パナソニックは、家電や住宅設備以外にも、車載用バッテリーをはじめとした各種エネルギーソリューション、業務用の照明などのライティング機器など、さまざまな製品を手がけている。そして同社が、現在力を入れている面白い取り組みの1つにスポーツ関連事業がある。

 パナソニックは2020年10月に、ガンバ大阪をはじめとするプロスポーツチームを管理する組織として、スポーツマネジメント推進室を設立。これが22年4月、パナソニック スポーツ株式会社として分社独立した。

 パナソニックには、グループのコーポレートスポーツチームである埼玉パナソニックワイルドナイツ(ラグビー)、パナソニック パンサーズ(バレーボール)、そしてガンバ大阪(サッカー)など多くのスポーツチームがある。

 パナソニック スポーツは、これらチームを強化をしていくとともに、地域社会やファンへの貢献、そしてスポーツを持続可能なビジネスにするサービスの提供の提供を目指すという。

 このようにパナソニックがスポーツ事業に力を入れる大きな理由として、日本のスポーツ市場の拡大が背景にある。16年のスポーツ庁「スポーツ未来開拓会議中間報告」によると、国内スポーツ市場の規模は25年に15.2兆円に達すると試算されているのだ。

 ここでいう市場には、プロスポーツ市場のほか、スタジアム・アリーナを核とした街づくりから、アマチュアスポーツやスポーツ用品の販売拡大までが含まれる。パナソニックは、この拡大するスポーツ市場での売り上げ拡大を目指しているというわけだ。

●スポーツ×街で目指す、リカーリングビジネス

 パナソニックがスポーツ市場で展開しようとしている取り組みの1つが、リカーリングビジネスだ。リカーリングとは、「循環する」という意味の英語。メーカーとして照明器具や、スタジアム設備などの商品を売るだけでなく、継続的に価値を生み出し、長期的に利益を創出できる仕組みを作り出そうとしているのだ。

 このリカーリングビジネスのモデルとなるのが、パナソニック エレクトリックワークス社(以下、EW社)が取り組む、埼玉県熊谷市の熊谷スポーツ文化公園内にある多目的スポーツ施設「さくらオーバルフォート」である。

 「さくらオーバルフォート」は熊谷ラグビー場に併設するグラウンドと管理棟、クラブハウス、ホテル総合施設などで構成されたスポーツ空間。施設は埼玉県ラグビーフットボール協会が建設・所有し、管理棟などはパナソニック・スポーツ事業センターに35年間定期賃貸契約で貸し出される仕組みとなっている。つまりパナソニックは、スポーツを通して35年間、継続的にビジネスを行う予定ということだ。

 この取り組みのためにパナソニックは、ラグビーチーム「パナソニック ワイルドナイツ」の本拠地を群馬県太田市から埼玉県熊谷市のさくらオーバルフォートに移転。単に備品を納入したり、施設を作るだけでなく、事業計画から構築、そして、施設完成後の運営にも参画している。

 具体的には管理棟内の店舗を各テナントなどに貸し出すなどの運営部分を、パナソニックホームズが担当。またグラウンド用の屋外照明や屋外機材、ホテルへの内装建材、アラウーノやジアイーノなど、パナソニックが持つ関連製品を納入し、合計約2億円の売り上げも生み出している。

 さらに、施設が完成した後は、カメラAIによるデータ解析やデジタルマーケティング、運営の省力化支援などのリカーリングサービスを用意。継続的な売り上げを確保するとともに、ラグビーを通じた地域振興にも協力するという、長期的な取り組みなのだ。

 EW社は、このようなリカーリングビジネスを日本各地で進めるために、新たにスポーツビジネス推進室を設置。さくらオーバルフォートをモデルケースに、日本全国でスポーツを軸にした地域の価値向上を目指す。スポーツビジネス推進室は、25年度に90億円の売り上げ目標を掲げている。

●松下時代から伝統のスタジアム照明もLED化

 さらにスポーツ関連で力を入れているのが、アリーナの照明・音響システムの総合演出だ。

 例えば、埼玉県所沢市のベルーナドームは17年よりボールパーク化に向けた改修を実施。その中でパナソニックは、大型のメインビジョンのほか、508台のフィールド照明や40台の空間照明などを導入し、ビジョンや音響などを組み合わせた総合演出を実現している。

 さらに21年3月に完成したベルーナドーム(完成当時はメットライフドーム)は、球場と周辺施設が一体化したエンターテインメント空間に生まれ変わっている。

 また、兵庫県西宮市の阪神甲子園球場も、伝統のスタジアム照明である銀傘を22年3月に全面LEDへと改修している。この際もEW社のライティング技術により、これまで通りのカクテル光線を再現。それでいて大幅な省電力化やCO2の60%を削減している。

 野球以外では、クロススポーツマーケティングが運営する青森県八戸市駅前の多目的アリーナ「FLAT HACHINOHE」の照明や音響システムをEW社が手がけている。

 プロアイスホッケーの試合やフィギュアスケート、プロバスケットボールの試合や大会が開催されるほか、行政の借り上げによる学校利用も行われる施設だが、用途に合った照明や音響を簡単に切り替えられるシステムが用意されている。

 競技や環境にあった照明器具をオリジナルで設計し、運用システムまでまとめて提案できるパナソニック。これまでさまざまな照明を手がけてきた蓄積と実績があるからこそできることだ。

●売り上げだけでなく、ブランド力にも寄与

 スタジアム照明は、リカーリングビジネスとは異なるが、スポーツ関連市場の売り上げの一部でもある。パナソニックでは29年に、スポーツ関連の年商を150億円、周辺事業を含めて300億円にするという目標を掲げている。

 22年5月11日にパナソニックホールディングスが発表した「21年度決算概要」によると、連結での売り上げは7兆3888億円と2年ぶりに7兆円を回復している。

 グループ全体の売り上げ規模から見ると、スポーツ事業全体の売り上げ目標である300億円(29年度)や、EW社のリカーリングビジネスの売り上げ目標90億円(25年度)は決して大きくはない。しかし、スポーツ事業には高い継続性に加え、地元都市や市民をも巻き込む力がある。

 スポーツチームの運営・サポートを通して地域とつながり、さらにスタジアムやアリーナなどでは、ハード面に加えて演出などのソフト面と、総合的に黒子として支えていく。

 またスポーツを通して地元と密着し、長期的にファンを獲得していくことで、パナソニックのブランド認知を広げ、グループ内の別の事業が拡大する可能性にもつなげられる。

 日本全国のスタジアムや球場、体育館、アリーナをエンターテインメント空間に転換し、地域と一丸になって盛り上げていくことは、パナソニックブランドを売り上げ以上に高められるというわけだ。

(コヤマタカヒロ)