ここ数年グミ市場が盛り上がっていることをご存じだろうか。明治の推計によると、2021年のグミの市場規模は約600億円超。この10年で約2倍に増加し、ついにガムや錠菓(タブレット菓子)、清涼菓子を逆転した。

 これらの商品を仕事中や外出時にサクッと口に入れていた人も多いだろう。カバンやオフィスにストックしていたりコンビニで買ったりと、どちらかといえば“外向きの商品”という印象が強い。

 なぜグミがこれほど支持されているのか。明治でグミやガムなどを担当するマーケティング本部吉川尚吾氏は2つの理由があると分析する。

 1つ目は、喫食シーンの増加。2005年頃からさまざまな味を詰め合わせた大袋商品が発売され、家にストックして子どもたちに食べさせる動きが出始めた。また、14年頃からは職場で小腹を満たしたり気分を切り替えたりする時に食する「ビジネスシーン」での需要も増加。子どもからビジネスパーソンまでターゲットが拡大している。

 2点目は、グミに慣れ親しんだ層がじわじわ増え始めていることだ。日本初のグミは明治が1980年に発売した「コーラアップ」。発売から40年以上がたち、子どものころにグミを食べたことがあるという世代が増え、市場ボリュームが拡大し続けてきたワケだ。

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 コーラアップは当初、子どもをターゲットに発売。グミの弾力を調整し子どもでも食べやすい噛み応えとしたほか、当時人気のコーラフレーバーが受け、小学生男子を中心に大ヒットとなった。

 98年には休売となったものの、2008年に発売当時小学生だった30代男性をターゲットに再発売。弾力もかみ応えのあるハードタイプとした。

●コロナ禍で一時苦戦もV字回復

 発売からじわじわとファンを増やしてきたグミだが、コロナ禍で外出する機会が激減すると、売り上げも大きく落とす結果となった。「巣ごもり需要」という言葉が出たように、ビスケットやチョコレート、ポテトチップスなどは支持を集めたが、外出先や仕事の合間で食べるグミやガムの売れ行きは苦戦。一時期はコンビニエンスストアのレジ横にびっしり並んでいたタブレット菓子の需要も激減してしまった。

 しかし、21年に入り、その動きに大きな変化が現れた。ガムやタブレット菓子はそのまま縮小を続けたものの、グミはその独特な弾力のようにV字回復を果たしたのだ。なぜ、グミは回復してガムは右肩下がりを続けたのか。

 「グミをどこで食べるか調査したところ、幸いなことに『自宅で』と回答する人が年々増えていました。また、グミを買うときに重視する点として『食感』と答える人が増加傾向にあることが分かりました。コロナ禍を機に、グミの特徴である『独特の食感』を好んで自宅で食べることが習慣化されつつあり、V字回復につながったと考えています」(吉川氏)

 一方、ガムやタブレット菓子は口臭予防などの「エチケット」として購入していた人が多く、マスクを着用する機会が増えたことでそのニーズが激減。苦戦を続けている。特にガムは新型コロナが拡大する前から需要は減っていて、「口に入れたものを吐き出す」ことに抵抗を感じていた人も多かったという。

 「25年ほど前に粒タイプのガムが登場し、当時は新しいユーザーの獲得も進みました。しかし、それ以降は新しい層を獲得できず、ここ10年程は既存のユーザーで何とか市場を維持している状況でした。コロナ禍もあり、その既存ユーザーもどんどん離脱しています」(吉川氏)

 ここ数年で起きた急激な市場変化。十数年業界に身を置く吉川氏も、「これほど市場が動くことを見たことがない」と驚きを見せる。

●リラックス時とイライラ時にかみ分け

 そんなグミ市場であるが、最近パッケージに「かみここち指数」を表す食感チャートが記載されていることに気が付いただろうか。グミの新たな利用シーンを生み出そうと、明治が21年8月から始めている取り組みだ。

 かみここちを客観的に判断できるようにするため、「人の感覚」「そしゃく中に受ける力」「かみちぎりやすさ」という3つの指標で総合的に評価。グミのかみ応えを6段階に分けたチャートで表現している。

 例えば、「果汁グミ」は食感チャート2。日本人に心地よい食感を目指したという。また、弾力食感を訴求する「コーラアップ」は食感チャート5となる。チャート5を超え「5+」と表記された「コーラアップ ザハード」のパッケージには、「この商品は弾力が超強力なため、硬いグミが苦手な方はご遠慮ください」との表記も。

 グミを買うときに重視する点として『食感』と答える人が増加傾向にあると紹介したが、明治がグミの「かみここち」に重きを置く理由はそれだけではない。吉川氏は、ガムにはないグミの魅力として「“かむ”こと」と「器としての価値」があると説明する。

 「ガムを口に入れた際、始めは『かもう』と意識しますが、だんだんと無意識にリズミカルにかむようになります。一方グミは、口に入れた瞬間は結構硬いですよね? かみ進めると途中で形が崩れ、小さな力でかめるようになります。その時実は、脳は考えながら力を弱くし、砕けたものが舌や歯の上に乗り続けるよう調整しているのです。人間はグミを食べるときに、結構頭を使って食べていて、それがどうも健康に良さそうだということが分かってきました」(吉川氏)

 かめるものであれば何でもいいわけではないようで、例えば、スルメやガムの硬さはほぼ一定で硬さの調整が難しい。一方グミは、「もうちょっと硬い方が価値がある」と分かった時には調整が自由にできるという。

 「器としての価値」は、常温で長期間保存ができること。カバンに入れて外に持ち出せたり、オフィスにストックしてサッと食べたりできる。吉川氏は「カルシウムやビタミンなど、フレーバーに合わせてさまざまな成分が配合できる点も魅力的だ」と話す。

 これらをうまく活用し、健康につながる要素をプラス。グミに新たな価値を付加するのが食感チャートの狙いという。現行のチャートでは、かみここち指数を数字のみで表しているが、今後は専門家と相談しながら、例えば2は「リラックスしたいとき」、5は「イライラしたとき」などそれぞれに適したシーンを記載する予定だ。

 「将来的には、子どもが受験勉強で集中させたいから5を買おうとか、小さなお子さんでかむ力が弱いから、1のグミだけを食べさせようといった新しい買い方ができるのではと考えています」(吉川氏)

●そしゃくの過程を分析する「ORAL-MAPS」

 では、この食感チャートはどのように数値化しているのか。グミの“かみここち”を支える装置が、東京・八王子の「明治イノベーションセンター」にある。その装置が「ORAL-MAPS(オーラルマップス)」だ。

 日本医科大学が発明したライセンス技術と、明治独自の解析と食品物性の評価技術を統合し制作したもので、食べ物がそしゃくによってどう処理されていくのか、一連の過程を観察する実験装置だ。2020年より本格的な運用を開始した。

 装置の中心部にグミを置き、人工唾液を少しずつ流しながら下のパーツを上下に、上のパーツを水平に動かすことで食品をそしゃくする。

 食感チャート2の果汁グミを使った実験を見せてもらったが、既定の回数に達した段階でグミの形はほぼ砕けていた。これが、チャート5の商品の場合はほとんど形が残った状態になるという。この実験を基に「かみここち」を数値化し、商品開発へと応用しているわけだ。

●流行に乗らず、既存ブランドの育成に注力

 同社によると、グミを購入する層は30代前後の育児世代が圧倒的に多いという。その層を拡大するためにさまざまな取り組みを進めているわけだが、意外にも明治が展開するグミのラインアップはほとんど変わっていない。

 ここ数年、SNSなどでは若年層を中心に「地球グミ」や「目玉グミ」といった変わり種の商品がブームとなったが、同社では主力ブランドの「果汁グミ」「ポイフル」「コーラアップ」などに注力し、そのブランド価値を高めてきた。吉川氏は、「本当にいいなと思って食べてもらえる商品をじっくりつくりたい」と話す。

 「グミをおやつではなく、少し健康感のあるものに変えていきたいと思っています。『おいしく楽しい』を大前提に、『かむとこんなにいいことがあるよ』という思いを伝えていきたいと思っています」(吉川氏)

 吉川氏は、グミを食べることは“自転車で坂道を下る感覚”に近しいと表現する。坂道を下る間はハンドル操作やスピードの加減を意識しないといけない。グミを食べているとき、頭の中では無意識に微妙なハンドル操作を行っているわけだ。

 ついにガムを抜き、その弾力のように“お口の中市場”を制する勢いのグミ。「かみここち」を軸にした同社の戦略で、今後どう成長するのだろうか。