ECサイトとライブ配信を組み合わせ、配信者と視聴者がコミュニケーションを取れる販売手法「ライブコマース」。コロナ禍で導入企業が増え、成功事例が続々と出てきているようだ。

 例えば、リネン服/寝具のブランド「wafu.(ワフ)」は、インスタライブの代わりにライブコマースツール「ライコマ」を導入し、コンバージョン率(CVR)が7.8%向上した。スワロフスキー・ジャパンでは、1対1のオンライン接客ツール「LIveCall(ライブコール)」を導入したところ、約80%の購入率となり、客単価が店舗平均の約5倍に向上した。

 このほかにも、大手を含む多くの企業が続々とライブコマースを導入している。なぜ、ライブコマースで売り上げやCVRが上がるのか。ライコマを提供するThe Uni(ユニット)社の事業戦略室に所属する鎌田慎平氏、「ライブコール」を提供するスピンシェル社 取締役の酒井大介氏に、成功事例の要因を聞いた。

●途中離脱を防ぐ導線でCVRが7.8%向上

 不特定多数の視聴者に向けたライブ配信ツール、ライコマはコロナ禍の20年8月に誕生した新サービスだ。事業の一つとしてデジタルソリューションを展開するユニット社では、大手百貨店から「顧客とコミュニケーションを取りながら販売できるオンラインツールがほしい」といった要望があり、自社でツールの提供を開始した。

 ライコマには、ライブ配信を見ながら同じページ内で商品をカートに追加できる「カート連携機能」があり、CVRの向上に貢献しているという。

 「例えば、インスタライブを視聴中に商品ページを見ようとすると、プロフィール画面から商品リンクに飛ぶ、あるいはコメント欄から商品リンクに飛ぶことになります。いずれもライブ配信から離脱してしまい、購入までの導線もスムーズではありません」(鎌田氏)

 これらの改善によって顕著にCVRが向上したのが、リネン服/寝具のブランド、ワフだ。3317人(22年6月下旬現在)のインスタグラムフォロワーを持つ同社では、ライコマ導入以前はインスタライブを利用したライブコマースを実施していた。しかし、売れる回でもCVRが10%前後と購入にいたりづらい課題があった。

 そこで、インスタライブと比較して購入導線がスムーズなライコマに切り替えたところ、初回配信で予定終了時間の15分前に商品が完売、CVRは17.8%に向上、200万円の売り上げを達成したという。

 「この事例では、インフルエンサーなどのキャスティングは行っておらず、ライブ配信の内容や扱う商品はインスタライブと大きく変わりません。そのため、購入までの導線をスムーズにしたことが成功要因だったと分析しています。たとえ、顧客がECサイトに飛んだとしても、途中でライブ配信を離脱してしまうと、“最後のひと押し”を見てもらえない。ライブ配信を見終えた後にカートに入れた商品の精算をする体験設計が、CVR向上に貢献したのではと思います」(鎌田氏)

●インフルエンサー×継続配信で売り上げ10倍に

 インフルエンサーの起用と継続的な配信によって、徐々に視聴者数を伸ばし、3カ月で10倍の売り上げを達成した事例もある。地域の特産品を扱うある地方自治体では、SNSのフォロワーが少なく、そもそもライブ配信を視聴してくれるファンが付いてなかった。

 そこで、フォロワー数5000人ほどの地域密着型の女性インフルエンサーをキャスティングし、地方自治体の担当者と2人で、毎月4回(1日2回×月2回)のライブ配信を実施した。ニッチな地域の情報を盛り込み、視聴者のコメントを拾う双方向のコミュニケーションを意識した内容で、毎回効果を検証しながら改善を重ねた。

 すると、3カ月目に初回のライブ配信と比較して、売り上げが10倍にアップした。視聴者の母数が少なくとも、親和性の高いゲストを起用しPDCAを回していくことで、効果が出たようだ。

 「この事例では、弊社が課題設定や効果検証についてアドバイスをさせていただきました。動画内のコメントや『いいね』が多かった場面、配信時間による視聴者数の変化などを分析し、じわじわとファンを拡大することで、売り上げにつながったのだと思います」(鎌田氏)

 ライコマのように、不特定多数に向け演出を盛り込んで配信する場合、特に相性がいいのは「食品」や「アパレル」業界で、導入事例や成功事例が多いという。食べる瞬間を見せられて、その感想も伝えられる。着用しながらサイズ感や色味、質感を伝えられるといった点がメリットだ。

 ライブコマースの場合、どうしても「売る」ことにフォーカスされがちだが、鎌田氏は「売り上げではなく、アプローチしたいユーザーの課題解決を目的にすべきだ」という。

 「自社、またはユーザーが抱えている課題を掘り下げ、ライブコマースを通じてその課題にアプローチできていることが、成功事例の共通項だと思います」(鎌田氏)

●遠方客も取り込み、購入率80%、客単価5倍

 スピンシェル社が提供するオンライン接客ツール、ライブコールは、ライブコマースの概念が浸透していなかった15年9月にリリースされ、コロナ禍で顕著に導入数が伸びているという。ドコモ、ソニー、ニトリ、ゴディバジャパンといった有名企業から、行政やクリニック、中古品の査定まで幅広い導入実績がある。

 現状は1対1の接客に特化しており、ワンクリック、あるいは事前予約のうえ、手軽にオンライン接客ができる。通話中の決済や画面共有しながらのマーキングなど機能が充実しているのも特徴だ。スタッフ用の管理機能もあり、接客履歴の確認や売り上げ・データの分析、複数のリモート拠点にいるスタッフの一元管理などができる。

 ライブコールの導入企業でも、分かりやすい成功事例が生まれている。20年10月に同ツールを利用したオンライン接客サービス「SWAROVSKI ONLINE APPOINTMENT(スワロフスキー・オンラインアポイントメント)」を開始したスワロフスキー・ジャパンでは、オンライン接客の購入率が約80%と高く、客単価は店舗平均の約5倍にもなるそうだ。

 同社では、20年6月にリニューアルオープンした旗艦店「スワロフスキー銀座」の店内で、完全予約制のオンライン接客を実施している。銀座店ならではの世界観を体験したり、ここでしか扱っていない商品を見られたりするため、遠方客も多く利用。オンライン接客後、店舗に来店し購入にいたる例も少なくないそうだ。

 「高額のジュエリーは色味や質感を伝えることが重要ですが、ライブコールは画質が最大限クリアになるようチューニングしています。当然インターネット環境に依存するので、ネット環境を整えることは必要ですが、クライアントさんから画質をほめていただくことは多いです」(酒井氏)

 スワロフスキー・ジャパンのコアの客層は40〜50代だが、オンライン接客にいたっては、20〜30代の新規顧客が増加している傾向もあるという。

 「オンライン接客は、リアル店舗とECサイトのほかに、もう一つ新たな店舗をオープンしたような感覚かと思います。その結果、客単価が向上する、客層が広がるといった効果が現れたのではないかと。スワロフスキー・ジャパンさまの場合、オンライン接客を受ける顧客は購入意欲が高い傾向もあったようです」(酒井氏)

●カスタマイズ仕様の高額商品が購入率50%を達成

 ノートパソコン「レッツノート」を販売するパナソニックコンシューマーマーケティングでも、ライブコールの導入により成果をあげている。同社では、予約不要のオンライン接客サービス「カスタマイズレッツノート・プレミアムサロン」を21年3月から開始。

 その結果、オンライン接客の購入単価は本店のWeb直販より10%以上高く、購入率も50%以上と、従来の店舗やWebでの購入に比べて非常に高いという。

 「カスタマイズレッツノートは、スペックやカラー、保証など、約100万通り(22年1月現在)から顧客のニーズに沿ったカスタマイズができるのが特徴です。『カスタマイズが多すぎて選べない』『専門家に聞いて効率的に買い物をしたい』といった顧客の課題や要望に対して、会話をしながら必要な機能などを絞り込めるので、CVRが向上しやすいのだと思います」(酒井氏)

 数十万円という高価格帯の製品ながら、商品の付加価値をより深く理解することで、納得感を持って買い物ができるようだ。

 Web本店と比較して、女性客が増えるという予想外の効果もあった。Web本店の来店客の男女比が4:1に対し、オンライン接客は2:1に。パナソニックコンシューマーマーケティングによれば、そもそも女性客は専門家の意見を求める傾向があるようだが、そのうえで、オンライン接客のハードルの低さが女性客を呼び込んだのかもしれない。

 「オンライン接客は、機材の購入、社員の教育、オンライン接客に導く導線づくりと最初こそ少し手間はかかります。ただ、一度導入すれば、手が空いている店舗の店員を有効活用でき、効率的で効果の高い接客が実現できます」(酒井氏)

 ライブコールは、現在、ビジネス版の「LINE WORKS(ラインワークス)」と連携しており、自社のラインアカウントから、オンライン接客に呼び込むことも可能だ。今後、さらなる連携や複数スタッフが同時に接客できるグループ機能など新機能の導入を図るという。

 ライブコマースツールは、導入するだけで効果が見込めるものではないだろう。しかし、自社の製品、サービス、顧客層にマッチしたツールを選び、課題に対するアプローチができれば、予想以上の効果が現れる可能性もありそうだ。

(小林香織)