東芝が事業3分割による分社化を発表し、経済界に大きな衝撃が走っています。この事業分割計画について、現時点ではまだ詳細不明な部分が多々ありますが、本稿では東芝自身の記者発表と会見で説明された内容を基に、次の3つの視点からその意義と懸念材料を検証してみたいと思います。

 3つの視点とは、(1)事業分割という企業戦略そのものの意義、(2)東芝の今回の決断に大きな影響を及ぼしたと考えられるアクティビスト(物言う株主)との関係、(3)これまでも再三問題視されてきた東芝のガバナンス強化、です。

 最初に今回のスキームを簡単に整理しておきます。同社の発表資料によれば、2023年度にグループ全体を発電、公共インフラ、ビル、ITソリューションなどを手掛ける「インフラサービス会社」、半導体、パワー半導体、HDD、製造装置などを手掛ける「デバイス会社」、そして「東芝」の名称での存続会社で主にキオクシアや東芝テックなどのグループ企業事業体の株式を保有して管理する「資産管理会社」の3社に分割。それぞれで上場。お互い株の持ち合いはせず、各社の専門性を高めかつ経営判断の迅速化を図ることで、各社が専門領域で最大限の発展を目指していくというものです。

 この前提の下で、まず「事業分割の企業戦略としての意義」を考えてみましょう。

●「昭和大企業」が陥りがちなコングロマリット・ディスカウント

 企業の事業分割は一般に、スピンオフ(分離)と呼ばれています。わが国では17年の税制改正で可能になった事業再生の手法で、これまでの活用例は20年のコシダカホールディングス(東証一部)が、カラオケボックス事業(カラオケ まねきねこ)とフィットネス事業(カーブス)に分割された一例があるのみです。同社の分割効果はコロナ禍という事情もあって、現状ではまだ判断がつきにくいところですが、一般にスピンオフは分割後の単体事業に将来性が見込めるならば、大きな効果が期待できるとされています。

 多岐にわたる事業を扱っているがゆえに他事業との関係で個別の事業価値が目減りしている状態を「コングロマリット(複合企業)・ディスカウント」と呼びますが、このコングロマリット・ディスカウントを解消し各事業単体での正しい事業価値を得ていくという意味で、スピンアウトは大きな期待が持てる事業戦略であるといえるのです。具体的には、分割後の各事業が単体で評価されることで独自の資金調達が可能になり、これまで難しかった新規投資などへ投資家を引き込む効果が見込め発展可能性が高まるからです。

 前回記事(「日立と東芝、ソニーとパナ 三度のパラダイムシフトが分けた「昭和企業」の明暗」)でも取り上げたように、総合電機に代表される昭和大企業は今、その古い企業文化からの脱皮が大きな課題になっているわけなのですが、その多くが古い企業文化ゆえにコングロマリット・ディスカウントに陥ってきたという点も見逃せない事実です。

 昭和の大企業経営者は、高度成長期の長年にわたる売り上げ重視の経営思想から本当の意味で脱却することができず、長らく利益率は低くとも売り上げを拡大することで利益額を増やすような会社経営に走りがちだったのです。結果として多くの昭和大企業が多角化戦略への道をたどり、その行く先でコングロマリット・ディスカウントに陥ってしまったわけなのです。

 その意味で、今般の東芝における事業分割計画は、昭和大企業の令和時代における新たな事業展開の道筋を示す、エポックメイキングな事例になり得るといえそうです。時を同じくして米ゼネラル・エレクトリック(GE)やジョンソン・エンド・ジョンソン(J&J)も、スピンオフ戦略を公表しています。歴史ある大企業が多角化の果てに陥ったコングロマリット・ディスカウントからの脱却策として、相次いでスピンオフ戦略を採用しているのは決して偶然ではなく、コロナ禍におけるデジタル化の急進展が大企業経営にスピードアップを迫った結果といえるのではないでしょうか。

●アクティビストとの関係は?

 続いては、本件にまつわる「東芝のアクティビストとの関係」を見てみましょう。

 関係の発端は、東芝は不正会計問題に端を発した経営危機脱却に向け15年に資金調達をファンドに委ねたことから、主要株主にアクティビストたちを迎え入れることになったわけです。それを、前経営陣が不当にアクティビストの思惑排除を企んだがために、同社の経営はかえって苦しい立場に追いやられてしまった、という経緯が事業分割の前提として存在しています。アクティビストが望むことは株価の上昇であり、分割計画がアクティビストの要望で入った社外取締役主導の下、コングロマリット・ディスカウント解消戦略として導かれたものである、という点は注視すべきと考えます。

 過去、同じようにコングロマリット・ディスカウントをアクティビストに指摘され、一部子会社の売却を迫られた例としては、ソニーがあります。13年、ソニーのアクティビストは名門エレキ部門の低迷により株価の大幅な上昇は見込めないと考え、稼ぎ頭のエンタメ部門の分離上場を提案。さらに19年にも、これまた新たな収益部門の半導体メモリ部門の分離上場や稼ぎ頭のエンタメ部門の売却を提案していますが、いずれのケースでもソニーはアクティビストとの入念な対話を繰り返し、グループ企業であることのシナジーを強調しこれを押し切っています。そして、シナジー強化策としてソニーグループとして持株会社化を実行し、最高益の更新と現在の株価の上昇につなげているのです。

 もちろん、単純に戦略的な対応策の違いをもって、一概に東芝の分割計画がダメであると申し上げるつもりはありません。ただ東芝がアクティビストとの対話不足により彼らを力づくで排除しようとしたことは事実であり、その結果としてアクティビストの思惑に沿った対応とならざるを得なかったことには、株主でなくとも一抹の不安を感じさせられるのではないでしょうか。事業分割で各事業が思ったように利益を上げられるか否かは不確定であり、アナリストからは分割後の事業規模縮小で競争力低下を懸念する声も出ています。

 アクティビストとの対話関係が改善しないまま分割後の業績が振るわないならば、アクティビストからの圧力によって分割後に事業を身売りすることも考えられ、最悪の結果として「東芝解体ショー」となってしまうことも考えられなくはありません。当初、日本経済新聞による分割計画スクープを受けた株価の動きは、これに好感した上昇ではなく若干とはいえ下降傾向に動いており、やはり市場はアクティビスト先導での計画に対する先行きへの懸念が拭い去れないとの観測が主流を占めているといえるのかもしれません。

●事業分割でガバナンスは強化されるのか

 さて3つ目の視点である「東芝のガバナンス強化」は、個人的に最も気になる視点です。すなわちこの分割計画で「東芝のガバナンス強化」は図られるのか、ということにはどうも疑問符がつくように思えるのです。

 若干の繰り返しになりますが、事業分割に至った発端は、辞任した歴代社長をはじめとした会社ぐるみでの不正会計であり、さらにはその後も改まらぬガバナンス不全が引き起こした監督官庁を巻き込んでのアクティビスト排除であったわけです。ガバナンス不全の組織風土こそが真っ先に改められなければいけないはずが、今回の事業分割を盛り込んだ中期経営計画にそれに関する具体的な対応が盛り込まれていないというのは、経営としての反省姿勢の欠如に映るのです。

 この点に関する記者の質問に、綱川智社長は「ガバナンスの問題は重く受け止めなくてはならない。ガバナンスの構築なくしてスピンオフはできない。真剣に反省し重く受け止めて終わらせるのではなく、経営陣でしっかり時間をかけてガバナンスの立て直しを進めていく」と答えてはいるものの、抽象的過ぎる回答であり、本気の取り組み姿勢を感じさせるにはあまりに“おざなり”な回答に感じられはしないでしょうか。この1年、東芝はアクティビスト対策に明け暮れたがゆえに、ガバナンス改善が明らかに置き去られているのはないかと懸念されるところなのです。

●再建の最重要課題はガバナンス強化ではないか

 日経新聞が事業分割案をスクープしたその前日、同紙面では15年の不正会計の時効が成立して旧経営陣の刑事責任が問われなくなったとの記事が大きく取り上げられていました。その記事では、問題を調査した東京地検特捜部関係者から「膿を出し切れなかった」と悔やむ声があがっている、と報じられています。

 加えて、もう一つの不祥事であるアクティビストの提案を不当にしりぞけた20年の株主総会運営についても、これを検証してきたガバナンス強化委員会が事業分割公表と同日に「倫理的責任は免れ得ないが、法的責任は問えない」と結論づけることで、これもまた実質おとがめなしで終わっています。

 これらの動きが、東芝経営陣のガバナンス強化方針を今以上に緩ませることになるとすれば、それは危機的なことであるという警鐘を鳴らす必要があります。先のガバナンス強化委員会の金築誠志委員長が東芝の企業統治体制について、「形は立派だが、魂は入っていないのではないか」と評しているように、引き続き東芝再建に向けた最重要課題はガバナンスの強化であることは間違いないのです。

 ガバナンス強化が厄介であるのは、それが長い歴史を刻んできた企業の組織風土に根付いたものであるからに他なりません。経済界を揺るがす東芝の事業分割計画が本当に機能し、東芝は生まれ変われるのか。はたまたアクティビスト主導でこのまま「東芝解体ショー」に転じてしまうのかは、何よりもまず今後の同社のガバナンス再構築、すなわち組織風土改革いかんにかかっているのではないかと思っています。

(大関暁夫)