本当は働きたくないけれど、勤労は国民の義務だから働かざるを得ない――。こうした考え方に立つと、働いていない人に対して否定的になり「怠けている」「気楽でいいご身分」などと見えてしまいがちです。

 しかし、中には働こうにも働けない事情がある人もいます。また、働くことに対する考え方は人によって異なるものです。ツラいから働きたくないと思う人がいる一方、仕事とはやりがいや喜びを与えてくれるものであり、仕事が人生をより豊かなものにしてくれるなどと考えている人もいます。

 それらの事情や考え方の違いは、いま現在働いているか否かという状況だけを表面的に眺めたところで見えてはきません。働いている人はみんな不本意だとか、働いていない人はみんな本意だなどと決めつけて十把一絡げにしてしまうと、実態を誤って把握することになりがちです。

 働きたいかどうかの就業願望を横軸、働いているかどうかの就業状況の違いを縦軸として本意・不本意を整理すると以下の表のようになります。

 就業願望があって就業中の人は、願いが実現している状態にあるため「本意型就業」者です。仕事にやりがいを感じていたり、働くことが好きな性分だったり、憧れていた職業に就くことができたりと背景はそれぞれ異なるかもしれませんが、いま働いている自分は望ましい状態にあります。

 それに対し、就業願望はないのに何らかの事情で働かざるを得ず就業中の人もいます。本来は働きたくないわけですから、イヤイヤ働いている「不本意型就業」者です。学生から社会人になるとストレスを感じてしまう人が多いことを考えると、不本意度合いに程度の差こそあれ、かなりの人が不本意型就業者に当てはまるのかもしれません。

 一方、就業願望はあるものの不就業の人は、何らかの事情で働きたくても働けず、就業できない状況を不本意だと感じている「不本意型不就業」者だと言えます。背景はさまざまあり、仕事を探しているのに見つからないケースもあれば、障がいや病気などの事情で働くことができないケースもあります。

 その点、就業願望がなく不就業の人は、希望の状態を実現しているので「本意型不就業」者です。ただ、人生には仕事以外にもさまざまな艱難辛苦があります。本意型不就業者だから人生を気楽に過ごせている、とは限りません。しかし、働かないという選択ができていることから、特に働きたくないのにイヤイヤ働いている不本意型就業者からは羨ましい存在と見られがちです。

 これら4つのタイプは、あくまで大きな分類に過ぎません。例えば、本意型就業者だといっても、いま就いている仕事の内容は本意ではないこともありえます。働くこと自体は本意でも、希望する就業条件を細かく分解していけば、本意と不本意の条件が複雑に入り混じり、そのパターンは人の数と等しくなるはずです。

 ただ、少なくとも4つのタイプに分類するだけでも、それぞれが抱える課題やその解決方法が全く異なることが見えてきます。

●「働く母親」が増えているのは望ましい?

 9月9日、共同通信は「『働く母』4人に3人で過去最高 21年、厚労省調査』と題した記事を掲載しました。児童(18歳未満の未婚の者)がいる世帯で、母親が仕事をしている割合は75.9%で過去最高を更新したとのことです。

 記事の元になっている厚生労働省の「2021年国民生活基礎調査の概況」によると、児童がいる世帯の母の仕事状況は以下表のように推移しています。

 「仕事あり」の“働く母親”は04年時点では56.7%です。それが年々上昇し10年に6割、17年には7割を超えました。働く母親の比率は年々増え続けていますが、これは果たして望ましいことなのでしょうか?

 人口が減少の一途をたどっている日本において、労働力確保の観点から考えれば働く母親が増えることは望ましいことに違いありません。しかし、母親側の視点に立つと、個々に異なる景色が見えてきます。先ほどの分類表に当てはめて考察してみます。まずは、全体の約4分の3を占めるまでに至った働く母親についてです。

 働く母親が本意型就業者の場合、基本的には希望が満たされた状態であり、増えるのは望ましいことだと言えます。ただ、いまの就業条件に100%満足しているとは限りません。そのため、理想の就業条件へといかに近づけられるかが課題となります。

 例えば、勤務地や勤務時間などは希望条件に合致しているものの、いまの給与単価では扶養枠の上限を大きく超えて稼ぐことは難しいので致し方なく扶養枠内に抑えている場合があるかもしれません。あるいは、勤務地も勤務時間も給与も不満はないけれど、高校時代のアルバイトと職務内容が変わらないので、キャリアや資格を生かせる職務に就きたいと望んでいる場合もあります。課題解決には、希望条件を満たせる仕事を探して転職したり、いまの職場に異動を願い出たり、条件交渉したりといった方法が考えられます。

 一方、不本意型就業者である母親は、本当は働きたいわけではありません。そのため、不本意型の働く母親が増えるのは望ましくないことです。この課題を解決するには、不本意型の働く母親を仕事から解放し、本意型不就業者へと移行させる方法を考える必要があります。

 多くの場合、不本意型就業者が働く理由は収入不足です。解決策としては、例えばもし核家族であれば、親と同居するという方法があります。そうすれば、家賃代や生活費などが浮いて働かなくても済むようになるかもしれません。しかし、転居する必要があったり、親と反りが合わなければ同居によるストレスがかかる懸念などもあります。

 あるいは、夫に収入をもっと増やしてもらったり、政府がベーシックインカムのような制度を導入して、働かなくても生活できる社会になったり、宝くじで高額当選するような奇跡が起きれば解決するかもしれません。ただ、いずれの方法も他力本願になります。

 もし自力でなんとかしようとするのであれば、本意型不就業者ではなく本意型就業者を目指すという方法もあります。「この仕事だったら働きたい」と思えるような仕事を見つけて、その仕事に就くということです。

●「働いていない母親」が抱える課題

 これまでの推移を見ると、働く母親の比率は今後も増え続けていくことが予想されます。しかし、その中には本意型就業者も不本意型就業者もいます。望ましいのは、本意型就業者が増え、不本意型就業者が減ることです。働く母親の比率が増えているという数字だけを見たところで、望ましいか望ましくないかを一概に言うことなどできません。

 ここまでは働く母親についての考察です。一方、働く母親が増え続けた裏側で、いまや約4分の1にまで減った“働いていない母親”たちが抱えている課題もあります。働く母親たちの大半が、仕事と主婦業を兼ねる兼業主婦であるのに対し、働いていない母親たちの大半は主婦業に専念する専業主婦です。こちらも先ほどの分類表にあてはめて考察してみます。

 まず、働いていない母のうち不本意型不就業者について。働きたいのに働いていないわけですから、その大半は仕方なく専業主婦となっている不本意型専業主婦です。

 専業主婦として育児や家事をメインで担当していると、仕事する際にどうしても時間の制約を受けてしまいます。そのため、残業が多かったり、通勤時間が長かったり、子どもが急に熱を出した時に休みが取りづらい仕事などはできません。時短やフレックスタイム、テレワークなど柔軟な勤務形態で働くことができる仕事を世の中にもっと増やさない限り、不本意型専業主婦の課題を解決して本意型就業者へと移行させることはできません。

 もし、不本意型専業主婦がシングルマザーであるなど生計を立てる役割も自分がメインで担わなければならない立場だとしたら、仕事が見つけられない状況は家族の生活に直結してしまうだけに深刻です。

 一方、本意型不就業者である母親の大半は自ら望んで専業主婦となっている本意型専業主婦です。基本的には夫などの収入で生活ができ、働かないという願いが満たされている状態なので一見課題はないように思えます。

●「専業主婦=怠惰・気楽」の風潮はなぜ生まれる?

 しかしながら、自分としては本意の状態にあったとしても、専業主婦であること自体に後ろめたさを感じてしまうケースがあります。働く母親が4分の3を占める社会で、専業主婦は少数派です。そのことが「働くことが当たり前」という機運を生み、働いていない専業主婦に疎外感を与えてしまったり、「怠けている」「気楽でいいご身分」などと否定する風潮を生み出してしまったりします。

 確かに、本意型専業主婦の中には専業主婦とは名ばかりに同居する祖父母に任せきりで、家事も育児も放棄して自分は遊び惚(ほう)けているケースもあるようです。しかし、誇りを持って家事に取り組み、家族を全力でサポートしていたり、夫婦で話し合いをして、納得のもとに育児や介護に専念していたりとさまざまなケースがあるのです。

 働く母親が増えるにつれて、反比例する形で専業主婦の母親はより少数派になっていきますが、働きたいのに働けず不本意型専業主婦になっている母親もいれば、本意型専業主婦でもさまざまな思いや考えを持って主婦業に取り組んでいる母親がいます。それらの内実を見ずに「専業主婦=怠惰・気楽」などと決めつけるのは一面的な見方でしかありません。

 かつては「母親が働くなんて」と非難された時代があったことから考えると隔世の感がありますが、少数派が色眼鏡で見られてしまう風潮は、立場を逆転させる形で残念ながらいまの世にも少なからず残っています。その状況を解決するには、一人ひとりが専業主婦に対する色眼鏡を外していく必要があります。

 以上のように、母親という属性にフォーカスしただけでもタイプによって課題やその解決策は全く異なることが分かります。また、就業状況と本意・不本意の4分類は、あらゆる立場、属性の人たちに当てはめることができますが、4つのタイプの中にもそれぞれ異なる事情や希望条件があるため、4分類もまた大きな括りでしかありません。

 就業状況をめぐる課題を解決する際に、ざっくりとした括りだけで対処しようとすると誤った認識に陥りやすくなります。最適な解決策を導き出すために、個々の事情を尊重しつつ内実を丁寧に確認しなければ、誤った認識に引きずられたまま、誤った処方箋を出すことになってしまう可能性があるのです。

著者紹介:川上敬太郎(ワークスタイル研究家)