍という災厄が去ったとしても安穏としている余裕はないだろう。コロナ禍前までの百貨店販売額は、長期的な縮小が常態化しており、その構造的な減収トレンドから脱する出口が見えていたわけではない。その背景としては、ファミリー層の百貨店離れや、その受け皿となった大型ショッピングセンターの台頭、中高年女性向けの衣料品へのシフトによる顧客層の高齢化、などさまざまな要因が絡んでいる。

 そして、近年では店舗小売業に共通の課題であるECの台頭によって、百貨店はさらに厳しい未来が予測される環境になっていた。幸いなことに14〜15年に限ってはインバウンドという追い風が吹き、減収ペースが緩和したのだが、コロナ禍の直撃で一息つくことも出来なかった、というのが実情だといえよう。

 百貨店各社も、これまで手をこまねいていたわけではなく、大手を中心に生き残りのための戦略を整えようとしてきた。最大手の三越伊勢丹ホールディングスは、ECとの連動を目指して仮想現実(VR)を活用したアプリ上で買物体験ができるサービスを投入して、伊勢丹新宿店の仮想店舗売場を自由に回遊可能な環境を整えているし、J.フロント リテイリングは、松坂屋銀座店を建て替え、ショッピングモールGINZA SIXとして再構築した。

 GINZA SIXの例は、在庫リスクを取引先が持つ「消化仕入方式」から、テナントと定期賃貸借契約を結び家賃収入を得るショッピングセンターに転換したものであり、こうしたケースは大丸松坂屋百貨店も実施している。同社は大丸心斎橋店において本館の6割を定期貸借方式としたハイブリッド型百貨店に転換した。

●「消化仕入方式」とは何か

 そもそも「在庫リスクを取引先が負担する消化仕入方式」とは何か、少し説明しよう。

 百貨店の売場に行くとさまざまな商品が豊富に取りそろえられているが、そのほとんどは百貨店の在庫商品ではない。百貨店の取引先(仕入先)が商品を売場に展示しているのであり、売れたときに初めて百貨店が仕入れて、同時に売り上げを計上する仕組みになっているのだ。この方式では百貨店が在庫リスクを負わず、売れ残れば取引先がその損失を負担する、という百貨店に一方的に有利な取引だといえる。

 なぜ、こんな条件を取引先がのんでいるのかといえば、百貨店が「小売の王者」であった時代、商品を売りたければ、百貨店に売場を持つことがそのまま売り上げにつながったからだ。このような取引形態はかつて、ある百貨店アパレルがこの方式を提案して大きな成果を挙げたことから、業界標準として広がったといわれている。

 この消化仕入方式は、百貨店市場が拡大している時期こそよかったものの、長期減収トレンドとなると悪循環を生み出した。リスク負担のない百貨店側には商品の目利き力が失われ、取引先側は常に売れ残り分を加味した価格設定や企画となるため、商品のコストパフォーマンスが低下した。このスパイラルを20年も繰り返した百貨店販売額は、コロナ前でもピークの半分にまで落ち込んでいたというわけだ。そこにECシフトの波が押し寄せてきたのであり、コロナに関係なく、体制を大きく変えざるを得なかったのだといえる。

●危機を逆手に取った丸井の取り組み

 われわれの生活にECが浸透してくると、店舗小売業にとっては売り上げを奪われるのみならず、ショールーミング(店舗がECのショールームとされてしまうこと)という恐ろしいことが起こる。

 書籍のようなコンテンツ商品や、家電製品のようにメーカーが機能を担保している商品だと分かりやすいが、リアル店舗で立ち読みをしたり、機能説明を散々聞いたりした上で、最安値(もしくはポイント付与がある)のECサイトで購入する、というのは、今や普通の購買行動になっている。店舗小売業にとっては、冗談ではない悩みの種であるが、こうした状況を止める手段はない。そこを逆手にとったのが、リアル店舗をショールーム化してしまう、丸井の「売らない店」だ。

 かつて先端的ファッションを分割払いにして、若者でも入手可能にしたことで、支持を得ながら成長した丸井グループは、14年度から積極的に消化仕入方式の売場をテナント方式へ転換し始め、19年度にはその8割を転換していた。こうして賃料収入をベースに、店舗で販売をしない「売らない店」を標ぼうするようになり、中でもD2C企業のショールームとして場を作ることに踏み切っている。D2C(Direct to Consumer)企業とは、自ら企画、生産した商品を、小売店を介さずECチャネルなどを活用して、消費者とダイレクトにつながって販売していこうとする企業のことだ。

 例えば、D2Cのオーダーメイドスーツを販売する企業「FABLIC TOKYO」がマルイに構えるリアル店舗は、説明接客や採寸をするが販売はせず、顧客が買うのはあくまでECサイトを通じて、である。となると、丸井グループには店舗売り上げを通じた収益が入らないことになるが、ショールームとして定額の家賃は確保できる。そして、丸井グループはFABLIC TOKYOに対して投資も行っており、FABLIC TOKYOが成長していくことより、長期的なキャピタルゲインを得られるという仕組みになっている。

 加えて、現在の丸井グループは、かつての割賦百貨店時代から積み上げたエポスカードを軸とする金融事業も柱となっている。最先端のD2C企業が集積した商業空間となることで、魅力的なショールームとして集客を強化しながら、その他のテナントなどにおいてクレジットカードなどの金融事業の利用を強化するという目的もあるのだろう。リアル店舗が生み出す収益をサブスク事業として、投資事業、金融事業との3本柱をともに推進する、百貨店の運営としては斬新なやり方といえよう。「売らない店」自体は、既に米国などに存在する手法を援用したものではあるが、国内では最先端ともいえる取り組みであり、定期賃貸借を基本としてどのようなビジネスモデルを構築するかが、百貨店にとっても解の一つとなることは間違いないだろう。

●「企業」「消費者」「百貨店」を結ぶエコシステム

 多種多様なD2Cショールームのような空間が、リアル店舗の新たな選択肢となるためには、画期的な製品を開発する企業が集まってくる持続的な仕組みが必要となる。そうした仕掛けを持った企業が、新宿マルイ本館などに出店している「b8ta」だ。米国サンフランシスコ発「売ることを主目的としない小売店」のb8taは、個性的なデジタルガジェットやコスメ、食品、アパレル、玩具など幅広い商品を体験できる店舗だ。売ることを主目的としていないため、消費者はプレッシャーを感じることなく、スタッフから説明を受けたりして、体験と発見を楽しんだりできる。出品企業にとっても、一等地に安価で消費者とリアルでの接点の場を持てるというメリットは大きい。

 また、b8taでは入店者数、性別、年齢、商品の前を通り過ぎた人の数、商品の前で立ち止まった人数やその時間、商品説明を受けた人の数といった定量的なデータや、スタッフと来店客のコミュニケーションから得られる定性データが得られることから、出品企業はリアル店舗での情報をベースにした先進的なマーケティング展開が可能になる。製品を世に問いたい企業、知りたい消費者、顧客のにぎわいを求める百貨店――これらをつなぐ新たなエコシステムを提供するb8taのようなテナントは、これからの百貨店、商業施設におけるリアル売場の活性化に重要な役割を果たすようになるだろう。

●消費者目線を失った百貨店よ、再起せよ

 百貨店は、都市部の人流の中心という立地を背景に、地域で最もいい商品が集まる商業施設という信頼を集め、その存在感を保ってきた。しかし、その信頼にあぐらをかいて、仕入リスクを負わないビジネスモデルを長く続けた結果、百貨店は消費者目線が希薄化したともいわれている。斬新な商品を提案できる企業より、場所代をより多く払う企業と取引するというのは、顧客志向とはいえまい。

 そこに、コロナにより人流の抑制という制約を背負った百貨店はかつてない危機に追い込まれている。しかし、追い詰められたからこそ、生き残るために自己変革せざるを得ないはずだ。今回紹介した、D2Cのショールーム化というのはあくまで一つの選択肢だが、こうした常識にとらわれない発想は、百貨店各社の社内水面下に企画として眠っているはずだ。いまこそ百貨店の企業としての生存本能が発揮されることに期待したい。

(中井彰人)