近年、ネット通販サイトなどで頻繁に見られる「送料無料」の表示。手頃な印象を消費者に与える一方で、弊害を被る人々がいる。荷物の配送を担うトラックドライバーたちだ。「無料」という言葉が、宅配サービスの価値は低いという印象を与え、トラック輸送従事者の社会的地位を低下させている――。足元では宅配便の再配達が増えているほか、ドライバーが受ける悪質クレーム(カスタマーハラスメント:カスハラ)なども確認されており、運輸業界は「送料無料」表示の見直しを訴えている。

 「コロナ禍以降、『送料無料』という表示が輪をかけて見られるようになった」

 こう話すのは、トラック運輸の従事者らで構成する労働組合「運輸労連」の中央書記次長、福本明彦さんだ。

 送料無料という表示に「配送費用はかかっていない」という印象を抱きそうになるが、当然そんなことはない。実際には、商品の販売会社が負担している。

 「『無料』という言葉が、配送は価値の低いサービスなんだという感覚につながっているのではないか」と福本さんは指摘。運輸業界はこれまで「送料無料」ではなく「送料は会社負担」などの表示に改めてほしいと要請を続けてきたという。

●再配達が増えてきている

 運輸業界が懸念する“配送サービスの軽視”は数字にも表れている。

 国土交通省の調査では、宅配便の再配達率が足元で上昇傾向にある。コロナ禍前の2019年に16.0%だった再配達率は、翌20年は巣ごもりの影響もあり8.5%に改善した。しかし、21年は11.2%と再び1割を上回る結果となっている。

 国交省は再配達率の増加について、「緊急事態宣言の発出による外出自粛要請などの影響があった前年同月と比べ、在宅時間が減少したことが影響したと考えられる」とする。

 一方で、福本さんは「中には再々配達という事例もある。恐らく無料サービスだからいいだろうという考えが一部の消費者にあるのではないか」と指摘。「サービスの軽視が、カスハラなどの迷惑行為につながっていくことを恐れている」と懸念を示す。

●ドライバーに消毒液を噴射

 実際に、コロナ禍ではトラック運輸従事者への中傷や、理不尽な対応が相次いだ。

 愛媛県新居浜市の市立小学校では、ドライバーの子どもに小学校の入学式出席を見合わせるよう要請があった事例が発覚した。

 ドライバーが配達先の利用者からアルコール消毒スプレーを噴霧されたり、利用者に荷物を引き渡して玄関ドアを閉めた後に、「消毒液をまいておけ」といった声がドアの向こうから聞こえてきたりした例など、悪質な言動や配慮を欠いた対応が多く報告された。

 国交省によると、国内貨物の年間総輸送量(トンキロベース)は近年、40億トンキロ台前半で推移している。このうち、最大となる5割の輸送をトラックが担っている。

 トラックは人々の生活に関わるあらゆるものを運ぶ。米や小麦といった農産物から、鉱物資源、原油、建設資材――。これらを工場に運んだ後、加工された製品を再びトラックで運んでスーパーなどに届ける。

 こうした物流がストップすると、人々の生活は立ち行かない。社会機能の維持に不可欠な業務でありながら、その重要性が世間に浸透していないのが現状だ。

 福本さんは「まずはトラック輸送の役割・重要性を認識してもらうことが第一歩だ」と話す。そのためにも、「送料無料」の表示見直しは喫緊の課題だと位置づけている。