前編では、施行まであと1カ月となった改正電子帳簿保存法にそなえ、短い時間で「するべきこと」「できること」について語ってもらった、TOMAコンサルタンツグループ持木健太氏とSansan柴野亮氏の対談企画。

 後編となる今回のテーマは、2023年10月に控える「インボイス制度」。そもそもインボイス制度とは何なのか、なぜ導入されることになったのかといった基本に加えて、対応するために準備すべきことまで広く話を聞いた。

●インボイス制度は「消費税の仕組みを明確にする」ためのもの

――あらためてインボイス制度とはどのようなものなのか教えてください

TOMA 持木:現行の請求書は、「区分記載請求書等保存方式」と呼ばれる記載方式になっており、10%と8%の税率ごとに税込合計金額の表示が求められています。インボイス制度における「インボイス」とは「適格請求書」という意味です。今までは税率と税込合計金額の記載だけでよかったところ、インボイス制度では適用税率と、税率ごとに区分した消費税額を明記しなければなりません。

 例えば、10%なら「税込1100円(10%)」、8%なら「税込1080円(8%)」でよかったものが、インボイス制度導入後は「税込1100円(10% 内消費税額100円)」「税込1080円(8% 内消費税額80円)」と細かく入力する必要があります。加えて必要なのが、課税事業者の「登録番号」の明記です。

Sansan 柴野:10月1日から番号登録の申請の受付が開始しました。

TOMA 持木:はい。インボイス制度により、請求書業務は発行側も受領側も今までにない作業に追われることになりますね。

●数千億円規模!? 見過ごされていた「対価1.1倍」の益税解消へ

――そもそもインボイス制度はなぜ導入されたのですか?

TOMA 持木:「正確な消費税額を把握し、正しい税率を確認できるようにするため」でしょう。現在は、軽減税率の採用によって複数の税率が存在しているので、仕入れにかかわる合計金額だけでは消費税額の把握ができないんですね。10%と8%の消費税が混在している中で、本当は支払った税率が8%だったのに、10%と嘘をついて2%の不正利益を得る人もいるかもしれません。まずはそこを整備することが導入理由の一つです。そしてもう一つが、益税対策ですね。

Sansan 柴野:ここにかかわるのが、登録番号ですね。

TOMA 持木:そうです。現行法の制度では、免税事業者に納税義務はありません。しかし、合法的に1000円のものを1100円で請求できるんです。この100円部分が益税です。

Sansan 柴野:それが免税事業者の実質的な収益になっているわけですよね。ただ、最初3%だった消費税が今では10%ですから、これは大きいはず。

TOMA 持木:現在、発生している益税は、数千億円規模だといわれています。日本ではじめて消費税が導入された当時、私は近所の駄菓子屋さんで「このお店は消費税を納めていないはずなのに、なぜ税込金額を払わないといけないのだろう」と子供心に思いました(笑)。

Sansan 柴野:今、免税事業者の対価は自動的に1.1倍になっているともいえますよね。

TOMA 持木:しかし国としては、どうにかして税収したい。もともと日本は消費税率が低い国なんです。益税がある限り、消費税を上げていっても同時に益税も増えていく。インボイス制度は、軽減税率の対応、益税対応、その両面で「消費税の仕組みを明確にして、確実に回収できるような制度に変えていきましょう」という取り組みの第一歩だといえます。

――登録番号があることで、なぜ益税対策になるのですか?

Sansan 柴野:登録番号は、課税事業者しか取得できません。課税事業者であった場合、事前に登録申請をして登録番号を取得し、送付する請求書に明記する。インボイス制度導入後、「仕入税額控除」を受けるためにはこれが必須になります。

――仕入税額控除とは……?

TOMA 持木:企業の納税の流れを整理してみましょう。売り上げで消費税を預かりますよね。一方、仕入れで消費税を払いますよね。そして最終的に、預かった消費税から支払った消費税を引くんですが、これを「仕入税額控除」と呼びます。

 例えば、売り上げで預かった消費税が300円でした。仕入れで支払った消費税が100円です。その差額の200円を納税する仕組みになっています。

 現在は、仕入れ側(買い手)が課税事業者に1100円払う場合と、免税事業者に1100円払う場合があります。免税事業者は納税義務が免除されていますから、1100円が丸々手元に残ります。柴野さんがおっしゃていた「対価が1.1倍になる」というのは、そういう意味です。

――本当だったら、1100円の内100円は納税されるはずだけど、仕入れ先が免税事業者の場合は益税になっているんですね

TOMA 持木:しかも今は、免税事業者に仕入れで支払った消費税も、実質的に仕入税額控除対象になっています。なぜなら、支払先が課税事業者なのか、免税事業者なのか国側で把握できないためです。

 しかし今後は、登録番号で課税事業者と免税事業者がはっきりと区別できます。柴野さんがいうように、登録番号は課税事業者しか取得できないからです。よって、登録番号がない請求書(適格請求書ではないもの)に関しては、仕入税額控除外となります。

●「インボイス制度で損をする」は正しいのか?

――仕入れ先が免税事業者だった場合、今まで益税分になっていた消費税は誰が納税するのでしょうか?

TOMA 持木:仕入れ側です。上の例で言うと、預かった消費税が300円で支払った消費税が100円のつもりだったけど、支払先が免税事業者だった場合は、支払先で納税が行われていません。そのため仕入税額控除とならならず、今まで200円だった納税額が300円になります。

――では、免税事業者と取引をすると損をしてしまうのですか?

Sansan 柴野:そもそもの主旨は益税分をちゃんと納税しましょうということですから、その判断は難しいと思いますよ。正しい税収の形に修正されるだけなので、実は損も得もないはずなんです。

TOMA 持木:とはいえ、もし今後、消費税分を対価から引かれると、免税事業者にとっては実質的な減収になることは否めません。しかし仕入れ側は今まで通り仕入税額控除を受けたい、受けられないならその分、対価を下げたいのが本音でしょう。課税事業者も免税事業者も、今後どういう取引先と付き合っていくか――これは課題になるでしょうね。

Sansan 柴野:インボイス制度と電帳法は、少し毛色が違うんですよね。電帳法には罰則がありますが、「違反の程度を総合的に判断する」旨を国税庁が既に公表しています。つまり、よほど悪質ではない限り一発レッドカードにはならない。それは、電帳法対応が大変だと分かっているからでしょう。

 しかし、インボイス制度は内容がシンプルで、分かりやすく税収にインパクトもある。国としては温情処置を設けるよりも「ダメなものはダメ」としっかり対応を促す姿勢をとっているように思えます。まだ約2年も猶予があるので、自社にも取引先にも周知を図って、対応を進めていきたい制度です。

●2年後には膨大な量の登録番号を手作業で確認するハメに!?

――インボイス制度と電帳法はセットで語られることが多くありますが、どんな関係があるのですか?

Sansan 柴野:請求書に登録番号を明記する、こう聞くと発行側の負荷が高いように思えますが、実は受領側の負担が大きいんですよね。

TOMA 持木:確認作業が出てきますね。

Sansan 柴野:そうです。受領した登録番号が本当に正しいのか、存在するのかチェックしなければいけません。本当は課税事業者ではない取引先相手に、消費税を支払っていた場合、これは仕入れ側の責任になるんですよ。免税事業者が課税事業者のフリをして、消費税を着服する可能性を考えないといけないんです。

 そのため、適格請求書に記載されている登録番号を一つ一つ、全て確認する必要があります。

――面倒くさいですね……

Sansan 柴野:非常に面倒くさいです。登録番号は、「国税庁インボイス制度適格請求書発行事業者公表サイト」で公表されますから、“なりすまし”の可能性もある。番号と会社名が一致しているか、それは実際に取引した会社で間違いないのか調べる作業を人手を使って行うのはかなりの労力です。

TOMA 持木:電帳法に対応して、電子で請求書を受領・管理すれば、登録番号の確認作業にかかる負担も軽減されます。インボイス制度と電帳法にはそういったつながりがあります。

 Sansanさんのクラウド請求書受領サービス「Bill One」では、登録番号の参照も自動で行えるんですよね。

Sansan 柴野:はい。Bill Oneでは、取引先から届く「紙」の請求書の受領、スキャン、データ化までお客さまに代わって行います(詳細は前編を参照)。このとき、「紙」の請求書にかかれている情報はAI-OCRとオペレーターにより、99.9%の精度でデータ化できるのですが、さらに公表サイトを自動的に参照することで、書かれている登録番号が適切かどうかの確認まで一気通貫で行います。

TOMA 持木:請求書を受け取る側は、相手の会社名や氏名、取引年月日、取引内容、金額などを全て帳簿に記録するという業務もありますが、Bill Oneは外部ツールとの連携機能にも対応し、必要な情報を帳簿へ自動反映してくれますね。

Sansan 柴野:今までにはなかった負荷を軽減するためにも、対応ソリューションはうまく活用していただきたいですね。

●電子インボイスと同義ではない? 「Peppol」とはナニモノか

――「電子インボイス」「Peppol」というワードも最近ではよく聞きますが、インボイス制度との違い、関係性を教えてください

TOMA 持木:インボイス制度は義務化ですが、発行形態は「紙」でも電子でもいいんです。その電子で発行受領する適格請求書が、電子インボイスと呼ばれています。

Sansan 柴野:電帳法の要件がここまで緩和され、電子取引による請求書の電子保存が義務化になったのは、政府がデジタル化を推進したいという事情があったと思うのですが、インボイス制度自体は「電子で進めましょう」というわけでもないんですよね。適切な税収を実現したいだけですから。

TOMA 持木:電子インボイスは、効率化のための手段ですからね。

Sansan 柴野:そう、インボイス制度と電子インボイスって、実は異なる趣旨でなんですよ。インボイス制度では税収の形を正したい、でもそれだけでは世の中に負担を与えるだけ。だからそもそもの仕組みとして「電子で請求書をやり取りするとすごく便利ですよ」という文脈で、電子インボイスのPeppolという話が出てくるわけです。

――Peppolと電子インボイスは別物でしょうか?

Sansan 柴野:イコールではないですが、包含されているイメージです。Peppolは電子文書をネットワーク上でやり取りするための国際標準仕様です。今は、請求書に書かれている情報は人が確認していますよね。それが「紙」でも電子でも、会社名がどれで住所がどれで……と目視で判別している。

TOMA 持木:国内の商取引に関して、請求書のフォーマットはバラバラですからね。いろいろなシステムで、いろいろな請求書が使われています。

Sansan 柴野:そうなんです。だけど、Excelやシステムを使って電子で請求書を作っているのに、データ活用ができていない。それって、おかしくないですかと。そこで、請求書でもデジタルtoデジタルの世界を築くために登場するのが、Peppolなんです。

 例えば会社名はここに書いてある、じゃあ会社名のコードは001番に決めます。だから、001番となっているこの項目は「=会社名」ということで、みなさん認識して使ってください――ざっくりいうと、こののような共通仕様がPeppolで定められてます。

 請求書を発行する側も、001番の部分に会社名を入れる。そうすると、受け取った側もシステム上で001番に書かれているものが会社名だと分かる。このように、双方がPeppolに準拠したシステムを使っていれば、デジタルだけで完結でき、データ活用も進みます。

TOMA 持木:20年には、Peppolをベースとした国内共通の請求書の仕様を策定するために、電子インボイス推進協議会「EIPA(エイパ)」が発足しました。EIPAには、デジタル庁はじめ、幹事法人に就任されているSansanさんを含む多くのベンダーが参画していますね。

Sansan 柴野:はい。EIPAはPeppolの仕様を普及促進させることで、デジタルで最適化された業務プロセスを構築することを目的としています。勝手に「はい、これが請求書の共通仕様です」と言っても、誰も使わない。なので、EIPAという一つの協議会に政府も民間企業も一緒にジョインして仕様を検討することで、今後は各ベンダーがそれに準じた形でシステム開発をしてください、サービス提供をして企業に広めてください、そのようなステップを想定しています。

TOMA 持木:当社も先日、EIPA入会の内諾をいただいたところです。われわれは経理周りの業務改善コンサルタントを得意としていることもあり、EIPAに参画されているシステム会社のリストを見ると、Sansanさん含めてほぼパートナーなんですよね。

 われわれとしては、Peppolの仕組みをしっかり理解した上で、推進役としてこれから多くの企業へ広めていく。そのような役割を担っていると考えています。

Sansan 柴野:持木さんがいうように、EIPAを通してPeppolをどう広めていくかは今後課題だと思います。Peppolは義務化じゃないので、乗るか乗らないかは企業の自由なんです。だけど、乗った方が便利だし、今後の業務改善に大きく役立つはずです。

TOMA 持木:電帳法もインボイス制度も、それ自体に対応することだけを考えるのではなく、先にいかに「生産性を高めるための仕組みづくりをするか」が重要だということですよね。乗り遅れると法律や制度ばかりが厳しくなって、どんどん不採算な業務フローになってしまう可能性がありますから。

 今回のような法や制度改正を契機に、積極的にデジタル化を進めて二度手間三度手間がないような仕組みを構築していく。そのためにも、Bill Oneのようなソリューション活用をご案内しつつ、お客さまの業務改善のお役に立つことが、当社の使命だと思っています。

Sansan 柴野:おっしゃる通りです。改正電帳法やインボイス制度は新しく登場したものなので、特に経理業務は前提を変えざるを得ない状況にあります。今足元だけ見て電帳法に対応して、また2年後インボイス制度のときに業務フローを見直して……それでは負担が大きい。

 われわれベンダーとしては、時流に柔軟に対応できるシステム開発に今後も取り組みながら、みなさんのスムーズなデジタルシフトを支援したいと考えています。持木さんがいうように、先まで見据えた上で、ぜひ自社に適したソリューション導入をご検討いただきたいと思います。

●持木健太氏

TOMAコンサルタンツグループ株式会社 取締役

TOMA税理士法人 ITコンサル部部長

中小企業診断士

立教大学理学部物理学科卒業。DX推進の総責任者として、テレワーク環境構築・ペーパーレス化・電子帳簿保存法対応・ビジネスモデルの再構築などで活躍中。企業の労働生産性向上や付加価値向上を目指して、中小企業から上場企業まで幅広く対応している。

●柴野亮氏

Sansan株式会社

Bill One Unit プロダクトマーケティングマネジャー/公認会計士

前職のPwCあらた有限責任監査法人では、上場企業や外資系の会計監査、内部統制監査に従事。2014年にSansan株式会社へ入社。財務経理として、経理実務、資金調達、上場準備業務に従事。その後、請求書がもたらす会社全体の生産性低下を解決するために、クラウド請求書受領サービス「Bill One」を起案し、現在プロダクトマーケティングマネジャーを務める。