2007年1月、和歌山電鐵貴志川線貴志駅(和歌山県紀の川市)に、日本の民営鉄道初の猫の駅長として「たま駅長」が誕生。これをきっかけに、全国各地で同様の動きが出ている。会津鉄道・会津線の芦ノ牧温泉駅(福島県会津若松市)でも、「ばす初代ご長寿あっぱれ名誉駅長」(以下、ばす駅長)から始まり、現在は3匹のネコが働いている。ネコ3匹が働く姿はとても人気で、ファンの獲得だけでなく、グッズ化・映画化にまでつながっている。ネコが地方の鉄道ビジネスにもたらした変化とは。広報担当を務める小林洋介さんに話を聞いた。

●「ネコではありますが、彼らも立派な社員です」

 朝、小林さんとともに出勤してきたのは二代目名誉駅長のらぶ(以下、らぶ駅長)。一緒に働く施設長のぴーち、アテンダントのさくらは血のつながった実の兄妹だ。

 ネコたちの勤務時間は午前9時〜午後4時。業務は主に、列車のお見送り、駅構内のパトロール、待合室でのいやし提供の3つだ。ネコたちの目を守るため、写真や動画の撮影は禁止だが、やさしく触ることは可能としている。中でも列車への見送りは、社員が教えたわけではなく、ネコたちが自然と始めたものだという。駅長や社員としての自覚の現れなのかもしれない。

 また、彼らの役職名や仕事中に身に着けている帽子や制服などは、全て駅で働く人間の社員と同じもの。小林さんによると、「ネコではありますが、彼らも立派な社員です。一目で会津鉄道の社員だと分かるように、リアリティーにこだわりました」とのことだ。

●ばす駅長の跡を継いで

 3兄妹が働くのは、芦ノ牧温泉駅。その名の通り、渓谷美と湯量豊富な天然温泉である芦ノ牧温泉が有名な福島県会津若松市にあり、1927年に国鉄会津線の上三寄駅として開業。87年に会津鉄道に転換し、芦ノ牧温泉駅に改称した。

 同駅のネコ駅長のはじまりは、99年に地元の小学生に保護されたばす駅長だ。駅に住み着き過ごすうちに、地元で有名な駅ネコになっていった。たま駅長のデビューを知った当時の社員の発案により、2008年に名誉駅長に就任。以降ネコ駅長として仕事にまい進してきた。

 15年には、ばすが「芦ノ牧温泉駅初代ご長寿あっぱれ名誉駅長」に、地元住民の家で生まれたらぶが「二代目名誉駅長」に就任した。後輩の就任を見届けた翌年、ばすは虹の橋を渡った。名誉駅長として長きにわたり尽力してきたばすは同社によって社葬され、トロッコ車両AT-301の隣に埋葬された。その場所には、墓石の代わりに「花桃の木」を植え、今も後輩ネコたちの働きを見守っている。

 その後、17年にはぴーちが施設長に、21年にはさくらがアテンダントに就任した。残念ながら、ぴーち施設長はアトピーを発症したため大事をとって、20年に引退し、現在は小林さん宅で自宅警備を行う傍ら、時々出勤している。

●Twitter、ECサイト、人気を支えるSNS戦略とは?

 芦ノ牧温泉駅のネコ駅長・ネコ職員を一躍人気者に押し上げたのは、積極的なSNS展開にある。これはひとえに、小林さんの尽力によるところが大きい。もともとバンド活動をやっていた小林さんは、SNSやグッズ展開などセルフプロデュースの経験があった。

 地元である芦ノ牧温泉駅で働き始めた当初、駅ではSNSなどに力を入れていなかった。「ネコ駅長やネコ社員の魅力を、もっと多くの人に届けたい!」と、15年12月からTwitter(@ashinomakionsen)を開始。当初、社内からは不安や反対の声もあがったが、地道に投稿を続け徐々に人気を獲得し、現在では約2万3000人(5月27日時点)のフォロワーがいる。

 Twitterで人気を集めるにつれて、県内外からは3兄妹目当ての利用客が急増。有名イラストレーターとコラボするほか、タオルやキーホルダーなどのグッズの販売も開始し、順調に知名度を上げていたところへ、新型コロナウイルスの感染拡大が直撃した。

 緊急事態宣言や外出自粛のため、鉄道の利用客は激減。Twitter上で情報発信は続けていたところ、ファンからの「現地に行けなくても、3兄妹を応援したい」という要望が寄せられ、グッズ販売のためのECサイトを立ち上げた。現在では国内はもとより、海外からの注文もあるという。「コロナ禍前は、駅での実店舗だけで手いっぱいだったのですが、こういう状況になって、逆にECサイトを始める余裕が出てきました」と小林さん。

●活躍の場を広げる3兄妹

 小林さんの手腕により、順調にファンを増やしている3兄妹たち。7月には彼らの日常を映画化した「にゃん旅鉄道」が公開されるほか、会津鉄道開業35周年記念に、ばす駅長はじめ4匹をラッピング車両が運転するなど、その活躍ぶりはとどまることを知らない。

 小林さんにこれからの課題を聞くと、2つあるという。1つ目は、現在のファン層(30代後半〜50代)に加え、Z世代を中心とした若者のファン層を増やすことだという。「ネコたちをきっかけに若い人にも当駅や周りの観光地を知ってもらい、コロナが明けたら、ぜひ現地まで遊びに来てほしい」(小林さん)。

 2つ目は、グッズ販売など小売り以外の収入源を作ることだ。特に広告収入に注目しているという。21年にはYouTubeのチャンネルを開設し、動画投稿を開始。現在はライブ配信を中心に、3兄妹の勤務の様子や、小林さん宅での勤務時間外の様子を配信している。

 小林さんは、3兄妹の飼い主でもある。「これからもいろいろ挑戦していきたいですが、まずは3兄妹を第一に考え、大切にしていきたい」と語る。