朝三暮四という言葉がある。

 昔、宋国に狙公と呼ばれる老人がいた。狙公は飼っている猿のエサを減らそうと、猿たちに「朝に三個、夕方に四個」と尋ねたという。しかし、猿たちはその提案を受け入れなかった。そこで、「朝に四個、夕方に三個」と再提案すると猿たちは喜んで狙公の提案を受け入れたという。

 楽天グループは18日、預けるだけで預金金利のように楽天ポイントが増える「楽天ポイント利息」の提供開始をアナウンスした。一度で最大50万ポイントまでポイントを預けることができ、月利にして0.009%、年0.108%ずつポイントが増えていくサービスである。

 ポイント自体がポイントを増やすサービスといえば、株価指数に連動する「ポイント運用」や、ポイントを投資代金に充当する「ポイント投資」といったサービスがある。しかし、これらはあくまで価格変動リスクが伴うものであり、相場環境によってはポイントが減少するリスクがあった。

 この点について、楽天ポイント利息は「元本保証で、減少することはありません」と明記されている点で画期的である。そうはいってもやはり気になるのが、「利息の出どころ」だ。

●利息の出どころは、ポイント改悪で浮いたポイント?

 利息と聞いて思い浮かぶのは、やはり「預金利息」だろう。銀行が預金者に利息を払うことができるのは、顧客の預金を国債運用や融資などの事業に活用することができるからだ。預金者に支払う利息よりも、預かった金員を運用することによる期待収益が大きい「利ザヤ」状態にあるからこそ、銀行は預金者に利息を支払うことができる。

 しかし、「楽天ポイント」はどうだろうか。ポイントは楽天にとっては単純な負債であり、楽天ポイントを顧客に貸し出したり、楽天ポイントで直接国債を運用したりすることもない。利ザヤがないものに、どうやって元本保証しつつ利息を付けることができるのだろうか。

 その理由は大きく分けて2点ある。まずは、支払う利息を一種の「広告宣伝費」とみなし、初めから利ザヤを取ることを考えていないパターンだ。他のポイントにはない「元本保証で確実にポイントが増加する」という売り文句に顧客が感化されれば、ネット広告やテレビCMを打つよりも低いコストで多くの顧客を楽天経済圏に引き込むことができる。そこから経済圏内のさまざまなサービスを長期で使ってもらえれば利息負担は気にならないレベルになるはずだ。

 もう1つの理由が、冒頭でも紹介した「朝三暮四」的な考え方だ。これはつまり、先にポイント還元制度を改悪することで、浮いた分のポイントを利息の原資に充てているという考え方だ。この場合、結果として顧客が受け取る総額としてのポイントが同じ、ないしは少しばかり減っていたとしても、顧客はポジティブな反応を返す可能性が高い。

 実際にポイント利息の導入に先立って、ポイント制度の改悪が10月1日に発表されていた。これまで、楽天はポイント還元の基準となる利用金額を税込金額としていたが、2022年4月以降は「税抜き金額」を基準にポイント還元することにしたのである。

 これまでは、税抜き1万円の商品を楽天カードで購入した場合、税込価格である1万1000円の1%、110ポイントが還元されていたが、この措置が発効すると、1万1000円の支払いに対し100ポイントしか付かなくなる。税抜きベースの還元により、事実上楽天ポイントの還元率は1割もカットされることとなるのだ。

 ほぼ全ての決済にかかる還元率が1割カットされたのであれば、ポイント利息で年利0.1081%を付けても、その負担とほぼ相殺できる。さらに、全員が全ポイントを預けるわけではないため、利息を払っても改悪で浮いた分でお釣りがくる可能性が高い。

 仮に楽天ポイント利息が想定以上に普及したり、平均の預入期間が数十年にものぼったりすれば、利息導入前よりも負担が重くなる懸念もある。しかし、その可能性は低いだろうし、仮にそうなったとしても制度の見直しで対応ができるため、楽天側は特段大きなリスクを取っているわけではなさそうだ。

●「朝三暮四」使いようによっては優れた戦略に?

 ただし、このような姿勢を頭ごなしに批判することは建設的ではない。朝三暮四には、「巧みに人を欺く」といったネガティブな意味として一般的には認識されているが、これは裏を返せば「伝え方を工夫することで、相手の反発を避けながら自身の要求を通すことができる」という意味も併せ持っている言葉でもある。

 プロモーションやキャンペーンなどを企画するにあたっては、成果だけでなくコストパフォーマンスも求められる。楽天ポイントをめぐっては、ゴールドカードの楽天市場における還元率低下や、SPU(スーパーポイントアッププログラム)条件の複雑化など、コアユーザーを中心とした改悪の批判が強まっていた。一方で、楽天側としては「負債」にあたるポイントの積み上がりが経営基盤を圧迫しかねないと危惧している現状もうかがえる。

 そんな中、税抜きベースでのポイント還元という改悪と同時に、ポイント利息という新しい観点のサービスを取り込むことで、プラスの宣伝効果をもって将来の負債低減に貢献したとしたら、優れた戦略であるというべきだろう。

(古田拓也 オコスモ代表/1級FP技能士)