回転寿司最大手「スシロー」を経営する、あきんどスシロー(大阪府吹田市)は6月9日、消費者庁から「おとり広告」に該当する景品表示法違反が認められたとして、措置命令を受けた。

 例えば、高級品である「うに」が110円(黄色い100円皿)の超低価格で提供されるとあって、顧客たちが喜んでスシローに乗り込んだら品切れだった。そして、肩透かしを食らった人々の怒りが爆発。「テレビの華々しいCMは何だったのか」とクレームの嵐に。消費者庁としても見過ごすことができなかった。

 おとり広告とは、「商品・サービスが実際には購入できないにもかかわらず、購入できるかのような表示」で、景品表示法の不当表示として規定している。

 スシローでは、販売数が足りなくて売り切れるリスクを懸念してか、キャンペーン商品などに「売り切れ御免」と表示するケースがある。しかし、消費者庁では「売れ切れ御免は、なくなっていたら許してくれという意味ではない。早く注文しないとなくなってしまうと煽る文言だ」としている。売り切れ御免は販売促進にしか働かないというのが、消費者庁の見解だ。

 スシローの店は同業他社の店と比べても、普段から商品を切らしていることが多い印象がある。つい先日も、とある店では午後3時に「生うに」と「鶏せせり唐揚げ」が切れていた。できればディナー時間が始まる午後7時頃までは持たせてほしかった。

●早々と完売したタピオカ

 さかのぼると、2019年7月のタピオカブーム最盛期に、スシローで販売した「光るゴールデンタピオカミルクティー」が売れ過ぎて早々と完売。生産体制を立て直して8月中旬以降に再開するまで、品切れ中の状態が続いたことがあった。この商品は約3カ月で175万杯も売れた。

 その頃、スシローのスイーツ企画は神がかっていて、16年11月に発売した「ベリーファンシー監修 苺のふわとろパンケーキ」、17年11月に発売した「グラニースミス監修 アップルパイ」なども飛ぶように売れていた。食べに行ったら、品切れを起こしていた、終売していたという経験がある人も多いだろう。

 このような経験から、スシローの社内には「売れ過ぎて品切れを起こすのは商品力が強い証拠。再開しても、また売れる」といった共通の認識、人知を超えた売り切れ御免を目指す企業文化が形成されてきたように見える。

 平素から品切れが多いから、担当者は大々的に宣伝しているキャンペーン商品が切れていても、「売り切れ御免だからごめんなさい」として、特に大きな問題とは思わなかったのではないだろうか。

 おとり広告について、スシロー側に悪意はなかったのかもしれない。キャンペーン商品で品切れを起こしても当たり前と感じる一種の鈍感力、または社内の共通感覚があったと考えられる。

 違反行為は、前社長の堀江陽氏(現・京樽社長)管掌下の21年9〜12月に起きている。現在の新居耕平社長は、今年4月1日に就任したばかりだ。この人事と、おとり広告が関係していたと見る向きもある。

 消費者庁によれば、「おとり広告の事例はわりと多い」という。あってはならないことには違いないが、特に不動産のネット広告で多く見られる。実際は成約している格安物件を広告に出しておいて、それを目当てに顧客が来店したら別の物件を勧めるといった違反例が一般的だ。今は消滅へと向かっているが、不動産業界の一種の慣例だった。

 スシローにおいては実際は売っていない、うに、かにといった超目玉商品をテレビやネットで宣伝。来店した顧客には、切らしているから仕方ないと別の商品を食べてもらっていた。

 顧客を存在しない商品で釣るおとり広告は、どうして無くならないのだろうか。

●おとり広告と認定された3品

 スシローが「おとり広告」を行ったと認定されたのは、次の3品だ。

 1つ目は、21年9月8〜20日に実施したキャンペーン「世界のうまいもん祭」で提供した19品のうちの「新物!濃厚うに包み」(110円)。

 通常、スシローに行くと、うに(生うに)は330円の黒い皿で提供されている。それが3分の1である、黄色い皿で110円という特価で販売されるのだから、わざわざ遠いところから家族総出で繰り出したケースもあっただろう。

 店に到着して、「うには売り切れていました」と店員に言われた時の“がっかり感”はとても大きいものだったと想像される。筆者自身は、うににそこまでの執着はない。スシローは旬のネタをそろえたフェアー商品が豊富なので、他に面白い商品があればそれを食べようと切り替える。しかし、全員がそう割り切れるわけではない。食べ物の恨みは恐ろしいのだ。

 2つ目は、同年9月8日〜10月3日のキャンペーン商品、「匠の一皿 独創/とやま鮨し人考案 新物うに 鮨し人流3種盛り」(528円)。こちらも、うにである。

 3つ目は、同年11月26日〜12月12日に実施したキャンペーン「冬の大感謝祭 冬のうまいもん」で提供した9品のうち「冬の味覚!豪華かにづくし」(858円)。

 6月17日、同社の親会社であるFOOD&LIFE COMPANIESは「一部報道に関するお知らせ」というニュースレターを発行した。そこには、「報道の中で『詐欺』という表現や『過去からも意図的に繰り返し行ってきたのでは?』とご指摘をいただくことに、従業員一同大変心を痛めている一方で、今回の件の事の重大さを改めて痛感し、猛省しております」と書かれてあった。

 また、「現在も、大変多くのお客様からお問い合わせや、がんばれといった応援のご連絡をいただいており、この度交付された措置命令の重大さを改めて実感しております」ともあった。

 総じて文面から伝わるのは次のようなことだ。社内では、売り切れ御免の態度に対して、一般のユーザーの反応は温かくて励みになる。一方、報道は冷たくて傷つくものだと受け止めている。報道は消費者庁の発表をもとに、時には被害を受けた消費者の声を代弁するために、法的措置について取り上げるので、スシローから見れば言い過ぎと思われる厳しい表現になりがちだ。

 報道がおとり広告について厳しく取り上げた後も、スシローの店舗は相変わらずにぎわっているようだ。ニュースレターからは顧客から支持されているという自信も垣間見られる。うにやかににさほどの思い入れのないユーザーにすれば、スシローは依然、安価で満足度の高い寿司を提供してくれるチェーンだ。私の知人にも「スシローは最近、混み過ぎていた。人気が落ちて空いているなら行ってみたい」と言っている人もいたほどだ。

●売り切れ御免はあり得ない

 つい最近も、キャンペーン商品ではなかったが、とある店で「店内茹で本ずわいがに」(330円)をタッチパネルで注文したところ、品切れで提供できないと店員が謝りに来た。

 また、先述した別の店では生うにと鶏せせり唐揚げが入荷待ちで提供できないと、店の外に張り紙がしてあった。実際に入店すると、「鮮魚3貫盛り」「たい」「漬けごま真鯛」「しまあじ」など、計10品ほどの商品が品切れを起こしていた。午後9時頃と遅めの来店ではあったが、生うにと鶏せせり唐揚げ以外は店の外に品切れの告知もなく、タッチパネルを見るまでは分からなかった。閉店するのは午後11時なので、来店した時間も悪かったが、ちょっと多過ぎるのではないだろうか。

 繰り返すが、消費者庁ではキャンペーン商品ならば大々的に宣伝している以上、売り切れ御免はあり得ないとしている。

 これだけ品切れが頻発すると、現場の感覚も麻痺(まひ)してしまって、宣伝を強化しているキャンペーン中の商品であっても気にならなくなるのも、むべなるかな。

 前出のニュースレターによれば、おとり広告に認定された3品について、販売経験から算出した数量を上回る注文があったのが原因としている。しかし、実態は毎日のように仕入の需要予測が外れている。

 おとり広告に認定された3品のケースをもう少し詳しく見てみよう。

 「新物!濃厚うに包み」においては、9月14〜17日、ほとんどの店舗で販売を停止した。キャンペーン実施期間中、早期に完売する可能性があると判断したための措置だった。

 販売を途中で止めた店は、国内594店中584店。実に98%の店に及んだ。

 「匠の一皿 独創/とやま鮨し人考案 新物うに 鮨し人流3種盛り」では、9月18〜20日の販売を停止した。これもキャンペーン実施期間中、早期に完売する可能性があると判断したための措置だった。

 販売を途中で止めた店は、国内594店中572店。こちらも96%の店に及んでいる。

 「冬の味覚!豪華かにづくし」に関しても、予想を超えた売れ行きとなってしまい、早期に完売した店舗が発生。一部店舗においてかかる表示を中止するなどの措置を講じていなかった。

 販売を途中で止めた店は、国内604店中581店。これまた96%の店が該当する。

 そればかりでなく、フライヤーの修理がコロナの影響で間に合わずに、最初から提供していない店が3店あった。スシローとしては前出ニュースレターで、店頭に「設備故障により販売していない」との告知をしていたから、最初から販売する意図がなかったとする一部報道に対して事実と異なる旨、反論している。

 しかし、かにを目当てに来た顧客にしてみれば、店に来てはじめて提供できない事情を知るのでは、釈然としない。「詐欺」と断定するのは言い過ぎにしても、「だまされた」と思う人も出てきてしまう。消費者庁では、「一般消費者が店舗で販売していないと知る由がなかった」としておとり広告だと断定している。

●おわび文章の気になるところ

 前出のニュースレターを読むと、景品表示法違反「おとり広告」の要点である「販売できない状態なのに、なぜ広告・宣伝を止めなかったのか」に関する記述がないのは気になるところだ。

 消費者庁は、キャンペーン商品を諸事情で販売できなかったことではなくて、販売していないのに宣伝し続けたことを問題にしているのだ。その点が正確に把握されていないのではないかと思えてしまう。

 極端なことをいうと、キャンペーン商品の仕入の需要予測が外れまくってもいい。そして、大々的にテレビやネットで宣伝するから、需要予測が外れて商品を切らすと、来店した顧客の中には詐欺的に感じられる人も大量に出てしまう。

 また、店頭でかにを「設備故障により販売していない」と告知をしていたからといって、かにの宣伝を継続していた事実があれば、不当表示が免責されるわけではない。法律は、本当は売りたかったけど売れなかったという、店舗側の気持ちを問題にしてはいないのだ。

 日本広告業協会は、「放送局には各局でキャンセルの規定が決められている。通常、タレントの不祥事でCMをキャンセルする場合は、代わりにACジャパンの広告が流される」としている。

 スシローも販売の取り止めを決定した時点で、キャンセル料をTV局に支払えば、広告を止められたはずだ。スシローのような大量出稿するクライアントに対しては、テレビ局も条件を緩めてくれるケースもあるそうで、個別の交渉次第だ。

 自社公式サイトでの宣伝は、代理店に事情を伝えるだけで、もっと簡単に止められた。

 しばしば外れるキャンペーン商品の需要予測に合わせて、キャンセル料も織り込んだ販管費予算の策定が必要ではないだろうか。

●不動産業界ではどんな問題があるのか

 おとり広告で問題になった他業界の事例を見てみよう。

 おとり広告は、先述したように不動産業界では特に問題視されている。不動産のポータルサイトなどに、相場よりも安価な価格・賃料の物件を掲載しておいて、来店した人に、成約済みだからと、別の物件を勧めるといったものだ。

 首都圏を中心に不動産業者が加盟する「首都圏不動産公正取引協議会」によれば、「実際には悪意あるケースより、成約した物件をサイト上で消し忘れていることが多い」とのこと。不動産業者に悪意がなくても、架空の物件を使って宣伝していると消費者には映る。住む気満々で期待に胸膨らませて来店した顧客に、「その物件は売れた。借りられた」と説明したのでは、だまされたと怒る人が出てくる。これが、おとり広告の実態で、うっかり成約済みの土地・建物を掲載してしまっただけだという気持ちの問題で免責されないのだ。

 同協議会の20年度の事業報告によれば、おとり広告の相談件数は169件あり、全体の2.3%を占めている。また、違約金追徴に至った事案19件のうち、契約済みにもかかわらず継続して広告していたもので、最長では「契約後3年5カ月以上掲載」が認められた。

 それでも、同協会の活動の成果として年々、おとり広告は減ってきているという。

 不動産業界の事例からも、おとり広告を止めるには、社内の当たり前を変える相当な覚悟が必要だ。

 スシローでは具体的な再発防止策を検討し、社告の内容を消費者庁に確認してもらっている。しかし、社内の文化になっている、商品の品切れは当たり前、売り切れ御免で許されるという感覚が刷新されないならば、意に反して、おとり広告は繰り返されるだろう。

(長浜淳之介)