都市部のオフィス街に活気が戻りつつある。道路を見ると、たくさんのクルマが走っていて、カフェでは多くの人がコーヒーを楽しんでいて、終電で帰る人の姿もよく目にするようになった。コロナ前の日常が戻りつつあるわけだが、筆者が気になっていることが1つある。キッチンカーだ。

 「あー、そーいえば、オフィス街にも増えてきたなあ。ランチの時間帯になると、行列ができているところもあるし」と思われたかもしれない。ハンバーガー、カレー、ピザなどを販売しているクルマがたくさん並んでいるわけだが、そんな中で「自転車の修理・点検」を掲げるところが目についたのだ。運営しているのは、中古の電動自転車をECサイトで販売している「e-charity(イーチャリティ)」だ。

 大変失礼ながら「クルマでわざわざ来ているけれど、自転車の修理を頼む人っているの? 困ったら近所の自転車店に行くでしょ」と思ったわけだが、キッチンカーのマッチングシステムを提供しているMellow(メロウ)の仕組みを使って、今年の5月に始めたところ、想定以上のお客がやって来た。「ウチの自転車を修理して」「油をさしてもらえませんか?」といった声が多く、1日の売り上げが26万円を超えた日も。「損益分岐点は3万5000円」(担当者)ということなので、大幅に上回っているのだ。

 それにしても、なぜ自転車の修理・点検に人が集まっているのだろうか。その謎を解く前に、イーチャリティ社がなぜクルマを使って、営業をすることになったのかも気になっている。先ほど紹介したように、同社の本業はECサイトでの中古電動自転車の販売である。

 移動営業を手掛けるようになったきっかけを、同社の今西一樹さんに聞いたところ「自転車を購入しても、その後、メンテナンスが必要になりますよね。パンクをすれば修復しなければいけませんし、不具合が生じればそこを修理しなければいけません。以前、お客さんから電話がかかってきたら、クルマでかけつけて修理をしていたんですよね。しかし、連絡がくるまで待機しなければいけませんし、移動の交通費もかかってしまいますし、ビジネス的には厳しいものがありました」と振り返る。

 しかし、多くの人と接していく中で、「自転車を修理してほしい」といったニーズがあることは分かってきた。そこで神戸のとある商業施設にクルマで駆けつけて、修理・点検を行ってみることに。同社にとって初めての試みなので、お客がどのくらいやって来るのかよく分からないし、どのような依頼があるのかもよく分からない。分からないことだらけの中でスタートしたところ、予想以上に依頼があったのだ。

●有明のマンションで営業したところ

 その結果を受け、首都圏でも同じことをやってみることに。世田谷区の馬事公苑で始めたところ、フラリと立ち寄るお客もちらほら。認知度を高めて多くの人に来てもらうために、タイヤの空気入れ、ブレーキのチェック、油さしの3つを無料にしたところ、少しずつ依頼が増えていった。

 その後、有明にある大型マンションでも出店したところ、意外なニーズがあることが分かってきたのだ。「点検」である。個人的な話になるが、筆者は自分の自転車を点検してもらったことがない。自転車店に足を運ぶことといえば、タイヤの空気を入れに行ったり、パンクをしたら修理に行ったり。だいたいそのくらいの理由でしか行かないのだが、マンションの住民は修理だけでなく、点検を依頼するケースが目立ったのだ。

 マンションは海に近いところに建っているので、「自転車がサビるのかな。だから点検してもらう人が多いのかも」と思っていたが、どうやらそれだけではないらしい。理由を尋ねたところ「マンションの近くに自転車店がないんですよね。遠くの店で購入したものの、その後メンテナンスをしていない人が多かったんです」(今西さん)

 自転車が壊れて修理をするとなった場合、数キロ先の店まで運ばなければいけない。実際、持ち込んだものの、「ウチでは修理を受け付けていなくて」と断られたケースも。受け付けてくれたものの、「できあがりは、明日ですね」と言われるケースもあった。となると、帰りは歩いて、翌日も歩いて取りに行かなければいけない。そうなっては大変なので、事前に点検を依頼する人もいるそうだ。

 その昔、たくさんの人が住んでいる街には、家の近所に自転車店があった。しかし、店主の高齢化や後継者不足だったり、大型チェーン店が増えてきたり。こうした背景もあって、閉店するところが増えているようだ。「自転車の病院」がまとめたデータによると、2009年に自転車店は1万9479あったが、17年には1万4758に。

 家の近所に自転車店がない――。このことに不満を感じている人は多かったようで、イーチャリティ社がマンションに駆けつけて修理・点検を行ったところ、「ワタシもワタシも」「ウチもウチも」といった感じで、多くの人から依頼があったのだ。

●青砥のマンションで自転車が売れた

 マンションでの成功事例は有明だけでなく、葛飾区の青砥にある物件でも結果が出ている。有明のときと同じように、ここでも修理や点検を依頼するお客が多かったわけだが、試験的に自転車を販売したところ、1日の売り上げが26万円を超える日もあったのだ。

 「はいはい。そこのマンションの近くにも自転車店がないパターンね。だから売れたんでしょ」と想像されたかもしれないが、理由はそれだけではない。このマンションの駐輪場には、たくさんの自転車であふれていたのだ。

 その原因を調べてみると、自転車を購入したけれども、古くなったので使わなくなった。使わなくなった自転車を処分せずに、そのままにしているケースがあったのだ。そうすると、新しい自転車を購入したいけれど、置く場所がないといった“駐輪難民”の問題が生まれていたのだ。

 こうした事情を知ったイーチャリティ社は、どのような手を打ったのだろうか。本業は中古の電動自転車を販売することである。中古を買い取るノウハウはあるので、マンションで使われていない自転車を次々に買い取っていったのだ(モノによっては無料)。自転車を放置していた人も、そこにスペースが生まれると、「じゃあ、一台買ってみるか」となって、移動販売で売れるケースが出てきた。

 有明と青砥の事例を紹介すると、「このビジネスは順風満帆だなあ」と受け取れたかもしれないが、課題もある。晴れの日にはお客がやって来るが、雨の日は少なくなる。また、これから寒くなってくると、外出する人が減る。そうすると、移動での営業に影響が出てくるかもしれない。さらに、現在は週一ペースでマンションなどを回っているが、パンや野菜を販売しているわけではない。毎日のように購入するモノではないので、お客が“一周”すれば売り上げが減少するのではないかといった不安も残っているのだ。

●事業のペダルはこぎ続ける

 今後のことについて、今西さんはどのように考えているのだろうか。「いまと同じペースで訪問したほうがいいのか。それとも回数を減らして、他のところで展開したほうがいいのか。状況を見ながら、決めていかなければいけません」という。

 移動営業を始めて6カ月が経ったわけだが、イーチャリティ社はその間にさまざまなことを行っている。自転車の洗車サービスを始めたり、子どもたち向けに自転車のマナー講習を始めたり。ロードバイクの洗車サービスを行っているところはあるが、一般的な自転車を洗車しているところは珍しい。また、子どもたちに分かりやすく伝えるために紙芝居をつくって、「赤信号を渡ってはいけません」「二人乗りもいけません」といった内容を話していて、毎回30人ほどが集まってくるそうだ。

 修理、点検、販売、洗車、紙芝居……。さて、これからどんな仕掛けを考えているのだろうか。事業のペダルは当分、こぎ続けることになりそうだ。

(土肥義則)