紳士服大手の青山商事が手掛ける高機能セットアップ「ゼロプレッシャースーツ」が好調だ。2021年7月から展開する、税込1万円以下で購入できる高機能スーツで、サイズによっては“ほぼ完売”状態となるほど人気という。

 8月5日には新モデルを投入。ジャケット6050円、パンツ3850円という価格帯や伸縮性は維持しながら素材や製法を刷新。通年を通して着用できる仕様とした。

 コロナ禍でビジネスウェアのカジュアル化はさらに進み、紳士服各社が苦戦を強いられている。そんな中、高機能で低価格をうたう商品はAOKIやはるやま商事といった競合他社も展開し、需要の取り込みを進めている。もちろん、ワークマンやユニクロといった企業も競合相手となる。

 紳士服最大手の同社が手掛けるゼロプレッシャースーツは他社の製品と何が違うのか。そして、その狙いはどこにあるのだろうか――。青山商事の商品部 メンズ重衣料企画グループ長、高橋拓也氏に話を聞いた。

――高機能スーツは他社でも展開されていますが、ゼロプレッシャースーツのこだわりは何でしょうか。

高橋: 企画意図として、コロナ禍による影響やスーツを着られなくなったお客さまへアプローチしたいという考えはもちろんあります。ただ、基本コンセプトとしては、当社が60年近く続けてきたものづくりを、新しい素材、価格帯で本気でやった場合、お客さまにどのような商品を提供できるかと考えた点がスタートでした。

 商品名の通り、価格や体形変化、着用シーン、価格帯をプレッシャーに感じないアイテムというコンセプトを掲げています。

 21年夏に発売したところ、さまざまなお客さまにお買い求めいただき、各店で品薄状態となっています。ビジネス目的のほかに、ゴルフに行く際に着用される方もいるようです。年齢も20〜50代までと幅広く、実は女性も購入されています。ゼロプレッシャーですので、年齢や性別も問わずに着用していただいています。

●女性からも支持される

――男性用の商品かと思いましたが、女性も着用しているのですね。

高橋: はい。製品の型は性別を問わないパターンを採用しています。ゼロプレッシャースーツの原型となったモデルは、もともと「災害対策に貢献できる商品」として進めていたものでした。

 当社は広島に本社を構えていますが、2018年には西日本豪雨があり、災害時にも役立つ商品を作りたいとの構想がありました。災害時には、性別を問わないアイテムの方が役に立つとの考えから、男女共に着用でき、避難所などでもストレスなく着られる商品をとの構想を持っていました。

 その構想を応用したのがゼロプレッシャースーツです。年齢や性別を問わず、誰もが快適に着られることをベースに、ECサイトでも安心して買える価格帯や選びやすいサイズ感を追加し、お客さまへのリーチがより近い商品をつくる方向性へと変化しました。

――初回モデルと新モデルの違いは何ですか?

高橋: 従来のモデルでは、水着などに使用される旭化成のストレッチ繊維「ROICA(ロイカ)」を使ったニット生地を採用しました。機能面や価格帯はもちろんですが、『スーツに水着素材』というインパクトもあり、多くのお客さまに好感を持っていただきました。

 ただ、どうしても光沢感や素材感に特徴があるので「ちょっと私の仕事に合わない」「着るのには抵抗あるな」という声もありました。そこで、新モデルでは、素材を東レの「フィラロッサ」に変更しています。光沢感を抑えたことで通年で着用でき、仕事服としてより使いやすい落ち着いた印象に仕上げました。

 また、肩の袖付けにもこだわっています。従来品と見比べたら分かるのですが、従来品には、布の端をテープ上の布でくるむ“パイピング”という処理を施しています。見た目がきれいになる利点があるのですが、どうしてもストレッチ性が制限されてしまいます。

 新モデルでは、よりストレッチ性を持たせるため、パイピングをあえてなくし、シャツと同じような縫い方としました。

●縫製技術でストレッチ性を向上

――スーツではあまり見ない縫製ですね。

高橋: このような技法は本来、スーツの工場が苦手とする部分です。一方で、カジュアルウェアを手掛ける工場は、スーツの立体的な製法は苦手としています。

 当社は小売業なので自社工場は持っていませんが、50年近くお付き合いをしている工場がたくさんあります。業界の中でも一番多くスーツを販売していますので、年間を通して同じ工場に製造を発注し続けていて、当社が求める技術を育てる環境ができています。

 長いお付き合いのある工場に協力してもらいながら、立体的だけど動きやすいという縫製技術を取り入れて製品を作り上げています。

 安いものをとにかくたくさん売りたいわけではありません。シャツのような平面的なつくりでコストを削減するのではなく、洋服の青山独自の立体的な人体工学を考えたものづくりは維持したいと考えています。

 安価なエントリープライスの商品でお客さまを囲い込むのではなく、通常のスーツを着ながらも、たまには楽したいというときに着用できる“2着目のスーツ”として展開しています。

――今後の展開を教えてください。

高橋: ゼロプレッシャーというコンセプトに沿ったアイテムとして、コーディネートできる商品の展開を考えています。今年の冬には、コートの発売も予定してます。

 シリーズとして急拡大するわけではなく、本当にお客さまに満足してもらえるアイテムができた段階で打ち出したいと思っています。

――ありがとうございました。