マイホームを建てる場合、土地購入、設計、見積もり、材料調達、施工、住宅購入といったプロセスがあり、住み始めるまでに1年以上かかるといわれている。なかには、設計だけで1年半を費やすケースもあるとか。

 この一連のプロセスを1つのプラットフォーム上で完結させ、納期を劇的に短縮できる次世代の家づくりサービス「Nesting(ネスティング)」が2022年春にローンチ予定だ。21年11月初旬、同サービスを使った1棟目のプロトタイプが北海道弟子屈町に完成した。

 手掛けるのは建築テック系スタートアップ「VUILD(ヴィルド)」と共創型戦略デザインファームのBIOTOPE(ビオトープ)。デジタルテクノロジーで、建築産業そのものの構造変革を目指すヴィルドの秋吉浩気CEOにネスティングの構想を聞いた。

●ゲーム感覚で設計、瞬時に見積もりが出る「家づくりアプリ」

 2社が共同で開発しているデジタル家づくりプラットフォーム「ネスティング」は、マイホームを建てる際の不動産調達、設計、見積もり、材料調達、施工、住宅購入といった一連のプロセスを一気通貫で請け負うサービスだ。各プロセスは従来の家づくりとは大きく異なる。特に、施主が自ら家を設計し、瞬時に見積もりを取得できるのは画期的だという。

 Web上で必要な間取りを描くと、瞬時に家の形が立ち上がる。さらに、建具、設備、家具、仕上げを選んでいくと3次元のイメージと見積もりが表示され、リアルタイムで費用を把握できる。秋吉氏いわく、「窓の位置、大きさ、建具などを思いのままにカスタマイズしながら、瞬時に見積もりが出るサービスはほかにない」とのこと。ネット上で探してみても、同様のサービスは見当たらなかった。

 「従来は6カ月以上かかる設計のプロセスが、ネスティングなら最短1時間ほどで完成します。見積もりを待つ必要がなく、その場で費用を確認できるので施主のリスク削減にもなる。北海道弟子屈町に建設したプロトタイプは、アプリの開発を同時進行で行ったため、開発に6カ月、施工に約3カ月を要しましたが、今後は設計に約1時間、施工も3カ月以内に短縮する予定です」

 現在はベータ版のみ公開されているが、22年のローンチ後は、ヴィルドの設計士が監修しながら施主が設計することもできる。将来的には、アプリ内でオーダーメイド住宅の発注ができる仕組みを目指しているそうだ。

●「気候変動」と「地域の課題」に配慮した住宅

 ネスティングのメリットについて、秋吉氏は、気候変動への対策と地域の課題解決にも言及した。ネスティングには、環境性能が高い住宅テンプレートが用意されており、周辺地域で採取される木材の利用も可能だ。

 例えば、北海道弟子屈町に完成したプロトタイプの住宅は、極限まで断熱性能と気密を高めるだけでなく、地元の温泉熱を利用して、エネルギー使用量を最小限に抑える工夫がされている。木材には炭素を吸収する性質があるため、炭素排出量も削減できる。

 また、ヴィルドがこれまでの事業で培ってきたデジタル製造プロセスを活用することで、大空間中に柱がない設計になっているため、増改築や転用も容易になるという。

 「弟子屈町は年間平均気温が5.4度、ときにはマイナス20度にも冷え込む寒冷地ですが、気密と断熱性能を高めたことで、床に設置した1台のエアコンで温風を循環させ、快適な温度に保つことができます。ただし、省エネルギー設計の建築にはコストがかかるため、エコロジーな設計はオプションとしています」

 建築業界のイノベーションと共に同社が目指すのが、地域の課題解決。ネスティングでは、地域の木材を使い、どの工務店でも建てられる構法を採用している。これは、それぞれの地域が持つ課題を解決したいという思いが背景にある。

 「僕らは、寒村地といわれる人口の少ない地域でも活動しています。3D木材加工機『Shopbot(ショップボット)』を地域の工務店に販売したり、地域で建築物やパビリオンを建てたり。ただ、都心から来た建築家が一時的に滞在しても、地域の本質的な課題解決にはいたらない。地元の人たちが自ら家具や建築をつくることができる技術基盤を提供することで、寒村地の課題を解決できるのではないかという仮説のもとに、事業を展開しています」

●1つの土地に5世帯で家を建てる実験的な取り組みも

 ネスティングでは、マイホームの設計、材料調達、施工にとどまらず、不動産や金融の領域までカバーする構想がある。不動産の調達は、日本の各地域のコミュニティーホストが提供する敷地の中から、風景やコミュニティーなども参考に好みの土地を選べる。金融システムは、通常の現金購入や住宅ローンを組む以外に、1つの家を共同購入する仕組みを取り入れたいと秋吉氏は語る。

 「通常、不動産、設計、流通、施工、金融は、すべて異なる企業が担当します。それを一気通貫させてしまおうという、すさまじいDXを想定しています。金融領域をカバーするのは、住宅を自分で所有するだけでなく、収益化を含めた価値を生み出せるものにしたいから。住宅を一緒につくる、コミュニティーを一緒に育てるなどの体験を価値として提供できればと思っています」

 この共同購入の実験として、5世帯が集い1つの土地に共同で住まいをつくるプロジェクトが秋田県で進行中だ。寝室やキッチンといった部屋は世帯ごとに独立しているが、屋根のみつながっており、1つの建物としてみなされる。このような住宅は「コレクティブ・ヴィレッジ」と呼ばれるそうだ。

 5世帯それぞれが資金を捻出するが、一般的な住宅ローンとは異なる、まったく新しい方法で家を所有することになるという。

 「住宅ローンは非常に制約が厳しく、一度契約すると手放しづらい欠点があります。また、木造住宅の耐用年数は22年で、その月日が経過すると資産価値がゼロになる。まだシステム開発中の段階で詳細をお伝えできないのですが、木造戸建てのデメリットを払拭(ふっしょく)できるような金融システムを提供する予定です」

 ヴィルドでは、21年5月にネスティングの構想の発表と同時に、先行ユーザーの募集を開始。すると、想定の5〜6倍の応募があったとか。

 「期待よりも良い反応でした。ただ、狙っていた層とややズレているなという感じも。建築プロセスやライフスタイルのイノベーションに魅力を感じる層に届けたいのですが、『早くて安い』といった点に魅力を感じる人が半分ほどいました。最終的にローコストで提供できるとは思いますが、それはまだ先の話。まずは、革新的な建築という点に共感してくれるユーザーを狙っています」

●23年中にエコロジカルな木造戸建てを100棟建築

 秋吉氏は、「大企業なら3年ほどかかるイノベーションを半年に短縮することができた。一定の達成感を得ている」と話す。では、なぜヴィルドは、これまで誰もできなかった建築のDXを達成できたのか。その答えは、同社のビジネスモデルにあった。

 「僕らは、3D木材加工機『ショップボット』を地域に普及させるとともに、木製ものづくりのデザインからパーツに加工するまでの工程を、オンラインで完結できるクラウドサービス『EMARF(エマーフ)』を開発し、提供してきました。僕らが建築物を設計・施工する際もエマーフの技術とショップボットを活用しています。事業を通して、設計から施工までの工程をデジタルでつなげる知見をためてきたから、ネスティングの構想を実現できたんです」

 エマーフは、このような複雑な設計の家具を、わずか1時間ほどの加工時間で自宅のサイズに合うように調整できる。職人がカットするのではなくショップボットによる出力のため、複雑なデザインでも製造コストが下がり、納期が早いメリットも。

 同様の技術と地元の木材を使って建設した「まれびとの家」は、20年度のグッドデザイン金賞(経済産業大臣賞)を受賞。秋吉氏自身は、35歳以下の建築家による展覧会で、Under 35 Architects exhibition Gold Medal賞(2019年)、若手クリエイターに送られるベストデビュタント賞(2020年)を受賞し、これらがヴィルドの知名度アップに貢献しているようだ。

 最後に、秋吉氏が描く展望を聞いた。

 「22年春にサービスをローンチした後、一気にアクセルを踏みます。23年中に100棟、25年までに1000棟の建設が目標。1000棟を超えれば関係者は数十万人規模になり、住宅のあり方、人々のライフスタイルが変わっていく感覚を日本全体に共有できるのではないかと。

 地域の木材を使った家が増えれば、炭素貯蓄量を増やすこともできます。木造住宅は30年に1回ほどのメンテナンスが必要ですが、建築物としての役目を終えた木を燃料に回すなどエコロジーなサイクルも作れます。複数世帯で家を建てることで集落を生むことも。事業を通して気候変動や人口減少、地域格差といった社会課題へ貢献することが事業の根幹であり、僕らがやりたいことです」

(小林香織)