DX人材の採用競争は、激化の一途をたどっています。厚生労働省が発表している一般職業の有効求人倍率は2022年6月で1.27倍、対してDX関連職については、各求人メディアやサービスの内容によって多少異なりますが、その約3〜6倍という状況です。

 難易度がますます上がっているDX人材の採用を実現するには、企業にはどのような取り組みが必要とされるのでしょうか? DX推進のカギとなる「現業との融合・共存」は、どう進めれば良いのでしょうか? 解説します。

●「DX人材を採用しろ!」と大号令──その前に

 DXという言葉が国内で叫ばれるようになってから、まだ数年程度。DX人材を募集する企業でさえ、DXの捉え方や人材に求める最終的なアウトプットが定まっていないケースが散見されるのが現状です。

 ここで重要なのは、DX=Digital Transformationの「Transformation(変容・変革)」の部分です。つまり、ただITやデジタルを活用すれば良い、というものではないということです。

 DXには厳密な定義があるわけではありませんが、経済産業省は「デジタルトランスフォーメーションを推進するためのガイドライン(DX推進ガイドライン)」において、以下のように解釈しています。

 「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること」

 さらに同省が発表した「DXレポート2」では、以下のような定義が記載されています。

・デジタルトランスフォーメーション=「組織横断/全体の業務プロセス・製造プロセスのデジタル化、“顧客起点の価値創出”のための事業やビジネスモデルの変革」

・デジタイゼーション=「アナログ・物理データのデジタルデータ化」

 つまり全社や事業全体のプロセスを見直して、事業そのものにデジタルの力で変容を及ぼすDXと、従来の社内ITや社内SEといった職種が担当する局所的なIT化(デジタイゼーション)を区別する必要があります。

 それにより、DX人材に求める要件や期待は大きく変わります。企業がどれだけ具体的にDXを定義しているか、どのように事業を変容していきたいか、どれだけ具体的な計画になっているかが、DX人材を採用する上での大きなポイントになります。

●DX人材を獲得するためのファーストステップ

 まず見ていきたいのは、「DX人材が欲しいが、具体的にDXで何を目指しているか分からない・曖昧」というよくあるパターン。特に人事採用担当の方が理解していないケースが多く見受けられます。DX採用に限った話ではありませんが、社内の採用担当が分からないことを、社外の採用エージェントや候補者に理解してもらうのはまず不可能でしょう。

 特にDX採用に取り組む企業には、長らく特定領域で事業運営をしている、いわゆるレガシー産業・レガシー企業が多いです。言い換えれば、社名を聞けばなんとなく何をなりわいとしているのか分かるような企業です。

 だからこそ、「そうしたレガシーな環境の中、なぜITやデジタルといった文脈で事業変容をしていく必要があるのか」「どのように事業変容したいのか」を細かい粒度で、各場面でフロントに立つ人が理解していないと、到底満足のいく採用はできません。

 採用担当者は事前に、経営陣やDXプロジェクトの責任者などの社内のステークホルダーと、経営や事業そのものについての会話を増やしておくべきでしょう。

 「〇〇という職種で、〇〇歳くらいで、給料は〇〇万円」といった採用の要件だけではなく、自社の「過去の事業」「現在の状況」「DXを通して実現したい将来像」と、過去から現在、そして未来の自社の姿を語れるようにしておくことが大切です。

●DX人材を採用したい

 次にDX人材の採用において見落としがちなことが、現業との融合・共存です。これについては3つのポイントがあります。

(1)IT・デジタルリテラシーと“ゴールまでの距離感”のズレ

 DX人材を採用する上でよく聞く課題が「経営陣を含むレポートラインにIT・デジタルリテラシーがなく、やれること/やりたいことの整理がなされてない。結果、DXとは名ばかりの仕事・職種に終わってしまっている」ということです。

 上述の通り、経営陣は流行のDXを推進したい意気込みはあるものの、実際にそれを実現するプロセスや社内でのコンセンサスが取れておらず、ゴールまでの距離感(時間・コストなど)の理解が現場と合わないことで、プロジェクトが頓挫するケースが見受けられます。

 こうしたズレによって、DX推進を担うキャリアパーソンがストレスを感じることが多く、早期離職につながってしまいます。競争が激化しており、良くも悪くも情報が流通しやすい現在の採用市況において、こうした調整は非常に重要なポイントです。しっかりと対応しておき、ステークホルダーの理解があるという受け皿を作っておくことが肝要です。

(2)既存社員との待遇格差

 いわゆるDX人材は、そもそも国内における母数が他人材群に比べても圧倒的に少なく、専門性や希少性が高い人材です。年収1000万円超の人材も多く存在するため、従来では考えられなかった好条件を提示し、採用を成功させる企業も増えています。

 こうしてDX人材を好待遇で迎え入れる一方で、既存社員については従来の給与テーブル・評価基準を継続しており、トラブルや不満につながるケースがあるのも事実です。「ジョブ型雇用」がほとんどである外資系企業のように、その専門性や希少性が理解されている企業風土であれば別ですが、いまだ根強い「年功序列」を重んじる会社や人々が、この「待遇格差」を良しとしない場合もあります。

 そもそもDXはDX人材だけで成り立つのではなく、基本的に既存社員・既存事業との融合ありきで推進していくものです。DX人材と既存社員で諸条件に格差があることが露呈し、新規領域(DX)と既存領域がうまく融合しない、協業できない、といったケースもあるようです。

 DXに向けた人材採用がどれほど大切か、DX人材の採用がどれだけ難しいかなどを既存社員にも理解してもらったり、DX人材の採用に向けた制度を個別具体で作っておいたりすることで、こうした問題に対処できます。

(3)評価基準・働き方

 DX人材の採用ターゲットは、コンサルティングファームやIT系企業出身者が多いです。新たに入社したDX人材の人事評価のレポートラインにつく社員が、そういった企業出身でなかったり、既存事業を長く担当していたりする場合、DX人材の評価基準が曖昧になってしまう可能性があります。

 そもそもDXや新規事業が成り立つには時間がかかるものです。その中でもしっかりとプロセス評価を組み込んでおき、「何年働いても、どういった取り組みを行っても条件が良くなっていかない」などの懸念はできるだけ解消できる評価基準を持ち合わせておくべきです。

 また、特にIT人材に対しては昨今のコロナ情勢により、リモート勤務体制を拡充し、各企業でその状況に即したネットワーク環境や機器の準備が当たり前となっています。加えて副業に対して柔軟な対応を取る企業も増えてきています。

 現在のトレンドに即した働き方や環境を準備しておくことも、競争率の高いDX人材から選ばれやすい企業になる手段の一つです。

●DX人材を「探す」前にできること

 「DX人材が欲しい」と言うは易し、行うは難し。この市況感の中で勝ち抜くには手段・手法ももちろん大事ですが、「探す」という実際の行動に入る前段階も重要です。

 一番身近な社内からどんな情報を集めて役立てるかや、ターゲットとしている人材が入社後に活躍し続けられる環境であるかといった点を念頭に準備を始めるのが、大事な第一歩なのではないでしょうか。

●著者プロフィール

青木 裕一 

エンワールド・ジャパン 日系部門 アソシエイトディレクター

2006年エン・ジャパン株式会社入社、その後ドリコム、リクルートエージェント(現リクルート)を経て、2014年よりエンワールド・ジャパンに入社。日系企業×IT・インターネット業界・DX人材領域のコンサルタントとして配属され、2020年より同領域のアソシエイトディレクターに着任。現在は、投資ラウンドのシード期からシリーズC前後に至るスタートアップ企業の経営層・ハイクラス・ミドルポジション、およびレガシー系企業×DX系職種を中心に採用支援・転職支援を行っている。