企業と顧客、社員と経営者、企業と企業、社員と社員……。ビジネスとはさまざまなコミュニケーションの塊です。つまり、成功にはコミュニケーションが円滑に行われることが必須です。そして、キーになるのは「エンタメ転換」という考え方です。

 まずは自己紹介を。私はただ今53歳。新卒で日本テレビに入社し、20年間の在籍中「マネーの虎」「とんねるずの生ダラ」「ロンQハイランド」「行列の出来る法律相談所」など、主にバラエティ番組のプロデュースをしてきました。40代頭に転職し、ハンゲーム(NHN Japan)→LINEに在籍後、独立しました。

 自ら立ち上げた「株式会社サイコー!」(東京都渋谷区)では、番組の企画やプロデュースにとどまらず、エンタメコンテンツ創りの知見を生かしたビジネスコミュニケーション創造、新規事業開発のコンサル・プロデュースをしています。

 私の仕事は、エンタメ的視点・要素を活用した“グッドコミュニケーション”創出のプロデュースです。「エンタメ」関連の仕事は、「楽しんでもらえるにはどうしたら」ではなく、「これで楽しむだろう」というクリエイターの独りよがりに陥る危険性も含んでいます。私も何度かこれで失敗をしました。

 日本テレビ時代の話です。あるオーディション番組を成功させた私は、そのスタイルが必勝法だと思い込み、次の新番組でもそれを踏襲。しかし、今度はものの見事に外してしまいました。視聴率が全く上がらず、困惑と迷いとストレスから数カ月に渡って“お腹ピーピー状態”でした。今思い出してもゾッとします。

 その時の私は、お客さんのことを見つめておらず、唯我独尊的に「これで楽しむに違いない」と思い込んでいたのです。これでは、エンタメの力を生かすプロデューサーとして失格です。楽しませたい相手のことをまずはしっかりと見つめ、その上で、エンタメ的視点で相手にとって最適な“グッドコミュニケーション“を創り出す――。この姿勢を忘れないようにしています。

●社内イベントを企画

 コンテンツビジネスで学んだ考え方は、企業と顧客の間だけではなく、企業内のコミュニケーションでも活用できます。その一つの事例として、数年前にプロデュースをした某大企業の全社パーティを紹介したいと思います。

 その企業は会社史上最高益を達成し、それを記念した社内イベントを行うことになりました。

 一般的に、大会社の社内イベントですと、表彰や社長からの激励あいさつ、そして盛り上げるためのビンゴゲーム大会を行うことが多いでしょう(私のいた日本テレビでもそうでしたから。しかもビンゴゲーム抜きで)。厳粛に(無難に?)行うのが常です。

 しかし、過去最高益を分かち合うことで、「会社として明日につながる社内“コミュニケーション”」を生み出したい――。そんなことを考えていました。

 そこで必要になるのがエンタメ転換です。私は、楽しませたい相手の「思い」をしっかりと知ることから始めました。

 本社は都内にありますが、製造工場は別の場所にあります。そして会社の成長に伴って従業員も増え、組織も多様化していました。

 さまざまな部署の力を結集して成し遂げた最高益。普段はなかなか触れ合いのない多様な部署の社員が共にそれを実感し、皆の心が一つになる――。そんな時間を創り出したい。しかも、「ありきたりな形」ではなく……。

 その時、私が考え付いた「楽しい」の形は「興奮」でした。

 本社勤務社員と工場勤務の社員、そして平社員から経営陣。会社の横と縦がフラットに一緒に「興奮」の時間を過ごすこと、それを具体的な目標に設定しました。

 その興奮を生み出すキーワードとして選んだのは「ギャンブル」と「音楽」。どちらも“脳内麻薬(!?)”の分泌を促すものでしょう。それらを体現する場として選んだのは「ディスコ」です。

 こうして、社内イベントの会場は、“銀座の大箱ディスコ”となりました。

●どんな仕掛けをしたのか

 当日、経営陣や工場勤務の社員など数百人がディスコに集合しました。

 まず行ったのは第一のキーワード「ギャンブル」を形にしたもので、社員による「なんでもダービー」です。これは、さまざまな競技において社員が「馬(競技プレイヤー)」となり、誰が勝つか他の社員がBETするというもの。

 競技の内容は次のようなものです

・ディスコの2階バルコニーから、ひらひらと不規則に揺れながら落ちる短冊をあたふたとキャッチする「ひらひらキャッチ」

・ディスコ内に設置したレースレーンを、子ども用三輪車に乗って3人のライダーがその速さを競い合う「三輪車グランプリ」

・白い粉が敷き詰められたパッドの中に隠れているハイチュウを、手を使わずに探し出す3人1組のリレーレース

 いずれも、“テレビバラエティ”的なばかばかしいものばかりです。

 しかし、これはほんの入り口。「人を楽しませる」ためにはその後の細やかな仕組みと演出作りが肝心なのです。設定した仕組み/ルールは次の通りです。

・会場に来た人は皆自分の名刺を箱に入れ、各競技の選手は競技の冒頭に箱の中から名刺をピックアップして決定

・名刺は社長や役員も入れる

・選手以外は誰が/どのチームが勝つかをBETし、見事当てた人の中から抽選で豪華プレゼントを進呈

 大きな会社だと、お互い顔も名前も知らないというケースが多いです。すると、社内イベントパーティがあっても、知り合い同士で固まりがちです。

 ですが、上記のルールにより、自然と(強制的に)知らない社員同士がチームを組んだり、BETをきっかけに応援したりします。社員がお互いの存在を知り、会社の全体感をいつの間にか感じるようになるのです。

 ディスコを3周する三輪車グランプリでは、社長と若手社員の対決となりました。社員たちが「社長負けるな!」「◯◯頑張れ!」と大声で応援します。子ども用三輪車に悪戦苦闘しながら、社長と若手社員が真剣に熾烈なレースバトルを展開しました。

●壁ドンをした真意

 ゲストとして、売り出し中のイケメンアイドルユニットに来てもらいました。このメンバー、実は全員がいわゆる「おなべさん」で、とても美形です。そして、アイドルユニットのメンバーに、抽選で「壁ドン」をしてもらえるコーナーを設けました。こちら、今だからバラしてしまいますが、隠れた狙いがありました。当時、初の女性役員が誕生し、この方の人となりや、素顔の魅力を広く社員に知ってもらおうという企画でした。そして、抽選でその役員の方が当たったのは、バラエティの神様の思し召しですね、きっと。

 こうしたバラエティの仕掛けによって生まれたフラットなコミュニケーションを、「一体化」に昇華させる「興奮」を生み出したのが、2つ目のキーワードである「音楽」による「80'sディスコタイム」です。

 年配社員にとっての「青春の名曲」を次々とかけることより、社長をはじめとしてさまざまな世代の社員が入り混じりました。そして、お立ち台に乗って大いに盛り上がりました。やはり音楽の力というのは偉大です。

 また、これら“狂乱”のコーナーに加えてもう一つ、同社の看板商品のWeb CM出演者を、社員投票で決める選挙を実施しました。

 この選挙には、前出のアイドルユニットとは別のユニットも参加しました。計2組のアイドルユニットが出演し、そのライブパフォーマンスを見て、イベントに参加した全社員の投票によってCM出演者を決定しました。普段CM業務とは関わりの無い製造部門の社員などが、「自分たちがキャスティングに携わる体験がまさかできるとは!」と「興奮」しました。その姿を見た宣伝部のメンバーは、自分たちの仕事の重要さと責任の重さを改めて痛感したそうです。

 イベント翌日、このパーティの責任者の方は、社内の廊下で多くの社員から「あんなイベント初めてだったよ!」と声を掛けられたといいます(知り合いだけでなく、今まで交流の無かった社員からも)。

●企業と顧客のコミュニケーション

 ここまで紹介したグッドコミュニケーションの重要性は、企業と顧客の関係にも当てはまります。

 私は、30年来メディアに携わり続けてきました。ネットやSNSの浸透によって、世の中のコミュニケーションスタイルが変化してきたことを肌で感じてきました。最近は「人々の“自分主役意識”」が高まっていると考えています。

 これまでは、企業が顧客を「収益を上げる対象=マーケット」として捉え、「どうしたら売れるのか?」というマーケティング戦略を実行してきました。しかし、こうした「企業軸」のビジネススタンスは通用しない時代になってきています。

 また、情報があふれ、いくらでも気軽にコミュニケーションができる時代だからこそ、「自分のことを大切にしてくれていることを実感できる」コミュニケーションへの欲求が高まっています。

 グッドコミュニケーションの基本は、「相手を楽しませたい」「幸せにしたい」という姿勢です。

 エンタメの世界では当たり前のその姿勢で、顧客を企業にとっての「楽しませる存在」「幸せにすべき存在」として捉える。そして、常に顧客の心に響く「コミュニケーションを生み出す場や形とは」を考え、実行する。

 そのような「エンタメ姿勢と視点」こそが、これからのビジネスコミュニケーションのカギなのです。

 顧客が「ありがとう」と言ってお金を払ってくれる、そんな「最高消費」をエンタメ転換によって生み出して行きましょう。

【2021年12月1日午後5時00分 一部表記を修正しました】

(金田有浩)