西九州新幹線開業、北陸新幹線敦賀延伸の開業時期が近づいている。それに伴い、「次はこちらに」とばかりに誘致運動が活発になってきた。そこで今回は、新幹線基本計画路線の現在の動きをまとめてみた。

 2022年の鉄道界隈にとって、大きな話題のひとつが「西九州新幹線」の開業だ。博多〜佐賀〜長崎間と定められた「整備新幹線」のうち、武雄温泉〜長崎間が22年秋に開業する。フル規格標準軌の新幹線で、車両はJR東海が開発した「N700S」6両編成4本を投入する。

 部分開業のため、福岡〜長崎間の現行特急「かもめ」と比較して所要時間短縮は30分程度にとどまり、武雄温泉駅で乗り換えが必要となる。運賃も上がる。

 鳥栖〜武雄温泉間は佐賀県が難色を示しており、しばらくは長崎と佐賀県の温泉街を結ぶ「温泉超特急」になりそうだ。それもいいじゃないか。私のような乗り鉄にとっても開業は喜ばしい。

 JR九州は西九州新幹線開業に合わせて観光列車「ふたつ星4047」の運行を開始する。運行区間は西九州新幹線と同じ武雄温泉〜長崎間で、新幹線の両側の在来線を巡る。午前は武雄温泉発長崎行き、長崎本線経由で有明海を望む。午後は長崎発武雄温泉行き、大村線経由で大村湾を望む。新幹線は山の中のトンネルばかりだから、景色を楽しむ人は観光列車に乗るのかもしれない。

●JR九州は新幹線と観光列車で需要喚起

 新幹線開業と連動した観光列車開発はJR九州の得意芸だ。04年の九州新幹線が新八代〜鹿児島中央間で部分開業したときは、熊本〜吉松間の「いさぶろう・しんぺい」に観光車両を投入し、吉松〜鹿児島中央間に特急「はやとの風」を運行開始した。

 11年の九州新幹線全線開業時には、熊本起点の「A列車で行こう」「あそぼーい!」、鹿児島中央起点の「指宿のたまて箱」を運行開始。JR九州の観光列車たちが広くメディアで紹介された。

 JR九州の長距離列車は高速バスの発達により苦戦していた。新幹線は速いが運賃は高い。だからこそ新幹線の目的地を創出する必要があった。それが魅力ある観光列車の開発だ。「ふたつ星4047」の車両は「いさぶろう・しんぺい」「はやとの風」を改造して使うとのこと。鹿児島新幹線のテコ入れ列車の役目は終わり、次の西九州新幹線の応援に向かう。

 西九州新幹線では「ふたつ星4047」のほかに、既存の観光列車「或る列車」も華を添えるだろう。長崎方面の観光列車はほかに「36ぷらす3」もあるけれども、この列車は電車で、現在の長崎本線は肥前浜〜諫早間の電化設備が撤去されるから運行できない。「ふたつ星4047」は、こうした観光列車の再編も見越した施策かもしれない。

●福井県の期待大きく、37年は新大阪が「新幹線の核」になる

 24年春には北陸新幹線の金沢〜敦賀間が延伸開業する予定だ。東京〜福井間の所要時間は32分短縮されて2時間53分となる。東京〜敦賀間は3時間17分となり、こちらは東海道新幹線と米原からの特急を乗り継いだ2時間51分より長くなる。乗り換えなしが魅力といったところか。福井県としては三大都市圏と北陸3県同士の交流人口拡大に期待している。

 北陸新幹線の敦賀延伸に当たり、福井県内の北陸本線の敦賀〜大聖寺間は並行在来線としてJR西日本から分離され、福井県主体の第三セクター鉄道になる。受け皿となる福井県平行在来線準備株式会社は開業時に使う会社名の公募を始めた。県民以外も応募できるとのこと。IRいしかわ鉄道、あいの風とやま鉄道、えちごトキめき鉄道と並ぶ北陸第三セクターファミリーだ。どんな名前になるか、ちょっと知恵を絞ってみようか……“ゲートウェイ”はやめような!

 そして27年にはリニア中央新幹線の品川〜名古屋間が開業予定だ。静岡問題、トンネル事故問題で長引きそうだけど、公式な開業予定は27年のまま。新大阪開業は37年のままだ。北陸新幹線の敦賀〜新大阪間の開業目標も37年。そして後述の四国新幹線も37年を目標としている。37年は日本の高速鉄道ネットワークにとって重要な年になる。

 前後するけれども、北海道新幹線の札幌延伸は31年春の予定で工事中だ。ここまでが着工区間である。自治体負担、JRの承認、並行在来線分離の合意など、条件が整った路線から着工してきた。しかし、国の新幹線整備計画はほかにもある。

●四国新幹線の誘致が活発化

 全国に新幹線の計画がどれほどあるか。佐賀県を除いて、ほとんどの県は新幹線を作ってほしいと考えている。三大都市圏と直結すれば、経済が活発化すると期待しているからだ。東京・大阪・名古屋との人流が活発になり、経済効果も付いてくる。つまり自県の外の経済圏のチカラを受け止めたいと考えている。その意味で「福岡との往復に新幹線はいいらない」という佐賀県は独特で、もう少し視野を広げてほしいけれども、この話はここまで。

 さて、各県に新幹線誘致構想があるなかで、国は構想と計画の線引きをキッチリ付けている。昭和後期に運輸大臣(当時)が告示した「建設を開始すべき新幹線鉄道の路線を定める基本計画」だ。新幹線基本計画(路線)と呼ばれる。

●1971年(昭和46年)告示

・東北新幹線 東京都〜宇都宮市附近〜仙台市附近〜盛岡市〜青森市

・上越新幹線 東京都〜新潟市

・成田新幹線 東京都〜成田市

●1972年(昭和47年)告示

・北海道新幹線 青森市〜函館市附近〜札幌市〜旭川市

・北陸新幹線 東京都〜長野市附近〜富山市附近〜大阪市

・九州新幹線 福岡市〜鹿児島市

・九州新幹線 福岡市〜佐賀市〜長崎市

●1973年(昭和48年)告示

・北海道南回り新幹線 長万部町〜室蘭市〜苫小牧市〜千歳市〜札幌市

・羽越新幹線 富山市〜新潟市附近〜鶴岡市附近〜酒田市附近〜青森市

・奥羽新幹線 福島市〜山形市附近〜秋田市

・中央新幹線 東京都〜甲府市附近〜名古屋市附近〜奈良市附近〜大阪市

・北陸中京新幹線 敦賀市〜名古屋市

・山陰新幹線 大阪市〜鳥取市附近〜松江市附近〜下関市

・中国横断新幹線 岡山市〜松江市

・四国新幹線 大阪市〜徳島市附近〜高松市附近〜松山市附近〜大分市

・四国横断新幹線 岡山市〜高知市

・東九州新幹線 福岡市〜大分市附近〜宮崎市附近〜鹿児島市

・九州横断新幹線 大分市〜熊本市

 日本で計画されている新幹線として、これらの路線がリストアップされている。準備が整い次第着工となるけれども、やはり順列というものがあって、先に告示された路線が優先的に検討されている。

 リストを上から見れば、71年に告示された東北・上越新幹線は完成した。成田新幹線は頓挫し、跡地と成田空港敷地の設備の一部がJR京葉線東京駅、JR成田エクスプレスと京成スカイライナーに転用された。千葉ニュータウン付近も建設用地が残っていて、一部はソーラーパネルが敷き詰められているという。

●順番を待てなかった中央新幹線

 「新幹線なんて、ちまちま作らないで一気にドンと開業すればいいんじゃ。東海道新幹線なんて5年3カ月で完成しただろうが」と、昭和時代の政界のドンならいいそうだけれど、現実はそうはいかない。

 東海道新幹線が早く建設できた背景には、戦前の弾丸列車計画によって用地買収とトンネル工事が先行していた。現在のような環境アセスメントの概念はなかった。だからこそ、後に弊害として騒音に苦しむ沿線の人々から名古屋新幹線訴訟が起こされ、突貫工事と予想外の走行影響がのちに響いて、76年から82年まで44回にわたって平日半日運休してまで若返り工事を実施した。このときの設備強化が後の「のぞみ」誕生につながったという。

 東海道新幹線は資金面も無茶をした。当時の国鉄総裁の十河信二が実際より低い見積で国会の予算案を通し、世界銀行から借り入れて「国と世界の約束事」として開業させた。後に予算が膨れ上がった責任をとがめられ、十河は引退。開業式にも呼ばれなかった。しかし、十河がいたから新幹線は開業できた。いまなら大炎上しそうな案件だった。

 このような無茶はもうできない。国鉄が赤字解消の目的で分割民営化されて以降、国から鉄道への予算配分は小さくなった。新幹線は作りたい、でもお金はない。限られた予算を分散して配分し、なんとか作っていくという現状だ。

 つまり、71年組の新幹線の目途が立つまで、72年組の新幹線は着手できないし、72年組の新幹線の開通の見通しが立つまで、73年組の新幹線関連予算は出ない。

 この順番を待てなかった路線が中央新幹線だ。JR東海にとって、東海道新幹線の需要が旺盛な上に、建設から半世紀が経過し、施設の抜本的な更新が必要だった。将来的に長期運休の恐れも出てきた。東名阪の国の動脈を結ぶ責任者として、中央新幹線建設を急いだという経緯だ。

 そこで自ら国の順序から外れた。従来の整備新幹線の枠組み「鉄道建設・運輸施設整備支援機構が建設し、JRが借りて使用料を払う」ではなく、JR東海が自社資金を調達して建設することになった。だから73年告示路線では中央新幹線のみが着工されている。

●動き出す「73年組」

 72年に告示された路線のうち、九州新幹線(鹿児島ルート)は完成し、そのほか3路線は未完成ながら一部開業、開業予定だ。北海道新幹線は札幌で一段落。北陸新幹線は新大阪開業の方向で動く。西九州新幹線は未開通だけど、佐賀県問題で停滞している。

 ならばそろそろウチの番だ、とばかりに73年組が動き出している。報道を追ってみると、最もロビー活動が活発な路線は四国新幹線だ。毎年のように四国新幹線整備促進期成会の大会が開催され、国土交通省、財務省、自民党本部に要望を伝えている。そればかりか、徳島県、香川県、香川県、高知県が複数回にわたり要望活動を実施し、経済団体も活発だ。

 21年は新型コロナウイルスの影響もあり落ち着いているけれども、愛媛県新幹線導入促進期成同盟会が7月に政府へ、10月にJR四国とJR西日本へ要望書を手渡している。タレントを起用したローカルテレビ番組を作ったり、SNSも活用して市民への周知も始めた。

 四国が一丸となって推進している計画は、基本計画のうち、四国新幹線の徳島市附近〜高松市附近〜松山市と、四国横断新幹線の岡山市〜高知市を一括で整備する。14年の試算で事業費は1.57兆円。経済波及効果は年間169億円で、費用便益比は1.03となった。費用便益比が1.0を超えれば経済効果アリと見なされる。経営的に苦しいJR四国を救う方法はこれしかないという声もある。

 開業目標は37年と定めたようだ。前出のように、リニア中央新幹線、北陸新幹線が新大阪に到達する年で、四国新幹線は山陽新幹線に乗り入れて新大阪を発着したい。新大阪〜香川・徳島・松山・高知は1時間15〜30分で結ばれるというし、リニア中央新幹線は品川〜新大阪間を67分で結ぶから、東京から四国各県は2時間〜2時間半程度で結ばれる。四国が近くなる。

 「奥羽新幹線」「羽越新幹線」については、沿線6県で構成する「関係6県合同プロジェクトチーム」が17年から独自調査を開始し、21年6月に結果を発表した。東京〜山形間は現在より46分短縮されて1時間40分、山形〜秋田間は現在の3時間23分が42分になる。合わせると東京〜秋田間は2時間半以内だ。

 奥羽新幹線の費用便益比は単線フル規格で1.13とかなり高い。羽越新幹線を同時に建設した場合は0.47〜1.08とのことで、条件によって変動が大きいようだ。国などへの要望活動はこれからといったところ。ただし、山形新幹線の遅延・運休対策として、板谷峠に新しいトンネルを建設する方向でJR東日本と協議が行われる見込みで、山形県はフル規格で建設し、将来のフル規格新幹線に対応したい考えだ。

 「北陸中京新幹線」は、北陸新幹線敦賀〜新大阪間の検討ルートのひとつとして名乗りを上げたけれども選定されなかった。その後の動きはない。

 「山陰新幹線」は促進要望団体が多く「山陰新幹線建設促進期成同盟会」「山陰縦貫・超高速鉄道整備推進市町村会議」「山陰新幹線を実現する国会議員の会」「山陰新幹線京都府北部ルート誘致・鉄道高速化整備促進同盟会」「山陰新幹線整備促進鳥取市議会議員連盟」などが結成された。いずれも20年以降の活動実績が公開されていない。

 「山陰縦貫・超高速鉄道整備推進市町村会議」によると、山陰新幹線の整備効果として、大阪〜米子間は現在の約3時間10分から約2時間となり約1時間の短縮、大阪〜舞鶴間も約2時間から約1時間となり、約1時間の短縮となる。

 当然ながら沿線への経済効果はあるわけで、鳥取まで全線フル規格の複線で建設された場合は「0.90兆円の建設投資で、1.72兆円分の累積GDP増加」、米子まで全線フル規格の複線で建設された場合は「1.60兆円の建設投資で、2.96兆円分の累積GDP増加」という試算も示されている。しかし費用便益比の算定までは至らない。

 「東九州新幹線」は福岡県、大分県、宮崎県、鹿児島県と北九州市で構成する東九州新幹線鉄道建設促進期成会がある。大分県と宮崎県の要望が強く、20年に国土交通省に要望活動を行った。

 同会の調査結果に寄ると、博多〜大分間は現在の2時間5分から47分となり、1時間18分の短縮、大分〜鹿児島中央間は5時間18分から1時間17分となり4時間1分の短縮となった。博多〜宮崎間は大分県の試算で5時間14分から2時間9分となり3時間5分の短縮となった。費用便益比は40年から90年までの50年間ですう勢(成り行き)で1.12、戦略(積極的政策実施)で1.31となった。

 「北海道南回り新幹線」と「九州横断新幹線」はいまのところ目立つ動きはない。

●整備計画へ格上げは誘致活動とデータで決まる

 73年組の一部が動きを見せていることで、72年組の北海道新幹線の札幌〜旭川間についても動きが出た。18年、当時の北海道知事は北海道新幹線の札幌以北、北海道南回り新幹線について議論を始める考え示した。その中には基本計画路線を離れ、稚内や新千歳空港も視野に入れていた。その後は知事交代などで動きはなかった。しかし20年3月に、札幌〜旭川間沿線23市町などが「北海道新幹線旭川延伸促進期成会」を設立し、11月18日に国土交通省へ整備計画の格上げを求めた。

 新幹線の基本計画路線は、政府が必要と認められたときに「整備計画」が決定し、調査予算がつくなど具体的な検討が始まる。その後、自治体の負担、JRの運行引き受けと並行在来線切離しなどの条件が整うと着工となる。

 73年組はまず、基本計画路線を「整備計画」にしてもらうように要望活動を実施している。その材料として独自に算出した費用便益比、整備効果などの資料を提出する。つまり、要望活動といっても、ツテを頼ってあいさつする程度では意味がない。

 いまのところ、整備計画の格上げにもっとも熱心な路線は「四国新幹線」。次位が「奥羽新幹線」と「東九州新幹線」といったところか。しかし、費用便益比の算出時期から時間が経っていて、現在の経済状況、少子化傾向、コロナ後の需要見直しが整っていない。実現に近づくためには、費用便益データの更新と、便益比を上げるための施策も必要だ。

 繰り返すけれど、「新幹線、作ってやる。私に任せなさい。ヨッシャヨッシャ」という豪腕政治家はもういない。あいさつ10回より、説得力のあるプレゼン1発が必要だ。乗り鉄の筆者としては成就を願うばかりである。

(杉山淳一)