ミートボールなどを製造する石井食品(千葉県船橋市)と、京都市で“1日100食限定”のステーキ丼専門店「佰食屋(ひゃくしょくや)」を運営するminittsが共同開発した「イシイの佰にぎり」が話題だ。

 「ん、おにぎり? 『味がおいしい』『具が多い』とかそういうとこでしょ」と思われたかもしれないが、このおにぎり、常温で100日保存が可能で、タンパク質はおにぎり1つに10グラム以上含まれているという。

 長期保存が可能と聞くと、「保存料などが入っているのでは?」と感じてしまうが、石井食品のこだわりは“無添加調理”といい、同商品にも添加物は一切使用していない。原材料を見ても「うるち米、食肉、赤ワイン……」とおにぎりの具材のみが書かれているのだ。

 透明なパッケージに入った様子はまさに“普通のおにぎり”。唯一違う点は、三角おにぎりではなく“四角”になっていることぐらい。このまま常温で100日保存できるというから驚きだ。佰食屋の人気メニューである国産牛ステーキ丼を再現した「ステーキ丼味」(300円)と「炒飯味」「カレー味」(いずれも250円)の3種を用意している。

 なぜ両社はおにぎりを長期保存できるようにしたのか、どのような技術を用いたのだろうか。開発秘話をminitts中村朱美社長、石井食品 素材価値開発部リーダー坂本陽一郎さん、顧客体験デザイン部 広報チーム 兼 ブランド戦略チームの池田明子さんに聞いた。

●担当者に聞いてみた

――「イシイの佰にぎり」が人気のようですね。どのようなコンセプトで開発したのですか?

中村: 商品を企画するにあたって一番に目指したのが、賞味期限を長くすることです。コンビニやスーパーで売られているおにぎりって、賞味期限が短いですよね。「フードロスの観点からも、賞味期限切れで処分されるのはもったいない」とずっと思っていました。

 もうひとつのポイントは、タンパク質量を増やしたことです。最近では、コオロギ粉や昆虫食も新しいタンパク源として出ていますが、やはり「おいしいお肉で摂取したい」と考える人は多いと思います。そこで、シンプルな食材でタンパク質がしっかりとれるおにぎりを目指しました。1個につき10グラム以上のタンパク質が摂れるラインアップとしています。

――どのようなきっかけで、両社がコラボすることになったのですか?

中村: ちょうど1年ほど前に、京都府亀岡市で開催されたハンバーグカレーコンテストの審査員として、石井食品の石井社長とご一緒したのがきっかけでした。

 雑談で「将来、日持ちがしてタンパク質が担保できる商品を作りたいんですよね〜」と話していたところ、石井社長が「それ、ウチでできますよ」と声をかけてくださって、その日のうちに話がまとまりました。

 その時は漠然としたイメージしか持っておらず、何となく「お肉の佃煮」のようなものを想定していました。ただ、後日届いた石井食品さんの商品サンプルの中にあった「4年間保存できるおかゆ」を見て、無添加のおかゆが4年持つのなら、おにぎりでもいけるのでは? と思い相談を始めました。

――トントン拍子で話が進んだのですね。ところで、技術的には問題なかったのでしょうか?

坂本: ものすごく大変でした(笑)。実は、長期保存させるためのレトルト処理に至る前の段階でも苦労したんです……。

中村: 炊き込みご飯をイメージしてほしいのですが、タンパク質の含有量を増やすためにはお肉をたくさん入れる必要があります。どうしてもタンパク質量10グラムは保持したかったので、具材の量が多く、機械が止まってしまったりうまく炊き上がらなかったりという問題が発生しました。おにぎりをつくる時点で3カ月ぐらいは時間がかかりました。

 で、やっとレシピが完成して「レトルト処理をしたらOKや!」と次の工程に移ったら、今度は「味が違うぞ……」と(笑)。

坂本: 長期保存するためには、高温で食品を長時間加熱する処理を施します。ただ、その過程でどうしても味が変わってしまい、レトルト独特の風味が出てしまいます。

――確かにレトルトカレーも、独特の味やにおいがありますね。

坂本: おにぎりの場合は、その風味がダイレクトに出てしまいます。その風味をわれわれの技術や配合で抑え、佰食屋さんの味に近づける工夫をしています。

 いい配合ができたと思っても、処理を加えたら「あれ、コショウの味が強くなったな」とか、「引き立たせたい味が消えている?」と、何度も調味料の配合や設定温度の調整を繰り返しました。試作品も100個は作ったと思います。

中村: 本当は21年12月に発売するのが目標でした。遅れたのは何度も試作を繰り返したからなんです。

――そもそも企画がスタートして約半年での発売は、期間が短い気がするのですが、食品業界では当たり前の期間なのですか?

池田: 食品業界はもともと商品開発のスパンが短くて、約1年をかけた今回の商品は当社の中でもトップ3に入るほどの長さだと思います。

坂本: あと、こんなに試作を繰り返したのも恐らくナンバーワンだと思います(笑)。

――形も通常のおにぎりと違って四角いですが、こだわりがあるのでしょうか?

中村: 実は、小さな子どもは三角おにぎりを食べるのが苦手で、先端から食べ始めると最後には二つに割れてしまいがちです。そこで、親が適度に割ってシェアしやすい形がいいのではと思い、四角形にしました。

 それと、三角おにぎりは定番なので『石井のおにぎりは四角なんやぞ』と、皆さんに覚えていただければと思っています。

――発売後の反響はどうですか?

池田: 今回は、テスト販売も想定して、主に当社のECサイトをメイン販路として展開しました。初動は計画通りに進んでいます。SNS上などでの反響を見ると、タンパク質に関心が高い方からの反応は特に多かったです。

 また、佰食屋さんのステーキ丼がおにぎりで食べられる点も、多くの方に支持していただいたようです。当社は、ミートボールやチキンハンバーグなど鶏肉を主に加工している会社なので、ステーキ丼の味を再現すること自体が挑戦でした。

坂本: いずれは大量生産も考えています。当初、中村さんとは「年間売上1億個を目指そうね」と話をしていました。ノウハウをもっと蓄積して、他社を突き放すほどの技術やおいしさを追求したいと思っています。100日保存もまだ満足していません! 次の施策を考えて展開していきたいと思います。

中村: 企画した段階では、飲食店が提供する料理のおいしさをもっと身近に感じてほしいと思っていました。コロナ禍で飲食業界は本当に大きなダメージを受け、物販を第二の収益の柱にと多くの企業が試行錯誤しています。そんな中、上場企業が京都のたった10坪の1店舗しかない飲食店とコラボをして商品を開発してくれたことは、世の中の小さな飲食店の希望になるのではと思っています。

坂本: 当社も今回中村さんと協業できて非常に参考になりました。一番学んだのがスピード感ですね。「遅かったらあかんねん! 走らないとあかんねん!」って(笑)。冗談ではなく、「思い立ったらすぐやる。アクションに移す」という姿勢は勉強になりました。

【記者メモ】

 湯煎後、封を開けずに保管した場合は48時間までおいしく食べられるという。出勤前に湯煎してサッと会社に行く、あるいは登山や旅行前に……そんな活用方法も想定しているのだとか。イシイの佰にぎりは具材もアイデアもたっぷり詰まった商品だっだ。