新型コロナウイルス感染拡大の第5波がようやく収束した。9月末に緊急事態、まん防(まん延防止等重点措置)が解除された。また、東京都は独自に定めた飲食店への時短要請も10月25日から全面解除した。お酒を主体に提供する飲食店、居酒屋、バーは、再スタートのラインにやっと立てるようになった。

 焼き鳥居酒屋のトップランナーとして、今世紀に入って成長を続けてきた鳥貴族も、コロナ禍で大きな影響を受けた。最も落ち込んだのは、2020年4月。既存店売上高は緊急事態を受けてほぼ全面的に休業していたため、前年同月比3.9%にまで落ち込んだ。突如、売り上げの96.1%を失うこととなり、前途多難を思わせた。

 結局、20年7月期(19年8月〜20年7月)の決算においては、売上高は275億3900万円(前年同期比23.2%減)で、経常利益は9億5500万円(同16.5%減)と利益を確保したものの、最終損失は7億6300万円の赤字となった。

 21年7月期(20年8月〜21年7月)の決算は、鳥貴族が持株会社体制に移行し、鳥貴族ホールディングス(HD)となったため、前年との単純比較はできない。しかし、売上高は155億9000万円にまで縮小。経常損失3億1400万円、最終損失4億6600万円に終わっている。店舗数は615店で、1年で14店減った。

 時短要請に応えた協力金が入って赤字額は縮小した。しかし、同社は3大都市圏に絞って店舗展開していたため、出店エリアの度重なる緊急事態により、店舗の時短や休業が続いて大きな影響を受けた。

 19年7月期の年商は358億4700万円だったので、コロナ禍で売り上げが半分以下に落ち込んだことになる。

 ワクチンの接種が進んで重症化率が低くなった今期は、緊急事態の必要性が薄れてきていて、同社の売り上げも大幅な回復が見込まれる。それでも第6波、第7波が来るのか、あるいは来ないのか、予測困難だ。

 そのため、今期の通期連結予想について同社の大倉忠司社長は「現時点では合理的な算定が困難であるため、未定」としており、「今後の動向を注視しつつ、合理的な算定が可能となった時点で改めて公表する」としている。

 また、お酒に頼らない疫病禍に強い業態として、チキンバーガー専門店の「TORIKI BURGER(トリキバーガー)」を新しく開発。今年8月、東京・大井町に1号店を出店したが、当面は検証と改善の期間と考えており、急速に多店舗展開する考えはない。しっかりと業態を整えて、将来的には「鳥貴族」と並ぶ主力業態に育成する方針だ。今年度中に東京に2店、3年間で直営店10〜20店を目指す。

●コロナに苦しめられた

 鳥貴族の既存店売上高は19年11月〜20年2月に4カ月連続で前年同月比でプラスだった。17年10月に全品280円(税別)を298円(同)に値上げした影響で、一時期客離れに苦しんでいた。コロナ前は、この低迷期を抜け出して、これからさらなる飛躍が見込まれる状況だった。

 もともと好調だったこともあり、GoToイートキャンペーンでは“無限鳥貴族”が注目された(数百円だけ注文をして1000円分のポイントを得るような行為。後に改善された)。こうした話題性もあり、コロナ前の勢いのまま、20年10月には既存店売上高を前年同月比93.1%にまで戻した。これは居酒屋業界で最高水準であり、ポストコロナで最も早く回復し、業界をけん引するのは鳥貴族だといった期待感が高まった。

 ほぼ休業していた4月がゼロに近い同3.9%だったから、驚異的なV字回復だった。

 しかし、その後、新型コロナの感染拡大が断続的に繰り返された。特に東京都や大阪府では、21年に入ってからは9月まで緊急事態またはまん防がほとんど途切れなく発出された。禁酒と時短の要請で、各居酒屋は仕事にならない状況が続いた。鳥貴族も例外ではなく、既存店売上高が21年9月に同8.8%に落ち込むなど、前年より3割以下の売り上げにとどまる月も目立ち、苦戦が続いてきた。

 1都3県と大阪府が緊急事態解除後に行ったリバウンド防止措置を10月25日に解除して、飲食店が通常営業に戻れるようになった。そのため、鳥貴族にとっては、今まで自粛を強いられてきた生活者のリベンジ消費を喚起する絶好の機会となったはずだ。

●解除後の夜に渋谷を歩いてみた

 10月25日、鳥貴族の店舗が9店舗も集中している渋谷界隈(かいわい)に繰り出してみると、月曜日ということもあったが、せいぜいコロナ前の7割くらいしか人通りが戻っていないように見受けられた。また、飲食ビルや雑居ビルに空き店舗が目立つ上に、改装中・休業中の店もちらほらとある。幾つかの店の店員に聞くと、それでも「先週くらいからお客が目立って増えた」という安堵の声を聞いた。

 鳥貴族を含めて、アルバイトの確保、食材の調達などの諸事情で、夜は午後9〜10時までの時短を続けているケースも多い。盛り場にいる人が減っている理由は、テレワークが定着し、酒場に行かない生活スタイルが習慣化したからだけではない。酒場に行かないように社員に要請する企業が結構あるのも影響している。

 同じ都内にある多摩地区のようなベッドタウンならば別だろう。しかし、都心部店に関しては、コロナ前にまで売り上げを戻すのに時間がかかり、今後も感染拡大が断続的に続くならば、最大で8割くらいまでしか戻らないことも想定しないといけない。

 もちろん、鳥貴族の経営陣はそれを織り込み済みで、チキンバーガーの新業態「トリキバーガー」をもう1本の柱とするべく開発している。また、社員の独立を支援する住宅地向けの小型居酒屋「大倉家」を昨年6月、大阪市旭区にオープンするなど、郊外対策の新業態にも挑んでいる。

 鳥貴族の出店エリアも、今後は従来の首都圏、関西、中京の3大都市圏に絞らず、全国の適地を検討していく方針で、海外も北米を起点に進出していくと表明している。

●トリキバーガーの動向は?

 さて、鳥貴族がポストコロナに向けて構築を急ぐトリキバーガーについて詳しく見ていこう。

 鳥貴族HDの傘下・トリキバーガーの高田哲也社長は、日本マクドナルドの営業部長などを経て、2010年に転職してきた。チキンバーガーを立ち上げるために入社したのではない。しかし、経歴を見る限り、鳥貴族の社風を理解した上でファストフードを展開するにはうってつけの人物だろう。

 トリキバーガーは国産食材100%(法令に基づき最終加工地が日本のものを含む)という高品質を売りにしている。バンズの原料である小麦、生鮮食品のチキンや野菜は全て国産だ。ソースなどの加工食品も最終加工地は日本である。

 ロゴに描かれた、宇宙船にも見える羽が生えたハンバーガーは、チキンを想起させ、世界へ羽ばたく意味合いも込めた。中心に鳥貴族のトリッキーマークが配され、一筆書きでハンバーガーを表現することで、覚えやすく親しみやすいフォルムとした。

 1号店は、JR京浜東北線、東急大井町線、りんかい線の3線が乗り入れる大井町駅前の路面にあり、遠目からも黄色い看板がよく見える。1階で注文を取り、2階でイートインができるスタイル。内装は、白と木目を基調に、アクセントとして鳥貴族のシンボルカラーの黄色を配している。

 価格は、バーガー単品390円、セット(バーガー+ポテトS+ドリンクM)590円などと統一されている。均一的な価格から、お得な商品を見つけ出してほしいという考え方は、鳥貴族を踏襲している。

 午前7〜10時半は、モーニングメニューが別途提供される。単品・コンビ(単品+ドリンクS)が290円、セット(バーガー+ニョッキ+ドリンクM)が490円などとなっている。

 1日を通して、サイドメニューは190円、ドリンクはS190円・M250円・L350円の3プライス。

 同社では、トリキバーガー1号店に関して、オープン当初のような行列はなくなってきたが、順調に推移しているとする。当初目標の年商2億円を達成できるめどが立ってきた模様。

 顧客単価は1会計につき、朝が約600円、昼と夜が約900円となっている。居酒屋と違って未成年も来店するので、学生を取り込めている。

 人気商品は、店名にもなっている「トリキバーガー」だ。1枚の胸肉100グラムに衣を付けたチキンフィレを挟んだバーガー。4割ほどのお客が注文する。テークアウト比率は6割と高い。

 焼き鳥業態が母体となっているので、もも肉のてり焼きを挟んだ「焼鳥バーガー」や、軟骨入りのつくねにてり焼きソースを合わせた「つくねチーズバーガー」の人気も高い。

 その他、チキンカツや、バジルと柚子こしょうマヨの2種類のサラダチキンのバーガーなどがある。

 メニューはまだまだ改善の余地がありそうだ。期間限定でもいいので、焼き鳥屋らしい焼き鳥バーガーの類を拡充していけば、競合他社との差別化になりそうだ。

 10月5日からはスマホのアプリから注文が可能になり、より利便性が高まった。店内はフリーWi-Fi完備で、カウンターにコンセントとUSBポートを備えた席もあるので、テレワーク目的で訪れる人もいる。

 トリキバーガーは鳥貴族に比肩する第2の柱に向けて、視界は良好だ。

●新しい挑戦を続ける鳥貴族

 鳥貴族では10月から冬の限定メニューとして、日本中の名物料理をアレンジした「鳥貴族で旅気分」を展開する。具体的には、京都の「もも西京焼」、神奈川の「横浜鶏焼売」など4つのフードと、鳥取の「梨チューハイ」など3つのドリンクを提案している。

 旅行、帰省を自粛している人たち向けの企画で、郷土料理を大量に特集する企画は、コロナ前には見られなかった新しい傾向だ。

 また、7〜10月には、日本水産が18年にブランド化した国内陸上養殖の業務用バナメイエビ「白姫えび」の串焼と、丸ごとエビマヨを販売。白姫えびメニューを注文した人を対象に、鳥貴族食事券2000円分が当たるキャンペーンを実施した。

 白姫えびは殻ごと食べられる柔らかさが特長で、他の企業とコラボして、再来店を促す売り方となっていた。

 同社では、Twitter、YouTubeなどSNSを使った広告宣伝のノウハウ蓄積にも励んでおり、これまでになかったメニュー提案、企業コラボなど、プロモーションの方法も工夫が見られる。

 鳥貴族HDでは、10年後には「鳥貴族のDNA(チキン、均一価格、国産)を持った業態」で「グローバルチキンフードカンパニーとなる」というビジョンを掲げている。大倉社長は今後も、政府、都道府県の自粛要請には応じる姿勢であることを明言している。よほど深刻な感染拡大が起こらない限り、業績回復の道筋は見えてきた。多少の緊急事態やまん防の発動が何回かあっても、一時的な財務悪化に目を瞑れば、数年で成長軌道に戻るだろう。

 鳥貴族の店舗は、テーブルの席間がゆったりしていて密な感じはない。しかも、透明なアクリルやビニールのシートで仕切って、飛沫が飛ばないように席をつくっている。顧客入店時の消毒はもちろん、タッチパネルで注文するシステム化が進み、塩・唐辛子のような薬味もテーブルに並べずタッチパネルでリクエストするように変わった。感染症対策に関しては、基本が押さえられている。

 鳥貴族のようなコロナ前に好調だった業態でさえも、大きく苦戦した。今期に赤字が解消して十分な利益が出るほど顧客が戻ってくるには、昨年のGoToイートに匹敵する、国を挙げた強烈な需要喚起のキャンペーンが必要ではないか。

(長浜淳之介)